データ分析基盤としてのSIEMの再設計:ハイブリッドクラウド環境におけるセキュリティ可視性の確保
ビジネス環境の変化は、企業が生成・利用するデータの種類と場所を劇的に変化させました。クラウドへの移行、AIワークロードの採用加速は、セキュリティデータの爆発的な増加と分散化をもたらしています。この現状に対し、従来のセキュリティ情報イベント管理(SIEM)アーキテクチャでは、増大し続けるデータを効果的に処理しきれず、結果としてセキュリティリスクが増大するという深刻な課題に直面しています。
本稿では、調査データに基づき現状を分析し、次世代のセキュリティ分析基盤に求められる要件を定義します。
1. データ分析の観点から見た、現代SOCが直面する構造的課題
最近のエンドユーザー調査の結果は、多くのセキュリティオペレーションセンター(SOC)が直面する構造的な課題を浮き彫りにしています。
課題1:データソースの分散化と「可視性のギャップ」
調査では、約半数の組織がハイブリッドクラウドおよびマルチクラウドを主要な運用モデルとして採用しています。これは、保護すべきデータと、分析すべきセキュリティログが、オンプレミスのデータセンターと複数のクラウドサービスに分散していることを意味します。しかし、これらの分散した環境全体を統合的に監視・分析できるツールは半数以下に留まっており、攻撃者にとって格好の隠れ蓑となる深刻な「可視性のギャップ」が生じています。
課題2:分析基盤のサイロ化と非効率な運用
調査対象組織は平均で2.4個のSIEMを保有しており、その背景にはM&Aによるシステム継承や、他の製品ライセンスへのバンドルといった経緯が存在します。この複数SIEMの並存は、セキュリティデータを組織内でさらに「サイロ化」させ、環境を横断した脅威の追跡を著しく困難にしています。加えて、それぞれの基盤に対するライセンス費用や運用人材のコストが重複し、非効率な投資を招いています。
課題3:脅威の高度化と分析能力の陳腐化
攻撃者はAI技術を悪用し、その手口は日々高度化しています。これに対し、多くの組織は既存のSIEMにAI/MLを活用した高度な脅威検出機能を追加したいと考えています。このニーズは、従来のSIEMが主体としてきたルールベースやシグネチャベースの分析手法だけでは、未知の脅威や巧妙な内部不正の兆候を捉えきれないという、分析能力の「陳腐化」が起きていることを明確に示唆しています。
2. 次世代セキュリティ分析基盤に求められる中核要件
これらの構造的課題を解決するためには、セキュリティ分析基盤を単なるログ収集基盤から、データプラットフォームとして再設計する必要があります。その中核要件は以下の通りです。
要件1:ハイブリッドデータ収集能力
新しいプラットフォームは、オンプレミスで稼働するメインフレームやOTデバイスから、複数のクラウド上で展開されるコンテナ化されたマイクロサービスまで、あらゆるソースからデータを効率的に収集できるアーキテクチャを備えている必要があります。特に、クラウド上の大量のデータを一度オンプレミスに送り返す「バックホール」というアプローチは、高額なデータ転送料金と分析の遅延を引き起こすため、現実的ではありません。クラウドネイティブなアーキテクチャで、データソースの近くで収集・分析できることが不可欠です。
要件2:AI/MLを活用した高度な分析エンジン
膨大なデータの中から人手で脅威の兆候を見つけ出すことは不可能です。次世代の基盤には、AI/MLを活用して正常な状態をベースラインとして学習し、そこから逸脱する「異常」を自動的に検知する能力が求められます。これにより、既知の攻撃パターンに依存せず、未知の脅威や内部不正の予兆を早期に発見できます。
要件3:スケーラビリティと予測可能なコストモデル
データ量の増大に対して、パフォーマンスを劣化させることなくリニアにスケールできる能力は、クラウドネイティブなプラットフォームの必須条件です。それに伴い、コスト体系もデータ量に応じた従量課金制など、予測可能で合理的なモデルであることが、継続的な運用と投資対効果の観点から極めて重要となります。
結論:分析基盤の変革に向けた戦略的移行
調査では、実に83%もの組織がクラウド戦略を推進するためにマネージドサービスやプロフェッショナルサービスの活用に前向きです。これは、高度なセキュリティ分析基盤を自社単独で構築・運用するのではなく、専門知識を持つパートナーとの協業が合理的な選択肢であることを示しています。
従来のSIEMからの移行は、単なるツールのリプレイスではありません。これは、「サイロ化したログ集計基盤から、AIを駆使した統合的なセキュリティデータ分析プラットフォームへの変革」と定義すべき戦略的な取り組みです。この変革こそが、複雑化するハイブリッドクラウド環境において事業の継続性を支える、データドリブンなセキュリティ運用の基盤となります。
データ分析に基づくWeb・APIセキュリティ戦略:最適なWAF選定とリスク評価のアプローチ
Webアプリケーションへの攻撃に対する防御策としてWAF(Webアプリケーションファイアウォール)は有効ですが、その選定プロセスは複雑化しています。最適なソリューションを導入するためには、各製品の機能比較だけでなく、自社のトラフィックデータやインシデントデータに基づいた定量的なリスク評価が不可欠です。
本稿では、感覚的な選定から脱却し、データドリブンな視点から自社に最適なセキュリティ投資判断を行うためのアプローチを解説します。
データに基づくWAF選定と比較フレームワーク
合理的なWAF選定には、客観的なデータに基づく評価プロセスが求められます。導入後の運用負荷までを見据えたTCO(総所有コスト)の観点から、以下のステップで比較検討を進めることを推奨します。
リスクプロファイルの分析と可視化
Webトラフィックログ、過去のセキュリティインシデント、脆弱性診断結果を分析します。これにより、自社がどのような攻撃ベクトルに晒されているか、どの情報資産が最も狙われやすいかを特定し、リスクを定量的に評価・可視化します。
防御能力のマッピング評価
ステップ1で可視化したリスクプロファイルに対し、各WAF製品が持つ防御ロジック(シグネチャベース、AI/機械学習による異常検知など)がどの程度有効かを評価・マッピングします。これにより、自社の脅威に適合した製品を論理的に絞り込むことが可能です。
運用TCO(総所有コスト)の算出
導入後の誤検知チューニングやレポート分析、インシデント対応にかかるであろう工数を予測し、運用負荷を含めたTCOを算出・比較します。自動化機能や運用支援サービスの有無がTCOにどう影響するかも重要な分析ポイントです。
APIセキュリティ:ログ分析と脅威インテリジェンスの重要性
クラウド利用の拡大に伴い、APIはDXを支える中核技術となりました。しかし、これは同時に「攻撃対象領域(Attack Surface)」が拡大していることを意味します。従来の境界型防御では検知が困難なAPIへの脅威を特定するには、APIトランザクションログの継続的な分析が不可欠です。
このリスク分析において、「OWASP API Top 10」は重要なフレームワークとなります。APIの正常な通信パターンをデータに基づきベースラインとして定義し、そこから逸脱する異常なリクエストや認証・認可の試みを検知・分析することが、効果的な防御の第一歩となります。
データドリブンなAPIセキュリティの実現:
APIの脆弱性や脅威をデータとして捉え、分析に基づいた対策を講じることが、セキュリティレベルを向上させる鍵となります。
SCSKが提供する脆弱性診断サービスは、実際の攻撃データや膨大な脆弱性データベースに基づき、企業の潜在的リスクを客観的に明らかにします。
データドリブンのツールは、このようなデータに基づいたセキュリティ対策を実践するための統合プラットフォームです。APIトラフィックを詳細に可視化し、脅威インテリジェンスと連携することで、「OWASP API Top 10」に挙げられるような高度な脅威を検知・防御します。これにより、インシデントデータの分析を通じた継続的なセキュリティ態勢の改善(PDCA)サイクルを実現します。
データに基づいた最適なセキュリティ戦略の策定や、自社リスクの定量的評価に関心をお持ちでしたら、ぜひご相談ください。
【テーマ1:APIセキュリティ】
データ分析で解き明かすAPIセキュリティリスクとその対策
APIが拓くビジネス機会と、データ分析で管理すべき新たなリスク領域
クラウドサービスの連携やデータ活用において、APIはビジネス成長を加速させる中核技術です。しかし、その一方でAPIは新たな「攻撃対象領域(Attack Surface)」を生み出しており、そのリスクは従来の境界型防御の考え方だけでは管理しきれません。問題の本質は、APIを通過する膨大なトランザクションデータの中に潜む「脅威の兆候」を、データとして捉え、分析できていない点にあります。
リスク分析フレームワークとしての「OWASP API Top 10」
「OWASP API Top 10」は、単なる脅威のリストではありません。これは、APIのトランザクションデータを分析し、リスクを分類・評価するためのデータ分析フレームワークと捉えるべきです。重要なのは、APIの正常な通信パターン(リクエスト/レスポンスの構造、データ量、アクセス頻度など)をデータから学習し、「ベースライン」を定義することです。このベースラインから逸脱する「異常(アノマリー)」を検知・分析することが、未知の脅威に対する効果的な防御の第一歩となります。
データドリブンなAPIセキュリティ対策の実現へ
APIセキュリティの高度化とは、データに基づいたリスクマネジメントを実践することです。
SCSKの脆弱性診断は、実際の攻撃データや脆弱性データベースに基づき、企業の潜在リスクを客観的なデータとして提示します。
さらに、ソリューションとして提案する「F5 XC WAAP」は、APIトランザクションデータを収集・可視化し、脅威インテリジェンスと連携して高度な分析を行うためのデータプラットフォームです。これにより、インシデント発生時の原因究明(フォレンジック)に必要なデータを提供し、継続的なセキュリティ改善サイクル(PDCA)の実行を支援します。
データに基づいた具体的なAPIリスクの評価手法や、防御策に関心のあるセキュリティ運用担当者の方は、ぜひご参加ください。
【テーマ2:共有アカウント管理】
アクセスログ分析による共有アカウントのリスク可視化と統制強化
SaaS活用で生じる「証跡データ欠落」という新たなリスク
SaaSやクラウドサービスの普及が進む一方、複数人で利用される「共有アカウント」の管理が、データガバナンス上の重大なリスクとなっています。問題の本質は、「誰が、いつ、どのデータにアクセスしたか」という最も基本的な**証跡データ(アクセスログ)**が欠落し、リスクが可視化されていない点にあります。インシデント発生時に原因を特定できないだけでなく、監査で客観的な証拠を示せないという課題にも直結します。
属人管理がもたらすアクセスデータのブラックボックス化
共有ID・パスワードが非公式な手段で管理されている状態は、証跡データの生成・収集を阻害し、アクセス状況をブラックボックス化させます。これにより、インシデント発生時に原因究明の起点となるデータ(トレーサビリティ)が確保できず、迅速な対応が不可能になります。属人的な運用から脱却し、全てのアクセス証跡をデータとして蓄積・分析できる体制への転換が急務です。
証跡データの収集・分析による監査対応とリスク管理の実践
この課題への解決策は、全ての共有アカウントへのアクセスログを自動的に収集・構造化し、分析可能な状態に置くことです。
国産クラウドサービス「パスクラ」は、この証跡データを確実に生成・管理するためのソリューションです。「誰が、いつ、どのアカウントを利用したか」をデータとして可視化することで、不正アクセスの予兆検知や、退職者アカウントの不正利用といった具体的なリスクシナリオへの対応を可能にします。
感覚的なアカウント運用から、データに基づいた客観的なリスク管理へと転換し、監査対応と内部統制を強化するための実践的なアプローチを解説します。ご興味のある方は、ぜひご参加ください。
【テーマ1:AWS WAFの運用】
データ分析に基づくAWS WAF運用の最適化と自動化アプローチ
クラウド移行に伴う脅威データの増大と、データドリブンな防御の必要性
AWSへのインフラ移行が加速する中、Webアプリケーションを標的とする攻撃トラフィックのデータ量は増大し、その手口も高度化しています。クラウドの「責任共有モデル」において、利用者は自らが管理するデータやアプリケーションを保護する責任を負います。これは、日々生成される膨大なアクセスログや脅威データを分析し、データに基づいたセキュリティ運用を行う責任があることを意味します。
WAF運用におけるデータ分析の課題
AWS WAFは強力な防御ツールですが、その効果を最大化するにはデータ分析が不可欠です。しかし、多くの現場では以下のような課題に直面しています。
防御ルールの有効性評価の欠如: 「この設定で正しいか」という不安は、防御ルールが実際にどの程度の攻撃をブロックし、ビジネス上重要な通信を誤って遮断(誤検知:False Positive)していないかを、ログデータに基づいて定量的に評価できていないことに起因します。
検知イベントデータの未活用: WAFを”導入しただけ”の状態は、WAFが生成する貴重な検知イベントデータが分析・活用されず、潜在的な脅威の予兆や攻撃パターンの変化を見逃している状態です。
分析プロセスの属人化: 継続的なチューニングやインシデント対応が特定の人材に依存している場合、分析プロセスが標準化されておらず、客観的なデータに基づく判断が困難になります。
データと自動化で実現する効率的かつ効果的なWAF運用
これらの課題を解決する鍵は、WAF運用から得られるアクセスログ、アラート、脅威インテリジェンスといった各種データを統合的に分析し、運用プロセスを最適化・自動化することです。
WAFサービスは、まさにこのデータドリブンな運用を実現するソリューションです。脅威インテリジェンスに基づいた独自ルールの適用や、機械学習によるログ分析を通じて、人手では困難な高度なチューニングと脅威検知を自動化します。これにより、感覚的な運用から脱却し、データに基づいた効率的かつ効果的なセキュリティ体制を構築できます。
データに基づいた付加価値の高いセキュリティ提案へ
「WAFエイド」のパートナープログラムは、AWS環境の構築・開発を行う企業が、顧客に対してデータに基づいた付加価値の高いセキュリティ提案を行うことを可能にします。顧客のログデータを分析し、客観的な根拠に基づいたセキュリティ対策を提案することで、ビジネスの差別化に繋がります。
【テーマ2:SaaSセキュリティ】
ログデータ分析で解き明かすSaaSセキュリティリスクと統制強化
SaaS利用拡大の裏で急増する「設定・監査データ」に起因するリスク
SaaSの導入は業務効率を飛躍的に向上させる一方、その運用・監査体制が追い付いていません。情報漏えい事故の多くは、個別のヒューマンエラーというよりも、複数のSaaSに分散しサイロ化した「設定データ」や「アクティビティログ」を統合的に収集・分析できていないという、データマネジメントの不備に起因します。インシデントによる金銭的インパクトの試算は、このリスクが定量的に極めて大きいことを示唆しています。
設定ミスを「構成情報データ」の異常値として捉える
SalesforceやMicrosoft 365など、信頼性の高いSaaSで発生する設定不備は、「一元的に管理・監査されていない構成情報(データ)」の問題と捉えるべきです。各SaaSに散在する複雑な設定項目や権限情報をデータとして集約し、あるべき姿(セキュリティポリシーのベースライン)と比較・分析することで、ポリシーから逸脱した設定を自動的に検知し、リスクを可視化する必要があります。
アクティビティログの機械分析による脅威の予兆検知
情シス担当者の属人的な監視には限界があります。真に効果的な対策は、「全てのSaaSのアクティビティログを収集し、機械的に分析すること」です。ユーザーの通常のアクティビティパターンをデータから学習して「ベースライン」を定義し、そこから逸脱する行動(深夜の大量データエクスポート、普段アクセスしない国からのログインなど)を「異常(アノマリー)」として自動検知するアプローチが、不正アクセスの入口となるリスクを低減させます。
SaaSセキュリティは、もはや個々の設定を確認するだけでは不十分です。複数のSaaSから生成される膨大な「設定データ」と「ログデータ」を統合分析する、データドリブンなアプローチへの転換が不可欠となっています。
データで読み解く、セキュリティ運用(SecOps)の変革
クラウドネイティブアプリケーションへのシフトは、新規ビジネスシステムの開発や既存システムのモダナイゼーションによって、現在も加速を続けています。この結果、パブリックおよびプライベートクラウド上で稼働するアプリケーションのデータ量は増大し、必然的にハイブリッドクラウド環境が定着しています。この複雑化した環境下で生成される膨大なデータをいかに保護し、活用するかが、現代のセキュリティにおける中核的な課題です。
セキュリティ投資の潮流:「プラットフォーム化」と「集中化」を示すデータ
セキュリティ投資の動向データは、明確に「プラットフォーム化」と「集中化」という2つの潮流を示唆しています。
ある調査データによると、回答者の88%が主要なセキュリティベンダーを定めており、その主要ベンダーに対するSecOps関連支出は平均で36%を占めています。この数値は、従業員1,000名以上の大企業においては40%にまで上昇します。この事実は、多くの組織が単一のプラットフォームを「アンカー(中核)」として信頼し、そこに投資を集中させている実態を浮き彫りにしています。
この背景には、テクノロジーの進化があります。かつてはEDR(エンドポイントでの検知と対応)やNDR(ネットワークでの検知と対応)のように、各領域に特化したツールが主流でした。しかし現在では、それらの機能が統合され、オーケストレーションと自動化を実現するXDR(拡張検知・対応)プラットフォームが市場を牽引しています。さらに、SASEやCNAPPといったクラウドネイティブなプラットフォームの登場は、オンプレミスからクラウド中心のアーキテクチャへの移行を決定づけ、より柔軟で拡張性の高いデータ収集・分析基盤を可能にしています。
XDRがもたらす定量的効果:データが証明するSecOpsの高度化
XDRプラットフォームへの投資は、具体的にどのような価値を生み出しているのでしょうか。データは、その効果を定量的に示しています。
SecOps機能の拡張
高品質なアラート(誤検知の削減)とトリアージ情報の提供
可視性の向上
アナリストへの具体的な対応ガイダンスの提供
これらの数値は、XDRが単なる脅威検知ツールではなく、セキュリティ運用全体の効率性と精度を向上させるためのデータ分析基盤として機能していることを証明しています。特に、誤検知の削減や高品質なトリアージ情報の提供は、限られた人的リソースを最優先で対応すべきインシデントに集中させる上で、極めて重要な効果と言えます。
AIによる分析能力の革新:競争優位の源泉となるGenAI
クラウドネイティブな分析プラットフォームにおけるもう一つの重要な変革は、**AI、特に生成AI(GenAI)**の実装です。これは、単なる機能追加ではなく、企業の競争優位性を左右するゲームチェンジャーとなりつつあります。
従来から、AIや機械学習(ML)は、ユーザーやエンティティの行動分析(UEBA)において、正常な活動のベースラインを確立し、逸脱した異常なアクティビティを検知するために活用されてきました。
近年注目されるGenAIは、この役割をさらに押し進めます。当初は、アナリストの生産性を向上させる「アシスタント」としての役割が期待されていましたが、現在ではその応用範囲が拡大しています。具体的には、スクリプトやファイルの分析、ディープフェイクの検出、非構造化データ(ビデオ、音声、テキスト)の分析、そしてハイパーオートメーションといった、より高度なセキュリティユースケースでの活用が期待されています。これは、これまで分析が困難だったデータソースからインサイトを抽出し、対応プロセスを抜本的に自動化する可能性を秘めています。
データが語る成果:セキュリティアラート対応能力の劇的な改善
では、これらの技術革新は、現場の課題解決にどれほど貢献しているのでしょうか。日々発生するセキュリティアラートのうち、調査しきれないアラートの割合に関する経年データが、その成果を明確に物語っています。
2020年時点で、アナリストが対応できなかったアラートの割合は**平均37%**でした。この数値は年々悪化し、2023年には約半数程度という危機的な水準に達していました。これは、アラートの量に対して分析能力が追いついていない状況を示しています。
しかし、2024年には、この数値が約4割へと11ポイントも劇的に改善しました。
この改善は、近代化されたSecOpsプラットフォーム、特にプラットフォーム化とGenAIへの投資効果が、現場レベルで明確な成果として現れ始めたことを示す、極めて重要なデータです。データに基づけば、この改善傾向は今後も継続し、より多くの組織がデータ主導の高度なセキュリティ運用を実現していくと予測されます。
データ中心のセキュリティ戦略:SASEとゼロトラストがもたらす課題とデータに基づく解決策
SASE(Secure Access Service Edge)市場の拡大に伴いソリューションは多様化していますが、その導入はデータ統合と運用の観点から新たな課題を生んでいます。堅牢なSASEソリューションは複数の機能を組み合わせる必要がありますが、これらのコンポーネントが統合的に設計されていない場合、深刻な問題を引き起こします。
各機能が個別のデータやポリシーを保持・管理することで「データのサイロ化」が発生し、組織全体のセキュリティポリシーに不整合が生じます。インシデント発生時の原因追跡や影響範囲の特定を困難にし、結果として運用コストの増大とセキュリティリスクの増大を招く可能性があります。これは、SASEが本来目指すネットワークとセキュリティの統合効果を著しく損なうものです。
SASEの導入は一度で完了するプロジェクトではなく、継続的なデータに基づいた評価と改善を要する長期的なプロセスです。そのため、自社の現在および将来のデータ戦略とユースケースを分析し、それに合致したソリューションを特定することが不可欠です。この分析に基づけば、多くの場合、単一ベンダーによる統合(ユニファイド)SASEソリューションが、データの一貫性と運用効率の観点から合理的な選択肢となります。
ゼロトラスト実現の鍵:アイデンティティを中心としたデータアクセス管理
複雑化するマルチクラウド環境において、データ中心のゼロトラストセキュリティを実現するためには、データへのアクセス経路を包括的に管理するフレームワークが求められます。これは、主に4つのアクセスパターンに分類して分析できます。
マシンの認証と承認
マシン間のアクセス
ユーザーの認証と承認
ユーザーとマシン間のアクセス
これらのアクセスパターンを横断して一貫したセキュリティレベルを担保するために不可欠なのが、「アイデンティティ」を全てのデータアクセスの起点として管理するアプローチです。つまり、「誰が(ユーザー/マシンが)、どのデータに、どのような権限でアクセスを試みているのか」というログデータを常時生成・分析し、ポリシーに基づいてリアルタイムに制御する仕組みがゼロトラストの根幹となります。
データを活用した具体的なセキュリティアプローチ
ゼロトラストのフレームワークは、具体的なデータ管理ソリューションによって支えられます。以下に、そのアプローチを解説します。
1. 動的シークレット管理によるアクセスデータの信頼性確保
ゼロトラストの基盤は、信頼できるアイデンティティ認証です。トークン、パスワード、APIキーといった「シークレット(認証情報)」を動的に発行・管理し、そのアクセスログを一元的に監査する仕組みは、不正アクセスのリスクを最小化します。例えば、HCP Vaultのようなソリューションは、パブリック/プライベートクラウド環境に散在するシークレットを一元的に保護・管理し、全てのアクセス試行をデータとして記録することで、高度なトレーサビリティとセキュリティを実現します。
2. エンドポイントの健全性データに基づく動的なリスク評価
リモートワーク環境では、PCやスマートフォンといったエンドポイント自体が重要なデータソースとなります。デバイスのセキュリティパッチ適用状況、OSバージョン、マルウェア検知状況といった「健全性データ」をリアルタイムに収集・分析することが重要です。Jamfのようなソリューションは、このデバイスの健全性データを基にリスクを評価し、そのリスクレベルに応じてデータアクセス権限を動的に変更(最小権限アクセスの適用)するワークフローを自動化します。これにより、直感的なユーザーエクスペリエンスを維持しつつ、データに基づいたプロアクティブな脅威対策が可能になります。
3. 統合データ保護による潜在リスクの可視化とコンプライアンス対応
セキュリティは脅威対策(Protection)だけでなく、データのバックアップやアーカイブといった保護(Data Protection)の両輪で評価されるべきです。特にMicrosoft 365のようなSaaS環境では、データがブラックボックス化し、潜在的なリスクが見えにくくなる傾向があります。
Acronis Cyber Protectに代表される統合データ保護ソリューションは、セキュリティ対策とバックアップ、アーカイブ、さらには法的要件(リーガルホールド)への対応を単一のプラットフォームで実現します。これにより、これまでサイロ化されていた各領域のデータを統合的に可視化・分析し、運用を簡素化すると同時に、訴訟や監査といった有事の際にも信頼性の高いデータを提供できる体制を構築します。
クラウドシフトが促すデータ管理の変革と新たなガバナンス要請
2010年代半ば以降、クラウドアーキテクチャへの移行は、データ管理とセキュリティのあり方を根底から変えました。ハイパースケーラーが提供するクラウドネイティブ環境は、標準化されたAPI群を通じてログやメトリクスといった運用データの収集を容易にし、データ駆動型の監視・管理基盤の構築を可能にしました。これにより、セキュリティベンダーは、多様なデータを効率的に活用する高度な分析サービスを迅速に展開できるようになりました。
クラウドが実現する「セキュリティインテリジェンスの民主化」
クラウドプラットフォームは、すべての利用者に対して極めて高いレベルのセキュリティ基盤を提供します。この背景には、データセンターの物理的セキュリティから、厳格なパッチ管理、脅威インテリジェンスの共有、ネットワーク仮想化に至るまで、ハイパースケーラーによる莫大な投資があります。
これは、高度な脅威インテリジェンスやAIによるリアルタイムの異常検知といったデータ分析基盤を、**企業規模に関わらず利用可能にする「セキュリティインテリジェンスの民主化」**と言えます。
この価値は、市場環境のデータと照らし合わせることで、より明確になります。
脅威の進化: 悪意のある攻撃者はAIを悪用し、脆弱性の特定と攻撃を nahezu即座に実行します。
人材の不足: 高度なスキルを持つセキュリティ専門家は依然として不足しており、自社のみで24時間365日体制の高度な監視センターを維持することは、多くの企業にとって現実的ではありません。
このような状況下で、クラウドが提供する継続的な監視と高度に自動化されたセキュリティ機能は、事業継続における合理的な選択肢となっています。
SaaS普及がもたらすデータガバナンス課題 – Microsoft 365の事例分析
クラウド、特にSaaSの利用は業務効率を飛躍的に向上させる一方、新たなデータガバナンスの課題を生んでいます。ここでは、広く普及しているMicrosoft 365を事例に、データ分析の観点からそのリスクを考察します。
業務データがMicrosoft 365に集約されることで、サイバー攻撃、内部不正、人的ミスといったリスクの影響範囲は拡大します。しかし、より深刻なのは、多くの企業が見過ごしがちなコンプライアンスに関わるデータリスクです。
特に、**「データの証拠能力」と「法規制に基づく長期保管」**の要件は、見えない経営リスクとなり得ます。例えば、医療、法務、経理といった特定の業界では、関連文書を7年から10年以上にわたり保管する義務が法律で定められています。有事の際(訴訟や監査など)には、これらのデータが改ざんされていないことを証明し、証拠として提出する責任を企業は負っています。
データから見る、SaaS標準機能の限界と潜在的リスク
Microsoft 365には標準でデータ保持やセキュリティの機能が備わっていますが、データガバナンスの観点からは、いくつかの重大なギャップが存在します。
1. デフォルト設定による「データ欠損リスク」
標準機能の多くは、データの保持期間が限定的であったり、一定期間後に自動消去される設定になっていたりする場合があります。これは、将来のインシデント調査や監査において、**分析対象となるべきデータが不可逆的に失われる「データ欠損リスク」**を意味します。必要な時に「分析すべきデータが存在しない」という事態は、企業を法的に不利な立場に追い込む可能性があります。
2. データサイロ化による「インシデント対応の遅延リスク」
各種ログやメールデータ、ファイルの保管場所やポリシーが分散し、管理が属人化しているケースが散見されます。このような「データのサイロ化」は、監査や法的情報開示(eDiscovery)の要請があった際に、必要なデータを迅速に特定・収集することを困難にし、対応の遅延や不備という運用リスクを深刻化させます。
結論として、クラウドやSaaSがもたらす恩恵を最大限に享受するためには、サービスが提供する機能に依存するだけでは不十分です。自社の事業継続とコンプライアンス要件をデータに基づいて分析し、標準機能とのギャップを特定した上で、それを補う統合的なデータ保護戦略を構築することが不可欠です。
クラウド設定不備(Misconfiguration)に起因するデータリスクとその分析的アプローチ
AWSをはじめとするIaaSや、Microsoft 365、SalesforceといったSaaSの活用は、ビジネスの俊敏性を高める上で不可欠な要素となりました。しかしその一方で、これらのサービスが持つ設定の複雑性と多様性は、「設定不備(Misconfiguration)」という新たなデータリスクの温床となっています。
設定不備は、情報漏洩や不正アクセスといった重大なセキュリティインシデントの主要な原因の一つです。本稿では、利用形態の異なるクラウド環境(SaaS、IaaS)と、企業規模ごとの課題をデータ分析の視点から整理し、その解決策を解説します。
【SaaS環境のデータ分析】属人化・ブラックボックス化する設定データの課題
複数のSaaSを運用する環境は、各サービスが持つ膨大な設定データが組織内にサイロ化している状態と言えます。この状況は、データに基づいた網羅的なセキュリティ管理を極めて困難にしています。
データ量の限界: 各SaaSが持つ数百、数千の設定項目と、ユーザーアカウント、権限設定、外部連携といった要素の組み合わせは、もはや人手で正確に把握・追跡できるデータ量を超えています。
リアルタイム性の欠如: 定期的な手動監査では、日々発生する設定変更をリアルタイムに検知できません。インシデントのトリガーとなる危険な設定変更が行われてから、その発見までタイムラグが生じるリスクがあります。
ログ分析の負荷: 大量の監査ログやアクティビティログから、真にリスクのある操作(例:特権アカウントの不正利用、機密データへの異常アクセス)を人手で特定する作業は、情報システム部門の業務を圧迫する主要因です。
この課題に対し、複数のSaaSから設定データやログデータをAPI経由で自動収集・分析し、リスクを継続的に可視化する**SSPM(SaaS Security Posture Management)**というデータドリブンなアプローチが主流となりつつあります。SSPMは、属人性を排除したデータに基づく監査体制を構築するための、必然的な解決策と言えます。
【IaaS/PaaS環境のデータ分析】AWSにおける設定データの網羅性と継続的監視
AWSに代表されるIaaS/PaaS環境のセキュリティにおいて、「何から手をつければよいか分からない」「対策の網羅性に自信がない」という声が多く聞かれます。
この問いは、「膨大かつ動的に変化するAWSリソースの設定データの中から、リスク評価に直結する重要な監視対象データをどう特定し、評価基準をどこに置くべきか」というデータ分析上の課題に他なりません。
この課題へのアプローチとして、セキュリティフレームワーク(例:CISベンチマークなど)の活用が有効です。フレームワークは、遵守すべき設定データの「基準値(ベースライン)」を提供します。自社のAWS環境の現状の設定データをこのベースラインと定期的に突合・分析することで、リスクの網羅的な可視化と評価が可能になります。
しかし、自社リソースのみで高度な分析ノウハウを維持し、膨大なログを常時監視・対応することは容易ではありません。セキュリティ専門家によるインソース型の支援サービスは、このデータ分析能力と運用リソースを補完し、より実践的なセキュリティ体制を構築するための有効な手段となります。
【企業規模別のデータ分析】中小企業におけるWeb攻撃データと対策の必要性
サイバー攻撃のリスクは、企業の規模を問いません。特に近年、中小企業を標的としたWeb攻撃が増加傾向にあります。
攻撃者の視点から見ると、セキュリティ対策への投資余力が限られ、結果として設定不備や脆弱性が放置されやすい中小企業は、攻撃の成功確率が高い、ROI(投資対効果)の高いターゲットとして認識されています。
業種や規模に関わらず、WebサイトやWebサービスを運営するすべての企業にとって、自社のシステムに向けられる通信データをリアルタイムに分析し、攻撃パターンを検知・遮断する仕組みは不可欠です。これは、限られたリソースの中で、データに基づいた効果的なセキュリティ対策を実施するための第一歩となります。
結論:データドリブンな継続的監視へのシフト
クラウドの利用形態や企業規模を問わず、現代のセキュリティリスク管理の根幹は、「設定データの継続的な監視と分析」にあります。従来の手動による「点」の監査から、テクノロジーを活用した「線」の継続的なデータ監視へとシフトすることが、予期せぬインシデントを未然に防ぎ、データに基づいたプロアクティブなリスク管理を実現する鍵となります。
【データドリブン・セキュリティ運用への変革:クラウド時代の新たなアプローチ】
1. データに基づいたセキュリティ管理の要件
効果的なセキュリティ管理とは、運用データが取得しやすく、プロセスが再現可能で、かつコンプライアンス準拠状況をデータで証明できる状態でなければなりません。そのためには、高度に自動化されたデータ収集基盤と、クラウド環境全体を継続的に監視・分析する能力が不可欠です。暗号化の実装状況、アクセス制御ログ、ソフトウェアのバージョン情報といった構成データを常に最新の状態で把握し、ベースラインからの逸脱を即座に検知する仕組みが求められます。
2. クラウドが提供する豊富なデータソースと、その分析課題
クラウドプロバイダーは、その事業継続性の観点から、インフラの各レイヤーに冗長性と高度なセキュリティを実装しています。これらが生成する膨大なログデータや脅威インテリジェンスは、本来、企業のセキュリティレベルを飛躍的に向上させる価値あるデータソースです。
しかし、これらの多様かつ膨大なデータを統合・相関分析し、実用的なインサイトを導き出すこと自体が、多くの企業にとって新たな課題となっています。言い換えれば、クラウドはセキュリティ運用のための「元データ」を民主化しましたが、そのデータを効果的に活用するための分析能力が追いついていないのが実情です。
3. SecOpsにおけるデータ活用の高度化:Cortexによるアプローチ
セキュリティ運用(SecOps)の成果は、人材のスキル、標準化されたプロセス、そしてデータを処理するテクノロジーの3要素の最適化によって決まります。多くのSOC(Security Operation Center)が直面する課題は、「アラート疲れ(Alert Fatigue)」や「平均対応時間(MTTR)の長期化」といった、データ量と分析能力のアンバランスに起因します。
ポートフォリオは、これらのKPIを改善するために設計された、データドリブンなSecOpsを実現するための統合データプラットフォームです。
4. XDRが実現する、データに基づいた脅威検知と対応の自動化
その他XDR:広範なデータ収集と、機械学習による高精度な脅威検知
その他XDRは、エンドポイント、ネットワーク、クラウドなど、組織内のあらゆるソースから多様なログデータ(テレメトリ)を収集・統合するデータ基盤として機能します。その上で、特許取得済みの振る舞い分析や機械学習モデルを活用し、従来のシグネチャベースでは検知不可能だった未知の脅威パターンを特定します。これにより、平均検知時間(MTTD)を短縮し、インシデントが深刻化する前のプロアクティブな対応をデータで支援します。
SOAR:インシデント対応プロセスのデータ化と、運用効率の最大化
その他SOARは、SOAR (Security Orchestration, Automation and Response) プラットフォームとして、インシデント対応プロセスを標準化・自動化します。900を超える構築済み自動化パッケージは、ベストプラクティスに基づいたワークフローのテンプレートです。手動での繰り返し作業を自動化することで、平均対応時間(MTTR)を劇的に短縮し、セキュリティアナリストをより高度な分析業務に集中させ、運用データを蓄積・可視化します。
Xpanse:外部公開資産データの継続的な収集と、リスクの網羅的な可視化
その他Xpanseは、ASM (Attack Surface Management) ソリューションとして、インターネットから観測可能な自社のIT資産(デジタルフットプリント)を継続的にスキャンし、正確な資産インベントリデータを自動生成・更新します。これにより、管理台帳から漏れた「シャドーIT」をデータとして可視化し、攻撃者に悪用される前に潜在的なセキュリティギャップを特定することが可能になります。
5. 統合データプラットフォームが実現する、プロアクティブなセキュリティ体制
ポートフォリオの真価は、これら3つの製品がネイティブに連携し、一気通貫のデータパイプラインを形成することにあります。**「リスクの網羅的な可視化(Xpanse)」「広範なデータ収集と高精度な検知(XDR)」「分析と対応の自動化(SOAR)」**というサイクルを高速で回すことにより、セキュリティ運用は事後対応型(リアクティブ)から、データに基づいた予測・予防型(プロアクティブ)へと変革されます。これは、個別の脅威に対応するだけでなく、セキュリティインシデントの発生そのものを抑制し、ビジネスインパクトを最小化するためのデータドリブンなアプローチです。