そのログ、ビジネスリスクの予兆を捉えていますか? 行動データ分析で実現する、プロアクティブな内部脅威対策
クラウドサービスの活用やテレワークが標準的な働き方となる中で、企業のデータは社内外に分散し、その量は爆発的に増加しています。この環境変化は、従来の「境界型セキュリティ」の考え方を根底から覆し、新たなリスク、特に「内部不正」という見えにくい脅威を深刻化させています。
問題は、多くの企業・組織が、日々生成される膨大なログデータ(PC操作、サーバーアクセス、クラウド利用履歴など)を、リスク管理に有効活用できていないという事実です。これらのデータは、従業員やシステムの「行動履歴」そのものであり、内部不正の予兆を捉えるための貴重な情報資産です。
しかし、多くの場合、これらのログはインシデント発生後の事後調査のために保管されているに過ぎず、脅威の兆候をリアルタイムに検知する仕組みが機能していません。その結果、退職者による機密情報の持ち出しや、許可されていないクラウドサービス(シャドーIT)利用に起因する情報漏洩の発見が遅れ、被害の拡大を招いています。
本稿では、従来のログ監視の限界をデータ分析の視点から解き明かし、内部脅威を可視化・検知するための新しいアプローチを提言します。
なぜ、従来の監視では内部不正を見抜けないのか
内部不正の兆候を見抜けない最大の理由は、データ分析アプローチの限界にあります。
「点」の監視に留まるルールベース分析の限界:
従来型のSIEM(Security Information and Event Management)は、「特定のイベントが発生したらアラートを出す」というルールベースの監視が中心です。これは、既知の攻撃パターンの検知には有効ですが、従業員の振る舞いの変化といった「未知の異常」を捉えることには向きません。個々のログは正常でも、一連の行動(深夜の大量データアクセス、普段アクセスしないサーバーへの接続など)を「線」や「面」で捉えなければ、不正の予兆は見抜けません。
サイロ化したデータと分析人材の不足:
PC、サーバー、ネットワーク機器、クラウドサービスなど、ログは様々な場所に分散(サイロ化)しており、これらを横断的に分析するには高度なスキルが求められます。多くの企業では、深刻なIT人材不足と運用負荷の増大により、膨大なログを前に分析が追いついていないのが実情です。
解決策は「行動データ分析」へのシフト
これらの課題を解決する鍵は、UEBA(User and Entity Behavior Analytics)、すなわち「ユーザーとエンティティの行動分析」というアプローチにあります。
UEBAは、AI(人工知能)を活用し、従業員やサーバー、アプリケーションといったエンティティごとに、平常時の行動パターン(ベースライン)を自動で学習します。そして、そのベースラインから逸脱する「いつもと違う動き」を異常として検知します。
このアプローチにより、「誰が、いつ、普段と違う何を行ったのか」という、ユーザーやエンティティを軸としたリスクの可視化が可能になります。これは、イベントの「点」ではなく、行動の「文脈」を捉える、より高度なデータ分析です。
次世代SIEMによる、データドリブンなセキュリティ運用へ
UEBAが組み込まれた次世代のSIEMは、単なるセキュリティ監視ツールではなく、**「組織内の行動データを統合・分析し、リスクを予兆検知するためのデータ分析基盤」**と位置づけることができます。
IPA(独立行政法人 情報処理推進機構)の調査では「情報漏洩の約9割は内部リスクが原因」との結果も出ています。もはや、内部脅威対策は、場当たり的な対応ではなく、データに基づいた継続的な改善が求められる経営課題です。
【次世代分析基盤の課題解決アプローチ】
「そのインシデントは、UEBAで防げた」という視点から、具体的な脅威シナリオを用いて、次世代の行動データ分析がもたらす価値を解説します。
解説内容:
最新の内部不正/情報漏洩インシデントの動向と、従来の対策の限界
AIを活用した行動分析基盤「Cygiene」による、異常・不審な振る舞いの自動検知デモンストレーション
ログの長期保存(監査対応)や、国産・自社開発ならではの柔軟なカスタマイズ性といった、実運用におけるメリット
現在の内部リスク対策に少しでも課題を感じている情報システム部門、セキュリティ運用部門のご担当者様は、データドリブンなリスクマネジメントへの変革の第一歩として、ぜひご参加ください。
データアクセス権限は管理できていますか? クレデンシャル情報のブラックボックス化が招く、追跡不能な情報漏洩リスク
業務におけるクラウドシフトが加速する現在、従業員一人ひとりが利用するSaaSやツールは増加の一途をたどっています。それに伴い、誰が・どのデータにアクセスできるかを定義する「ID/パスワード」といったクレデンシャル情報は、組織の管理が行き届かない場所で無秩序に増え続けています。
これは、データガバナンスにおける極めて深刻な問題です。なぜなら、クレデンシャル情報は「データアクセスの権限」を定義する最も重要なマスターデータであり、その管理不備は、データが「誰に」「いつ」「どのように」利用されたかを追跡不能にするからです。
利便性を優先した安易なパスワードの使い回しや、個人の記憶に依存した属人的な管理が、意図せずデータ侵害の範囲を際限なく広げるリスクを内包しています。近年の金融機関における不正出金被害のように、一度クレデンシャル情報が漏洩すれば、その被害は瞬時に、そして連鎖的に拡大します。これは、もはや個人の管理能力の限界を超えた、組織として対峙すべきデータマネジメントの課題です。
「特権ID」という名のブラックボックス:最も危険なデータアクセスの実態
さらに深刻なのが、システムの全権を掌握できる「特権ID」の管理体制です。このIDによるデータアクセスは、組織の根幹を揺るがすほどのインパクトを持ちながら、その利用実態が十分に可視化されていないケースが散見されます。
誰が、いつ特権IDを利用したかの証跡(ログ)が残っていない。
共有IDが使われ、実際の操作者を特定できない。
退職後もアカウントが削除されず、不正アクセスの温床となっている。
このような「ブラックボックス化」された運用は、万が一インシデントが発生した際に、**「どのデータが、どこまで漏洩・改ざんされたのか」という被害範囲の特定をデータ分析によって行うことを不可能にします。**これは、事業継続に関わる致命的なリスクと言えます。
今、求められているのは、一般従業員のIDから特権IDに至るまで、組織内のすべてのクレデンシャル情報をマスターデータとして一元管理し、あらゆるデータアクセスを証跡として記録・分析できる体制の構築です。
解決策:データアクセス・ガバナンス基盤の導入
この課題を解決するためには、個人の努力に依存した対策から脱却し、テクノロジーによる統制へとシフトする必要があります。具体的には、以下の二つの軸での対策が不可欠です。
全社横断的なクレデンシャル情報の一元管理:
組織として利用している全てのSaaSやシステムのID/パスワードを可視化し、脆弱なパスワードの利用を強制的に是正する仕組みを導入します。
特権アクセスの証跡管理と統制:
特権IDの利用申請・承認プロセスをシステム化し、すべてのアクセス操作を記録・監視することで、不正利用をリアルタイムに検知し、事後監査にも耐えうるトレーサビリティを確保します。
【セミナーのご案内:データアクセス統制を実現する方法】
本セミナーでは、パスワード漏洩がどのような攻撃に繋がるのかというメカニズムを解説するとともに、上記の課題を解決する具体的なソリューションをご紹介します。
企業向けパスワード管理ツール「Keeperパスワードマネージャー」と、特権アクセス管理を実現する「KeeperPAM」が、単なるセキュリティツールに留まらず、いかにして**「データアクセス・ガバナンス基盤」**として機能するのか。その導入効果を、具体的なユースケースを交えて解説します。
このようなデータ管理課題をお持ちではありませんか?
本セミナーは、以下のような課題意識を持つ、情報システム、セキュリティ、そしてデータ管理に携わるすべての方に有益な内容です。
全社で利用されているSaaSアカウントと、その利用者(ID保有者)を正確に棚卸しできていない。
退職者のアカウントが、契約中のSaaS上にアクティブなまま残存していないか、監査する仕組みがない。
基幹システムや顧客データベースといった重要データへのアクセス記録を、ユーザーIDと紐付けて追跡・分析することが困難である。
脆弱なパスワードの利用実態を把握できておらず、情報漏洩のリスクを定量的に評価できていない。
自社のデータアクセス管理体制に少しでも懸念がある場合は、この機会にぜひご参加ください。
そのインシデント、予兆をデータで捉えられていますか? ―「意識」から「データ」へ移行する、次世代情報漏洩対策
多くの企業で、セキュリティリテラシー向上のための教育やルール周知が実施されています。これらは、従業員の意識を高める上で重要な取り組みですが、データ分析の観点から見ると、その効果測定は難しく、インシデントの発生を完全に抑止するには限界があります。
なぜなら、情報漏洩の根本原因は、不正アクセス(外部要因)、人為的ミス(内部・過失)、不正持ち出し(内部・故意)など極めて多様化しており、従業員の「意識」という定性的なアプローチだけでは、すべてのリスクシナリオに対応できないからです。
情報漏洩の発生件数と被害規模が増大し続ける現在、求められているのは、従来の対策に加え、従業員やIT資産の「行動」を客観的なデータとして収集・分析し、リスクの予兆を検知する「データドリブン」なアプローチへのシフトです。
データ分析を阻む「ブラックボックス」という課題
情報漏洩対策が後手に回る最大の理由は、組織内のPCやネットワークにおけるユーザーの行動がブラックボックス化しており、リスクに繋がる予兆をデータとして捉えられていないことにあります。
「どのPCが、どのようなセキュリティ状態にあるのか」をリアルタイムに把握できていない。
「誰が、いつ、どのファイルにアクセスし、何を持ち出したのか」という操作ログが追跡できない。
「どの端末が、通常とは異なる不審な通信を行っているのか」というネットワーク上の異常を検知できない。
これらの課題は、インシデントの未然防止を困難にするだけでなく、万が一事故が発生した際に、原因究明や影響範囲の特定を遅らせ、被害を拡大させる直接的な要因となります。
解決策:行動データの「収集」と「分析」によるリスクの可視化
データドリブンな情報漏洩対策は、2つのステップで実現します。
Step 1. エンドポイントにおける「ファクトデータ」の網羅的な収集と統制
まず、すべてのPC(エンドポイント)から、その状態と操作に関する「事実=ファクトデータ」を網羅的に収集・管理する基盤が必要です。
この役割を担うエンドポイント・データプラットフォームです。
IT資産データ: OSのパッチ適用状況やウイルス対策ソフトの稼働状態といった、PCのセキュリティ状態をデータとして収集・可視化します。基準を満たさないPCをネットワークから自動的に隔離するといった、データに基づいた統制も可能です。
操作ログデータ: ファイルのコピー、USBメモリへの書き出し、印刷といった従業員の操作をすべてログとして記録します。これにより、インシデント発生時の迅速な追跡調査と、原因の特定が可能になります。
この基盤は、従業員を監視するためだけのものではありません。むしろ、インシデント発生時に客観的なデータに基づいて従業員の正当な業務執行を証明するための、公正なエビデンスとしても機能します。
Step 2. ネットワークにおける「異常行動」のAIによる自動検知
次に、収集したファクトデータだけでは捉えきれない「未知の脅威」や「通常とは異なる振る舞い」を検知するために、AIによる高度なデータ分析が求められます。
「Darktrace」は、独自のAI技術を用いてネットワーク全体の通信データを常に学習し、組織固有の正常な状態(ベースライン)を自動で構築します。そして、そのベースラインから逸脱する微細な変化を「異常」としてリアルタイムに検知・可視化します。これにより、高度なサイバー攻撃や内部不正の初期段階の兆候を、人手を介さずに捉えることが可能になります。
データに基づいた網羅的なセキュリティ対策へ
本稿でご紹介したアプローチは、多様化・高度化する情報漏洩リスクに対し、「どこから手を付ければ良いかわからない」という課題への明確な回答です。まずは足元のエンドポイントのデータを固め、次に「Darktrace」でネットワーク全体の異常を捉える。
このデータ分析基盤を構築することは、単なるセキュリティ強化に留まりません。それは、客観的なデータに基づいてリスクを判断し、迅速かつ的確な意思決定を下すための経営基盤を構築することに他なりません。
外部・内部を問わず、網羅的なセキュリティ対策の実現に関心をお持ちの情報システム部門の責任者、そしてデータに基づいたガバナンス強化を目指す経営層の方にとって、有益なソリューションとなると確信しています。
データが示すセキュリティリスクの構造変化:内部脅威への戦略的シフトの必要性
はじめに:脅威の起点の変化
ランサムウェア攻撃の起点として、インフォスティーラー(情報窃取型マルウェア)による認証情報の漏洩が、データに基づき重大な経営リスクとして特定されています。この脅威は、もはや特定の組織に限った話ではなく、あらゆる企業が直面する経営課題です。本稿では、公開データを基に脅威の構造を分析し、企業が取るべき対策の方向性について提言します。
データ分析から見る内部脅威の深刻度
データ侵害の原因は、外部からの攻撃一辺倒だった時代から、内部要因へと明確にシフトしています。この構造変化は、複数の調査データによって定量的に裏付けられています。
1. 脅威の主因の転換:外部から内部へ
Verizon社の「2024年データ侵害調査報告書(DBIR)」は、特筆すべき傾向を示しています。
全世界のデータ侵害の約7割は、従業員の過失やソーシャルエンジニアリングといった「人的要因」に起因します。
この数値は、2022年時点では内部要因が2割程度、外部攻撃が約80%であった状況から劇的に変化しており、脅威の主因が逆転したことを示唆しています。
2. 内部脅威の内訳とコストインパクト
「2023年内部脅威による損失グローバルレポート」は、内部脅威をさらに詳細に分類し、その経済的影響を明らかにしています。
従業員の過失 : 平均対応コスト 約$700万
悪意ある内部者: 平均対応コスト 約$70万
認証情報の盗難: 平均対応コスト 約$68万
このデータは、内部インシデントの過半数が意図しない過失によるものであり、それが最も高いコストインパクトをもたらしているという事実を浮き彫りにします。インシデントの原因要素ごとに、発生頻度とコストインパクトが大きく異なるため、リスク評価と対策の優先順位付けには、このようなデータ分析が不可欠です。
3. 被害規模の非対称性:一件あたりのインパクトの大きさ
内部脅威のリスクは、発生頻度だけでなく、その「質」、すなわち被害規模の甚大さにあります。
内部者による侵害一件あたりの漏洩データ量は、外部者による侵害の10倍以上に達する傾向が報告されています。
ある分析では、外部攻撃による漏洩データが約2億件だったのに対し、内部脅威では10億件以上のデータが漏洩しており、被害規模の非対称性は明らかです。
4. 脅威の拡大傾向と潜在化
内部脅威は、検知の困難さから被害が長期化・深刻化しやすい特性を持ちます。
内部不正による侵害コストは、2022年の約$1500万から2023年には$1650万へと増加しました。
インシデントの発生件数も1年間で44%急増しており、この脅威が過小報告されている可能性を示唆しています。
データドリブンなセキュリティ戦略への提言
これらのデータが示す事実は、従来の外部脅威対策に偏重したセキュリティ投資が、現状のリスク構造と乖離している可能性を示唆しています。CISO(最高情報セキュリティ責任者)および経営層は、リスクをデータに基づき再評価し、セキュリティ戦略を最適化する必要があります。
推奨されるアクションプラン:
リスクの定量的評価と可視化:
内部脅威(過失、悪意、認証情報盗難など)ごとの発生確率と潜在的な事業インパクト(財務的損失、ブランド毀損)を数値化し、客観的なリスクマップを作成します。これにより、投資対効果の高い領域にリソースを集中させることが可能になります。
データ主導による検知・防止体制の構築:
従業員のIDやデバイスからのアクセスログ、操作ログといった内部データを分析し、通常とは異なるパターン(アノマリー)を早期に検知する仕組みの導入が急務です。これにより、信頼されたアクセス権限の悪用や、長期にわたる潜伏活動のリスクを低減します。
全社的なガバナンス体制への再編:
セキュリティはIT部門だけの問題ではありません。リスク管理、プライバシー保護、インシデント対応の責任を関係部署間で明確化し、データを共有しながら意思決定を行う「共有ガバナンス執行委員会」のような部門横断的な体制を構築することが、実効性のある対策には不可欠です。
具体的な知見を得るために
最新の攻撃手法と対策を具体的に理解することも重要です。例えば、セキュリティリサーチャーのSBテクノロジー株式会社 辻伸弘氏が解説するインフォスティーラーの攻撃実態や、「ClickFix」「FileFix」といった新たな感染経路のデモンストレーションは、データだけでは得られない実践的な知見を提供します。攻撃者の収益化の仕組みから、自社の認証・認可情報がどのように標的とされるかを具体的に把握することは、リスク評価の精度を向上させる上で極めて有益です。
データドリブン内部脅威対策フレームワーク:静的防御から動的検知、そして組織的対応へ
内部脅威対策は、静的な「防止」から、データ分析を駆使した動的な「検知」、さらには組織横断的な「対応」へと進化させる必要があります。本稿では、データ活用の観点から効果的な対策フレームワークを3つのフェーズで提言します。
フェーズ1:静的データに基づくアクセス制御とその限界
内部脅威対策の第一歩は、静的な属性データに基づきアクセス権限を制御することです。
手法: 最小権限アクセス、役割ベースのアクセス制御(RBAC)、多要素認証(MFA)などは、役職や所属部門といった「静的な属性データ」を用いて、不要なアクセスを未然に防ぐ基本的な対策です。
課題: データ損失防止(DLP)ソリューションも同様に、事前に定義されたルールに依存します。しかし、このアプローチはユーザーの行動背景となる「コンテキスト(文脈)データ」を考慮できません。その結果、正規の業務活動を異常と誤検知する**「偽陽性(False Positive)」**のアラートが大量に発生するリスクを内包します。
データ分析的示唆: 過剰なアラートは、セキュリティアナリストの分析リソースを枯渇させ、本当に重要な脅威(真陽性)の発見を遅らせる直接的な原因となります。静的ルールだけでは、ユーザーの意図(不正、不注意、偶発的なものか)を判断するためのデータが不足しており、効果的な脅威検知は困難です。
フェーズ2:動的データ分析による異常検知(ビヘイビア・アナリティクス)
真に効果的な検知とは、継続的に収集・分析される「時系列データ」から、異常な振る舞いを自動的に特定する能力を指します。
基盤技術: 中核となるのは、行動分析(UEBA: User and Entity Behavior Analytics)です。認証ログ、アクセスログ、データ転送量などの多種多様なデータを常にバックグラウンドで機械学習モデルに投入し、各エンティティ(ユーザー、デバイス)固有の「正常な行動のベースラインモデル」を動的に構築します。
検知メカニズム: このベースラインモデルからの統計的な**「逸脱(アノマリー)」**を脅威のトリガーとします。具体的には、以下のような事象が含まれます。
通常とは異なる時間帯や場所からのアクセスパターン
認証情報の不正使用の疑い
平常時を大幅に上回る大量のデータアップロードやコピー
アナリストへの提供価値: このデータドリブンなアプローチにより、アナリストは「なぜこのアラートが生成されたのか」という客観的な根拠に基づき、迅速かつ精度の高い判断を下すことが可能になります。
フェーズ3:データに基づいた部門横断インシデント対応プロセスの構築
データ分析によってインシデントが検知された後、そのデータをいかに迅速かつ正確に組織的なアクションに繋げるかが重要です。
ワークフローの設計: 検知されたインシデントデータは、事前に定義されたワークフローに従い、関連部門へエスカレーションされる必要があります。このプロセス管理の鍵は、客観的なデータに基づき、各部門の**役割と責任範囲(RACI)**を明確に定義することです。
セキュリティ運用チーム: 検知されたアノマリーデータ(一次データ)を分析し、脅威の確からしさを判断します。
法務・コンプライアンス部門: インシデントのデータが、外部報告義務を伴う「データ侵害」に該当するかを法規制データと照合して判断します。また、従業員の行動データ収集におけるプライバシー保護の観点から、データガバナンスの設計に専門的な助言を提供します。
物理セキュリティ・詐欺対策チーム: インシデントデータによっては、これらの専門チームによる物理的な対応や調査が必要となる場合があります。
データサイロ化の防止: これらの部門間連携が不足すると、インシデントデータが各部門でサイロ化し、状況の全体像把握が遅れます。結果として、対応の遅延が事業インパクトと復旧コストを増大させることは、多くのインシデント分析レポートで指摘されています。
CISOの新たな役割:データガバナンスの推進と共同責任体制の確立
効果的な内部脅威対策を実現するためには、CISO(最高情報セキュリティ責任者)の役割も進化する必要があります。
CISOは、サイバーセキュリティ対策の単独責任者ではなく、全部門がデータに基づきセキュリティリスクを共有し、共同で責任を負う「データドリブンなリスクカルチャー」を醸成する推進役となるべきです。
これを実現するためには、各部門の代表者から成るステアリングコミッティを設置し、セキュリティに関するデータと責任を共有する透明性の高いガバナンスモデル(憲章)を構築することが極めて効果的です。このアプローチは、従業員の当事者意識と組織への信頼感を向上させ、組織全体のセキュリティレベルを底上げする効果が期待されます。
データ戦略による内部脅威対策の高度化:検知から予測へ
内部脅威対策の成熟度は、データ活用の深度によって測られます。インシデント発生後の「検知」モデルから、発生可能性をスコアリングする「予測」モデルへと進化させるためのデータ戦略と、それを支える組織的フレームワークについて提言します。
データ統合による脅威検知・予測モデルの構築
効果的な対策の根幹は、多様なデータを統合し、多角的な分析モデルを構築することにあります。
ステップ1:行動データに基づくベースライン分析(検知モデル)
まず基本となるのが、セキュリティシステムから得られる客観的な「行動データ」の分析です。
分析手法: 個々のユーザーや、同じ職務権限を持つピアグループの行動データ(アクセス時間、データ転送量、使用アプリケーション等)を継続的に収集・分析し、「正常な行動のベースライン」を統計的に定義します。
データが回答する問い: このベースラインモデルを用いることで、アナリストは以下のような問いに客観的なデータで回答できます。
逸脱度の評価: 検知された行動は、そのユーザー個人の過去の行動パターンと比較して、統計的にどの程度異常(逸脱)しているか?
相対比較評価: その行動は、同じ部門や役職のピアグループの行動パターンと比較して、特異なものか?
ステップ2:人事データ等との統合によるリスク予測(予測モデル)
次なるステップは、検知モデルをさらに進化させ、プロアクティブなリスク評価を可能にすることです。
統合データ: 人事部門などが保有する従業員に関するデータ(例:業務上の評価、処遇に関するフィードバック、退職意向の兆候など)を、プライバシー保護に最大限配慮した上で、リスク指標として統合します。
予測モデルの構築: これらのデータと行動データを組み合わせることで、単なる「異常検知」から一歩進んだ「リスク予測モデル」の構築を目指します。このモデルは、特定の従業員が将来的に高リスクな行動を取る可能性をスコアリングし、重点的なモニタリングやケアといった、事前のアクションを可能にします。
必須要件: この高度なデータ統合と分析には、CISO、人事、法務、経営層間での密な連携と、データ取り扱いに関する厳格なガバナンスの確立が不可欠です。
データドリブンな内部脅威対策プログラムの運用モデル
高度なデータ分析を組織的な成果に繋げるためには、一貫した運用プログラムが求められます。成功するプログラムは、以下の4つの主要な特性を持ちます。
データガバナンス憲章の策定:
プログラムの根幹として、データガバナンスを定義した憲章を策定します。これには、分析対象とするデータの種類、インシデントの定義、各部門の役割と責任(RACIマトリクス)、情報共有のルールなどを明記し、全ての活動の拠り所とします。
部門横断的なデータ活用体制の構築:
CISO、人事、法務、IT、各事業部門の代表者で構成されるタスクフォースを設置します。これにより、部門間のデータサイロを解消し、定期的な会合(経営層は四半期ごと、実務チームはより頻繁に)を通じて、全社的な視点でのリスク評価と対策の共有を推進します。
定量的なKPIによる継続的改善(PDCA):
プログラムの有効性を客観的に評価するため、KPI(重要業績評価指標)を設定します(例:脅威の検知からインシデント対応完了までの平均時間、偽陽性アラートの削減率など)。KPIの進捗をデータに基づきレビューし、継続的にプロセスを最適化するPDCAサイクルを確立します。
共同投資による全社的コミットメントの確保:
データ分析基盤の構築、専門人材の育成、外部ソリューションの導入など、プログラムに必要な投資は、関連部門が共同で予算を確保し、リソースを配分するモデルが理想です。これは、対策が特定部門の課題ではなく、全社的な経営課題であるという認識を醸成します。
意思決定を支援するデータインサイトとレポーティング
プログラムの成果は、経営層の戦略的な意思決定に資する形で報告される必要があります。
インサイトの提供: 年次レポートなどの成果物は、単なる数値の羅列ではなく、ビジネスの意思決定に繋がるインサイト(洞察)を提供することが重要です。
データビジュアライゼーションの活用: 例えば、サンキーダイアグラムのような視覚化手法を用いることで、調査のトリガーとなった初期イベントから、調査プロセスを経て、最終的なインシデントの結論に至るまでのフロー全体を可視化します。これにより、プロセスのボトルネックや、特定のトリガーがどのような結果に結びつきやすいかといった相関関係を直感的に伝え、具体的な改善アクションに繋げます。
自動化による分析の高度化: 行動分析と連携した自動化システムは、これらのレポーティングの基盤となるデータを効率的に生成します。脅威の詳細情報やインシデントの時系列タイムラインなどを自動生成することで、アナリストは手作業から解放され、より高度なデータ分析と戦略立案に集中することが可能になります。
データ戦略の深化:人事データ活用とデータドリブンな信頼文化の醸成
内部脅威分析の精度は、利用するデータの多様性と質に大きく依存します。特に、セキュリティログだけでは解釈が困難な「行動の背景(コンテキスト)」を理解するためには、人事部門が保有するデータの戦略的活用が不可欠です。本稿では、人事データを活用した分析モデルの高度化と、データに基づいた信頼関係を構築するためのコミュニケーション戦略について提言します。
人事データ:行動分析モデルをリッチ化するコンテキストデータ
人事部門は、従業員の行動背景を説明しうる、極めて重要なコンテキストデータを保有しています。これを分析モデルに統合することで、脅威分析の精度は飛躍的に向上します。
統合すべきデータセット:
定量的データ: 業績評価スコア、懲戒処分の有無、勤怠データ、役職変更履歴など。
定性的イベントデータ: 面談記録に見られるエンゲージメントの変化、異動希望、退職意向の兆候など。
データ活用の戦略:
これらのデータを、プライバシー保護規制に準拠した形で匿名化・指標化した上で、セキュリティログデータと統合します。これにより、行動分析モデルは単なる「What(何が起きたか)」だけでなく、「Why(なぜ起きたか)」の推察精度を高めることができます。例えば、「解雇が決定した従業員」や「契約終了間近の契約社員」といった特定のイベントデータは、リスクスコアを動的に変動させる強力な**トリガー(特徴量)**として機能します。
データ分析が解明すべきインサイト:アナリストの意思決定支援
強化されたデータ基盤の上で、セキュリティアナリストは以下のような問いに対する解像度の高い答えを得ることができ、迅速で精度の高いインシデント評価が可能になります。
行動の意図の推定:
この異常行動は、操作ミスなどの「不注意」によるものか?
それとも、認証情報が盗まれ第三者に操作されている「アカウント侵害」の可能性が高いか?
エンティティの特定とプロファイリング:
このアカウントは、予測可能な振る舞いをすべき「サービスアカウント」か、それとも行動パターンに変動が大きい「人間」のユーザーか?
エンティティの種別によって、異常性の評価基準(閾値)はどう変わるか?
未知の脅威の仮説構築:
明確な侵害の証拠(IoC)が見つからない場合、この異常行動の背後にある他の要因(例:未許可ツールの使用、業務プロセスの変更)に関する仮説は何か?
データに基づいた信頼を醸成する戦略的コミュニケーション
データの活用は、技術的な側面だけでなく、組織文化の変革を伴います。CISOは、データを共通言語として、組織内の信頼関係を再構築するコミュニケーション戦略を主導する必要があります。
目的1:全社的なデータリテラシーの向上
全従業員に対して、どのようなデータがなぜ収集・分析されているかを透明性を持って説明し、各自の行動が組織全体のセキュリティにどう影響するかを理解させます。これにより、従業員を「監視対象」ではなく、「セキュリティを共同で担うパートナー」と位置づける文化を醸成します。
目的2:データに基づく経営判断の促進
経営層や他部門のリーダーに対し、インシデントデータから得られた成功・失敗事例を定期的に共有します。これにより、勘や経験に頼るのではなく、データに基づいたセキュリティ投資やプロセス改善の意思決定を促進します。
目的3:分析モデルの継続的な精度向上
アナリストからのフィードバックを継続的に収集し、現場の知見を「正常な行動」のベースラインモデルに反映させます。このフィードバックループが、分析モデルを常に最新の状態に保ち、精度を維持・向上させる鍵となります。
結論:「ゼロトラスト」からデータ主導の「アダプティブ・トラスト」へ
従来の「決して信頼せず、常に検証する(Never Trust, Always Verify)」という静的なゼロトラストの原則は、データ分析によって新たな次元へと進化します。それは、収集されるリアルタイムの行動データに基づき、ユーザーやデバイスの信頼レベルを動的に評価・調整する「アダプティブ・トラスト(適応型信頼)」モデルです。
このアプローチは、従業員を一律に「脅威」と見なすのではなく、データに基づいて個々の信頼度を客観的にスコアリングします。協調的なデータ活用と透明性の高いコミュニケーションを通じてこのモデルを組織全体で運用することが、内部リスクが深刻な脅威へと発展するのを防ぎ、真に堅牢で信頼性の高いセキュリティ文化を構築する道筋です。
Microsoft 365の利便性の裏に潜む、データガバナンス上の新たな課題
Microsoft 365の導入は、コラボレーションを促進し業務生産性を飛躍的に向上させました。その一方で、生成・共有されるデータ量が爆発的に増加し、その管理は複雑化しています。サイバー攻撃や内部不正といったセキュリティインシデントに加え、見落とされがちなのがデータガバナンスの観点です。
特に、医療・法務・経理といった規制対象の業界では、法律によって7〜10年といったデータの長期保持が義務付けられています。訴訟や監査の際には、eDiscovery(電子証拠開示)への対応も必須です。しかし、Microsoft 365の標準機能だけでは、これらの厳密なデータライフサイクル管理や、法的証拠能力を担保する要件を満たすことが困難なケースが存在します。
データ保護のギャップ:潜在化する事業継続リスクの構造
Microsoft 365が提供するデータ保持やセキュリティ機能は、あくまで限定的な保護を目的としています。多くの場合、データは一定期間後に自動消去される設定となっており、法的に求められる期間の保管や、インシデント発生時の証拠保全には対応しきれません。
さらに深刻なのは、監査ログやメールデータが各所に散在し、管理がサイロ化・属人化している状態です。この状態は、監査や法的要請を受けた際の迅速なデータ抽出・提出を著しく阻害します。これは単なる運用上の非効率ではなく、事業の正当性を証明できずに信頼を失うといった、定量化すべき事業継続リスクに直結する構造的な問題です。
統合データプラットフォームによるプロアクティブなリスク管理戦略
Microsoft 365環境におけるデータガバナンスを確立するには、場当たり的な対策ではなく、統合的なデータ保護戦略が不可欠です。目指すべきは、インシデント発生後の対応(リアクティブ)ではなく、リスクを予見し、未然に防ぐプロアクティブなデータ管理体制の構築です。
これを実現するためには、セキュリティ対策、バックアップ、長期アーカイブ、そしてeDiscovery対応といった、従来は個別の製品で対応していた機能を単一のプラットフォームに統合することが有効です。データのサイロ化を解消し、一元的なポリシーに基づいてデータライフサイクル全体を管理することで、コンプライアンス要件を満たしつつ、訴訟や監査といった有事の際にも迅速に対応できる、レジリエンスの高いデータ基盤を構築することが可能となります。
テーマ2:サプライチェーンのセキュリティリスクについて
サプライチェーンにおけるセキュリティリスクの構造的変化とデータ活用の必要性
近年、サイバー攻撃の対象は、堅牢な対策を講じる個々の企業から、そのサプライチェーンを構成する取引先や業務委託先へと拡大しています。ある調査では、大企業の約6割が取引先を起点とする情報漏えいを経験、またはその可能性を認識していると回答しており、自社の対策だけでは事業を守りきれない時代に突入しました。
この状況を受け、金融庁や経済産業省が発行するガイドラインでも、サードパーティを含めたリスク評価の重要性が指摘されています。サプライチェーン全体のリスクを客観的に把握し、管理することは、コンプライアンス遵守の観点からも経営上の最優先課題となっています。
従来型評価プロセスの限界:属人性とデータ分析の欠如が招くリスク
多くの企業では、委託先のリスク評価をExcelなどのチェックシートに依存しています。しかし、年間数百件にも及ぶ評価を手作業で行うこのプロセスは、膨大な工数を要するだけでなく、いくつかの本質的な課題を抱えています。
チェックシートで収集される定性的な情報は非構造化データであり、評価者によって判断基準がばらつくなど属人化を招きがちです。また、評価結果の横断的な比較分析や経年変化の追跡が困難なため、リスクの予兆をデータから発見することはできません。これは、根本的なデータ収集・管理基盤の欠如に起因する問題であり、リスクの見落としに直結します。
データドリブン・リスク管理への転換:継続的モニタリングと戦略的意思決定
サプライチェーンのセキュリティレベルを向上させるためには、属人的な評価プロセスから脱却し、データに基づいた客観的なリスク管理へと転換することが不可欠です。
その実現には、ISOやNISTといった国際標準に準拠したフレームワークで評価データを構造化データとして収集・管理するプラットフォームの活用が有効です。これにより、客観的なリスクスコアリングと、サプライチェーン全体のリスクの可視化が可能になります。
最終的な目的は、評価業務の効率化に留まりません。一元管理されたデータを分析し、リスクを継続的にモニタリングすることで、サプライヤーの選定や契約内容の見直しといった戦略的な意思決定を支援し、サプライチェーン全体のレジリエンス(回復力・強靭性)を強化することにあります。
デジタルトランスフォーメーションがもたらす、認証情報(クレデンシャル)管理の構造的課題
業務環境のクラウドシフトに伴い、一人ひとりが利用するSaaSやツールは増加の一途をたどっています。これは、企業が管理すべき認証情報(ID/パスワード)、すなわちシステムへのアクセスベクター(侵入経路)が指数関数的に増加していることを意味します。
エンドユーザーの利便性追求による脆弱なパスワード設定や使い回しといったヒューマンファクターは、常に存在します。しかし、本質的な問題は、これらのアクセスベクターを個人の努力に依存して管理する従来の手法が、現代の事業環境において既に限界に達している点です。NISC(内閣サイバーセキュリティセンター)等のガイドラインが多要素認証の導入を推奨している背景には、こうした属人的管理の脆弱性があります。
データ資産の根幹を揺るがす、特権アクセス管理(PAM)の不備
サイバー攻撃の分析から、企業の最も価値あるデータ資産(Critical Data Assets)やシステム基盤を直接操作可能な「特権ID」が、主要な標的となっていることが明らかになっています。特権IDの不正利用は、他のインシデントとは比較にならない甚大な被害を引き起こす可能性があります。
問題なのは、多くの組織において、この特権IDの利用実態がデータとして可視化・管理されていない点です。明確な管理ポリシーや申請・承認プロセスが不在のまま、いわばブラックボックスの状態で運用されているケースは少なくありません。これは、いつ、誰が、どのデータにアクセスしたかという最も基本的な**監査証跡(Audit Trail)**が欠落している状態であり、不正アクセスや内部犯行のリスクを著しく増大させます。
データ主導型のアプローチによる、統合的なアクセスリスク管理戦略
深刻化する不正アクセスやデータ漏えいを防ぐには、個々のユーザーIDと特権IDを統合的かつデータ主導で管理するアプローチへの転換が不可欠です。目指すべきは、全てのアクセス経路を可視化し、リスクを定量的に評価・低減できる体制の構築です。
本セッションでは、情報システムおよびセキュリティ運用に携わる担当者に向けて、以下の内容を解説します。
攻撃シナリオのデータ分析: 認証情報がどのように窃取され、攻撃に悪用されるのか、そのプロセスを具体的に解説します。
統合的管理基盤の構築: 従業員のパスワード管理と、特権アクセス管理(PAM)を単一のプラットフォームで実現する方法を提示します。これにより、サイロ化しがちな認証情報を一元管理し、ポリシーの徹底と運用負荷の軽減を両立させます。
アクセス制御と証跡の確保: 強固なパスワードポリシーの適用、多要素認証の徹底、そして全てのアクセスに対する監査証跡の確保を実現する具体的な手法を紹介します。
このセッションを通じて、自組織のアクセス管理におけるリスクを客観的に評価し、企業のデータ資産と信頼を守るための、実践的なセキュリティ基盤を構築する知見を提供します。