データが示すVPNの脆弱性とセキュリティ投資対効果の最大化
近年のサイバー攻撃トレンドを分析すると、攻撃の初期侵入経路としてVPN(Virtual Private Network)の脆弱性が悪用されるケースが顕著です。NIST(米国国立標準技術研究所)の脆弱性データベース(NVD)においても、VPN製品に関する重大な脆弱性が継続的に報告されており、これはVPNが境界型防御における単一障害点(Single Point of Failure)となり得ることを客観的に示しています。
リモートワークやBYOD(私用端末の業務利用)の浸透によりアクセス元の多様化が進んだ結果、従来のVPNアクセスログの分析だけでは、もはや異常アクセスの検知やリスクの定量的評価は困難です。各種ログを横断的に分析しようにも、データのサイロ化がそれを阻み、インシデントの予兆を捉えきれないケースが散見されます。
FBIやCISAが推奨するSASE(Secure Access Service Edge)やゼロトラストアーキテクチャは、こうしたデータポイントの分断を解消し、一貫したポリシー適用を目指す合理的なアプローチです。しかし、移行に伴う投資対効果(ROI)が不明確なため、具体的な投資判断に至らないという課題が存在します。本稿では、データに基づき現状リスクを可視化し、ゼロトラストへ向けた段階的かつ効果的な移行パスを提示します。
観測不能なリスク領域:シャドーITと内部不正のデータ分析アプローチ
セキュリティインシデントの主要因でありながら、データとして把握することが最も困難な領域、それがIT部門の管理外にある「シャドーIT」と、正規の権限を悪用する「内部不正」です。
これらのリスクを定量的に評価できないことは、セキュリティ対策の優先順位付けを経験と勘に頼らざるを得ない状況を生み出します。求められているのは、エンドポイントにおけるユーザー操作の粒度の高いデータを収集し、行動分析を通じてリスクをプロアクティブに検知・予測するデータドリブンなアプローチです。どのユーザーが、どのアプリケーションから、どのデータにアクセスし、どのような操作(コピー、アップロード、印刷など)を行ったかを時系列で分析することが、観測不能だった脅威への唯一の対抗策となります。
ゼロトラスト実現の鍵:アクティビティデータ収集基盤としてのエンタープライズブラウザ
SaaS利用が業務の中心となった現代において、ブラウザは最も重要なアプリケーションであると同時に、データ漏洩の主要な経路でもあります。このブラウザという制御点に着目した「エンタープライズブラウザ」は、極めて合理的なソリューションです。
その本質は、単なるセキュアなブラウザではなく、**「ユーザーアクティビティデータを収集・分析するためのプラットフォーム」**である点にあります。これにより、以下のようなデータドリブンなセキュリティ施策の実行が可能になります。
シャドーITの利用実態把握: 全てのSaaSアクセスログを収集・可視化し、リスク評価とガバナンスポリシーを策定するための基礎データとします。
DLP(情報漏洩防止): 機密情報を含むコンテンツに対するユーザー操作(印刷、ダウンロード、コピー&ペースト等)をログとして記録・制御し、インシデント発生時の迅速な追跡調査と監査証跡を担保します。
リスクベース認証の強化: ユーザーの行動パターンを機械学習で分析し、通常とは異なる振る舞い(時間外の大量ダウンロード等)を異常値として検知した場合に、アクセスをブロックしたり追加認証を要求したりする動的なアクセス制御を実現します。
「Mammoth Cyber Enterprise Browser」のようなソリューションは、これらのデータを一元的に提供し、VPNに依存した境界型防御から脱却し、ゼロトラストの第一歩を踏み出すための実用的なデータ基盤となり得ます。
データ収集のレイヤー:エンタープライズブラウザとMDM/UEM(Intune)の役割分担
ゼロトラストの実現には、複数のデータソースから得られる情報を基にした、継続的な信頼性の検証が不可欠です。
Microsoft Intune (MDM/UEM): デバイスのコンプライアンス状態(OSバージョン、パッチ適用状況など)を評価するデータを提供します。これは**「デバイスの信頼性」**を担保するレイヤーです。
エンタープライズブラウザ: そのデバイス上で「誰が」「どの情報に」「どのようにアクセスしているか」というユーザーとデータのインタラクションに関するコンテキストデータを提供します。これは**「ユーザー行動とデータアクセスの信頼性」**を担保するレイヤーです。
両者は競合するのではなく、収集するデータのレイヤーが異なる補完関係にあります。Intuneによって信頼性が確認されたデバイスからであっても、エンタープライズブラウザを通じてリスクの高い操作が検知されればアクセスをブロックするといった、より精緻で多層的なリスク評価とアクセス制御が可能になります。
本分析と提案が貢献できる対象
VPNや各種セキュリティ製品のログが散在し、相関分析による脅威検知が機能不全に陥っている状況の改善。
BYODや業務委託先の端末利用におけるセキュリティリスクを定量的に評価し、データに基づいたアクセス制御ポリシーを策定したいニーズ。
機密データへのアクセスと操作に関する監査証跡を確保し、各種コンプライアンス要件への対応を効率化したいという課題。
ゼロトラストの概念実証(PoC)として、具体的なデータに基づいてスモールスタートできるソリューションの探索。
中堅企業向けゼロトラスト・セキュリティ:リスクデータに基づく実践的導入フレームワーク
1. IT環境の構造変化と攻撃対象領域(Attack Surface)の拡大
過去10年、特に2020年以降の環境変化は、組織のITアセットとアクセスパターンの分散化を加速させました。この変化は、主に2つのベクトルで進行しています。
接続先の分散化: IaaS(AWS, Azure, GCP等)や多数のSaaS利用が標準となり、組織のデータとアプリケーションは、従来のオンプレミス・データセンターの境界を越えて分散配置されています。
接続元の分散化: リモートワークの常態化により、オフィス外の多様なネットワークや非管理端末からの業務システムへのアクセスが一般化しました。
この「接続元と接続先の双方向での分散化」は、結果として組織の攻撃対象領域を指数関数的に拡大させています。この新たなリスク環境に対応するセキュリティアーキテクチャとして「SASE(Secure Access Service Edge)」および「ゼロトラスト」が論理的必然として注目されています。
2. ゼロトラスト導入における費用対効果の課題分析
現行の市場で提供されるSASE/ゼロトラスト関連ソリューションの多くは、機能的に包括的(Comprehensive)であり、主に多様な要件を持つ大企業を対象として設計されています。
このため、より限定されたユースケースと予算規模を持つ中堅・中小企業がこれらのソリューションを評価する際、機能セットと自社のリスクプロファイルとの間にミスマッチが生じがちです。結果として、導入・運用コストがリスク低減効果を上回る、すなわち投資対効果(ROI)が最適化されないという課題に直面します。
3. 脅威インテリジェンスに基づくリスクの再評価
かつて、高度なサイバー攻撃、特にランサムウェアの主たる標的は、事業規模の大きい大企業であると認識されていました。しかし、近年の脅威インテリジェンスデータを分析すると、この傾向は明確に変化しています。現在、ランサムウェアによる実被害報告件数では、大企業よりもむしろサプライチェーンを構成する中堅・中小企業の占める割合が著しく高いという調査結果が複数の機関から報告されています。
このデータは、事業規模に関わらず、すべての組織が持続的なサイバーリスクに晒されているという事実を示しており、ゼロトラスト原則に基づくセキュリティ体制への移行が、事業継続計画(BCP)の観点からも不可欠であることを裏付けています。
4. 実践的ゼロトラスト導入のロードマップ策定
ゼロトラストは、一度にすべてを導入する単一の製品ではなく、段階的にセキュリティ成熟度を向上させる継続的なプロセスです。ここでは、具体的な組織プロファイルを想定し、リスクベースで優先順位付けを行った導入手順のモデルケースを提示します。
対象プロファイル(モデルケース):
ユーザー規模: 約1,000名
導入済みソリューション: IDaaS(ID管理基盤)
既存ネットワーク環境: 拠点間VPNを利用
このプロファイルに基づき、最小限の投資で最大限のセキュリティ効果を得るための「初期に実装すべきゼロトラストの中核要素」を特定し、その具体的な実装手順と評価指標について解説します。
データから読み解く、現代ネットワーク環境におけるセキュリティ戦略の最適化
分析サマリー
本分析は、フォーティネットの「2023年ゼロトラストに関する現状レポート」に基づき、現代のネットワーク環境が直面するセキュリティ課題をデータドリブンで解き明かす。分散したネットワーク、ハイブリッドワークの常態化、そしてマルチクラウド環境へのシフトは、従来のセキュリティモデルの限界を露呈させた。
本レポートのデータは、多くの組織がゼロトラスト戦略へと舵を切っているものの、ソリューションの断片化やハイブリッド環境への対応不足といった深刻な課題に直面している実態を浮き彫りにしている。本稿では、これらの課題を定量的に分析し、データに基づいた戦略的なインサイトを提示する。
【現状分析】パンデミックが加速させたネットワークの構造変化とセキュリティ負債
過去数年で、ネットワーク環境は不可逆的な構造変化を遂げた。従業員のワークプレイスはオフィスとリモートに分散し、アプリケーションはオンプレミスと複数のクラウド環境に混在、データそのものもサイロ化している。この変化は、すべてのユーザーとデバイスに対し、場所を問わず安全かつ一貫したアクセスを提供することをIT部門の最優先課題へと押し上げた。
しかし、パンデミックへの緊急対応として場当たり的に導入されたリモートワークソリューションは、多くのケースで技術的負債を生み出した。セキュリティが不十分なリモート環境や、構成ミスのあるクラウドインスタンスが新たな攻撃対象領域(アタックサーフェス)となり、暗黙の信頼に依存する従来型モデルの脆弱性が露呈した。
多くのITチームが、この問題に対しポイントソリューションの追加導入で対応した結果、かえってアーキテクチャの複雑化を招き、統合管理と一貫したポリシー適用の欠如という新たな課題を生み出している。
【データインサイト】ゼロトラスト導入の実態と3つの主要課題
レポートデータは、ゼロトラスト戦略の導入が進む一方で、その実行段階で多くの組織が共通の壁に突き当たっていることを示唆している。
課題1:ハイブリッド環境への対応力不足
ゼロトラスト戦略の最大の障壁は、オンプレミスとクラウド環境を横断した一貫したポリシーの適用にある。
約40%の組織では、現在もアプリケーションの半数以上をオンプレミスでホストしている。
それにも関わらず、回答者の**75%(4分の3)**は、クラウドにしか対応していないZTNA(ゼロトラストネットワークアクセス)ソリューションを利用していることに起因する問題に直面している。
このデータは、市場に流通する多くのZTNAやSASEソリューションがクラウド中心に設計されており、オンプレミスのリソースを抱える大多数の企業の現実と乖離している事実を明確に示している。
課題2:ソリューションの断片化による弊害
複数ベンダーの製品を組み合わせるアプローチは、新たなセキュリティギャップ、運用コストの増大、可視性の欠如といった問題を引き起こしている。特に大企業においては、運用効率化と管理オーバーヘッド削減の観点から、単一ベンダーによる統合プラットフォームへのニーズが極めて高い。これは、ソリューション間の連携不足やポリシーの不整合が、セキュリティホールに直結するというリスク認識の表れである。
課題3:SASE導入における目的と現実のギャップ
SASE(セキュアアクセスサービスエッジ)ソリューションの導入目的を分析すると、**58%の回答者が「セキュリティ効果」**を最優先事項の上位3つに挙げている。これは、SASEが単なるネットワークソリューションではなく、セキュリティ強化のための戦略的投資と位置づけられていることを示している。しかしながら、前述のハイブリッド環境への対応不足やソリューションの断片化といった課題が、期待されるセキュリティ効果の最大化を妨げているのが現状である。
【戦略的提言】データに基づく次世代セキュリティアーキテクチャへの道筋
以上の分析から、ゼロトラスト戦略を成功に導くためには、以下の3つの視点が不可欠である。
ベンダーとソリューションの統合(Consolidation):
運用を簡素化し、セキュリティ体制を強化するためには、単一の統合プラットフォームへの集約が最も効果的なアプローチである。これにより、可視性の確保と一貫したポリシー適用が可能となり、管理コストも最適化される。
ハイブリッド環境を前提としたアーキテクチャ設計:
オンプレミスとクラウド、両方のアプリケーションとデータへのアクセスをシームレスに保護できるソリューションが必須である。クラウド専用ソリューションでは、企業の半数近くが抱えるオンプレミス環境が保護対象から漏れてしまう。
信頼できるデータに基づくソリューション選定:
回答者からは「ソリューション選定に役立つ信頼できる情報が不足している」という課題も指摘されている。場当たり的な技術導入を避け、自社の環境(オンプレミス比率、利用クラウド等)をデータで正確に把握し、客観的な評価指標に基づいてソリューションを選定するプロセスが求められる。
データが示す、リモートアクセスセキュリティの最適解
分析サマリー:課題の定量化
本分析は、リモートアクセス経路、特に従来のVPNがランサムウェアの主要な侵入口となっている現状をデータに基づき解き明かす。多くの組織が対策としてゼロトラスト・セキュリティに注目する一方、その導入プロセスにおいて深刻な課題に直面している。
本稿では、複数の調査結果を統合的に分析し、特に「複数ベンダーに起因する非効率性」と「ハイブリッド環境とソリューションのミスマッチ」という2つの核心的課題を定量的に可視化し、データドリブンな解決策を提示する。
【データインサイト①】ソリューションの断片化がもたらすリスクとコスト
ゼロトラストへの移行において、複数ベンダーのポイントソリューションを組み合わせるアプローチは、多くの組織で非効率とリスクを生み出している。データは、この問題を明確に示している。
**90%**の組織が「ベンダーおよびソリューションの統合」を、**88%**が「ソリューションの相互運用性」を「非常に重要」または「かなり重要」と回答。この数値は、現状の断片化したセキュリティ環境に対する強い危機感の表れである。
この背景には、具体的な問題が存在する。
最大の懸念点はセキュリティギャップ (46%): ソリューション間の連携不足が、予期せぬ脆弱性の発生源となっている。
高額な運用コスト (43%): 複数ソリューションの維持・管理コストが、IT予算を圧迫する主要因となっている。
一貫性のないポリシー適用 (40%): 環境ごとに異なるポリシーが、セキュリティレベルの低下と管理の複雑化を招いている。
その他: ユーザーエクスペリエンスの低下 (39%)、パフォーマンスのボトルネック (36%)、管理の複雑性の増大 (28%) といった問題も報告されており、複数ベンダー環境が組織全体の生産性にも悪影響を及ぼしていることが示唆される。
これらのデータは、ソリューションの「統合」と「相互運用性」が、単なる運用効率化の問題ではなく、セキュリティリスクとコストに直結する経営課題であることを証明している。
【データインサイト②】見過ごされるオンプレミス環境とZTNAの機能不全
市場のトレンドとしてクラウド移行が語られる一方で、データは多くの組織がいまだハイブリッド環境に大きく依存している現実を映し出している。
38%の組織は、アプリケーションの半数以上をオンプレミスでホスト。
**49%の組織が、アプリケーションの26%~50%**をオンプレミスに配置。
これを合算すると、87%もの組織が、アプリケーション資産の4分の1以上を依然として自社のデータセンター内に保持している計算になる。
この実態に対し、多くのゼロトラストソリューションは適切に対応できていない。
**回答者の75%(4分の3)**が、「クラウド対応のみのZTNA」を利用していることに起因する問題に直面していると回答。
この深刻なミスマッチを裏付けるように、**85%**の回答者がオンプレミスとリモートユーザーの両方を単一のソリューションでカバーすることの重要性を「かなり重要」または「非常に重要」と認識している。
保護すべき対象は、Webアプリケーション (81%)に留まらず、オンプレミスユーザー (76%)、リモートユーザー (72%)、オンプレミスアプリケーション (64%)と多岐にわたる。このデータは、クラウドだけを保護対象とするZTNAソリューションが、大多数の企業の現実的なニーズを満たしていないことを明確に示している。
【データに基づく戦略的提言】ユニバーサルZTNAという合理的選択
上記のデータ分析から導き出される結論は明確である。現代のハイブリッドなIT環境において有効なゼロトラスト戦略とは、単一の統合プラットフォームを通じて、場所を問わず全てのリソースへのアクセスを一貫したポリシーで制御することに他ならない。
これを実現するのが「ユニバーサルZTNA」というコンセプトである。
単一のソリューション: クラウドとオンプレミスのアプリケーションを透過的にサポートし、複数ベンダーに起因するセキュリティギャップと運用コストの問題を解消する。
一貫したポリシー: 環境を横断して統一されたアクセスポリシーを適用し、セキュリティレベルを標準化する。
ユーザー中心のライセンス: ユーザー単位のライセンスモデルにより、従業員がオフィスとリモートを移動しても、シームレスにセキュリティポリシーを適用し、WFA(Work-from-Anywhere)環境に柔軟に対応する。
特に、リソースが限られる中小企業や、大規模なVPNリプレイスを検討する組織にとって、複雑な機能群を導入するのではなく、「必要なセキュリティ機能を、単一の管理コンソールからシンプルに運用する」というアプローチが最も合理的である。データに基づけば、このアプローチこそが、セキュリティを強化し、同時に運用効率を最大化する最適解となる。
データで解き明かす、ゼロトラスト戦略の優先順位と導入動向
分析サマリー:戦略的シフトの定量化
ハイブリッドワークへの移行は、単なる勤務形態の変化ではなく、ネットワークセキュリティの前提条件を根本から覆すパラダイムシフトを引き起こした。従来の境界型防御モデルは有効性を失い、新たなセキュリティ戦略として「ゼロトラスト」が不可欠となっている。
本分析では、調査データを基に、組織がゼロトラストを導入する戦略的動機、ソリューション選定における評価基準、そして具体的なテクノロジー導入の現状と経年変化を定量的に分析し、データに基づいた戦略的なインサイトを提示する。
【データインサイト①】ゼロトラスト導入の動機とソリューション選定基準
データは、ゼロトラストへの投資が短期的なコスト削減ではなく、事業継続を目的とした戦略的なものであることを明確に示している。
戦略的動機 (Why):
ゼロトラスト導入の主要因として挙げられたのは、以下の通りである。
侵害・侵入による影響の最小化:34%
場所を問わないゼロトラストの実現:29%
一方で、「初期投資の削減」を挙げた組織はわずか**18%**に過ぎない。この数値は、ゼロトラストがコスト最適化のためではなく、サイバー攻撃に対するレジリエンス(回復力)の向上と、多様な働き方を支えるビジネス基盤の構築という、より上位の経営課題として認識されていることを裏付けている。
ソリューション選定基準 (What):
実際にソリューションを選定する際、最も重要視される項目は以下の通りである。
アプリケーション層のセキュリティ確保:85%
オンプレミスおよびクラウド設定との互換性:82%
既存インフラとの統合:82%
特筆すべきは、「互換性」と「統合」が、核心的な機能である「アプリケーション保護」とほぼ同等に評価されている点だ。これは、ポイントソリューションの乱立によるセキュリティギャップや運用コストの増大を多くの組織が経験しており、単一のプラットフォームでハイブリッド環境全体をシームレスに保護できる能力を強く求めていることの証左と言える。
【データインサイト②】テクノロジー導入率の現状とトレンド分析
ゼロトラスト戦略を構成する各テクノロジーの導入状況を分析すると、興味深いトレンドが見えてくる。
導入状況のスナップショット:
主要なソリューションの導入率は以下の通りである。
SWG (セキュアWebゲートウェイ): 75%
CASB (クラウドアクセスセキュリティブローカー): 72%
NAC (ネットワークアクセス制御): 70%
ZTNA (ゼロトラストネットワークアクセス): 67%
一方で、ゼロトラストアーキテクチャの根幹をなすMFA (多要素認証) の導入率は52%に留まっている。これは、認証プロセスに重大な脆弱性が残されている可能性を示唆しており、データ分析の観点からは最優先で対処すべきリスクと判断される。
導入率の時系列分析 (2021年比):
2021年からの導入率の変化は、市場のニーズがどこにあるかを明確に示している。
急成長領域:
NAC: 17% → 70% (+53ポイント)
CASB: 40% → 72% (+32ポイント)
堅調な成長領域:
SWG: 45% → 75% (+30ポイント)
MFA: 23% → 52% (+29ポイント)
比較的緩やかな成長領域:
ZTNA: 58% → 67% (+9ポイント)
NACの爆発的な伸びは、ハイブリッドワーク環境下で社内ネットワークに接続する多様なデバイスを可視化し、制御する必要性が急速に高まったことを示唆している。また、ZTNAの伸びが相対的に緩やかなのは、単一製品ではなく複数の技術要素から成る包括的な「戦略」であるため、構成要素ごとの導入が進んでいる結果と解釈できる。しかし、「クラウド専用ZTNAを選択した組織の**72%**がアクセス保護に課題を抱えている」というデータも存在し、ハイブリッド環境への対応力がソリューション選定の重要な分岐点となっている。
【戦略的提言】データに基づくアクションプラン
以上の分析に基づき、ゼロトラスト戦略を効果的に推進するためには、以下のアクションが推奨される。
MFA導入の最優先化:
認証は全てのアクセスの起点である。導入率が52%に留まるMFAは、最も費用対効果の高いセキュリティ投資の一つであり、即座に着手すべきである。
「統合」と「互換性」を核としたソリューション評価:
82%の組織が重要視している通り、オンプレミスとクラウドを単一のコンソールで管理できる統合プラットフォームを評価軸の中心に据えるべきである。これにより、セキュリティギャップを減らし、運用コストを最適化することが可能となる。
データに基づいたロードマップの策定:
自社のアプリケーション資産のオンプレミス比率や、従業員の働き方の実態をデータで把握し、NAC、CASB、SWGといった急成長領域のソリューションと自社の課題を照らし合わせ、投資の優先順位を決定することが不可欠である。
データ分析:ゼロトラスト導入の現実と「導入済み」から「導入中」への回帰
分析サマリー:成熟度の再評価
ゼロトラスト戦略の導入は、多くの組織にとって依然として大きな挑戦である。本分析は、調査データに基づき、導入プロセスにおける核心的課題と、この2年間で見られた導入フェーズ認識の重要な変化を解き明かす。
最大の障壁は、**48%の組織が指摘する「オンプレミスとクラウドにまたがるソリューションの統合不足」である。さらに、2021年から2023年にかけて「導入済み」と回答した組織が40%から28%**へと減少したという逆説的なデータは、ゼロトラストの定義が深化し、多くの組織が自社の成熟度をより現実的に再評価し始めたことを示唆している。
【データインサイト①】最大の障壁は「ハイブリッド環境の統合不全」
ゼロトラスト導入における課題をデータで分解すると、根本的な原因が「統合の欠如」にあることが明確になる。
根本原因: 回答者の**48%**が、オンプレミスとクラウドに展開したゼロトラストソリューションが十分に統合されていないことを「最も重大なギャップ」として挙げている。
この統合の欠如は、具体的な機能不全として表面化している。
継続的な認証・監視の失敗:
ユーザーとデバイスを継続的に認証できない (46%)
認証後のユーザーアクティビティを監視できない (38%)
ユーザーエクスペリエンスの低下:
一貫したユーザーエクスペリエンスを提供できない (40%)
遅延問題が発生する (31%)
これらのデータは、断片的なソリューションの導入が、セキュリティポリシーの一貫性を損ない、結果としてユーザーの生産性にも悪影響を及ぼしている実態を浮き彫りにしている。
【データインサイト②】「導入済み」の減少が示す、ゼロトラスト理解の深化
2021年から2023年にかけてのゼロトラスト導入状況の経年変化は、極めて示唆に富んでいる。
導入済み: 40% (2021年) → 28% (2023年) [-12ポイント]
導入中: 54% (2021年) → 66% (2023年) [+12ポイント]
この「導入済み」から「導入中」へのシフトは、戦略の後退ではなく、ゼロトラストに対する組織の理解が深化した結果と分析できる。
仮説A:ゼロトラストの定義と適用範囲の拡大
当初は「リモートワーカーのセキュアな接続」という限定的な目的でゼロトラストを「導入済み」と捉えていた組織が、ハイブリッドワークの本格化に伴い、その適用範囲を再定義した。ユーザーが社内外を移動し、アプリケーションがデータセンターとクラウドに分散する中で、エンドツーエンドで一貫したポリシー適用の必要性を認識。その結果、自社の現状をより現実的に「導入中」と再評価したと考えられる。
仮説B:ポイントソリューションの限界露呈
複数の独立したソリューションを導入した結果、それらがネイティブに連携せず、新たなセキュリティギャップや運用負荷を生み出すという問題に直面。これにより、「真のゼロトラストは未達である」と認識を改めた組織が多数存在することを示唆している。
【データインサイト③】ソリューション選定プロセスの構造的課題
導入の障壁は、技術的な問題だけに留まらない。ソリューションの選定プロセス自体にも構造的な課題が存在する。
情報の非対称性: 16%の組織(中小企業では24%)が、ソリューション選定に役立つ客観的な情報が不足していると回答。
市場とのミスマッチ: **24%**の組織が、適切なソリューションを提供できるベンダーを見つけられず、結果として自社での場当たり的な開発を余儀なくされている。
一方で、「人材不足」を主要な課題として挙げた組織はわずか4%(前回の7%から低下)であった。このデータは、問題の本質が「スキルを持つ人材の不足」ではなく、「信頼できる情報と、企業の複雑な要件に応える適切なソリューションの不足」にあることを示している。
【戦略的提言】データに基づく次の一手
以上の分析から、ゼロトラスト戦略を成功に導くためには、以下のアプローチが不可欠である。
現状の客観的評価:
「導入済み」という自己評価を見直し、成熟度モデルなどを活用して自社の現在地を客観的に再評価する。特に、オンプレミスとクラウドの統合レベルを重要な指標として測定すべきである。
統合プラットフォームへの戦略転換:
ポイントソリューションの組み合わせが引き起こす課題(統合不足48%、継続的認証の失敗46%など)を直視し、ハイブリッド環境全体を単一のポリシーで管理できる統合プラットフォームを中核に据えたアーキテクチャへの転換を検討する。
データに基づいたベンダー選定:
情報不足やベンダー選定の失敗を防ぐため、自社の環境(ユーザーの動線、アプリケーションの配置状況など)をデータで分析し、「ハイブリッド環境における統合性」や「エンドツーエンドの可視性」といった要件を明確に定義した上で、ベンダー評価を行うことが求められる。
データに基づくSASE導入の課題分析とゼロトラスト実現への提言
1. ハイブリッドワーク環境におけるセキュリティ課題とSASEの台頭
ワーク・フロム・エニウェア(WFA)モデルへの移行は、従業員の生産性向上に寄与する一方、セキュリティの観点では新たな課題を生み出しています。特に、セキュリティ対策が不十分な在宅環境から社内リソースやクラウドアプリケーションへアクセスする機会の増加は、重大なリスク要因となります。
この課題に対し、エンタープライズクラスのセキュリティを在宅環境へ拡張するアプローチも存在しますが、コストとリソースの観点から多くの組織にとって現実的ではありません。このような背景から、リモートワーカーに対し、クラウドベースで安全かつ安定したアクセスを提供するSASE(Secure Access Service Edge)ソリューションが、有力な選択肢として急速に注目されています。
2. データから読み解くSASEソリューション選定の重要要件
SASEソリューションの導入を検討する上で、組織が何を重視しているかはデータに明確に表れています。ある調査によれば、SASEソリューションにおける最優先事項は「セキュリティ効果」(58%)であるものの、「複数のユースケースに対応できる統合型エージェント」(56%)および「SD-WANなど他ソリューションとの相互運用性」(54%)も、ほぼ同水準で重要視されています。
このデータは、組織が単一機能の優劣だけでなく、既存のIT環境との親和性や運用効率を極めて重要な評価軸としていることを示唆しています。さらに、回答者の42%が「容易な実装と管理しやすい総所有コスト(TCO)」を挙げており、導入後の運用負荷とコスト効率も無視できない要素であることが分かります。
特筆すべきは、回答者の89%という圧倒的多数が、SASEと自社のオンプレミスソリューションとの統合を「かなり重要」または「非常に重要」であると回答している点です。 これは、多くの組織にとって、クラウドとオンプレミスが混在するハイブリッド環境が依然として主流であり、分断されたセキュリティ管理は許容されないという強い意志の表れと分析できます。
これらの調査結果は、ユーザーエクスペリエンスの維持、運用タスクの集約、一貫したゼロトラストポリシーの適用といったビジネス価値を実現するためには、分散したユーザーとデバイスに対し、統合されたネットワークおよびセキュリティ機能を提供するシングルベンダーSASEソリューションが有効なアプローチであることを示唆しています。
3. ゼロトラスト戦略推進を阻む「ソリューションのミスマッチ」
ハイブリッドワークの定着と、オンプレミス、マルチクラウド、SaaSへと拡大し続けるネットワーク環境は、従来の境界型防御モデルからの脱却、すなわちゼロトラスト戦略への移行を加速させています。その目的は、場所を問わず全てのユーザーに、信頼性の高いアプリケーションアクセス、一貫したセキュリティ、そして最適なユーザーエクスペリエンスを提供することにあります。
しかし、ゼロトラストの導入は、多くの組織が想定する以上に複雑な課題に直面しています。その根本原因は、アプリケーションがオンプレミスとクラウドに分散し、ユーザーがオフィスと自宅を自由に行き来するという現代のIT環境の複雑性にあります。さらに、市場に存在する多くのセキュリティソリューションがクラウド利用のみを前提に設計されており、オンプレミスを含むハイブリッド環境全体をカバーできていないという「ソリューションのミスマッチ」が、導入の障壁をさらに高くしています。
4. 提言:統合的アプローチによるゼロトラストの実現
ゼロトラスト市場が成熟期に向かう中、個別の課題に対応するポイントソリューションを組み合わせるアプローチは限界を迎えています。今、組織に求められるのは、ベンダーとソリューションのフットプリントを戦略的に統合することです。
具体的には、オンプレミス、クラウド、SaaSといった複数の環境を横断的にカバーし、ネットワーキング、セキュリティ、アクセス管理を単一の統合されたフレームワークで提供できるソリューションを選定することが不可欠です。
この統合的アプローチを採用することで初めて、組織はゼロトラスト戦略をシームレスに拡張し、ネットワーク上のあらゆるユーザーとアプリケーションに対して広範な可視性を確保し、エンドツーエンドでの一貫したポリシー制御を維持することが可能になります。これこそが、現代のハイブリッド戦略がもたらすビジネス機会を最大限に活用するための、データに基づいた合理的なIT戦略と言えます。
ゼロトラストの真価を引き出す、データドリブン・セキュリティ戦略
ゼロトラストへの移行は、単に新しいツールを導入することではありません。その本質は、セキュリティに関わるあらゆるログデータを収集・分析し、データに基づいた意思決定を行う体制を構築することにあります。
しかし、多くのソリューションを導入したものの、「リスクを定量的に評価できない」「投資対効果(ROI)が見えない」といった課題に直面していないでしょうか。その原因は、各機能から得られるデータを、アクションに繋がるインテリジェンスへと変換できていない点にあります。
セキュリティ課題を「データ」と「KPI」で再定義する
ゼロトラスト環境の構築・運用において、取り組むべき課題や期待する効果を**測定可能なKPI(重要業績評価指標)**に落とし込むことが成功の第一歩です。
収集・分析すべきデータソース(機能)
ゼロトラスト環境では、以下の機能が生成するログデータが、リスクを評価するための重要なインプットとなります。
アイデンティティとアクセス(IAM): 誰が、いつ、どの権限でアクセスを試みているかのログ
エンドポイント: デバイスのセキュリティ状態(パッチ適用、ウイルス対策ソフトの状況等)を示すテレメトリデータ
クラウド・ネットワーク: CASB, SASE, SSLインスペクション等から得られる通信データやアクティビティログ
データ活用によって改善を目指すKPI
これらのデータを分析することで、セキュリティレベルを客観的な数値で評価し、改善を目指します。
リスク指標: 平均検知時間 (MTTD)、平均対応時間 (MTTR)、脆弱性スコアの推移
コスト指標: セキュリティ運用工数、ソリューション統合によるTCO(総所有コスト)
業務効率指標: 認証成功率、ヘルプデスクへの問い合わせ件数、ネットワーク遅延
データに基づいた動的なアクセス制御の実現
ゼロトラストの核心は、「継続的な信頼性評価と、データに基づいた動的なアクセス制御」です。
これは、ユーザー、デバイス、場所、通信内容といった多様なデータをリアルタイムに分析し、リスクスコアを動的に算出することを意味します。そして、そのスコアに応じて、「アクセスを許可する」「多要素認証(MFA)を要求する」「アクセスをブロックする」といった制御を自動的に実行します。
このデータドリブンなアクセス制御を実現する中核技術が Zero Trust Network Access (ZTNA) です。ZTNAは、アクセス要求の都度コンテキストデータを評価するため、一度認証すれば内部ネットワークに自由に入れてしまう従来のVPNの課題を解決し、最小権限の原則を徹底します。
データガバナンス:コンプライアンス遵守とデータ管理
ゼロトラスト環境で収集・分析する膨大なログデータは、プライバシー保護や各国の法規制といったデータガバナンスの観点から適切に管理する必要があります。
データの国際移転: EUのGDPRなど、国や地域を越えたデータ転送の要件を遵守します。
データローカライゼーション: データの保管場所や処理場所を、規制に基づき特定の地域に限定します。
データ保持ポリシー: ログの保管期間を明確に定め、期間を過ぎたデータは適切に削除するプロセスを確立します。
これらの要件を満たすことは、コンプライアンスリスクを低減するだけでなく、データ管理コストの最適化にも繋がります。
データの可視化から始めるゼロトラスト・セキュリティ
ゼロトラストの原則は「何も信頼しない」ことですが、その実践は「すべてを検証する」ことから始まります。そして、その検証の基礎となるのが「データ」です。
誰が、どこから、何にアクセスし、どのようなデータを扱っているのか。これらのアクティビティをデータとして継続的に収集・分析できなければ、ゼロトラストは単なる理念で終わってしまいます。各種セキュリティ機能は、脅威をブロックするだけでなく、組織のセキュリティ状態を可視化するための重要なデータソースとして捉える必要があります。
セキュリティ機能を「データ収集・分析エンジン」として捉える
セキュアWebゲートウェイ (SWG): Webアクセスのログデータを分析
全てのWebアクセスログは、脅威分析のための貴重なデータセットです。このデータを継続的に分析することで、マルウェアサイトへのアクセスやC&Cサーバーとの通信といった既知の脅威だけでなく、通常とは異なる通信量やアクセスパターンといった異常を検知し、未知の脅威の予兆を早期に捉えることが可能になります。
クラウドアクセスセキュリティブローカー (CASB): クラウド利用状況のデータ化
クラウドサービス上のデータアクセスパターン、共有設定、権限設定をデータとして可視化します。「どの機密ファイルに」「誰がアクセスし」「誰と共有しているか」を常に監視・分析することで、設定不備や過剰な権限付与といった、内部不正や情報漏えいに繋がるリスクを定量的に評価し、プロアクティブな対策を講じます。
データ損失防止 (DLP): データフローの監視と記録
「どの機密データが」「どの経路で」「どこへ」移動しているのか、組織内外のデータフローを監視し、ログとして記録します。これにより、ポリシー違反をリアルタイムに防ぐだけでなく、万が一インシデントが発生した際に、データの移動経路を追跡し、影響範囲を迅速に特定するための客観的な証跡となります。
統合データプラットフォームによる分析の高度化
これらの機能を個別に運用するだけでは、データの価値を最大限に引き出すことは困難です。Cloudflare Zero Trustのような統合プラットフォームは、これらの多様なデータソースを単一の基盤に集約し、より高度なデータ活用を実現します。
相関分析による脅威検知精度の向上:
例えば、「不審な場所からのWebアクセス(SWGのデータ)」と「機密データへのアクセス(CASBのデータ)」を組み合わせることで、単体のログでは見逃してしまうような高度な脅威シナリオを自動的に検出します。
プライバシーと分析精度の両立:
ログから個人情報などを選択的に除外する機能は、プライバシー要件を遵守するだけでなく、分析対象からノイズデータ(業務と無関係な通信など)を除去し、脅威分析の精度を高めるというデータクレンジングの側面も持ち合わせています。
データ分析がもたらす具体的な成果
ゼロトラスト環境で収集・分析されたデータは、セキュリティ体制を具体的な数値で評価し、継続的に改善するための基盤となります。
攻撃対象領域の定量的な縮小:
公開されているリソースやアクセス経路をデータで完全に棚卸し、不要なものを閉じることで、攻撃を受ける可能性を数値として管理・低減させます。
インシデント対応の迅速化(MTTRの短縮):
侵害が発生した場合でも、マイクロセグメンテーションによって影響範囲がデータとして明確になるため、調査対象のログが絞り込まれ、原因特定と復旧までの時間を大幅に短縮できます。
セキュリティ運用の効率化:
統合プラットフォームが提供する精度の高いアラートにより、誤検知(False Positive)の対応に費やす時間を削減できます。これにより、セキュリティチームは、より重要なインシデントの分析と対策にリソースを集中させることが可能になります。