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データセキュリティ(7)

データで繋がるサプライチェーン:データドリブンなサードパーティリスク管理への変革

デジタルトランスフォーメーションの進展に伴い、企業のビジネスはサードパーティやサプライヤーとの密なデータ連携なしには成立しなくなっています。この「デジタルサプライチェーン」の拡大は、新たなビジネス機会を創出する一方で、これまで以上に複雑で広範囲なリスクをもたらします。今こそ、従来のリスク管理手法を見直し、データと分析に基づいたアプローチへと変革する時です。

課題:従来型リスク管理の限界と潜在的脅威
多くの組織では、サードパーティのリスク管理が依然として手動のチェックリストや、サイロ化された部門ごとの対応に依存しています。このような断片的なアプローチでは、サプライチェーン全体のリスクを網羅的かつリアルタイムに把握することは極めて困難です。結果として、以下のような深刻な懸念が現実の脅威となります。

サプライヤーを標的としたサイバー攻撃による、自社データの漏えい

委託先のシステム脆弱性を突いた不正アクセス

ランサムウェア攻撃や人為的ミスによる、サプライチェーン全体の業務停止

内部関係者(退職者含む)による意図的・偶発的な情報漏えい

これらのインシデントは、一度発生すれば自社の事業継続性に深刻な影響を及ぼす可能性があります。

解決策:データと分析に基づく統合的リスク管理アプローチ
これらの課題に対処するためには、リスクを「データ」として捉え、テクノロジーを活用して管理する、データドリブンなアプローチが不可欠です。

ステップ1:サプライチェーンリスクの網羅的な可視化と定量的評価
まず、自社と繋がる全てのサードパーティやサプライヤーとのデータ連携ポイントをマッピングし、サプライチェーンの階層構造を可視化することが第一歩です。その上で、外部のリスクインテリジェンス(脅威情報、財務健全性、コンプライアンス違反履歴など)と、自社で収集したパフォーマンスデータを統合します。これにより、各社のリスクを客観的かつ定量的にスコアリングし、重点的に管理すべき対象を明確に特定できます。

ステップ2:継続的モニタリングによるリアルタイムなリスク検知
リスク評価は、一度きりのアセスメントで終わらせるべきではありません。自動化されたプロセスを通じて、サードパーティのセキュリティ体制やパフォーマンスを継続的に監視し、リスクの変化をリアルタイムで把握する仕組みを構築します。これにより、潜在的な脅威を早期に検知し、インシデントが発生する前にプロアクティブな対策を講じることが可能になります。

基盤となるデータセキュリティ戦略の再構築
効果的なリスク管理は、堅牢なデータセキュリティ基盤の上に成り立ちます。特にデジタルサプライチェーンにおいては、自社内と同等、あるいはそれ以上のレベルで、以下の対策をサードパーティにも適用・要請していく視点が重要です。

厳格なアクセス管理の徹底:
サプライヤーを含む全ての関係者に対して、業務に必要な最小限の権限のみを付与する「最小権限の原則」を徹底します。特に、システム管理者や経営層が持つ特権IDの管理は、サプライチェーン全体のリスクを低減する上で最優先課題です。

データの保護と可用性の確保:
連携するデータの暗号化、改ざん防止は必須です。それに加え、ランサムウェア等の攻撃を想定し、データのバックアップと、有事の際に迅速な復旧を可能にする隔離環境での保管といった、事業継続計画(BCP)の策定が求められます。

継続的な監視と評価:
監視システムの強化と定期的なリスク評価を通じて、自社およびサプライチェーン全体のセキュリティ体制の脆弱性を継続的に見直し、改善サイクルを回していくことが不可欠です。

結論:レジリエンスと競争優位性の確立に向けて
デジタルワークフローに組み込まれたリスク管理は、もはやコストではなく、事業の継続性とレジリエンスを確保するための戦略的投資です。データとテクノロジーを駆使してサプライチェーン全体のリスクをプロアクティブに管理することで、不確実性の高い時代においても揺るぎないデジタル基盤を構築し、持続的な成長と競争優位性を確立することができます。

データドリブン・アプローチで実現する統合的リスク管理(ERM)と事業継続性

テクノロジーリスクやサイバーセキュリティ、コンプライアンス対応といった個別のリスク管理が高度化する一方で、それらの情報を統合し、全社的な視点で経営判断に活かすことの重要性が増しています。経営層や取締役会からは、組織全体のリスクとコンプライアンスの状況を、客観的なデータに基づき可視化し、継続的に監視できる体制の構築が求められています。

第1ステップ:全社リスクの統合、管理、監視体制の構築
従来、部門ごとに管理されサイロ化しがちだったリスク情報を一元化し、データとして可視化することが、効果的なリスク管理の第一歩です。

1. リスクデータの一元化と全社横断での可視化
従業員の過失や不正行為といったオペレーショナルリスクから、サプライヤーに起因するリスクまで、あらゆるリスク情報を単一のプラットフォームに集約します。これにより、リスクの全体像を俯瞰的に把握し、部門間の報告形式を標準化することで、組織全体の倫理観と透明性を確保します。さらに、インシデント発生時には、その内容に基づき担当部署へ自動でエスカレーションする仕組みを構築し、迅速な初期対応と問題解決を実現します。

2. リスク報告プロセスの効率化とデータ収集の強化
リスク管理を日常業務に定着させるためには、従業員がリスクやインシデントを容易に報告できる環境が不可欠です。チャットボットやモバイルアプリ、ポータルサイトといった多様なインターフェースを提供することで、報告のハードルを下げ、現場からの一次情報の収集を促進します。これにより、リスクの早期発見とデータ精度の向上に繋がります。

3. データに基づくコンプライアンスと規制変更への対応
絶えず変化する各国の法規制や業界標準へのコンプライアンスを維持するためには、最新の規制情報をデータとして取り込み、自社の管理体制への影響度を継続的に評価する仕組みが有効です。これにより、規制変更に対してプロアクティブ(能動的)に対応し、経営層が求める説明責任を果たすことが可能になります。

4. 内部監査の高度化とリソースの最適化
一元化されたリスクデータと企業の業績データを分析し、リスク評価が特に高いビジネス領域やプロセスを特定します。その上で監査対象の優先順位を決定することで、監査業務の客観性と実効性を高めます。このリスクベースのアプローチは、繰り返し発生する監査指摘事項の根本原因を解消し、限られた監査リソースの最適な配分を可能にします。

第2ステップ:データ活用による事業継続性と運用レジリエンスの強化
全社的なリスクデータを活用することで、事業継続計画(BCM)の実効性を飛躍的に高め、予測不能な事態にも揺るがない「運用レジリエンス」を構築します。

1. データに基づいた実効性の高い事業継続計画(BCP)の策定
事業中断は、あらゆる企業にとって最も深刻なリスクの一つです。データに基づいた事業継続マネジメント(BCM)を導入することで、競合他社よりも迅速かつ効率的に事業を復旧させることが可能になります。

依存関係のマッピング: 重要な事業プロセスを特定し、それを支えるITシステム、拠点、人員、サプライヤーといった要素との依存関係をデータとして可視化します。

事業影響度分析(BIA)の実施: 潜在的なIT障害や自然災害といったリスクシナリオに基づき、各事業への影響を定量的に評価します。これにより、感覚論ではない、客観的なデータに基づいた復旧の優先順位付けが可能になります。

目標復旧時間(RTO)/目標復旧時点(RPO)の設定: 事業影響度分析の結果に基づき、各システム・業務における現実的かつ最適な復旧目標を設定します。

2. 計画の形骸化を防ぐ継続的なテストと改善
策定したBCPが形骸化しないよう、定期的な机上訓練や復旧テストを実施します。その結果をデータとして蓄積・分析することで、計画の脆弱性を特定し、継続的な改善サイクルを回します。

3. 情報のサイロ化を解消し、プログラム運用を効率化
事業継続計画(BCP)、IT災害復旧(DR)、リスク管理の情報を単一のプラットフォームで統合管理することで、「信頼できる唯一の情報源(Single Source of Truth)」を構築します。これにより、インシデント発生時の迅速な状況把握と、組織横断での一貫した意思決定を支援し、プログラム全体の運用をシンプルかつ効率的にします。

データドリブン・アプローチで実現するクラウドセキュリティガバナンス

クラウド利用の拡大に伴い顕在化する、構成設定データ管理の課題
AWS、Microsoft Azure、GCPといったパブリッククラウドや、Microsoft 365、BoxといったSaaSのビジネス利用が標準となる中、これらのサービスが持つ機能の高度化・複雑化に伴い、新たなセキュリティリスクが顕在化しています。

特に、ゼロトラストアーキテクチャの普及などを背景に、クラウド環境の構成設定の不備や、意図しない権限設定のミスを起点とした情報漏えいインシデントが深刻な問題となっています。事実、米ガートナー社は「2025年までに、クラウドで発生するセキュリティインシデントの99%は、顧客側の設定ミスに起因するものになる」と予測しており、この問題が企業のITガバナンスにおける最重要課題の一つであることを示唆しています。

なぜ従来型の「診断サービス」では不十分なのか:静的評価の限界
このような背景から、クラウド環境の設定値を専門家が点検する「クラウド設定診断サービス」の需要が高まっています。この診断は、システム構成、アクセス権限、監査ログ設定などを第三者の視点で評価し、潜在的なリスクを洗い出す上で有効な手段です。

しかし、多くの診断サービスは、特定時点の構成情報を評価する「スナップショット評価」に留まっています。年に一度の健康診断のように、その時点での問題点を把握することはできますが、日々変化し続けるクラウド環境の動的なリスクを継続的に管理することは困難です。診断後に新たなリソースが作成されたり、別の担当者によって権限が変更されたりといった、診断後の構成ドリフト(意図しない設定変更)を検知できないという構造的な課題を抱えています。

これは、静的な「点」の評価では、時間軸と共に変化する「線」のリスクを捉えきれないことを意味します。真のクラウドガバナンスを実現するには、このギャップを埋める新たなアプローチが不可欠です。

解決策:構成・ログデータを活用した継続的リスク監視プラットフォーム
課題解決の鍵は、単発の「診断」から、**データを活用した「継続的な監視と改善」**へとパラダイムシフトすることです。具体的には、複数のクラウドサービスから構成情報と操作ログデータを継続的に収集し、一元的に分析するプラットフォームの導入が有効な解決策となります。

このアプローチは、主に以下のステップで実現されます。

データの一元化: AWS, Microsoft 365, Boxなど、利用中の様々なクラウドサービスから、API連携などを通じて構成設定データと操作ログデータを自動的かつ継続的に収集し、単一のデータストアに集約します。

リスクの可視化とベースライン管理: 収集した構成設定データを、CISベンチマークのような業界標準のベストプラクティスや、自社で定めたセキュリティポリシー(ベースライン)と常時比較・分析します。ベースラインから逸脱した設定をリスクとして自動検知し、ダッシュボード上で定量的に可視化します。

動的な変更の追跡と分析: 「いつ、誰が、どのリソースの設定を、どのように変更したか」といった操作ログを分析することで、全ての変更履歴を追跡可能にします。これにより、設定不備が発生した際の原因究明を迅速化するだけでなく、リスクの高い操作(例:管理者権限の付与、ファイアウォール設定の変更など)をリアルタイムに検知し、アラートを発するプロアクティブなリスク管理が実現します。

ITサービス事業者におけるビジネスモデルの進化
このデータドリブンな継続的監視のアプローチは、クラウド診断サービスを提供するIT事業者にとっても、新たなビジネス機会を創出します。

単発の診断レポートを提供するビジネスモデルから、顧客のクラウド環境を継続的に監視・分析し、改善策を提案する**マネージド・セキュリティ・サービス(MSSP)**へと事業を進化させることが可能になります。これは、脆弱性対策や運用支援といった顧客の真のニーズに応えることで、アップセルやクロスセルに繋がり、安定的かつ高付加価値な収益基盤の構築を実現します。SaaS型の自動診断ツールとの差別化を図り、顧客との長期的なリレーションシップを築く上で、極めて有効な戦略となります。

データドリブン経営を阻む「データ基盤の分断」という課題

AIやビッグデータ解析技術の高度化を背景に、経営判断の精度とスピードを向上させるデータ活用の重要性は、もはや論を俟ちません。多くの企業にとって、データドリブン経営を支えるインフラ戦略の中核として、スケーラビリティや俊敏性に優れるクラウドの活用は不可欠な要素となっています。

しかしその一方で、データの活用は新たな、そしてより複雑な課題に直面しています。

なぜ、データは「活用できる状態」にならないのか
事業の成長やDXの推進に伴い、データはオンプレミスの基幹システム、複数のパブリッククラウド、そしてIoTデバイスなどのエッジ環境にまで、分散・散在するようになりました。

この**「データのサイロ化」**は、データ活用における深刻なボトルネックとなります。特に、機密性の高い個人情報や顧客データなどは、セキュリティ、コンプライアンス、あるいはデータ主権の観点から、特定のクラウドへの全面的な移行が現実的でないケースも少なくありません。

結果として、多くの企業はオンプレミスとクラウドが混在するハイブリッドな環境を運用せざるを得ませんが、この環境の複雑性が、データ活用をさらに困難にしています。具体的には、以下のような課題が顕在化しています。

データ形式の不整合と変換コスト: システムごとにファイル、オブジェクト、ストリーミングといった異なるデータ形式が乱立。分析に利用する際には、データ形式を変換し、別の環境へコピーするETL処理に多大な時間とコンピューティングリソースを要します。

一貫性のないセキュリティポリシー: 環境ごとにセキュリティの仕組みや設定が異なるため、組織横断で一貫したデータガバナンスを適用することが極めて困難です。これが、データ活用に対する心理的・制度的なブレーキとなっています。

運用管理の複雑化: データソースの数だけ管理ツールが増加し、インフラ全体の維持・管理コストと運用負荷が増大し続けています。

解決策:仮想統合データ基盤「データファブリック」
これらの根本的な課題を解決するアーキテクチャが**「データファブリック」**です。データファブリックは、データの物理的な保管場所や形式の違いを抽象化し、組織全体のデータを仮想的に一つの論理的なデータ基盤として扱うことを可能にします。

データファブリックがもたらす3つの価値
1. シームレスなデータアクセスによる分析の高速化
データファブリックは、多様なデータ形式へのネイティブアクセスを可能にします。例えば、あるシステムでファイルとして書き込まれたデータを、別の分析システムからオブジェクト形式で直接読み込むといった処理が実現できます。これにより、分析の都度行っていたデータのコピーやフォーマット変換処理が不要となり、データアナリストやサイエンティストがデータ準備に費やす時間を劇的に短縮し、より本質的な分析業務に集中できる環境を構築します。

2. 統合されたデータガバナンスによる安全なデータ活用
環境を横断して、認証・認可、暗号化といったセキュリティポリシーを一元的に適用できます。例えば、「ドイツ国内のデータは物理的に国外へ持ち出してはならない」といったコンプライアンス要件(ジオフェンシング)に対応しつつ、権限を持つ国内外のユーザーには分析を許可する、といった柔軟かつ堅牢なアクセス制御が可能です。これにより、セキュリティを担保しながらデータ活用の範囲を安全に拡大できます。

3. データ管理の最適化とコスト削減
データファブリックは、データ管理を一元化し、運用を大幅に簡素化します。例えば、複数の製造拠点で生成される大量の生データ(Raw Data)全てを本社に転送するのではなく、各拠点で一次処理を行い、得られたインサイト(洞察)となるデータのみを拠点間で自動的に複製する、といった高度なデータ運用が可能になります。これにより、ストレージコストやネットワーク帯域を最適化し、データ基盤全体のTCO(総所有コスト)を削減します。