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クラウド(34)

データ主導によるクラウド移行戦略の策定

クラウドへの移行は、単なるインフラの移設ではなく、データとアプリケーション資産を最適化し、ビジネス価値を最大化するための戦略的施策です。移行プロジェクトの成否は、事前のデータ主導アセスメントと、それに基づく最適な移行計画の策定にかかっています。本稿では、移行の成功に不可欠な分析要素を解説します。

現状分析と移行計画策定のためのデータアセスメント
移行対象となるアプリケーション群について、現状の利用状況を定量的に把握・分析し、各々の要件とシステム間の依存関係を可視化することが、計画策定の第一歩となります。

コンピューティングリソースの最適化
アプリケーションの特性に基づき、クラウド上で最も費用対効果の高いコンピューティングリソースを選択します。

実行環境の分析: 現在、アプリケーションは仮想マシン(VM)とコンテナのどちらで稼働していますか。移行を機にコンテナ化へ移行する計画はありますか。これは、将来的な運用効率と俊敏性に大きく影響します。

パフォーマンス要件の定量化: CPU使用率、GPUの必要性、特殊なハードウェア要件などをログや監視ツールから定量的に評価します。このデータに基づき、クラウド上で過不足のない適切なインスタンスタイプ(サイジング)を選定することが、コスト最適化の鍵となります。

データ特性に基づくストレージとデータサービスの選定
データの特性を正しく理解することで、パフォーマンスとコストのバランスが取れたデータサービスを選定できます。

ストレージタイプの分類: アプリケーションが利用するデータは、ブロック、ファイル、オブジェクトのいずれの形式ですか。それぞれのアクセスパターン(IOPS、スループット)と容量を分析し、最適なストレージ階層を設計します。

データアクセスパターンの分析: ランダムアクセスとシーケンシャルアクセスのどちらが主であるか、またデータの読み書きの頻度を分析します。これにより、高性能なストレージが必要か、低コストなアーカイブストレージが適しているかを判断します。

周辺データサービスの要件定義: キャッシュ、メッセージキュー、ストリーミングといった付随サービスの利用状況と性能要件を明確化します。これらのサービスをクラウドのマネージドサービスに置き換えることで、運用負荷の削減が期待できます。

データベース移行の戦略的アプローチ
多くのアプリケーションはデータベースと密接に連携しており、その移行方式はシステム全体の性能を左右する最重要検討項目です。

依存関係のマッピング: 各アプリケーションが接続するデータベース(Oracle, Microsoft SQL Serverなど)を特定し、その依存関係をマッピングします。

移行方式の決定: データベースをアプリケーションと同時に移行しますか。その際、既存のプラットフォームを維持(リフト&シフト)するのか、クラウドネイティブなデータベースサービスへ移行(リプラットフォーム)するのかを、コスト、性能、運用負荷の観点から決定します。

遅延(レイテンシー)の評価: アプリケーションのみを移行する場合、オンプレミスのデータベースとの間に生じるネットワーク遅延が、ビジネス要件を満たせるか事前に検証・評価することが不可欠です。

ビジネス継続性を担保するデータ保護と可用性設計
アプリケーションの重要度に応じて、ビジネスインパクトを最小化するためのデータ保護戦略を策定します。

SLAの再定義: データ保護と事業継続に関する既存のSLA(サービスレベル合意)を、クラウド環境における**目標復旧時間(RTO)と目標復旧時点(RPO)**という具体的な指標に落とし込みます。

保護レベルの階層化: 全てのアプリケーションに一律の保護を適用するのではなく、そのビジネス上の重要度に応じてバックアップ頻度やDR(災害復旧)構成のレベルを階層化し、投資を最適化します。

可用性アーキテクチャの設計: 従来のインフラ主導の冗長構成に加え、Kubernetesのようなオーケストレーションツールを活用した、アプリケーションレベルでの自己回復機能の導入も検討します。移行後も、定義したSLAを確実に遵守できるアーキテクチャを設計することが重要です。

データ分析に基づくクラウドコストの最適化戦略

クラウド利用の拡大に伴い、そのコスト管理は単なる経費削減の課題ではなく、データに基づいた継続的な最適化が求められる経営課題となっています。本稿では、クラウドコストをデータ分析の観点から解き明かし、その最適化アプローチを解説します。

課題の特定:予測不能なコストの構造をデータで可視化する
多くの企業がクラウドへ移行した後、予測不能なコストの増大という問題に直面します。その主な要因は、以下のデータポイントから特定できます。

データ転送料金(イグレスコスト)の分析: クラウド外部へのデータ転送時に発生するイグレス料金は、特に注意すべき変動費です。どのサービスが、どのくらいの頻度で、どれだけのデータを転送しているかを定量的に監視・分析し、コスト増の根本原因を特定する必要があります。

請求データの複雑性: クラウドプロバイダーから提供される請求データは、項目が多岐にわたり、非常に複雑です。このデータをただ受け取るのではなく、BIツールなどを活用してダッシュボード化し、「どの部門が」「どのプロジェクトで」「どのリソースに」コストを費やしているのかを、関係者全員が理解できる形で可視化することが第一歩です。

リソースの乱立と過剰プロビジョニング: 各部門が自由にリソースを起動できる環境は、ビジネスの俊敏性を高める一方で、不要なリソースの放置や過剰なスペックでの確保(過剰プロビジョニング)を招きがちです。これらの「無駄」を特定し、削減することがコスト最適化の鍵となります。

コスト最適化のためのデータドリブン・アプローチ
前述の課題に対し、データに基づいた下記のアプローチが有効です。

コストと利用状況の統合監視: まず、コスト管理ツールや監視ツールを導入し、複数のクラウド環境やアカウントのコストとリソース使用率を一元的に可視化する基盤を構築します。これにより、リアルタイムでのコスト異常検知や、非効率なリソースの特定が可能になります。

自動スケーリングの費用対効果分析: 自動スケーリングは便利な機能ですが、トラフィックの急増減に対応する際、意図せず高コストを招く場合があります。アクセスログとコストデータを突き合わせ、スケーリングの挙動がビジネスインパクトに見合っているかを定期的に分析し、ポリシーをチューニングすることが重要です。

利用実績データに基づく購入オプションの最適化: クラウド利用が安定してくると、従量課金モデルよりも、リザーブドインスタンスやSavings Plansといった長期契約モデルの方がコスト効率は高まります。過去の利用実績データを分析して将来の需要を予測し、これらの購入オプションを最適に組み合わせることで、大幅なコスト削減が期待できます。

持続的な最適化を実現する開発・運用文化(FinOps)の醸成
コスト最適化は一度きりのプロジェクトではありません。開発(Dev)と運用(Ops)、そして財務(Finance)が連携し、データに基づいて意思決定を行うFinOpsという文化を組織に根付かせることが、持続的な成果を生み出します。

Infrastructure as Code (IaC)によるガバナンス: IaCを用いてインフラ構成をコード化することで、デプロイメントが標準化され、コストに関するポリシー(例:特定の高価なインスタンスタイプを禁止する)を自動的に適用できます。これは、ハイブリッドクラウドのような複雑な環境において、コストガバナンスを徹底するための基盤技術となります。

自動化による統制と俊敏性の両立: アプリケーションのデプロイメントからインフラの管理まで、一連のプロセスを自動化することは、ヒューマンエラーを削減し、コスト管理を効率化します。特に、複数の環境にまたがるサービスやAPIと連携する現代のアプリケーションにおいて、この自動化は、安定稼働とコスト統制を両立させるために不可欠です。

最終的に、クラウドコストの管理とは、技術的な指標とビジネス上の価値をデータで結びつけ、継続的に改善していくプロセスそのものと言えます。

クラウドネイティブ技術活用におけるデータ戦略:価値最大化とリスク管理

クラウドネイティブ技術への移行は、単なるインフラの刷新に留まらず、データに基づいた意思決定を通じてビジネス価値を最大化する絶好の機会です。本稿では、代表的な技術であるコンテナの活用法と、見落とされがちなクラウドサービス上のデータガバナンスについて、データ分析の観点から解説します。

1. コンテナ技術によるリソース最適化とコスト効率のデータ分析
コンテナは、アプリケーションを自己完結型のパッケージとして稼働させる技術であり、その真価はリソース利用の効率性をデータで証明できる点にあります。

リソース使用率の可視化と最適化: コンテナ環境では、CPUやメモリなどのリソース使用率をコンテナ単位で細かく計測できます。このデータをリアルタイムで分析することで、過剰なリソース割り当て(プロビジョニング)を客観的な根拠に基づいて是正し、コストの無駄を排除することが可能です。

需要予測に基づく自動スケーリング: アクセスログや販売データなどのビジネス指標と、リソース使用率のデータを組み合わせることで、精度の高い需要予測モデルを構築できます。このモデルに基づき、コンテナ数を自動で増減させることで、機会損失を回避しつつ、閑散期のコストを最小限に抑制するデータドリブンな運用が実現します。

継続的なTCO(総所有コスト)分析: 特定のクラウドプロバイダーに固定されるのではなく、各社の価格モデルや性能データを定期的に収集・分析することが重要です。ワークロードの特性データを基にコストシミュレーションを行い、最も費用対効果の高い環境を選択・移行するための客観的な判断材料とします。

コンテナの導入は、コスト削減だけでなく、リソース配分をデータに基づいて科学的に管理する体制への移行を意味します。

2. Microsoft 365におけるデータガバナンスと潜在的リスクの定量的評価
Microsoft 365の導入は業務効率を飛躍的に向上させる一方、そのプラットフォーム上で生成・保管される膨大な量のデータをいかに統制し、リスクを管理するかという新たな課題を生み出します。

データライフサイクル管理の重要性: 企業活動で生じるデータは、その種別や機密性に応じて、保管期間や廃棄要件が法的に定められている場合があります。Microsoft 365上のデータに対し、これらのコンプライアンス要件を満たすデータ分類と保持ポリシーを定義・適用することが不可欠です。

監査証跡としてのデータ価値: 訴訟や監査の際に必要となるのは、「誰が、いつ、どのデータにアクセスし、何をしたか」を証明する客観的な証拠、すなわち監査ログデータです。Microsoft 365の標準機能で取得できるログには限界があるため、法的要件を満たす長期保管と、有事の際に迅速なデータ抽出・提出が可能な仕組みを事前に構築しておく必要があります。

リスクの予兆検知: 内部不正やサイバー攻撃といった脅威は、データアクセスパターンの異常として現れることがあります。Microsoft 365の監査ログや操作ログを継続的に分析し、平時とは異なる振る舞いを自動検知することで、インシデントの発生を未然に防いだり、被害を最小化したりするプロアクティブなリスク管理が求められます。

クラウドサービスの活用を成功させるには、その利便性を享受するだけでなく、そこで扱われるデータを資産として捉え、保護・統制するためのデータガバナンス戦略を並行して推進することが極めて重要です。

データワークロードの戦略的配置:クラウド、エッジ、オンプレミスの最適化

現代のIT戦略において、「クラウドか、オンプレミスか」という二者択一の議論は終わりを迎え、「どのデータを、どこで処理するのが最適か」を問うデータ中心の最適配置、すなわち「クラウドスマート」なアプローチが主流となりつつあります。本稿では、データワークロードの特性に基づいた最適な実行環境を選定するための分析フレームワークを提示します。

1. ワークロード配置を決定するためのデータ分析フレームワーク
クラウドへの移行(クラウド化)や、クラウドからの回帰(脱クラウド)は、感情や時流で判断するものではなく、定量的なデータ分析に基づいた経営判断であるべきです。特定のワークロードの配置を決定する際には、以下の指標を総合的に評価するフレームワークが不可欠です。

データ転送量とTCO(総所有コスト)の試算: クラウドの利用料金だけでなく、データ転送に伴うネットワーク帯域コスト(特にイグレスコスト)もTCOに含めて試算します。大量のデータを頻繁にクラウド外へ移動させるワークロードは、オンプレミスの方がコスト効率に優れる可能性があります。

処理性能とレイテンシー(遅延)要件の分析: リアルタイム性が要求される処理(例:工場の生産ライン制御、自動運転)では、データ発生源との物理的な距離が性能のボトルネックになります。許容されるレイテンシーをデータで定義し、クラウドのネットワーク遅延がその要件を満たせるか評価することが重要です。

データアーカイブのコストと可用性: 長期保管が必要なデータのアーカイブコストは、クラウドとオンプレミスで大きく異なります。データのアクセス頻度と法的保管要件を分析し、最もコスト効率の高い保管戦略を策定します。

セキュリティとコンプライアンス要件: データの種類によっては、物理的な保管場所が法的に定められている場合があります(データ主権)。これらのコンプライアンス要件を満たす実行環境を選択することが絶対条件となります。

「脱クラウド」とはクラウド戦略の失敗ではなく、この分析フレームワークに基づき、特定のワークロードをより最適な環境へ再配置する、合理的なデータ戦略の一環と捉えるべきです。

2. エッジコンピューティング:リアルタイムデータ処理の新たな選択肢
IoTデバイスやセンサーの普及により、データの発生源はますます分散しています。このトレンドに対し、**データ発生源の近くで一次処理を行う「エッジコンピューティング」**が、新たなデータ処理アーキテクチャとして注目されています。

エッジは、前述の分析フレームワークにおいて、超低レイテンシーとリアルタイム分析が要求されるワークロードに対する最適解となり得ます。例えば、店舗の来客数に応じた動的なサービス変更や、工場の機器異常の予兆検知など、即時性がビジネス価値に直結するアプリケーションに理想的な環境を提供します。

全てのデータを中央のクラウドに送るのではなく、エッジで処理・分析し、結果やインサイトのみをクラウドに集約することで、ネットワーク帯域の圧迫を防ぎ、全体的なコスト最適化に貢献します。

3. 戦略的配置を支える標準技術基盤
ワークロードをクラウド、オンプレミス、エッジ間で柔軟に移動させる「クラウドスマート」戦略の実現には、特定の環境に依存しないポータビリティ(可搬性)の高い技術基盤が不可欠です。

その中核となるのが、コンテナ技術と、その管理プラットフォームであるKubernetesです。アプリケーションをコンテナ化することで、実行環境の違いを吸収し、どこでも同じように動作させることが可能になります。

さらに、リアルタイムデータストリーミング基盤であるKafkaなどを組み合わせることで、分散したコンテナ間で大量のデータを高速に連携させることができます。これらのオープンソース技術を標準として採用することは、特定のベンダーにロックインされることを避け、データワークロードの戦略的な配置を継続的に見直すための技術的な前提条件となります。

結論として、もはや全てのアプリケーションがクラウドにあるべきという時代ではありません。それぞれのデータとアプリケーションの特性を深く分析し、ビジネス価値を最大化する場所で稼働させることこそが、これからのデータ戦略の要諦です。

Microsoft 365の標準機能に潜む、データガバナンス上の死角

Microsoft 365は優れた業務基盤ですが、その標準機能だけでは、データ保護の観点から看過できないギャップと運用上の限界が存在します。多くの機能は短期的なデータ保持を前提としており、設定によってはデータが意図せず自動消去されるリスクを内包しています。これは、インシデント発生後のフォレンジック調査や、eDiscovery(電子情報開示)への対応時に「必要なデータが存在しない」という致命的な事態を招きかねません。

さらに、各種ログやメールデータが分散管理され、アクセス権限の管理が属人化しているケースも散見されます。このような状態は、監査や法的要請に対して迅速かつ正確なデータ提出を困難にし、企業にとって定量化しにくい潜在的リスクとなっています。現代の企業経営において、断片的なデータ保護ではなく、継続的かつ統合されたデータマネジメント体制の構築は、もはや経営課題そのものです。

データ保護と利活用を両立する、統合データマネジメント戦略
本稿では、Microsoft 365環境における潜在的リスクを可視化し、Acronis Cyber Protectが実現する統合的なデータ保護戦略をご紹介します。

セキュリティ対策、バックアップ、長期アーカイブ、そしてリーガルホールドといった、従来は個別の製品で対応していた機能を一元化します。これにより、複雑化する運用を簡素化しつつ、訴訟や監査といった有事の際に、データの完全性と可用性を担保できる、信頼性の高いデータガバナンス体制を構築する具体的な手法を解説します。

データドリブン経営の成否を分ける、データ資産の管理体制
AIによる需要予測やビッグデータ解析が経営判断の精度を左右する現代において、データは事業活動の成果物であると同時に、競争優位性を生み出すための重要な「資産」です。

このデータ資産を有効活用するための基盤として、初期投資の抑制、運用負荷の軽減、そして事業環境の変化に柔軟に対応できるスケーラビリティを持つクラウドが、データドリブン経営を支えるインフラ戦略の中核に位置付けられているのは論理的な帰結です。

「クラウドファースト」の落とし穴:データ主権とコンプライアンス遵守の壁
しかし、全てのシステムをクラウドへ移行する「クラウド全面移行」には、データマネジメント上の課題が依然として存在します。特に、個人情報や機密情報といった重要データの取り扱いが大きな障壁となります。

データの保管場所が国外になることによるデータ主権(データレジデンシー)の問題や、GDPRに代表される各国のプライバシー保護法規制への準拠など、コンプライアンスの観点から、パブリッククラウドでの一元管理が統制上のリスクを増大させると判断されるケースは少なくありません。

一方で、自社でインフラを維持・管理し続けるオンプレミス運用も、専門人材の不足や運用リソースの制約、ビジネススピードへの追従性といった観点から、その限界が顕在化しつつあります。

データガバナンスと俊敏性を両立するハイブリッドクラウドという選択肢
ここでは、クラウドの俊敏性と拡張性を享受しつつ、オンプレミスの堅牢性によってデータ主権や事業継続計画(BCP)を担保する、シーイーシー提供の「ハイブリッドクラウドセンター」について解説します。

オンプレミスと各種クラウドサービスを最適に組み合わせ、企業のデータ戦略やガバナンス要件に応じた効果的なシステム環境を構築するための、具体的なユースケースを交えてご紹介します。

このような課題認識を持つ担当者・責任者の方へ
クラウド活用による事業メリットを最大化しつつ、データガバナンス上のリスクを定量的に評価し、管理したい経営層および事業責任者の方

ITインフラの運用コスト最適化と、コア業務へのリソース集中を目指す情報システム部門の責任者の方

データ主権やコンプライアンス要件を遵守しながら、クラウドの利活用を推進したいデータ管理・セキュリティ責任者の方

レガシーシステムの技術的負債を解消し、データ利活用を促進する次世代ITインフラを構想している方

個人情報や機密性の高い研究開発データなど、特定のデータの保管・管理に厳格な統制を求めている方

Microsoft 365のデータ保護は「ユーザー責任」:その認識と対策は十分ですか?
多くの企業で生産性向上の中核を担うMicrosoft 365ですが、そこに保管されている「データ」に対する保護責任の所在を正しく認識できているでしょうか。

ランサムウェア攻撃の高度化、自然災害、そして内部不正や人為的ミスによる情報漏洩など、データ損失リスクは増大しています。Microsoftがサービスレベルで保証するのは、あくまでサービスの「可用性」であり、「責任共有モデル」に基づき、データの保護と管理は全面的にユーザー企業の責任となります。

Microsoft 365の標準機能にも一部のデータ復元機能は存在しますが、その対象範囲や保持期間には厳格な制約があり、事業継続を脅かすインシデントへの備えとしては不十分です。ある調査では、約7割の企業が「Microsoft 365にバックアップは不要」と誤認しているとのデータも存在します。

事実として、データ損失の約7割は、従業員による誤操作や意図的なデータ削除といった内部要因に起因します。外部脅威だけでなく、内部リスクへの対策も含めたデータ保護戦略の再構築が、今まさに求められています。

Microsoft 365のアーキテクチャに起因する、データリストアの運用課題

Microsoft 365環境におけるデータ保護運用には、そのアーキテクチャに起因する、見過ごされがちなリスクポイントが複数存在します。

例えば、Teamsのデータは、チャット履歴がExchange Onlineに、共有ファイルがOneDriveやSharePointに分散して格納されます。この構造は、インシデント発生時に特定のデータを復元しようとする際、データオブジェクトの特定とリストア手順を複雑化させ、結果として復旧時間目標(RTO)の達成を著しく困難にします。

また、IDライフサイクル管理とデータ保持ポリシーの連携不備も深刻な問題です。退職者アカウントの削除後、関連データは30日という短期間で完全削除されるため、法的要件や内部監査で求められる長期保持のニーズに対応できず、データ消失後に発覚するケースが後を絶ちません。

さらに、全サービスへのアクセスを司る認証基BANである「Entra ID(旧Azure AD)」の保護や、バックアップデータ自体を標的とするランサムウェアへの対策は、標準機能だけでは極めて不十分と言わざるを得ません。多くの情報システム部門が抱える「有事の際に、本当にデータを復旧できるのか」という懸念は、これらの構造的課題に起因しています。

データ損失インシデントから学ぶ、事業継続を脅かす復旧シナリオの現実
Microsoft 365環境において、データ復旧の失敗は現実のインシデントとして発生しています。退職者のアカウント削除に伴い、後任者が必要とする重要データが完全に失われたケース。ランサムウェアに感染し、OneDrive上の全ファイルが暗号化され、有効な復元ポイントが存在しなかったケース。これらは、Microsoft 365のデータ保持に関する仕様や責任共有モデルへの誤解から生じる典型的なデータ損失シナリオです。

これらのインシデント分析から見えてくるのは、事業継続を担保するためには、標準機能の範囲を超えたデータ保護戦略が不可欠であるという事実です。

本稿では、これらの課題に対する具体的な解決策として「Barracuda Cloud-to-Cloud Backup」を提示します。ファイル・フォルダ単位での迅速なリストア、Entra IDを含む認証基盤の保護、容量無制限のバックアップストレージ、そしてバックアップデータ自体の健全性を確保するランサムウェアスキャン機能など、より確実性の高いデータ復旧能力をいかにして構築できるかを解説します。

また、Microsoft 365の導入支援パートナー企業にとっても、顧客の潜在的リスクを指摘し、プロアクティブなデータガバナンス強化策を提案することは、サービスの付加価値を高め、顧客との信頼関係を深化させる絶好の機会となります。

Microsoft 365への業務依存度向上に伴い顕在化するデータ損失リスク
リモートワークの浸透により、Microsoft 365は多くの企業にとって業務遂行に不可欠なプラットフォームとなりました。しかし、この業務プロセスへの高い依存度は、データ損失が発生した際の事業インパクトを飛躍的に増大させます。

ランサムウェア攻撃、内部不正、あるいは単純なヒューマンエラーによるデータ消失は、単なる情報資産の喪失にとどまらず、事業の停滞や信用の失墜といった、より深刻な経営リスクへと直結します。プラットフォームの利便性を享受すると同時に、そこに集約されるデータ資産を保護する責務が、利用者側には強く求められています。

データ保護の「最後の砦」を無力化する攻撃手法と、その対策
バックアップは、データ保護における「最後の砦」と位置付けられてきました。しかし、近年の高度なランサムウェア攻撃は、この前提を根底から覆します。攻撃者はデータの暗号化を実行する前に、まずバックアップシステム自体を探索し、削除または無力化することを最初の標的とします。これにより、企業からデータ復旧という選択肢を奪い、身代金要求を有利に進めるのです。

Microsoft 365上のデータもこの脅威と無縁ではありません。クラウド環境特有の設定不備(Misconfiguration)や過剰なアクセス権限の付与が侵入の起点となり、データ損失に繋がるケースが報告されています。自社のデータに対する責任範囲を正しく認識し、攻撃者の戦術を想定した上で、堅牢なバックアップアーキテクチャを設計することが急務です。

データガバナンスを強化し、運用効率を最適化するデータ保護ソリューション
こちらでは、Microsoft 365におけるデータ保護に関して見過ごされがちな5つの盲点を特定し、それに伴う事業リスクを分析します。

その上で、データ保護レベルを高度化し、かつ運用負荷を軽減する具体的なソリューションを解説します。事業基盤となったMicrosoft 365の安定運用を実現し、データ損失リスクを最小化したいと考えるシステム管理者およびセキュリティ担当者の方は、ぜひご検討ください。

データ活用基盤としてのクラウドストレージ:その一方で顕在化するデータガバナンスの課題

デジタルトランスフォーメーション(DX)の潮流を受け、多くの企業ではデータドリブン経営の実現に向け、Boxに代表されるクラウドストレージへのデータ資産集約を加速させています。これにより、組織横断的なデータ活用やコラボレーションが促進される一方で、新たなデータガバナンス上の課題が顕在化しています。

特に、テレワークやネットワーク分離環境といった多様なワークスタイルにおいて、従来の静的なアクセス権限モデルでは対応が困難になっています。単一アカウントに付与された権限が、アクセスのコンテキスト(場所、ネットワーク、デバイスなど)を問わず一律に適用されるため、内部ネットワークからのアクセスを前提とした権限設定が、そのまま外部からのアクセスにも適用されてしまうというリスクが生じます。

これは、データ分類(Data Classification)に基づいて定義されるべき情報資産へのアクセスレベルと、実際の運用が乖離する原因となり、深刻なセキュリティリスクおよびコンプライアンス上の懸念となっています。

静的な権限モデルの限界と、動的なアクセス制御へのニーズ
容量無制限といった特性を持つクラウドストレージの価値を最大化するには、あらゆる業務データをそこに集約し、一元的に管理・活用できる環境が理想です。しかし、これを実現するためには、前述のアクセス制御の問題を解決しなければなりません。

具体的には、利用者のコンテキスト(例:社内ネットワークからのアクセスか、社外の公衆Wi-Fiからのアクセスか)をシステムが自動的に識別し、事前に定義されたポリシーに基づいて、許可される操作や可視化されるデータ範囲を動的に変更する「動的アクセス制御(Dynamic Access Control)」の仕組みが不可欠です。

既にBoxを導入済みの企業においても、この動的アクセス制御を実装することは、データガバナンスを一層強化し、クラウドストレージの利活用レベルを次の段階へと引き上げるための重要な戦略的テーマとなります。

データガバナンスを高度化する、コンテキストベースのアクセス制御ソリューション
ここでは、Box活用におけるデータガバナンス課題に対する、具体的な解決策をご紹介します。

在るクラウドサービスは、ユーザーのネットワーク環境というコンテキストを認識し、Boxへのアクセス権限をリアルタイムかつ自動的に変更するソリューションです。これにより、例えば、社内ネットワークからは全フォルダへのアクセスを許可し、テレワーク環境からは特定のプロジェクトフォルダのみアクセスを許可するといった、きめ細やかな制御を実現します。

この「フォルダの出し分け」機能は、単にアクセスを許可・拒否するだけでなく、ユーザーの状況に応じてデータそのものの可視性を制御することで、「知る必要のある者だけが知る(Need-to-Know)」という情報セキュリティの基本原則を徹底します。

さらに、これらの制御を1ユーザー1アカウントで実現できるため、アカウント管理の煩雑化やライセンスコストの増大を招くことなく、運用効率を最適化します。これは、IPアドレス制限のような静的な制御とは一線を画す、ゼロトラストセキュリティの「決して信頼せず、常に検証する」という思想をデータアクセス層で具現化するアプローチです。

従来の画一的なアクセス制御から脱却し、データ資産の保護と利便性を高い次元で両立させる、これからのクラウドデータ活用に不可欠なソリューションと言えます。

俊敏性とガバナンスの両立:データ戦略の観点から再定義するハイブリッドクラウド

クラウドの俊敏性を事業競争力に繋げる一方で、データガバナンスをいかにして担保するか。これは、現代のデータ戦略における中心的な課題です。特に、データの物理的な保管場所を問われる「データレジデンシー」の要件や、事業継続計画(BCP)の観点からの統制は、クラウド活用を推進する上での重要な検討事項となります。

本稿では、シーイーシーが提供する「ハイブリッドクラウドセンター」を題材に、クラウドとオンプレミスを戦略的に組み合わせ、データの特性や機密性レベルに応じて最適な配置を行うことで、俊敏性とガバナンスを両立させるためのアーキテクチャと実践的なアプローチを、具体的なユースケースを交えて解説します。

このような戦略的課題を抱える責任者・担当者の方へ
クラウド導入による事業価値を最大化しつつ、データガバナンスやセキュリティリスクを統制したい経営層、CDO(Chief Data Officer)、CISO(Chief Information Security Officer)の方

既存のオンプレミス資産を活かしながら、レガシーシステムの維持コスト最適化と、事業部門が求める俊敏性を両立させたいCIO(Chief Information Officer)、ITインフラ責任者の方

データレジデンシーや業界特有のコンプライアンス要件を遵守する必要があり、パブリッククラウドへの全面移行にリスクを感じているデータ管理責任者の方

金融、医療、製造(研究開発)など、機密性の高い情報資産の管理と活用における最適なインフラ戦略を模索している方

クラウドVDI活用を阻む2つの制約:「データレジデンシー」と「ユーザーエクスペリエンス」
クラウドVDI(仮想デスクトップ)は、セキュアなリモートワーク環境の実現やIT資産管理の効率化に貢献する一方、本格導入にあたっては2つの重大な制約条件が存在します。

一つ目は「データレジデンシー」の問題です。特に金融、医療、公共分野、あるいは企業の機密情報を扱う部門では、データが物理的に国内に保管されることが法規制やガイドラインによって厳格に求められます。多くのパブリッククラウドサービスではデータ保管場所の物理的なトレーサビリティが不透明な場合があり、これがクラウドVDI採用のブロッカーとなっています。

二つ目の制約は、エンドユーザーの生産性に直結する「パフォーマンス」です。VDI環境で頻発する操作レスポンスの遅延は、ユーザーエクスペリエンスを著しく低下させます。これは、特にグラフィック処理や大量のデータアクセスを伴う専門業務において顕著であり、システムの利用定着を妨げ、投資対効果を損なう直接的な原因となります。

次世代ハイブリッドVDI:データ主権とパフォーマンスの両課題を解決するアプローチ
これらの二律背反する課題を解決するソリューションとして、次世代のハイブリッドVDI環境があります。

クラウドを活用することで、全てのデータとコンピューティングリソースを完全に日本国内で完結させることが可能となり、データレジデンシーに関するコンプライアンス要件をクリアします。

同時に、高性能なGPUを仮想デスクトップに割り当てることで、CAD/CAM、BIM、データ分析、AI開発といった高負荷なアプリケーションも、ローカルPCと遜色のない快適なレスポンスで実行できます。

このアーキテクチャは、厳格なデータガバナンスと、データ活用を加速させる高性能な業務環境を両立させる、戦略的な選択肢です。具体的な構成や導入事例を基に、その有効性を解説します。

クラウド利用における大原則:「責任共有モデル」の正しい理解
VDIなどのSaaS/PaaSを利用する上で、全ての企業が理解すべき基本原則が「責任共有モデル」です。これは、クラウド事業者が責任を負う範囲(サービスの稼働率など)と、利用者である企業が責任を負う範囲(データの保護、アクセス管理など)を明確に分ける考え方です。

ランサムウェア攻撃や内部不正、人為的ミスによるデータ損失リスクに対し、最終的なデータ保護の責任は、サービスを利用する企業自身にあります。プラットフォームの機能に依存するだけでなく、自社のデータガバナンスポリシーに基づいた、能動的なデータ保護体制の構築が不可欠です。

ServiceNow編:データ駆動型アプローチによるITサービスマネジメントの高度化

1. ServiceNow運用における課題の再定義:データ活用の停滞がもたらす機会損失

多くの企業がDX(デジタル変革)推進の基盤としてServiceNowを導入し、ITサービスマネジメント(ITSM)によるインシデント管理や変更管理の標準化に着手しています。これにより、IT運用の状況がある程度可視化されたことは事実です。

しかし、データコンサルタントの視点から分析すると、多くの企業が「データの可視化」の段階で停滞し、その先にある「データに基づくプロセス改善」に至っていないという課題が顕在化しています。例えば、以下のような問題が散見されます。

根本原因の未特定: 蓄積されたインシデントデータを分析せず、依然として場当たり的な対応に終始しているため、類似のインシデントが繰り返し発生している。

非効率なリソース配分: チケットの対応時間やエスカレーションの傾向を定量的に分析できていないため、どの業務にどれだけのリソースが費やされているかを把握できず、人員配置の最適化が進まない。

ROIの不明確な自動化: 自動化による効果を最大化するためのデータ分析が不足しており、「どの業務を自動化すれば最も投資対効果(ROI)が高いか」という戦略的な判断がなされていない。

これらの課題は、ServiceNowを単なる「チケット管理ツール」として捉え、そこに蓄積される膨大な運用データを「改善のための資産」として活用できていないことに起因します。

2. データ分析に基づく、戦略的な自動化への次の一手

ITSM導入後の次のフェーズでは、感覚的な改善ではなく、データに基づいた客観的なアプローチが不可欠です。運用負荷を軽減し、継続的な生産性向上を実現するためには、以下のステップが求められます。

まず、ServiceNowに蓄積されたインシデントデータや変更履歴データを多角的に分析し、自動化すべき業務領域の優先順位を明確に特定します。具体的には、「発生頻度」「対応工数」「業務への影響度」といった指標を基に分析し、自動化による改善効果が最も見込めるプロセスを特定することが重要です。

その上で、ServiceNowの標準機能である「Flow Designer」や外部システムとのAPI連携を活用し、特定したプロセスを自動化します。これにより、属人化していた業務の標準化、対応スピードの向上、そしてヒューマンエラーの削減を実現します。重要なのは、自動化の実施後も効果測定を継続し、得られたデータからさらなる改善点を見つけ出し、PDCAサイクルを回し続けることです。

本セッションでは、ServiceNowの運用データを活用して改善領域を特定する分析手法から、具体的な自動化の実装ノウハウ、そしてその効果を定量的に測定する方法まで、データドリブンな運用改革を実現するための具体的なステップを解説します。

Microsoft 365編:データガバナンスの観点から再考する、潜在的リスクと統合データ保護戦略
1. Microsoft 365環境に潜む、見過ごされがちなデータ管理リスク

Microsoft 365の導入は、企業の生産性向上に大きく貢献しました。しかし、その利便性の裏で、データガバナンスの観点から見過ごすことのできない重大なリスクが増大しています。サイバー攻撃や内部不正といったセキュリティリスクに加え、特に深刻なのが「訴訟や監査に対応するためのデータ保全」に関する課題です。

データアナリストの視点では、この課題は以下の2つのリスクに分類できます。

証拠保全の不確実性: 医療や法務、経理などの領域では、法的に7年から10年の文書保管義務が課せられています。しかし、Microsoft 365の標準機能では、データの保持期間が限定的であったり、ユーザーの操作によってデータが容易に削除されたりする可能性があります。有事の際に「証拠として提出すべきデータが存在しない」という事態は、企業にとって致命的な経営リスクです。

データ探索の非効率性: 監査や法的情報開示(eDiscovery)の要請があった際、必要なデータを迅速かつ網羅的に収集・提出する体制が整っていないケースが多く見られます。各種ログやメールデータが分散管理されているため、データの探索に膨大な時間とコストを要し、対応の遅れがさらなる法的リスクを生み出す悪循環に陥ります。

これらの問題は、Microsoft 365のデータを「保護・管理すべき資産」として捉え、統一されたガバナンスポリシーの下でライフサイクル全体を管理する戦略が欠如していることに起因します。

2. 統合データ保護プラットフォームによる、プロアクティブなリスク管理体制の構築

これらの潜在的リスクに対応するためには、従来のバックアップという概念を超えた、統合的なデータ保護戦略へのシフトが求められます。セキュリティ、バックアップ、アーカイブ、コンプライアンス対応といった、これまで個別のソリューションで対応してきた機能を、単一のプラットフォームで一元的に管理するアプローチです。

Acronis Cyber Protectのような統合ソリューションを活用することで、以下の体制構築が可能になります。

データの一元管理と長期保管: Microsoft 365上のデータを、設定したポリシーに基づき自動的に保護・アーカイブし、法的要件を満たす長期保管を実現します。

迅速なデータ探索と提出: リーガルホールドや高度な検索機能により、訴訟や監査の際に必要なデータを迅速かつ正確に特定し、提出することが可能です。

運用負荷の軽減と可視化: 分散していたデータ保護の運用を単一の管理画面に集約することで、管理コストを削減し、組織全体のデータ保護状況を可視化します。

Microsoft 365環境におけるデータガバナンスの重要性を解説するとともに、統合データ保護プラットフォームを用いて、サイバー脅威と法的要件の両方に備えるための具体的な戦略と実践方法をご紹介します。