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サイバーセキュリティ全般(27)

データ主導型セキュリティ戦略:バズワード(頭文字)を超えたソリューション評価

セキュリティソリューションの選定において、「SASE」や「XDR」といったバズワード(頭文字)に基づいて導入を決定することは、データドリブンなアプローチとは言えません。

戦略的に重要なのは、まず組織が検知・対応すべきセキュリティ・ユースケースをデータ(ログ)に基づいて定義し、そのシナリオを実現できるかを定量的に評価することです。

例えば、既存の検知ルール(ユースケース)が、「どれほどの頻度で(Frequency)」、「どれほどの脅威を(Severity)」、「どれほどの精度で(False Positive率)」検知しているかを分析し、その有効性を客観的に評価する必要があります。

データ分析基盤としてのセキュリティ・プラットフォーム
昨今のセキュリティ・プラットフォームへの移行トレンドは、「データサイロの解消」という観点から分析する必要があります。

優れたプラットフォームとは、組織内に散在する多様なデータソース(EDR, NDR, IDaaS, Cloud Logsなど)を一元的に収集・正規化し、相関分析を可能にする「データ分析基盤」として機能するものです。

したがって、ベンダー評価の最重要指標は、「どれだけ多くのサードパーティ・データソースとAPI連携できるか(データ収集能力)」、そして「収集したデータをどれだけ柔軟に分析できるか(データモデルとクエリ性能)」になります。

組織は、既存のセキュリティ投資(データソース)を「総入れ替え」するのではなく、それらのデータを最大限に活用し、分析の精度と速度を向上させるデータ・アーキテクチャを設計すべきです。

一方で、古いテクノロジーの維持コスト(サンクコスト)と、最新のプラットフォーム(EDR, SOARなど)へ移行することで得られる分析能力の向上および運用コストの削減効果を定量的に比較し、費用対効果を分析することも重要です。

SOCトランスフォーメーション:データ分析基盤の移行プロジェクト
従来のSIEMからの移行は、単なるツール導入プロジェクトではなく、「データ分析基盤の刷新プロジェクト」として定義すべきです。その目的(KPI)は、「脅威の検知・対応時間(MTTD/MTTR)の短縮」や「アラートの誤検知率(FP率)の低減」といった定量的な指標の改善に置くべきです。

フェーズ1:評価(Assessment) – 現状のデータとKPIの可視化
トランスフォーメーションの第一歩は、現状の定量的把握です。

データインベントリの作成: 既存のデータソース(ログ種別、データ量、保存期間、鮮度)を棚卸しします。

ユースケースの有効性評価: 既存の検知ルールや分析ワークフローが、「どのような脅威(例:MITRE ATT&CKのマッピング)」を「どれほどの精度(FP率)」でカバーしているかを可視化します。

ギャップ分析: 「検知したい脅威シナリオ」と、「その検知に必要なデータ」とのギャップ(=収集できていないログ)を特定します。

フェーズ2:計画(Planning) – 新基盤のKPIとデータ設計
評価フェーズで得られたデータに基づき、新基盤の目標とデータ設計を行います。

目標KPIの設定: 新しい分析基盤で達成すべき定量的目標(例:重要アラートのMTTDを1時間以内に短縮)を定義します。

ユースケースの優先順位付け: 全てのユースケースを移行するのではなく、「ビジネスリスクへのインパクト(影響度)」と「実現可能性(データ収集・分析コスト)」のマトリクスで優先順位を決定します。

データ(アラート)起点のプロセス設計: SOARプレイブック(自動化プロセス)は、「どのようなデータ(アラート)をトリガーに、「どのような処理(自動化)」を実行するかを再設計します。

フェーズ3:準備(Preparation) – PoCによる定量的評価とデータ移行戦略
ベンダー選定とデータ移行は、実データに基づいて客観的に行う必要があります。

PoC(概念実証)による定量的評価: ベンダー選定は、RFI/RFP(機能チェックリスト)ではなく、自社の実データ(ログ)を用いたPoCで評価します。「分析パフォーマンス(クエリ速度)」や「検知精度」といった客観的なデータで比較します。

データ移行の費用対効果分析: 過去の膨大なデータ(ペタバイト級)を全て新基盤に移行することは、コスト(クラウドのEgress/Storageコスト)に見合わない場合があります。「コンプライアンス要件(保持期間)」と「フォレンジック分析の必要性」、「移行コスト」を定量的に比較分析し、データ保持ポリシー(ホット/ウォーム/コールド)を再設計します。

分析アプローチの転換: 多くの最新プラットフォームは、従来のルールベース(既知の脅威)から、UEBA/MLベース(未知の脅威)の異常検知へ移行しています。これは、移行すべき対象が「数千のルール」ではなく、「分析の元となるユースケース(=どのような異常行動を検知したいか)」であることを意味しており、よりリッチなデータ(コンテキスト)を収集するデータ・アーキテクチャが求められます。