目次
- 1 データ主導型セキュリティ戦略:バズワード(頭文字)を超えたソリューション評価
- 2 🔒 経済安全保障とデータガバナンス:「重要情報システム要求策定ガイド」の戦略的意義
- 3 🔒 データセキュリティ運用の最適化とリスクヘッジ戦略
- 4 🛡️ Cortexプラットフォームによるデータセキュリティ運用の自動化と可視化
- 5 🔒 データセキュリティ・ガバナンス:パスワード共有リスクの定量化と運用変革
- 6 🔒 データ授受の変革とセキュリティプラットフォーム移行戦略
- 7 🛡️ データガバナンスの強化とクラウドネイティブSOCへの戦略的転換
- 8 🏭 OTセキュリティのデータ化とCTEM戦略:サイバー・フィジカルシステムのリスク管理
- 9 📈 データガバナンスと利便性の両立戦略:ハイブリッド環境のリスクマネジメント
データ主導型セキュリティ戦略:バズワード(頭文字)を超えたソリューション評価
セキュリティソリューションの選定において、「SASE」や「XDR」といったバズワード(頭文字)に基づいて導入を決定することは、データドリブンなアプローチとは言えません。
戦略的に重要なのは、まず組織が検知・対応すべきセキュリティ・ユースケースをデータ(ログ)に基づいて定義し、そのシナリオを実現できるかを定量的に評価することです。
例えば、既存の検知ルール(ユースケース)が、「どれほどの頻度で(Frequency)」、「どれほどの脅威を(Severity)」、「どれほどの精度で(False Positive率)」検知しているかを分析し、その有効性を客観的に評価する必要があります。
データ分析基盤としてのセキュリティ・プラットフォーム
昨今のセキュリティ・プラットフォームへの移行トレンドは、「データサイロの解消」という観点から分析する必要があります。
優れたプラットフォームとは、組織内に散在する多様なデータソース(EDR, NDR, IDaaS, Cloud Logsなど)を一元的に収集・正規化し、相関分析を可能にする「データ分析基盤」として機能するものです。
したがって、ベンダー評価の最重要指標は、「どれだけ多くのサードパーティ・データソースとAPI連携できるか(データ収集能力)」、そして「収集したデータをどれだけ柔軟に分析できるか(データモデルとクエリ性能)」になります。
組織は、既存のセキュリティ投資(データソース)を「総入れ替え」するのではなく、それらのデータを最大限に活用し、分析の精度と速度を向上させるデータ・アーキテクチャを設計すべきです。
一方で、古いテクノロジーの維持コスト(サンクコスト)と、最新のプラットフォーム(EDR, SOARなど)へ移行することで得られる分析能力の向上および運用コストの削減効果を定量的に比較し、費用対効果を分析することも重要です。
SOCトランスフォーメーション:データ分析基盤の移行プロジェクト
従来のSIEMからの移行は、単なるツール導入プロジェクトではなく、「データ分析基盤の刷新プロジェクト」として定義すべきです。その目的(KPI)は、「脅威の検知・対応時間(MTTD/MTTR)の短縮」や「アラートの誤検知率(FP率)の低減」といった定量的な指標の改善に置くべきです。
フェーズ1:評価(Assessment) – 現状のデータとKPIの可視化
トランスフォーメーションの第一歩は、現状の定量的把握です。
データインベントリの作成: 既存のデータソース(ログ種別、データ量、保存期間、鮮度)を棚卸しします。
ユースケースの有効性評価: 既存の検知ルールや分析ワークフローが、「どのような脅威(例:MITRE ATT&CKのマッピング)」を「どれほどの精度(FP率)」でカバーしているかを可視化します。
ギャップ分析: 「検知したい脅威シナリオ」と、「その検知に必要なデータ」とのギャップ(=収集できていないログ)を特定します。
フェーズ2:計画(Planning) – 新基盤のKPIとデータ設計
評価フェーズで得られたデータに基づき、新基盤の目標とデータ設計を行います。
目標KPIの設定: 新しい分析基盤で達成すべき定量的目標(例:重要アラートのMTTDを1時間以内に短縮)を定義します。
ユースケースの優先順位付け: 全てのユースケースを移行するのではなく、「ビジネスリスクへのインパクト(影響度)」と「実現可能性(データ収集・分析コスト)」のマトリクスで優先順位を決定します。
データ(アラート)起点のプロセス設計: SOARプレイブック(自動化プロセス)は、「どのようなデータ(アラート)をトリガーに、「どのような処理(自動化)」を実行するかを再設計します。
フェーズ3:準備(Preparation) – PoCによる定量的評価とデータ移行戦略
ベンダー選定とデータ移行は、実データに基づいて客観的に行う必要があります。
PoC(概念実証)による定量的評価: ベンダー選定は、RFI/RFP(機能チェックリスト)ではなく、自社の実データ(ログ)を用いたPoCで評価します。「分析パフォーマンス(クエリ速度)」や「検知精度」といった客観的なデータで比較します。
データ移行の費用対効果分析: 過去の膨大なデータ(ペタバイト級)を全て新基盤に移行することは、コスト(クラウドのEgress/Storageコスト)に見合わない場合があります。「コンプライアンス要件(保持期間)」と「フォレンジック分析の必要性」、「移行コスト」を定量的に比較分析し、データ保持ポリシー(ホット/ウォーム/コールド)を再設計します。
分析アプローチの転換: 多くの最新プラットフォームは、従来のルールベース(既知の脅威)から、UEBA/MLベース(未知の脅威)の異常検知へ移行しています。これは、移行すべき対象が「数千のルール」ではなく、「分析の元となるユースケース(=どのような異常行動を検知したいか)」であることを意味しており、よりリッチなデータ(コンテキスト)を収集するデータ・アーキテクチャが求められます。
🔒 経済安全保障とデータガバナンス:「重要情報システム要求策定ガイド」の戦略的意義
「重要情報を扱うシステム要求策定ガイド」が重視される背景:国家レベルのデータリスク評価
「重要情報を扱うシステムの要求策定ガイド」(以下、「本ガイド」)は、国民生活や経済活動の基盤を支えるサービスにおいて使用される情報のうち、不正アクセス、改ざん、破損、滅失、または利用不能が発生した場合に、国家および国民の安全、秩序、または経済活動に特に大きな影響を与えるデータを「重要情報」として明確に定義しています。
本ガイドの策定背景には、「経済安全保障推進法」の存在があります。政府は、社会経済構造の変化と国際情勢の複雑化に伴う経済的リスクの拡大に対応するため、データ資産の保護を含む安全保障の方針を強化しました。2022年5月に成立した同法は、以下の4つの柱で構成されています。
重要物質の安定的な供給の確保
基幹インフラ役務の安定的な提供の確保
先端的な重要技術の開発支援
特許出願の非公開
🔗 基幹インフラ事業者におけるデータセキュリティ統制
情報システムと最も深く関連するのは、第2の柱である**「基幹インフラ役務の安定的な提供の確保」です。政府は、同法の対象として15分野(電気通信、放送、金融、航空、空港、鉄道、電気、ガス、水道、貨物自動車運送、外航貨物、クレジットカード、石油、郵便、一般港湾運送)を定め、各事業所管大臣によって213事業者(2024年10月17日時点)が特定社会基盤事業者**として指定されています。
これらの特定社会基盤事業者に対しては、重要情報を扱う基幹インフラである特定重要設備の供給者に関する事項や、特定妨害行為を防止するための措置など、国外の政治経済の動向に影響されないデータセキュリティ統制に関する規定が定められています。
2024年5月以降、特定社会基盤事業者が特定重要設備の導入時や維持管理などの委託時に、対応状況を事業所管大臣に届け出て審査を受けるプロセスが義務化されています。これは、サプライチェーン全体のデータリスクに対する厳格なガバナンス要求です。
📋 データマネジメントにおける「問題・リスク」と「対策」の整理
本ガイドは、重要情報のデータをどのように守るべきかに特化し、特定社会基盤事業者の基幹インフラに求められる要求項目を提示しています。特定社会基盤事業者が、自ら要求項目を策定できるように、**発生し得る「問題・リスク」とそれに対応する「対策」**を体系的に整理することを求めています。
🔑 重要情報システム管理者への要求事項:自律性と利便性に基づくリスク分析
管理者に求められるのは、「自律性」と「利便性」の観点からシステムの問題とリスクをデータに基づいて分析し、適切な対策を策定する能力です。
自律性(Autonomy): ITガバナンス(統制)を確保するための要素として定義されます。これは、平時におけるデータアクセス管理やセキュリティポリシー遵守を担保するだけでなく、非常事態が発生した場合に、管理者が運用の統制権を維持するための必要条件でもあります。
利便性(Convenience): ビジネス面や技術面での変化に対し、データ連携やシステム構成を柔軟に追従していく対応力として定義されます。これは、規制遵守を担保しつつも、ビジネスの俊敏性を損なわないための重要な要件です。
🔒 データセキュリティ運用の最適化とリスクヘッジ戦略
📊 対策前後の運用データ分析:非効率性の定量化と効果の最大化
対策前の状況:運用負荷のデータ分析
| 課題項目 | 非効率性のデータインサイト | 発生コスト/リスク |
| アンチウイルス製品 | 定義ファイル型による動作の重さ。スキャン時のPC性能低下を招く。 | 従業員の生産性低下。 |
| ネットワーク負荷 | 定義ファイルの更新集中によるネットワーク帯域の逼迫。 | 業務システムへのアクセス遅延。 |
| 運用工数 | 更新状況の手動チェックが常態化し、管理工数が増大。更新失敗時の個別対応コストが発生。 | 人件費の無駄。セキュリティ担保の遅延。 |
| セキュリティリスク | ランサムウェア攻撃に対する検知能力の不確実性。 | データ損失リスクの増大。 |
| インシデント対応 | PC隔離手段がLANケーブル抜栓などに限定され、インシデント対応の初期対応時間が長期化。 | 被害拡大のリスク。 |
| データ保管(M365依存) | 退職者のOneDriveデータや削除後のSharePointデータが復元できず、データの永続性が確保できない。 | コンプライアンスリスク、重要データの損失。 |
| 脅威対応 | 脅威検知時の即時対応要員が不在。 | セキュリティ侵害時の被害が最大化するリスク。 |
| 導入対策 | 改善されるデータ指標/戦略的効果 |
| 脅威インテリジェンス型次世代EPP | PC負荷の解消と定義ファイル更新管理工数のゼロ化による運用効率の極大化。 |
| ネットワーク負荷の低減。更新失敗リスクの排除による個別対応コストの削減。 | |
| 多層防御とランサムウェア検知能力によるセキュリティレベルの確実な向上。 | |
| 管理コンソールからのPC直接隔離により、インシデント対応時間(MTTR)を劇的に短縮。 | |
| サーバーフルクラウド化とエージェント自動アップグレードによる保守工数の完全削減。 | |
| 脅威検知時のMSP活用 | 脅威検知後、専門サービス(MSP)により被害拡大を最小限に抑制し、事業継続性を担保。 |
| 業務データのクラウドバックアップ | OneDrive/SharePointデータの永年保管バックアップにより、データ永続性の確保とコンプライアンスリスクの低減。 |
| 退職者データやSharePointの削除データも復元可能となり、データ損失リスクを排除。 | |
| ランサムウェア被害時も重要データを速やかに復元し、ダウンタイムを最小化。 |
🛡️ Cortexプラットフォームによるデータセキュリティ運用の自動化と可視化
Cortex XDRとCortex Xpanseは、リモートワーカーを含むインターネットの攻撃対象領域、エンドポイント、クラウド、およびネットワークにわたり、究極のデータ可視性と脅威検出を実現します。これにより、分散したIT環境全体のセキュリティ状態をデータで一元管理できます。
Cortex XDRとCortex XSOARの連携: マルウェア調査とレスポンスプロセスを自動化します。これにより、セキュリティアナリストの手動対応工数を大幅に削減し、インシデント対応の迅速性を高めます。
Cortex XpanseとCortex XSOARの連携: Xpanseの資産情報を使用してインシデント情報を自動的にエンリッチ化します。これにより、調査の初期段階で必要なデータ収集時間を短縮し、新たに検出された資産の修復を自動化します。
Cortex XSOARの機能: パロアルトネットワークスの全製品に加え、数百に及ぶその他のセキュリティツールからアラートと脅威情報を取り込みます。これにより、インシデント調査を加速し、インシデントレスポンスの自動化(SOAR)を強力にします。
🔒 データセキュリティ・ガバナンス:パスワード共有リスクの定量化と運用変革
🚨 避けるべきパスワード共有:内部リスクのデータ分類
パスワード共有行為は、内部不正およびデータ漏洩の重大なインシデントにつながる可能性があり、その原因は「故意」と「意図しない」の二つに分類され、それぞれ異なるリスク管理が必要です。
故意のパスワード共有: 組織において、従業員が意図的にアカウント資格情報を同僚、業務委託者、または悪意ある第三者と共有する行為を指します。ユーザーがパスワードを共有する動機(業務効率化、便宜性など)に関わらず、故意による資格情報共有は、アクセス権限の統制(ガバナンス)を崩壊させ、内部脅威の深刻なリスク要因となります。
平文での資格情報管理と共有:意図しないデータ露出 エンタープライズの資格情報を付箋に書き留めたり、スプレッドシートやテキストファイルに保存したりする習慣は、依然として職場に存在します。このような平文でのデータ管理は、オンライン攻撃に対しては耐性があるように見えても、物理的な搾取や、共有ストレージ(Dropbox, Google Driveなど)経由での意図しない流出に対しては極めて脆弱であり、機密性の高い資格情報の露出リスクを増大させます。
🛡️ Unit 42 MDR:セキュリティテレメトリデータに基づく24時間365日の対応
Unit 42のセキュリティ専門家は、長年の組織保護経験に基づき、お客様の環境を継続的に監視し、疑わしい活動の兆候をデータで検出します。
アナリストはCortex XDRを駆使し、エンドポイント、ネットワーク、クラウドから発生するセキュリティテレメトリデータを集約して、攻撃の起点(ソース)を特定します。そして、正確な脅威インテリジェンスとAIを活用した分析により、最も高度な脅威に対する防御、検出、レスポンスを実時間で実現します。
Unit 42 MDRチームは、独自のプロセス、インフラストラクチャ、およびデータエンリッチメントを組み合わせることで、検出、レスポンス、脅威ハンティングのサイクルを劇的に加速し、組織に影響を及ぼす可能性のある悪意ある活動を迅速に阻止します。
⏱️ 保護契約によるインシデント対応時間の最小化(MTTR短縮)
侵害を検知した瞬間から、被害拡大までの時間は刻一刻と経過します。即座に侵害を封じ込め、**根本原因のデータ(Root Cause Analysis)**を突き止めなければ、攻撃者は再度の侵入を試みます。
Unit 42 保護契約を結ぶことで、専門家を短縮ダイヤルでいつでも呼び出せる自社チームの延長のように活用可能です。これにより、攻撃の影響を最小限にとどめ、通常業務への復旧時間(MTTR)を短縮することができます。
🚀 次世代セキュリティ運用:XSIAMによるデータ戦略の変革
従来の**セキュリティオペレーションセンター(SOC)**は、SIEM(Security Information and Event Management)をコアコンポーネントとしてきましたが、SIEM製品は無数のアラートと手動プロセスによりアナリストの工数を圧迫し、効果的で一元化された脅威検出とレスポンスという目標を達成できていません。
セキュリティチームが真に必要としているのは、複数のセキュリティ機能を一つの土台となるソリューションに統合し、全社的なセキュリティデータを自動化されたプロセスで可視化する集中管理プラットフォームです。
**拡張セキュリティインテリジェンス & 自動化管理(XSIAM: Extended Security Intelligence & Automation Management)**は、この課題に対処するために設計されました。
AI活用と自動化: AIを活用した自動化機能により、セキュリティ成果を根本的に改善し、手動中心のSecOpsモデルをトランスフォーメーションします。
インテリジェントなデータ基盤: 統合されたSOC機能を自動化することで、レスポンス速度を大幅に向上させ、脅威に先手を打つプロアクティブな対応を実現します。
アナリスト作業の合理化: アナリストの作業負荷を劇的に軽減し、より高度な脅威ハンティングや戦略立案にリソースを集中させます。
Cortex製品ポートフォリオが実現する、業界最高峰の脅威検出機能、防御機能、攻撃対象領域管理機能、セキュリティ自動化機能の詳細については、ホワイトペーパーで具体的なデータと機能検証結果をご確認ください。
🔒 データ授受の変革とセキュリティプラットフォーム移行戦略
📉 「脱PPAP時代」における業務プロセス停滞リスクの定量化
政府や大企業を中心に「脱PPAP(Pass付きZip廃止)」の流れが加速している現状は、ファイル送受信におけるセキュリティポリシーの強化を示すものです。
しかし、現場では「Pass付きZipを送っても届かない」「取引先が受け取れない」といった業務停滞トラブルが急増しています。従来のメール添付運用が機能しなくなることで、情報共有の混乱を招き、結果的に現場の生産性を低下させるという、セキュリティ強化と業務効率のトレードオフが顕在化しています。
💰 無料手段の廃止とセキュリティコストの最適化課題
これまで無料で実施できていたPass付きZip送付が封じられたことで、「安全・安価・確実」にデータを授受する手段の模索が必須となっています。
リスクとコストの板挟み: セキュリティを優先すれば高コスト化し、安価な方法ではデータ流出のリスクが残るという板挟みの状態です。
運用プロセスの混乱: 取引先とのデータ授受が滞るだけでなく、社内でも**「誰が、どのツールで、どのように送るか」というデータ授受ガバナンス**が統一されないまま、高リスクな運用が継続しているのが実情です。
“届かないファイル”が常態化しつつある今、メール添付に代わる新しい共有基盤の整備と、それによる業務プロセスの再設計が喫緊の課題となっています。
🚀 新セキュリティプラットフォーム導入戦略:データに基づく段階的移行
🎓 トレーニングと採用:人的リソースのデータリテラシー向上
組織がマネージドサービス・プロバイダー(MSP)を利用する場合でも、新しいプラットフォームについて社内スタッフを十分にトレーニングすることは、運用リスクを低減する上で極めて重要です。
ベンダーが認定を提供している場合は、スタッフにこのプロセスを実行させることで、データリテラシーと専門知識の標準化を図るべきです。これは、カットオーバー前の最終ステップであり、バックアップ/リカバリ、災害復旧(DR)、高可用性(HA)オプションなど、新しいプラットフォームをサポートするユースケースと標準運用プロセスをデータで確認する重要なタイミングです。また、問題が文書化され迅速に修正されるよう、スタッフフィードバックのメカニズムを実装し、運用改善データを継続的に収集することも推奨されます。
📊 カットオーバー:フォールバック計画と性能監視
従来のSIEMから新しいプラットフォームへの移行は、段階的なカットオーバーにより実施します。組織は、カットオーバーの前に詳細なフォールバック計画を作成し、テストを実施する必要があります。
新しいシステムがオンラインになるときは、システムの性能とセキュリティ指標を継続的に監視することが重要です。また、この機会にバックアップとリカバリのプロセスをリハーサルし、計画どおりに動作することを確認するためのテストデータ取得を行うべきです。
📈 実装後のレビュー:効率と機能向上のメトリック収集
実装後、新しいシステムを徹底的にレビューすることで、効率と機能の向上に関するメトリックを収集します。主要なパフォーマンス指標(KPI)には、以下のようなデータを含めます。
新しいシステムによって生成されたインシデントの総数(アラートノイズの削減効果)。
アナリストが調査し、修復計画を実装するのに必要な平均時間(MTTRの改善)。
このステップには、新しいプラットフォームのサポート対象機能とユースケースを評価し、フットプリントの拡大や、最新のシステムで置き換えられる可能性のある冗長または非効率的なシステムの排除も含まれる場合があります。
🗑️ 廃止:データ移行とアナリストの確認
前述の通り、新しいプラットフォームが実装された後、従来のSIEMはしばらくの間、並行して実行する必要がある場合があります。この期間が経過したら、最後のステップとして、古いシステムの使用を停止します。
組織は、すべての重要なデータとユースケースが確実に移行されていることを確認し、SOCアナリストと協力して古いシステムが不要になったことを確認する必要があります。必要に応じて、組織はデータをアーカイブし、システムを正式に廃止する計画を立てるべきです。
🔄 継続的な管理:SaaSモデルによるメンテナンス工数削減
適切に実行されれば、新しいシステムの継続的な「管理」は、従来のSIEMに必要とされたものよりも大幅に負担が少なくなるはずです。特に、新しいプラットフォームがサービスとして提供される傾向にある場合、エンタープライズチームによるメンテナンスやコードのアップグレードはほとんど、またはまったく必要ありません。チームメンバーが新しい機能に関する継続的なトレーニングに参加し、プラットフォームがビジネスに役立つ新しい方法を探すように促すことで、継続的な改善文化を醸成します。
🛡️ データガバナンスの強化とクラウドネイティブSOCへの戦略的転換
💻 エンドポイントにおけるセキュリティポリシーのデータ統制
セキュリティポリシーは、感染ウェブサイトの閲覧や悪意のあるアプリケーションのインストールといった、ユーザーの危険な行動をデータで阻止するための統制基準です。特にブラウザは、多様なタイプのエンドポイントに対してポリシーを一元的に適用できるため、セキュリティガバナンスを確保する上で重要な役割を果たします。
個別に設定可能なポリシーもありますが、当社はChromeブラウザクラウド管理またはグループポリシーを使用した一元的なポリシー適用を推奨します。これにより、管理対象エンドポイントにおけるセキュリティ設定の均一性が確保されます。
リモートワークシナリオへの対応: Chromeブラウザクラウド管理は、企業ネットワークの内部と外部を問わずポリシーを適用できる追加機能を有しており、分散したリモートワーク環境におけるデータセキュリティ統制に最適です。
💡 クラウドネイティブなSOC変革の前に考慮すべき戦略的要素
従来のオンプレミスまたはSaaSベースの第1世代SIEM(Security Information and Event Management)から、クラウドネイティブなSOC(Security Operations Center)への変革を評価する組織は、以下の要素をデータに基づいて慎重に検討する必要があります。
1. ベンダー選定のデータ戦略
組織にとって最適なベンダーは、クラウドネイティブ・セキュリティソリューションに深く投資しており、現在のユースケースと将来のデータ拡張に合致する製品ポートフォリオを備えていることが必須です。
統合された機能: 候補となるベンダーは、データレイク(およびオプションでデータファブリック)、EDR(Endpoint Detection and Response)、NDR(Network Detection and Response)、SOAR(Security Orchestration, Automation and Response)機能、そして完全に統合されたCNAPP(Cloud-Native Application Protection Platform)機能セットに裏打ちされた、緊密に統合されたクラウド検出・対応機能を提供する必要があります。
AI/自動化への投資: アナリストの生産性向上、インシデント滞留時間の短縮、対応および修復時間の短縮(MTTR)といった点でプラスの結果を実証しているAIベースの検出と自動化に多額の投資を行っているベンダーを選定すべきです。特に生成AI(GenAI)製品では、幅広い専用AIモデルと検出メカニズムの利用可能性が望まれます。
AIシステム保護の評価: ベンダーがAIシステム自体を保護するためのベストプラクティスをどのように実施しているかを評価することも、サプライチェーンリスクの観点から重要です。
2. プラットフォームのサポート範囲と移行戦略
現在、ほとんどの組織がマルチクラウドとハイブリッドクラウドであることを踏まえると、ベンダーが組織のアーキテクチャ全体に対応していることが重要です。
テレメトリソースの網羅性: オンプレミスとクラウドのテレメトリソース、主要なクラウド・サービス・プロバイダー/ハイパースケーラープラットフォーム(AWS、Azure、Google Cloud、Oracleなど)、プライベートクラウド、およびSaaSアプリケーションの全てのデータに対応している必要があります。
マーケットプレイスの堅牢性: ベンダーやサードパーティが提供するアプリケーションやコードリポジトリ、およびベンダー認定を備えた堅牢なマーケットプレイスを提供しているベンダーを探すことも有益です。
移行機能の評価: 第1世代SIEMからの移行機能も検討が必要です。移行時に、ルールの大幅な書き換えやダッシュボード、レポートの再作成が必要となるか、あるいはプラットフォームがユースケースベースの移行戦略を通じてこのプロセスの大部分を自動化できるかを移行コストと工数の観点から評価すべきです。
🏭 OTセキュリティのデータ化とCTEM戦略:サイバー・フィジカルシステムのリスク管理
OT環境における内部管理のデータ分析とガバナンスの欠如
工場やOT(制御技術)環境におけるセキュリティリスクは、責任体制の不明確さやデータに基づく運用の欠如によって深刻化しています。以下は、現在のリスクレベルを評価するための主要なデータポイントです。
| 領域 | 現在のデータリスクの状態 | リスク定量化への視点 |
| 責任体制 | 情報セキュリティ担当者に一任され、事故発生を想定した責任体制のデータ化がない。 | インシデント発生時の損失額に基づく責任範囲の明確化。 |
| インシデント対応 | 対応・復旧フローが未整備(バックアップがあってもリカバリ実績がない)。 | **復旧時間目標(RTO)と復旧時点目標(RPO)**のデータ未設定。 |
| 現場教育 | セキュリティ教育が座学のみで、OT現場のインシデント対応能力が評価されていない。 | 模擬訓練における対応時間などのパフォーマンスデータの測定。 |
| 資産管理 | 管理対象がOAネットワーク接続PCのみに限定されている。 | OT機器のインベントリデータが欠落し、**攻撃対象領域(Attack Surface)**が把握できていない。 |
| 端末保護 | Windowsパッチやアンチウイルス対策がOAネットワークのみを対象としている。 | OT機器における既知の脆弱性露出度のデータ未測定。 |
| ネットワーク | 工場システム・機器が同一ネットワーク上(フラットネットワーク)に配置されている。 | ネットワーク分離レベルのデータ化と、水平移動(Lateral Movement)リスクの評価。 |
| 領域 | 現在のデータリスクの状態 | リスク定量化への視点 |
| サプライヤ | 機器ベンダーが設置したリモートアクセス経由の外部からの直接通信が発生している。 | 外部接続ポイントの脆弱性データと不正アクセス発生率の評価。 |
| 調達部門 | 工場側の調達品に関する緊急連絡体制がない。 | **サプライヤーのセキュリティインシデント対応協定(SLA)**の欠如。 |
| 仕様要件 | 工場側の調達品に関するセキュリティ仕様要件がない。 | サプライヤー調達におけるセキュリティ要件遵守率のデータ未測定。 |
| 外部管理 | 協力会社等の外部入構者に対するセキュリティ教育体制がない。 | 外部関係者のセキュリティ意識レベルのデータ未測定。 |
🌐 CPS(サイバー・フィジカル・システム)のエクスポージャー管理戦略
デジタルトランスフォーメーション(DX)の継続的な進展に伴い、製造業や重要インフラ組織では、ITとOTが高度に融合した**サイバー・フィジカル・システム(CPS)**に対する、動的かつ広範なリスク管理プログラムの策定が求められています。
CPS環境は、資産の複雑性、独自のガバナンス要件、およびビジネス・クリティカルな運用成果という独特の性質を持つため、専門的なデータドリブンアプローチが必要です。これは、パッチ適用やプレイブックといった従来の静的な手段を超えて、セキュリティ対策プロセスを最適化する再現性の高い対策サイクルの構築を意味します。
🔄 継続的脅威エクスポージャー管理(CTEM)の導入
当社は、セキュリティリスク管理のパラダイムシフトとして、継続的脅威エクスポージャー管理(CTEM: Continuous Threat Exposure Management)を推奨します。CTEMは、「企業のデジタル資産や物理資産のアクセス容易性、攻撃対象領域、悪用の可能性を、継続的かつ一貫して評価する一連のプロセスと機能」と定義されます。
CTEMサイクルは、成熟度を問わず、以下の5つのステップを継続的に完了する必要があります。
スコープ設定: 管理対象資産とリスク範囲の定義。
発見: 資産と脆弱性のインベントリデータの作成と分類。
優先付け: 攻撃シナリオシミュレーションに基づき、リスクレベルを定量化し、対策の優先順位を決定。
検証: 状態評価プロセスやテクノロジーを用いて、対策の有効性をテスト。
実践: インフラ・チーム、システム担当者、プロジェクト担当者が調査結果に基づき行動を起こせる、効果的かつ実行可能な道筋を整備。
CTEMプログラムには、インフラチームが調査結果に基づき行動を起こせるような、効果的かつ実行可能な道筋をデータに基づき備えておくことが、OT環境におけるセキュリティリスクの低減のために極めて重要です。
📈 データガバナンスと利便性の両立戦略:ハイブリッド環境のリスクマネジメント
「自律性」と「利便性」のデータトレードオフとクラウドの課題
ビジネスや技術の変化に柔軟に対応する(利便性)ための手段として、クラウドサービスの活用は戦略的に有効です。しかし、一般的なクラウドサービスは、その特性上、システム構成や処理プロセスが外部から見えにくい(ブラックボックス化)という課題を抱えています。
システム問題やサイバー攻撃が発生した場合、状況把握、原因究明に時間を要すると、緊急対応やステークホルダーへの説明が後手に回り、情報開示が不十分となるリスクが高まります。これは、インシデント対応時間(MTTR)の長期化と企業信頼性の低下という、定量的なリスクに直結します。
この問題に対処するため、管理者はあらかじめ**「システム上で最も守りたいデータ資産」を明確に定義し、それに対して想定されるリスクをデータに基づいて準備する必要があります。本ガイドを活用し、ベンダーと協力してシステムの構築・運用におけるガバナンス体制**を確立することが求められます。
🛡️ データ処理過程のセキュリティリスク:オンプレミスとクラウド
オンプレミス環境では、計算途上のデータ(データ・イン・プロセス)が暗号化されていないことが多く、計算中のデータを含め保護する仕組みを個別で開発・実装することはコストと工数の観点から容易ではありません。
クラウドへ移行することで、この計算途上のデータ暗号化は比較的容易になります。しかし、クラウドを利用する際には、管理者はネットワーク越しの攻撃やクラウドベンダー側の悪意のある運用者による情報漏洩といった、新たなリスクベクトルにも対応が必要です。
🔄 マシン間アクセスの統制:サービスメッシュによるアイデンティティベースの接続
HashiCorp Consulは、アプリケーション間での**認証(Identity-Based Access)**を実施し、承認されたマシン間の通信のみを許可することで、ゼロトラスト環境でのマシン間アクセスを可能にします。
データ保護と効率: Consulは、暗号化トラフィックを使用して承認およびトラフィックのルールをコード化し、アイデンティティベースのアクセスを自動化することで、拡張性、効率、セキュリティを最大限に高めます。
サービスディスカバリ: Consulサービスメッシュを使用することで、サービスの自動検出、ネットワーク構成の自動化、および安全な接続をあらゆるクラウドとランタイムで実現し、分散環境におけるデータ連携の可視性と統制を向上させます。
🌐 クラウド時代のネットワークセキュリティ戦略:SASEソリューションの選択肢
クラウドサービスの利用拡大とリモートワークの常態化により、ネットワーク境界が曖昧化し、データセキュリティモデルの再定義が必須となっています。この課題に対応するのが、SASE(Secure Access Service Edge)ソリューションです。
SASEは、ネットワーク機能(SD-WANなど)とセキュリティ機能(CASB、FWaaSなど)を統合し、ユーザーがどこにいても一貫したセキュリティポリシーを適用できるように設計されています。これにより、データアクセスのセキュリティと利便性の両立を実現します。
主要なSASEソリューションのポートフォリオは以下の通りです。
| ベンダー名 | ソリューション名 |
| Fortinet | FortiSASE |
| Zscaler | Zscaler SASE |
| Palo Alto Networks | Prisma Access |
| Cisco | Cisco Umbrella |
| Cloudflare | Cloudflare One |
| Check Point | Check Point Harmony Connect |
| Netskope | Netskope SASE |
| Cato Networks | Cato SASE |
これらのソリューションの中から、自社のデータトラフィックパターンやセキュリティ要件に最も適合するものをデータに基づいて評価し、選択することが、クラウド時代のネットワーク戦略において重要です。