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サイバー攻撃(15)

データ資産のリスク増大と、従来型セキュリティ分析の限界

経営課題として常態化するサイバーリスク
サイバー攻撃による情報漏えいは、もはや一過性のインシデントではなく、事業継続を脅かす恒常的な経営リスクです。IPAが発表する「情報セキュリティ10大脅威」が示すように、ランサムウェアやサプライチェーン攻撃といった脅威の性質は長年変わっていません。これは、攻撃者の目的が一貫して、企業の最も重要な経営資産である**「データ」の窃取と換金**にあることを明確に示しています。

企業のデジタルトランスフォーメーションが進むほど、データ資産の価値は高まり、それを狙う攻撃者のインセンティブもまた増大し続けています。

なぜセキュリティ投資が成果に結びつかないのか?
これまで多くの企業が、脅威に対抗すべく多額の予算を投じてきました。しかし、被害は依然として拡大傾向にあります。この投資と成果のギャップを生み出している根源は、以下の2つの構造的なデータ課題にあります。

課題1:データ資産の可視性と監視の分断
データの保管場所は、従来のオンプレミス環境から、複数のパブリッククラウド、さらには工場や店舗などのエッジ環境へと爆発的に分散しています。これにより、組織が保護すべき**「アタックサーフェス(攻撃対象領域)」は無秩序に拡大**しました。

問題は、それぞれの環境で導入されたセキュリティツール群が、それぞれのログ(テレメトリデータ)を生成するものの、それらが完全にサイロ化している点です。このデータの分断が、環境を横断して巧妙に実行される攻撃キャンペーンの全体像を捉えることを、著しく困難にしています。

課題2:従来型検知ロジックの陳腐化
かつての攻撃は、既知の攻撃パターン、すなわち「シグネチャ」に依存する検知ロジックで対応可能でした。しかし、攻撃ツールが民主化し、AIが悪用される現代において、日々新たな亜種が生み出される未知の脅威の前では、静的なルールベースの検知手法はもはや機能不全に陥っています。

結果として、セキュリティ運用は場当たり的な「もぐら叩き」となり、侵入を前提とした事後対応(EDRなど)にリソースを割かざるを得ないのが実情です。

問題の核心:データ分析能力の欠如
従来型セキュリティが攻撃を検知できなくなった根本原因は、個別のツールの性能以前に、より本質的な問題に起因します。それは、「点」で発生する膨大なセキュリティアラートやログデータを、「線」や「面」で結びつけて相関分析する、データ分析能力の欠如です。

個別のツールが発する大量の警告は、単なるノイズの集合体となりがちで、真に警戒すべき攻撃の予兆や巧妙に隠蔽された活動の全体像(キルチェーン)を見抜くことはできません。

今、問い直すべきは、「どの製品を導入するか」ではなく、**「自組織が日々生成する膨大なセキュリティデータを、実用的な意思決定に足るインテリジェンスへと、いかにして変換するのか?」**という、データ活用の根幹に関わる問いなのです。

検知モデルの限界と、データ主動型「予防」への戦略的回帰

なぜ従来型検知モデルは機能しなくなったのか
従来型セキュリティの中核は、既知のマルウェア情報を定義した「シグネチャ」との一致を判定する、静的なパターンマッチングモデルでした。このアプローチは、過去のデータ(既知の脅威)に対しては有効ですが、モデルが学習していない未知のデータ(新種・亜種のマルウェア)に対しては全くの無力です。

現代において、攻撃者がマルウェアを生成・変異させるスピードは、防御側がシグネチャを定義・配信するサイクルを圧倒的に上回っています。これは、予測モデルの更新頻度が、新規データの発生率に追随できていないことを意味し、検知率の低下は構造的な必然と言えます。

次世代技術が直面する「分析精度」と「誤検知」の壁
この課題に対し、サンドボックス(隔離環境での挙動分析)や機械学習を用いた振る舞い検知といった、より高度な分析手法が導入されてきました。しかし、これらのアプローチもまた、データ分析における本質的な課題を抱えています。

分析対象データの品質問題:
サンドボックスは、一種の実験環境ですが、攻撃側もこれを認識しています。環境を認識して挙動を変えるマルウェアは、サンドボックス内では無害な振る舞いを装うため、分析用のデータセットにバイアスがかかり、正しい脅威判定を困難にします。

検知モデルの精度限界:
機械学習による振る舞い分析は、「正常な状態からの逸脱」を捉える異常検知モデルです。しかし、その精度は「正常な振る舞いのベースライン」をいかに正確に定義できるかに依存します。複雑なIT環境において、このベースラインを常に最新かつ正確に維持することは極めて困難であり、結果として**誤検知(フォールスポジティブ)の増大や、検知漏れ(フォールスネガティブ)**といった課題を解消できずにいます。

データ分析コストから再評価する「侵入前提」アプローチ
これらの予防技術の限界から、「侵入は100%防げない」という前提に立ち、侵入後の検知と対応(EDR/NDR)を重視するアプローチが普及しました。しかし、この「侵入前提」の思想は、データ活用の観点から見過ごせないコストと非効率性を内包しています。

リアクティブ対応の必然性:
このアプローチは、インシデント発生後の対応を最適化するものですが、本質的には常に後手に回るリアクティブな運用を強いるものです。

データ管理・分析コストの爆発:
EDR/NDRの運用は、エンドポイントやネットワークから膨大な量のログデータ(テレメトリ)を収集・蓄積し、分析することを前提とします。これは、ストレージコストやデータ転送コストに加え、高度な分析を行うための人的リソースやソリューションコストの増大に直結し、セキュリティ全体のTCO(総所有コスト)を押し上げます。

本来の目的は、複雑なデータ分析基盤を運用することではなく、事業の根幹である「データ資産」を費用対効果高く保護することです。

結論:データ分析ROIを最大化する、高精度な「侵入防御」
最も効率的かつ効果的なアプローチは、分析パイプラインの上流、すなわち「侵入段階」で脅威の絶対数を劇的に削減することです。

高精度な次世代の予防技術へアップグレードすることにより、EDR/NDRなどが処理すべきデータ量とノイズが大幅に減少し、事後対策フェーズにおける運用負荷とコストを劇的に低減できます。これは、セキュリティアナリストをアラート対応から解放し、真に高度な脅威分析に集中させることにも繋がります。

今求められているのは、単なる新技術の導入ではありません。セキュリティ投資全体のROIを最大化するための、データ主導のインテリジェントな「予防」戦略への回帰なのです。

アタックサーフェス(攻撃対象領域)のデータ化:未管理資産に起因する潜在的リスクの定量的評価

デジタルトランスフォーメーションの進展は、企業が保有する外部公開IT資産の爆発的な増加をもたらしました。しかし、これらの資産を網羅的に把握するためのインベントリデータの整備は追いついていません。この「データガバナンスの欠如」が、サイバー攻撃における最大のリスク源となっています。

攻撃者はOSINT(公開情報調査)技術を駆使し、企業が公開する膨大な情報の中から、脆弱なIT資産をデータ分析によって効率的に特定します。事業部門が独自に契約したクラウドサービスや、開発目的で一時的に構築されたサーバーなど、情報システム部門の管理データから漏れた資産は、まさに格好の標的です。

これらの「未管理資産」は、リスクが定量化されていないため、対策の優先順位付けができず、結果として組織全体のセキュリティレベルを著しく低下させています。

従来の診断手法における「データ収集コスト」と「網羅性」のジレンマ
セキュリティ診断は、脆弱性という重要なデータを収集する手段ですが、従来の手法にはスケーラビリティの問題がありました。日々変化・増殖する全IT資産に対して網羅的な診断を実施することは、投資対効果(ROI)の観点から非現実的です。

結果として、限定的な対象への定期的な診断か、インシデント発生後の事後対応に留まらざるを得ず、多くの組織は「診断コスト」と「リスク受容レベル」の最適なバランスを見出せずにいます。特に、多数の子会社や事業部を持つ組織では、このデータ収集と管理の課題はより深刻化します。

データ分析による「診断コストの最適化」とROIの最大化
この課題を解決する鍵は、場当たり的な診断から脱却し、データに基づいた戦略的な脆弱性管理ライフサイクルを構築することにあります。重要なのは、「攻撃者の視点」をデータ分析モデルに取り入れ、限られたリソースを最もリスクの高い領域に集中させることです。

本セミナーでは、サイバー攻撃の最新動向データを基に、攻撃者がどのような分析と思考プロセスで標的を選定するのかを解説します。その上で、以下のデータドリブンなアプローチによる、脆弱性管理のコスト最適化手法を提案します。

アタックサーフェスの網羅的なデータ化
外部公開資産を継続的に探索・特定し、一元的なインベントリデータベースを構築する手法。

リスクの定量化と優先順位付け
収集した資産データと最新の脆弱性情報、攻撃トレンドデータを相関分析し、各資産のリスクスコアを算出。対策すべき対象を客観的データに基づき決定します。

診断・対策プロセスの最適化
算出したリスクスコアに基づき、診断の深度や頻度を動的に変更。高リスク資産にリソースを集中させ、全体の診断コストを抑制しつつ、セキュリティ投資のROIを最大化します。

「多数のドメインやグループ会社のIT資産管理に課題を持つ」「セキュリティ予算の費用対効果を説明する客観的データが必要」といった課題を持つ責任者にとって、必見の内容です。

インシデントデータから見る、静的認証モデルの限界とリスク

近年の不正アクセスや不正取引インシデントのデータを分析すると、共通の脆弱なパターンが浮かび上がります。それは、静的な知識情報(ID・パスワード)に依存した認証モデルが攻撃の起点となっている事実です。

生成AIなどを活用した攻撃手法の高度化により、クレデンシャル情報の窃取コストは著しく低下しました。もはや、IDとパスワードという単一のデータ要素に依存した認証は、セキュリティ上の負債であり、予測可能なリスクと言えます。今、求められているのは、インシデント発生後の対応ではなく、データに基づいたプロアクティブな認証・認可モデルへの再設計です。

本質的課題:分断された認証データとアクセスコンテキスト
多要素認証(MFA)の導入は進んでいますが、その多くは知識情報に偏重した構成であり、認証強度を十分に高めているとは言えません。しかし、より本質的な課題は、認証イベントと、その後の**「アクセスコンテキストデータ」**(誰が、どのデバイスで、どこから、何にアクセスしようとしているか)が分断されている点にあります。

認証が成功したという単一の事実だけでは、その後のセッションにおけるリスクを評価することは不可能です。**「認証強度」と「アクセス権限」**を、リアルタイムのコンテキストデータに基づいて動的に評価・制御する、データドリブンな仕組みがなければ、一度侵入を許した攻撃者の水平展開を防ぐことはできません。

認証・認可データを統合する次世代型プラットフォーム
この分断されたデータを統合し、動的なリスク評価を実現するソリューションが CloudGate UNO です。

CloudGate UNOは、単なる認証強化ツールではありません。それは、「認証シグナル」と「アクセスポリシー」を一元管理するデータプラットフォームとして機能します。

FIDO2/パスキーなどの耐タンパー性の高い認証要素を採用することで、認証データの信頼性を最大化。さらに、デバイス情報、IPアドレス、時間帯などのコンテキストデータをリアルタイムで評価し、ゼロトラストの原則に基づいたきめ細やかなアクセスポリシーを適用します。これにより、静的なアクセス許可リストから、リスクスコアに基づいた動的なアクセス制御へと移行させることが可能です。

本セッションでは、具体的な導入事例とデモを通じて、従来の認証モデルが抱えるデータガバナンス上の課題と、それを解決するための具体的なアーキテクチャを提示します。

本セッションが提供する価値
リスク管理・情報システム部門の責任者:
セキュリティ投資のROIをデータで証明するための、リスクベース認証という具体的なアプローチを理解できます。

ハイブリッド・マルチクラウド環境の管理者:
分散したクラウドサービスのID・アクセスデータを統合管理し、一貫したガバナンスと監査証跡を実現する方法を学べます。

静的認証モデルからの脱却を目指す企業:
ID・パスワード運用からの移行計画を、具体的な技術(パスキー)とポリシー設計に基づき現実的なものにします。

ゼロトラスト構想の具現化を求めるアーキテクト:
ゼロトラストを概念から、具体的なデータとポリシーに基づいた運用システムとして実装するための設計思想とツールを得られます。

【テーマ1:Webパフォーマンスと事業KPIの相関分析】

― 見過ごされるBOTがもたらす収益機会の損失 ―
1. 課題定義:セキュリティ指標と事業KPIの乖離

多くの組織では、WAF(Web Application Firewall)の導入により、防御した攻撃数といったセキュリティ指標は健全に見えるかもしれません。しかしその一方で、サイトのコンバージョン率(CVR)や直帰率、顧客満足度といった事業KPIが悪化しているケースが散見されます。この**「指標間の乖離」**こそが、見過ごされたリスクの存在を示唆しています。

問題の本質は、従来のセキュリティ対策が検知対象としていない、事業に損害を与える「悪性だが攻撃ではない」トラフィックの存在です。

2. データに基づく影響分析

以下の事象は、顧客体験(CX)を毀損し、直接的な収益機会の損失に繋がります。

表示遅延とコンバージョン率の負の相関: 高頻度アクセスを行うBOTは、Webサーバーのリソースを消費し、サイト全体の表示速度を低下させます。ページの表示に数秒を要するだけでコンバージョン率が著しく低下することは、多くの調査で明らかになっています。これは計測可能な機会損失です。

転売BOTによる在庫枯渇と顧客離脱: ECサイトにおいて、限定商品や人気商品が発売と同時に転売BOTに買い占められる事象は、本来の顧客に商品を届けられないだけでなく、ブランドへの信頼を著しく損ないます。これは顧客生涯価値(LTV)の毀損に直結します。

これらのトラフィックは、従来のシグネチャベースのWAFでは「正常なアクセス」と判断されがちであり、気づかぬうちに収益基盤を蝕んでいきます。

3. 提案:CXを保護するデータ駆動型防御戦略

対策は「攻撃をブロックする」という視点から、「事業KPIを保護する」という視点へシフトする必要があります。

トラフィックの分類と可視化: まず行うべきは、アクセスログや行動データを分析し、人間、良性BOT(検索エンジンなど)、そして悪性BOT(転売、スクレイピング等)を正確に分類・可視化することです。

パフォーマンスを考慮した防御: 単純なIPアドレス遮断ではなく、振る舞い検知に基づいた動的なアクセスコントロールを導入します。これにより、正規ユーザーの体験を損なうことなく、悪性トラフィックの影響のみを排除し、コンバージョン率の低下リスクを直接的に低減させます。

【テーマ2:サイバー脅威の進化と防御戦略の陳腐化】
― データで見る「検知されない侵入」のリスクシナリオ ―
1. 脅威トレンドの定量分析

近年のサイバー攻撃の進化は、従来の防御手法の有効性を急速に低下させています。データは以下の脅威ベクトルの深刻化を示しています。

RaaS(Ransomware as a Service)による攻撃の産業化: 攻撃の分業化により、ランサムウェア攻撃の実行ハードルが低下。それに伴い、被害件数と情報漏洩を伴う「二重恐喝」の割合が増加傾向にあり、インシデントあたりの想定被害額が上昇しています。

非マルウェア型攻撃の増加: 正規IDを窃取・悪用する「なりすまし型」の侵入は、マルウェア検知を主軸とするEPP/EDR製品では検知が極めて困難です。これにより、**侵害検知までの平均時間(MTTD)**が長期化し、被害範囲が拡大するリスクが高まっています。

生成AIによる攻撃の効率化: フィッシングメールの生成やマルウェア作成の自動化により、攻撃の量と質が向上しています。これは、防御側が対応すべきアラートの増加と、インシデントトリアージの負荷増大に直結します。

2. 防御体制における潜在的課題

テクノロジーの導入だけでは、これらの高度な脅威には対抗できません。以下の運用上の課題がリスクを増大させます。

ツールの機能不全: 導入したセキュリティ製品の設定不備や機能の未活用により、期待される防御効果が得られていないケース。

可視性の欠如とリソース不足: IT部門の人員不足により、ログの監視や分析が追いつかず、インシデントの予兆を見逃す。

検知と対応の遅延: 上記の結果として、**インシデント対応の平均時間(MTTR)**が長期化し、事業停止期間や復旧コストの増大を招きます。

3. 提言:中堅・中小企業向け「多層防御」実現アプローチ

これらの「見えにくく、止めにくい」リスクに対抗するには、エンドポイント単体の対策から脱却し、ID、ネットワーク、クラウドなど複数のレイヤーを連携させた多層的な防御アーキテクチャへの移行が急務です。

本セッションでは、最新の攻撃実例データを基に、限られたリソースの中で最大限の効果を発揮する多層防御の実現アプローチを、具体的な技術要素と運用体制の観点から解説します。目的は、インシデント発生確率の低減と、万一の際の事業インパクトの最小化です。

サイバー攻撃のパラダイムシフト:『事業停止リスク』から『データ資産喪失リスク』への転換

1. エグゼクティブサマリー:データこそが事業の生命線であり、最大の攻撃対象である

デジタルトランスフォーメーション(DX)の進展により、データは今や企業の競争優位性を決定づける最も重要な経営資産となりました。それに伴い、サイバー攻撃の主目的も、従来の「システムの停止(DDoS攻撃など)」から、「データ資産の窃取・破壊(ランサムウェア、情報漏洩など)」へと明確にシフトしています。

これは、セキュリティリスクが単なるITインフラの問題ではなく、事業継続そのものを揺るがす経営リスクへと変質したことを意味します。本稿では、最新の攻撃トレンドをデータ分析の観点から読み解き、これからの時代に必須となる「データセントリック・セキュリティ」の考え方を提言します。

2. 攻撃トレンドのデータ分析:脅威はどこから、どのようにデータへ到達するのか
最新のインシデントデータを分析すると、脅威アクターがデータ資産へ到達するために、より高度で検知困難な手法を用いている傾向が明確に読み取れます。

リスクの集中と専門性の向上:クラウド環境
データの集積地であるクラウドは、当然ながら最も合理的な攻撃対象となります。特定の攻撃グループ(例:SCATTERED SPIDER)は、クラウド環境の運用・設定に関する深い知見を蓄積しており、正規のアクセス経路を悪用して内部に潜入し、データを窃取する手口を高度化させています。これは、もはや単純な境界防御だけではデータ資産を守りきれない現実を示唆しています。

検知を回避するステルス性の高い攻撃:クロスドメイン脅威
近年の顕著な傾向として、アイデンティティ(ID)、クラウド、エンドポイントなど、複数の領域(ドメイン)を横断して行われる攻撃が増加しています。個々のドメインで観測されるログは、単体では異常と判断しにくい断片的な情報(パズルのピース)に過ぎません。脅威アクターは、この検知システムのサイロ化を巧みに利用し、攻撃の全体像を隠蔽します。この攻撃手法は、信頼された従業員アクセスを装う「インサイダー脅威」とも酷似しており、従来の防御モデルの限界を露呈させています。

3. 企業が見過ごす本質的な課題:『守るべきデータ』を定義できているか
多くの企業が直面する最も根源的な課題は、自社が保有するデータの価値を可視化し、重要度に応じて分類・定義できていない点にあります。

かつて脅威の中心であったDDoS攻撃は、事業を一時的に停止させるものの、データそのものが失われるわけではありませんでした。しかし、ランサムウェア攻撃によって顧客情報や知的財産といった重要データが暗号化・漏洩した場合、その事業インパクトは計り知れません。信用の失墜、法的責任、サプライチェーンへの影響、そして最悪の場合、事業撤退にも繋がりかねません。

「どのデータが最も重要で、どこに保存され、誰がアクセスしているのか」を把握できていなければ、有効なセキュリティ投資の優先順位付けは不可能です。膨大かつ分散したデータを前に、多くの企業がこのデータアセスメントという第一歩で足踏みしているのが実情です。

4. 提言:データ起点のセキュリティ戦略(データセントリック・セキュリティ)への転換
もはや、侵入を防ぐ「入口対策」や侵入後に対処する「出口対策」だけでは不十分です。これからは、守るべき「データ」そのものを中心に据え、リスクを定量的・統合的に分析し、対策を最適化するアプローチが不可欠です。

Step 1: データ資産の可視化とリスクマッピング
最初のステップは、社内外に存在する全てのデータを棚卸しし、その重要度とビジネスインパクトに基づいて分類することです。これにより、保護すべきデータ資産が明確になり、セキュリティ投資のROIを最大化するための土台が築かれます。

Step 2: 統合的なリスク分析基盤の構築
サイロ化されたログデータを一元的に収集・相関分析する基盤を構築し、クロスドメイン攻撃の全体像を可視化します。AIや機械学習(ディープラーニング)を活用した高度な分析モデルを導入することで、未知の脅威や正常を装った不正アクセスの兆候を早期に検知し、インシデントの予兆段階でプロアクティブな対応を可能にします。

Step 3: リスクベースでの継続的な対策最適化
特定されたリスクシナリオ(例:内部不正による情報漏洩、サプライチェーン攻撃による機密情報窃取など)に基づき、セキュリティ対策の有効性を常に評価・改善します。これにより、変化し続ける脅威に対して、動的かつ最適な防御態勢を維持することができます。

サイバー攻撃の『ニューノーマル』:正規性を悪用するステルス型脅威と、データドリブン防御への転換

1. エグゼクティブサマリー:攻撃の「ステルス化」と「高速化」が意味するもの

2023年以降のサイバー脅威の状況をデータ分析すると、「ステルス性(検知回避)」と「スピード(迅速な侵害)」という2つのキーワードが浮かび上がります。脅威アクターは、もはや単一のシステムを狙うのではなく、アイデンティティ、クラウド、エンドポイントといった複数の領域を横断し、正規のツールや認証情報を悪用して活動します。

これは、従来の「異常な通信」を検知する防御モデルの限界を示唆しています。攻撃が**「正常な業務活動」の中に溶け込むことで、インシデントの発見は著しく困難になり、発見された時点では既に重要データが侵害されているという事態を招きます。本稿では、この攻撃の質的変化を分析し、これからのセキュリティ戦略に不可欠なデータ分析の視点**を提言します。

2. 分析:データ侵害に至るプロセスは、どのようにブラックボックス化されるのか
脅威アクターは、個別の技術を組み合わせることで、データ侵害に至る一連のプロセス(攻撃シナリオ)を巧妙に隠蔽します。

① 侵入手法の「正規化」:正規ツールと認証情報の悪用
攻撃の起点として、盗まれた正規の認証情報(クレデンシャル)や、システムの遠隔管理に用いられる正規のRMMツール(例:ConnectWise, AnyDesk)が悪用されるケースが全体の約3割を占めるというデータは、極めて重要な示唆を与えます。これは、攻撃がもはやマルウェアという「異物」ではなく、正規の利用者を装った「内部関係者」として実行されることを意味します。
従来のセキュリティ製品は「悪意あるコード」の検知には長けていますが、「悪意ある意図を持った正規の操作」を識別することは本質的に困難です。

② 活動領域の「ハイブリッド化」:複数プラットフォームの横断
さらに、脅威アクターはオンプレミス、クラウド、各種OS環境をシームレスに移動する技術を高度化させています。例えば、フィッシングメールで窃取した認証情報で社内システムに侵入し、そこを踏み台にしてクラウド上のデータ基盤へアクセスするといったシナリオです。
このクロスドメイン(領域横断)攻撃の課題は、各領域のセキュリティログが分断されているため、点(個別アラート)は観測できても、線(攻撃シナリオ全体)を追跡できない点にあります。結果として、防御側は根本原因の特定が遅れ、対処が後手に回ります。

3. 戦略的インプリケーション:最大の脆弱性は「アイデンティティ(ID)」である
上記分析から導き出される結論は、現代のサイバー攻撃における最大の攻撃対象(アタックサーフェス)は、「アイデンティティ(ID)」であるという事実です。データ侵害の実に3分の2以上がクレデンシャルフィッシングに起因するという報告もあり、すべてのデータ資産へのアクセス権の「鍵」であるIDが、いかに集中的に狙われているかが分かります。

この状況下で、多要素認証(MFA)の導入は、本人確認の信頼性を高める上で不可欠なベースラインです。しかし、MFAさえも突破する高度な攻撃が登場している現在、「IDを認証してアクセスを許可したら終わり」という考え方では不十分です。
「認証後の利用者が、本当に本人らしく振る舞っているか?」を継続的に監視・分析する、ゼロトラストの原則に基づいたデータドリブンなアプローチが求められます。

4. 提言:『アイデンティティ』を軸とした統合的リスク分析基盤へのシフト
正規性を装ったステルス型の脅威に対抗するには、防御側もデータ分析能力を高度化させる必要があります。

プロアクティブな脅威検知への転換:
侵入されてから対処するのではなく、攻撃の予兆を捉えることが重要です。そのためには、エンドポイント、クラウド、ネットワーク、そして最も重要なアイデンティティ関連のログデータを一元的に収集・相関分析する基盤を整備する必要があります。分断された「点」のデータを繋ぎ合わせ、攻撃の「線」を可視化することで、これまで見えなかった脅威の兆候をプロアクティブに検知することが可能になります。

「振る舞い」に着目した異常検知モデルの導入:
「誰が、いつ、どこから、どのデータに、どのようにアクセスしたか」という**アイデンティティの振る舞いデータ(ビヘイビア)**を継続的に分析し、平時のパターンから逸脱する「異常」を自動的に検知するモデルを構築します。これにより、「正規のIDを使った非正規な活動」という、最も巧妙な脅威をあぶり出すことが可能となり、データ資産に対する真のリスク管理が実現します。

データ分析が示す、企業の「攻撃対象領域」におけるリスクの定量的増大

各種インシデントデータと脅威インテリジェンスの分析から、外部に公開されたIT資産、すなわち企業の「攻撃対象領域(Attack Surface)」を標的とするサイバー攻撃の頻度と巧妙さにおいて、統計的に有意な増加傾向が観測されています。この傾向は、ビジネス環境の変化がもたらす新たな脆弱性ポイントと密接に相関しています。

課題の根源:データ管理の不備がセキュリティホールを創出
攻撃対象領域が拡大する背景には、主に2つのデータ管理上の課題が存在します。

1. IT資産インベントリの不完全性(シャドーIT)
事業部門が独自に導入・運用するIT資産、いわゆる「シャドーIT」の存在が、企業の公式なIT資産インベントリにデータの欠落を生じさせています。情報システム部門が把握していないこれらの資産は、セキュリティ監視のカバレッジから外れた「死角」となり、攻撃者にとって格好の侵入経路となっています。これは、網羅的なデータ収集の欠如が直接的なリスクを生む典型例です。

2. 脆弱性データの時間的変化への追従不足
Webサイト構築の技術的障壁が低下した一方、セキュリティ対策は依然としてスナップショット的な評価に留まるケースが散見されます。しかし、脆弱性情報は日々更新される時系列データであり、「必要に応じた診断」というアプローチでは、新たな脅威データへの対応が原理的に不可能です。大手企業や公的機関における情報漏えいインシデントの多くは、この時間差を突かれた結果発生しています。経済産業省やIPAが示すガイドラインも、静的な評価ではなく、継続的なデータ監視と分析の重要性を強調するものです。

解決のアプローチ:データ駆動型脅威ハンティングへのシフト
これらの課題に対処するには、インシデント発生後のリアクティブな対応から、データ分析に基づくプロアクティブな脅威ハンティングへの転換が不可欠です。

CrowdStrike社の「2024年版脅威ハンティングレポート」で詳述されているように、先進的なアプローチでは、AIを活用したプラットフォームから得られる膨大なテレメトリデータ(エンドポイント、クラウド、ID情報など)と、グローバルな脅威インテリジェンスデータを相関分析します。

このデータ駆動型のアプローチにより、単発の不審なイベント(点)を、攻撃キャンペーンという文脈(線)で捉えることが可能になります。これにより、攻撃の予兆を早期に検知し、インシデント化する前に潜在的リスクを特定・無力化するという、予測的なセキュリティ運用が実現します。これは、限られたセキュリティリソースを、最もリスクの高い領域へデータに基づいて最適配分する手法とも言えます。

データから読み解くサイバーセキュリティ運用の現状と課題

サイバー攻撃によるインシデントデータは年々増加し、その手口の分析結果からは攻撃の巧妙化が確認されています。これは、航空、金融、通信といった社会インフラを担う企業だけでなく、あらゆる業種において事業継続を脅かす経営リスクとして顕在化しています。

セキュリティ運用(SecOps)の現場では、日々生成される膨大な量のアラートやログデータの処理にリソースが割かれ、インシデントの平均検知時間(MTTD)や平均修復時間(MTTR)の悪化が課題となっています。「UTM」や「EDR」といったセキュリティソリューションを導入しても、各ツールから出力されるデータはサイロ化しがちです。そのため、攻撃の全体像を把握するための相関分析が困難となり、高度な攻撃の検知率が低下する傾向が見られます。これらのソリューションの性能を最大化するには、データを統合的に分析し、活用できる運用体制の構築が不可欠です。

人材不足が引き起こすデータ分析能力の限界
セキュリティ分野における専門人材の不足は、データ分析能力のボトルネックに直結します。脅威の判定や分析プロセスが特定の担当者の経験則に依存し、判断基準が形式知化されない「属人化」の状態に陥っているケースが少なくありません。これは、分析品質のばらつきを生むだけでなく、組織としてのナレッジ蓄積を阻害し、長期的なリスク対応能力の低下を招きます。

また、24時間365日の監視体制を自社リソースのみで構築・維持することは、コストと人員の両面から極めて困難です。結果として、夜間や休日に発生したインシデントの検知データには、対応開始までに有意なタイムラグが生じるリスクを内包しています。インシデント発生時の対応記録を分析すると、初動の遅れが被害拡大に繋がった事例も多く報告されており、客観的なデータ分析に基づいた迅速な意思決定プロセスの確立が求められます。

このような背景から、サイロ化したセキュリティデータを統合分析する「XDR」や、高度な分析能力を持つ「SOC」、実戦的なインシデント対応を担う「CERT」といった外部の専門組織との連携が、合理的な選択肢として注目されています。

データ主導で実現するセキュリティ運用の最適化
本質的な課題解決には、セキュリティ運用体制のデータドリブンな再構築が必要です。OpenXDRとSOCを組み合わせた統合マネージドサービス「G-MDR」は、複数のソースから得られるセキュリティデータを一元的に収集・分析し、24時間365日体制での脅威監視を実現します。これにより、MTTDおよびMTTRといった重要業績評価指標(KPI)の改善が期待できます。

さらに、インシデントの原因分析データの多くは、最終的に人的要因に行き着くことを示唆しています。特にAI技術を悪用したフィッシングメールは、その成功率を高めており、従業員の行動データが新たなリスク指標となっています。

組織全体の防御能力を定量的に向上させるためには、画一的な教育に留まらず、従業員一人ひとりのセキュリティ意識と行動を変容させるアプローチが不可欠です。定期的なメール訓練などを通じて行動データを収集・分析し、リスクの高い傾向を持つ個人や部署を特定します。そのデータに基づき、ターゲットを絞った教育コンテンツを提供することで、より効率的かつ効果的なセキュリティレベルの向上が可能になります。これは、組織の脆弱性を継続的に測定し、データに基づいて改善サイクルを回すための重要なプロセスです。

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