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クラウドERPへの移行におけるデータ戦略的考察と課題克服

統計データが示すクラウドの利点は広く認識されていますが、依然として一部の経営層はクラウドERPへの移行に慎重な姿勢を示しています。この背景には、初期のクラウドサービスに対するデータ管理やセキュリティに関する懸念が根強く影響しているケースが多く見られます。本稿では、データコンサルタントおよびデータアナリストの視点から、クラウドERPに対して一般的に抱かれるデータ関連の懸念とその解消アプローチについて考察します。

クラウドサービスの黎明期において、データのセキュリティ、プライバシー、およびコンプライアンスは主要な懸念事項でした。技術の進化に伴いこれらの懸念は軽減され、クラウドは企業のデジタルトランスフォーメーションとデータ活用を加速するための重要な基盤と認識されるようになりました。しかし、過去の経験や情報に影響を受け、移行に踏み切れない組織も存在します。ここでは、データ観点から見た具体的な懸念と、最新のクラウドシステムがこれにどのように対応しているかを詳述します。

データコンプライアンスとデータ・レジデンシに関する考察
組織がクラウド上で機密データや個人識別情報(PII)を管理・保護する際には、GDPR、PCI DSS、HIPAA、APRAといった多岐にわたる規制、ポリシー、および制限が適用されます。これらの規制を遵守することは、ペナルティや罰金を回避し、組織の信頼性を維持する上で不可欠です。

クラウド環境へのデータ移行を検討する際、既存のデータガバナンスおよびコンプライアンス体制をこれらの新たな環境に合わせて再評価する必要があります。しかし、データがオンプレミスに存在するからといって、オンプレミスERPのみが唯一の選択肢であると考えるのはデータ戦略上適切ではありません。多くの主要なSaaSプロバイダは、規制遵守に関して目覚ましい進歩を遂げています。現在では、特定の地域におけるデータ主権の要求に対応し、現地のコンプライアンス要件を満たすための技術的および運用的な機能を提供しています。これには、データの保存場所(リージョン)の選択肢、保存データおよび転送中のデータの強力な暗号化、厳格なアクセス制御、詳細な監査ログなどが含まれます。

地域特有のコンプライアンス規制に関する専門知識を有するプロバイダーによる支援は、データコンプライアンス戦略において極めて重要です。規制要件の解釈や適用は複雑であり、一般的な認識と実際の要件が異なる場合が少なくありません。経験豊富なクラウドプロバイダーは、日々の運用を通じてこれらの規制に対応しており、最新の要件に基づいたデータ管理およびコンプライアンス体制構築を支援できます。彼らは、データに関する「真実とフィクション」を区別し、リスクを最小限に抑えるための実践的なアプローチを提供します。

例えば、オーストラリア健全性規制庁(APRA)は、銀行、保険、スーパーアニュエーション(確定拠出年金制度)機関を監督する機関です。APRAが管理する法律は、オーストラリア国民の金融利益を保護し、金融システムの安定性を確保することを目的としています。一般的には、APRA規制により金融サービスのデータはオーストラリア国内に存在することが要求されると広く信じられています。しかし、データ・レジデンシの厳密な要件が適用されるのは、特定の限定された種類のデータや機関に限定される場合があります。クラウドプロバイダーは、このような具体的なケースにおけるデータ所在地要件を正確に理解しており、組織が適用される規制に効果的に対応できるようサポートします。

クラウドERPの導入は、データの統合、分析能力の向上、リアルタイムでの洞察獲得といったデータ活用の機会を大きく広げます。しかし、その実現には、データセキュリティ、コンプライアンス、およびデータ・レジデンシに関する懸念に対し、データ駆動型のアプローチで詳細な評価と適切な対策を講じることが不可欠です。最新のクラウド技術と信頼できるプロバイダーの知見を活用することで、これらの課題を克服し、クラウドERPが提供するデータ活用のメリットを最大限に享受することが可能となります。

規制当局のクラウド利用に対するデータ戦略への影響

近年、規制当局はクラウドサービスの普及に対応するため、データ関連の規制アプローチを見直しています。例えば、オーストラリアのAPRAは、クラウド利用に対するスタンスを明確にし、規制対象エンティティによるクラウドコンピューティングサービスの利用拡大を反映して関連規則を更新しました。これは、特定の限定的なデータや機能にのみ適用されていたデータ・レジデンシ要件が、金融機関等のデータ戦略の柔軟性を高める可能性を示唆しています。

同様に、シンガポール金融管理局(MAS)も、拡大するクラウド導入環境に対応するため、規制フレームワークに変更を加えています。MASは当初厳格なアプローチをとっていましたが、現在は原則に基づいた規制と具体的なルールのバランス、そして多様な技術的・組織的な層を含むコンプライアンス戦略の採用を奨励しています。MAS自身も、金融機関の規制遵守を監督する上でクラウドサービスプロバイダーのソリューションを活用するまでに至っています。これらの動向は、規制当局がクラウドを敵視するのではなく、リスク管理を前提とした上で、データ活用の基盤としてのクラウドの可能性を認識し始めていることを示しています。

規制への対応は容易な課題ではありません。そして、最終的なコンプライアンス要件を満たす責任は、クラウドプロバイダーではなくサービスを利用する組織自身にあります。これは、組織が自らのデータ資産を理解し、適用される規制に基づいた適切なデータガバナンス体制(データ分類、アクセス制御ポリシー、保持期間設定、監査証跡管理など)を構築・維持する責任があることを意味します。しかし、豊富な知識と経験を持つクラウドプロバイダーは、コンプライアンス要件を理解し、組織のデータ管理体制がこれらの要件を満たすように協力してくれる信頼できるパートナーとなり得ます。プロバイダーは、彼らのプラットフォームが提供する技術的機能が、組織のデータガバナンスポリシーをどのようにサポートできるかについての知見を提供できます。

クラウドセキュリティ:データ保護の技術的側面
データコンサルタントの視点から見ると、システムやデータがオンプレミスにある方がよりセキュアであるという認識は、しばしば「コントロール下に置かれている」という感覚に根差しています。クラウドへの移行は、システムやデータが自組織の物理的な管理から離れるため、「コントロール不能になった」と感じられるかもしれません。しかし、実際のクラウドセキュリティ管理は、組織の具体的なセキュリティポリシーやデータ保護要件を反映するように高度に設定可能です。多くの経営層は、この事実と、セキュリティに強くコミットしたクラウドサービスプロバイダーの活用がもたらすメリットを理解し始めています。

クラウドプロバイダーは、セキュリティインフラと人材に多大な投資を行っています。多くの場合、24時間体制のセキュリティオペレーションセンター(SOC)を運営し、インフラストラクチャ全体を常時監視しています。ITエキスパートやセキュリティエンジニアで構成される彼らの熟練したチームは、一般的な企業が独自に導入・維持できるレベルをはるかに超える高度なデータ保護対策を提供できます。クラウドへの移行を検討している組織は、自社の業界における他の組織がどのようにクラウドを利用し、データセキュリティ要件を満たしているかについて、プロバイダーに参考事例を尋ねることを推奨します。

多くの組織にとって、セキュリティ上の重要な課題の一つがシステムおよびアプリケーションへの修正プログラム(パッチ)適用です。クラウドサービス企業は、常に最新かつ最もセキュアなバージョンのソフトウェアを提供することを前提としたビジネスモデルを構築しています。そのため、彼らはソフトウェアの脆弱性管理と修正プログラム適用に特化した専任チームとリソースを有しています。顧客の視点からは、クラウド環境における修正プログラム適用プロセスは多くの場合自動化され、バックグラウンドで透過的に実行されます。これにより、オンプレミス環境で通常必要となるサービス停止やダウンタイムが大幅に削減され、データの可用性維持に貢献します。

暗号化は、クラウドにおけるデータセキュリティのもう一つの重要な柱です。クラウドアプリケーションプロバイダーは通常、顧客とプロバイダー間で交換されるデータ、およびクラウド環境に保存されているデータ(保管時データ、Data At Rest)と転送中のデータ(Data In Transit)の両方に対して、エンタープライズグレードのセキュリティ対策とエンドツーエンドの暗号化を提供しています。これは、万が一データが不正アクセスされた場合でも、その内容を保護し、データ漏洩による影響を最小限に抑える上で極めて有効です。組織が自社環境全体で同様の高いレベルの暗号化を実装・維持することは、技術的および運用的に困難な場合があります。クラウドプロバイダーがSOC 1 Type 2およびSOC 2 Type 2 (SSAE18およびISAE 3402)、ISO 27001および27018、PCI DSSおよびPA-DSSといった主要なセキュリティ関連基準に準拠していることを示す外部監査機関による証明を確認することは、そのデータ保護能力と信頼性を評価する上で重要な指標となります。

適切に実装されたクラウドシステムは、データのアクセス制御や利用に関するセキュリティポリシーを効果的に施行するための堅牢な基盤を提供します。ロールベースアクセス制御(RBAC)や属性ベースアクセス制御(ABAC)といった機能を活用することで、誰がどのデータにアクセスし、どのような操作ができるかを細かく定義・管理することが可能です。これは、データガバナンスの実現と、機密データの不正利用防止に不可欠です。

環境間でのポリシー一貫性とデータガバナンス

クラウド環境においては、ネットワーク、セキュリティ、およびストレージに関するデータポリシーを一度定義すれば、アプリケーションやデータが異なる環境間を移動しても、そのポリシーを一貫して維持することが容易になります。これは、オンプレミスの複数のサイロ化されたシステム環境で同様の一貫性を実現するよりもはるかに効率的です。データコンサルタントの視点から見ると、このポリシーの一貫性は、組織全体のデータガバナンスを強化し、データの完全性、可用性、および機密性を環境に依存せずに保証するための基盤となります。データのライフサイクル管理やコンプライアンス遵守においても、ポリシーのブレがないことは運用負荷の軽減とリスク低減に大きく寄与します。

既存システムとのデータ統合の課題と機会
クラウドERP導入を検討する組織は、多くの場合、顧客関係管理(CRM)、ビジネスインテリジェンス(BI)、プロジェクト管理など、既に稼働している複数のビジネスシステムとの連携を必須要件とします。中には、最新のシステムとの統合を想定していないレガシーアプリケーションが存在することもあります。データアナリストの視点からは、これらの異なるシステムに存在するデータのサイロ化は、全社的なデータ分析やインサイト抽出を阻害する大きな要因となります。

しかし、極端に古いシステムを除けば、既存の業務システムとクラウドERPの統合は、適切なアプローチとツールを用いることで効果的に実現可能です。クラウドERPシステムは、特に他のクラウドベースソフトウェアとの連携において、標準化されたインターフェースやAPIを提供することで、ダウンタイムや追加ハードウェアへの投資を最小限に抑えつつ、新しいデータソースや機能モジュールを統合しやすい傾向があります。経験豊富なクラウドプロバイダーは、このようなデータ接続を迅速かつ効率的に確立し、組織内のデータフローをスムーズにするための専門知識とツールを提供できます。

一部のクラウドERPプロバイダーは、多様なベンダーのシステムや製品との広範な統合能力を有しており、組織が既存のデータ資産を活かしつつ、新しいクラウドERP環境への移行を進めることを支援します。例えば、オープン標準API(SOAP、RESTなど)を利用したデータ通信や連携は、異なるシステム間のデータアクセスを保証し、リアルタイムまたはニアリアルタイムでのデータ統合と分析を可能にします。イベント通知、ファイルベースのインポート/エクスポート、SQLコネクタ、専用の統合ソリューション、さらにはサードパーティの統合アプリケーションの活用は、データ連携の多様なニーズに対応するための有効な手段です。

拡張性とデータ量の変化への対応能力
経営層は将来を見据え、基盤となるシステムが拡張可能であること、つまりビジネスの成長や変化に合わせてデータ量やトランザクションの増加に対応し、必要に応じてカスタマイズや機能拡張、さらにはエコシステム内の他のアプリケーションとの連携を柔軟に行えることを重視します。一般的にはオンプレミスのシステムの方がカスタマイズの自由度が高いと考えられがちですが、クラウドシステムも非常に高い拡張性を備えています。クラウドERPの拡張性は、ビジネスの成長に伴うデータ量やユーザー数の増加、あるいはニーズの変化が発生した際に、システムを迅速に変更、調整、または追加する能力を指します。

オンプレミスERPもカスタマイズ可能ですが、その多くはコストが高く、開発に時間を要し、また特定のコアソフトウェアのバージョンに強く依存している場合があります。特に自社開発された統合機能などは、将来的にコアERPがバージョンアップされた際に再実装が困難となり、「技術的負債」として残るリスクがあります。これは、一部の組織がオンプレミスERPシステムのアップグレードを回避し、結果として内在的なセキュリティリスクを抱えた古い技術を使い続ける主要な理由の一つとなっています。データコンサルタントの視点からは、これはデータ管理ツールやセキュリティ機能の陳腐化を招き、データ資産全体の安全性を損なうリスク要因となります。

アップグレードによるデータ資産の保護と最新機能活用
クラウドERPの場合、一般的にシステムアップグレードは年間複数回実行され、追加費用が発生せず、業務への影響も最小限に抑えられます。このような頻繁かつスムーズな更新により、組織は常に最新のシステムバージョン、機能、およびセキュリティパッチを利用できます。これは、データセキュリティリスクを継続的に低減し、データ資産を保護する上で極めて重要です。

もう一つの重要なメリットは、クラウドERPの機能を拡張しても、コアアプリケーション自体に変更を加えない点です。これにより、組織はコアERPのアップグレードによる影響を受けない形で、独自のレポート機能、分析ダッシュボード、特定のデータ処理ロジックなどのカスタマイズや拡張機能を作成できます。これは、将来的なコアERPのバージョンアップが、既存のデータ活用基盤や分析ワークフローを破壊するリスクを回避することを可能にし、データ活用の継続性を高めます。

クラウド利用におけるデータ戦略上の落とし穴とその回避策

クラウドの利点としてしばしば強調されるのが、設備投資(CapEx)から運用費(OpEx)への予算構造の転換によるコスト効率の改善です。これは、固定資産への多額の先行投資を避け、利用量に応じた柔軟な支出を可能にするという点で、特にデータ処理やストレージリソースの変動が大きいワークロードにおいて、データ活用のスケーラビリティと経済性のバランスを取る上で魅力的です。IaaSやPaaSといったソリューションは、IT部門が直面する調達リードタイムの長さや高額な固定コストといった課題に対し、需要に合わせてリソースを拡大・縮小し、コストをニーズに正確に連動させる機会を提供します。

しかしながら、適切なデータ管理と監視が伴わなければ、クラウドサービスの経費は容易に制御不能に陥るリスクがあります。従量課金制はオンプレミス環境よりもコスト効率が高くなる潜在力を持つ一方で、計画の不備やクラウド環境の利用状況に対する可視性の不足は、コストの急速な増加と抑制の困難さを招きます。この問題の根源は、多くの場合、組織全体のクラウド利用データに対する一元的なビューの欠如にあります。多くの企業では、部門やプロジェクトごとに独自のクラウド環境を個別に調達・管理できる状況が見られます。このような分散型の調達戦略は、各チームが迅速に環境を構築し、特定のニーズに合わせたデータ活用基盤を試行錯誤できるという利点がある反面、組織全体としてのクラウド利用状況、コスト、および潜在的な非効率性に対する監視が大幅に不足する恐れがあります。

サービスの過剰なプロビジョニング、未使用のライセンス、データストレージやコンピューティングリソースの無駄な重複などは、すべてコストを押し上げる要因となります。実際に、過去の調査では、アイドル状態のクラウドリソースや過剰なプロビジョニングにより、クラウド支出のかなりの割合が無駄になっていると報告されています。さらに、意図的に、あるいは成り行きで複数のクラウドプロバイダーを利用するマルチクラウド/ハイブリッドクラウド戦略を採用している組織では、ワークロード単位でのコスト比較や最適化がより一層困難になります。単に何に投資しているかを見極めるだけでなく、その投資からどの程度のデータ関連の価値(例えば、分析による新規顧客獲得、業務効率改善など)を引き出せているかを把握することが難しくなるケースが少なくありません。

成功するクラウド戦略には、強固なデータ戦略の構築が不可欠です。クラウド投資のROIを最大化し、計画した予算内でコストを管理するためには、クラウドサービスの利用状況とコストを正確に予測し、継続的に監視する必要があります。クラウドサービスのコスト管理全体を一元化することで、非効率的なデータ処理ジョブ、重複するデータストレージ、アイドルリソースといった無駄な経費を、コストが手に負えなくなる前に特定し、是正措置を講じることが可能になります。また、現代の複雑化するシステム環境において、コスト増大やパフォーマンス問題、さらには障害の根本原因をデータから理解するためには、オブザーバビリティのための機能が極めて重要になります。適切なオブザーバビリティプラットフォームがあれば、特定のクラウドサービスやアプリケーションの利用状況に関わらず、コストデータやパフォーマンスデータを標準化された形式で収集・統合し、分析することができます。これにより、個々のクラウドアプリケーション導入をビジネス上の戦略的なデータ活用判断として扱いながらも、各グループの自律性を尊重しつつ、組織全体のクラウド支出に対する透明性を確保し、予期しない高額請求を避けることができます。

イノベーション加速と安定性:データ視点でのトレードオフ
クラウドネイティブな手法、特にDevOpsプラクティスの採用は、データ分析、アプリケーション開発、デプロイメントのサイクルを高速化し、組織のイノベーションとデジタルトランスフォーメーションを加速させる大きな潜在力を持っています。しかし、この迅速なペースは、データ管理、品質保証、およびシステム安定性に関して新たなデータ関連の課題を生み出す可能性も孕んでいます。

インフラ投資決定におけるデータ活用とイノベーションの加速

従来のオンプレミスデータセンター環境では、インフラに関する意思決定が主に年間予算サイクルによって制約される傾向がありました。例えば、一般的な予算策定の範囲を超えたハードウェアやソフトウェアリソースの追加を必要とする新しいデータ分析プロジェクトやビジネス計画が持ち上がった場合、必要なインフラストラクチャがプロビジョニングされるまで、その計画は停滞せざるを得ません。このようなインフラ調達における非データ駆動型の制約は、データに基づいた迅速な意思決定やイノベーションの実行を鈍化させ、結果として競争力の低下を招く可能性があります。対照的に、クラウド環境はインフラストラクチャやサービスをデータ需要に応じて迅速に拡張できるため、新しいデータ活用シナリオや技術的なイノベーションに迅速に対応することを可能にします。計算リソース、ストレージ、専門的な分析ツールなどを必要な時に必要なだけ利用できる能力は、データ主導型の取り組みを加速させる強力な推進力となります。

分散アーキテクチャとデータ管理の複雑性
アジャイル開発やDevOpsの手法を取り入れることで、モノリシックなアプリケーションを低頻度でリリースする従来のスタイルから、分散型のクラウドネイティブなアプリケーションを高頻度でリリースするスタイルへと変化します。このアーキテクチャの変化は、データフローやシステム間の依存関係を複雑化させ、データ管理および運用監視の難易度を高める可能性があります。特に、マイクロサービスのような分散設計のクラウドネイティブアプリケーションは、複数のコンポーネントやサービス間の複雑な依存関係を有しており、データ処理パイプラインやサービスデリバリーにおいて、より多くの潜在的な障害点が存在します。また、これらの新しいクラウドアプリケーションの多くが既存のバックエンドシステムと連携し、それに依存している場合、データ連携のパイプラインはさらに複雑化します。

このような複雑な環境におけるトラブルシューティングは、迅速な対応が難しくなる傾向があります。実際に、最近のレポートでは、開発者がソフトウェア障害のデバッグに年間膨大な時間を費やしていることが明らかになっており、エンタープライズソフトウェア市場全体でテスト失敗に起因するコストが年間数十億ドルに上ると試算されています。システムの状態やデータフローに対する十分な可視性を確保せずにクラウドへの移行を急ぐことは、運用安定性を損ない、結果としてクラウド導入自体の足かせとなるリスクがあります。

オブザーバビリティ:システムデータからの洞察獲得
サービスやアプリケーションの新たなアーキテクチャ(例:サーバーレス関数、マイクロサービス)を導入すると、そこから発生するログ、メトリクス、トレースといった新しい種類のデータストリームを取得できるようになります。これらのデータストリームは、分散化されたクラウド環境で発生する多様な問題の根本原因を特定し、その挙動を理解するための貴重な情報源となります。

データコンサルタントとして強調したいのは、システム全体、特にクラウドプラットフォーム上の新しいコンポーネントだけでなく、それに依存するレガシーシステムを含むすべての関連システムにおいて、データの「オブザーバビリティ(可観測性)」を確保することが極めて重要であるという点です。オブザーバビリティとは、システムが出力するデータ(ログ、メトリクス、トレースなど)を収集、統合、分析することで、その内部状態や挙動をリアルタイムで推測し、理解する能力を指します。すべての関連データにアクセスし、現在何が起きているかをリアルタイムで把握し理解できなければ、運用上の適切な意思決定や対策を迅速に講じることは不可能です。

目標は、「既知の確定要素」(例:エラーログに記録される特定のエラーコード)だけでなく、「未知の不確定要素」(例:複数のマイクロサービスの相互作用によって初めて明らかになる予期しないパフォーマンス低下)も、データに基づいて検知し、監視できるようにすることです。これを適切に行えれば、問題発生時にその根本原因を迅速に究明する能力が飛躍的に向上します。これにより、期待どおりの迅速なアプリケーション導入、データ処理のスケーラビリティ向上、ビジネスプロセスの全体的な効率改善を実現し、イノベーションの迅速性とシステムおよびデータ活用の安定性を同時に達成することが可能になります。データ駆動型のオブザーバビリティは、複雑なクラウド環境における運用上の信頼性を高め、ビジネス価値創出のためのデータ活用の基盤を強化します。

統合クラウドアプリケーションスイートによるデータ統合の促進

OracleのAIサービスとアプリケーションの統合スイートを活用することで、組織はデータに基づいたイノベーションをより短期間で市場に投入し、ビジネスオペレーションの俊敏性を高めることが期待できます。Oracle Cloud Infrastructure (OCI) は、すべてのクラウドリージョンにおいて一貫したコスト、多様な選択肢、高性能、そして堅牢なセキュリティを提供し、特定のリージョン内だけでなく、クラウド間、さらにはオンプレミスのデータセンター環境を含むあらゆるワークロードに対して、包括的なクラウドサービス基盤を提供します。

特に、Oracle Fusion Cloud Applicationsは、ERP、経営管理(EPM)、人材管理(HCM)、カスタマー・エクスペリエンス(CX)、サプライチェーンおよび製造(SCM)など、広範な業界とビジネス領域をカバーする統合スイートとして設計されています。このスイートの重要な特徴は、各アプリケーションが共通のデータモデルを共有している点です。データコンサルタントの視点から見ると、この共通データモデルは、組織内のデータサイロを解消し、ビジネスプロセスを横断したデータ統合と一貫性のあるデータ分析を劇的に容易にします。単一の統合スイートから特定の機能(例:ERP)のみを導入することも、複数の機能を同時に導入することも可能であり、ビジネスニーズやデータ戦略の進化に合わせて、共通データモデルに基づいたデータ統合基盤を段階的あるいは包括的に構築できます。これにより、経営層は部門横断的なデータ可視性を獲得し、より情報に基づいた意思決定を行うことが可能となります。

データとAIによる成長加速の基盤としてのOCI
最新のハイパースケールクラウドであるOCIを効果的に活用することで、データを生産的に活用し、成長を加速させることができます。OCIは、デフォルトでAIサービスとの統合機能を備えており、組織が既に持つデータ分析スキルや、Oracleデータプラットフォームへの既存投資を活用しながら、高度なアプリケーションやデータ活用体験を迅速に構築することを可能にします。組み込みのAIサービスは、ERPトランザクションデータ、顧客データ、サプライチェーンデータといったビジネスデータを活用し、予測分析、異常検知、パターン認識、さらには業務の自動化といった高度なデータ分析機能をアプリケーションレベルで実現します。

OCI上に統合されたデータが存在する場合、使いやすいAIモデルと分析ツールを活用することで、従来の大規模データセット分析では特定が困難であった隠れたパターンや精度の高い予測を迅速に導き出すことができます。これにより、データから価値を創出するまでの期間を短縮し、同時にビジネス上のリスク(例:需要予測の誤差、在庫最適化の失敗)を低減することが期待できます。Oracleデータプラットフォームへの継続的な投資は、組織がデータ駆動型の意思決定文化を根付かせ、競争優位性を築くための強固な基盤を提供します。

オープンソース技術によるデータ活用の柔軟性
イノベーションを推進し、データ駆動型のインテリジェントアプリケーションを開発する上で、オープンソース技術の活用は重要な要素です。OCIは、クラウドネイティブ開発で広く利用されるプログラミング言語であるJavaや、世界で最も普及しているオープンソースデータベースの一つであるMySQLなど、さまざまなオープンソースツールをサポートしています。さらに、OracleはHadoop、Kubernetes、Linux、Pythonといった主要なオープンソースコミュニティに積極的に貢献し、それらを自社サービス内でサポートしています。

データエンジニアやデータサイエンティストは、使い慣れたこれらのオープンソースツールやフレームワークをOCI上で活用することで、柔軟性の高いデータパイプラインを構築したり、高度な機械学習モデルを開発・デプロイしたりすることが可能になります。これにより、特定のベンダー技術に縛られることなく、最適なツールを選択してデータ分析やアプリケーション開発を進めることができ、データ活用の幅が広がります。

データ活用のための包括的なIT基盤構築
OCI上にデータを集約し活用することで、革新的なビジネス成果を推進するためのIT基盤を構築できます。この基盤構築において重要なのは、多様なデータソースを統合し、オープンでモジュール化された最新のデータプラットフォームを構築することです。これにより、組織全体のデータに対する単一の信頼できる情報源(Single Source of Truth)を確立し、データ品質とデータアクセス性を向上させることができます。データ品質の向上は、データ分析の信頼性と精度に直結し、データに基づいた意思決定の質を高めます。

また、組み込み、あるいは容易に統合可能なAIサービスでデータを「強化」することにより、複雑な統計分析や機械学習の専門知識を持たないビジネスユーザーでも、データからより深い洞察を獲得し、日々の業務や意思決定に活用できるようになります。この「データの民主化」は、組織全体のデータ活用レベルを引き上げ、データに基づいたイノベーションを加速させます。OCIは、これらの要素を統合的に提供することで、データ活用の可能性を最大限に引き出すための強力な基盤を提供します。

可視性:ITアセットに留まらないデータ資産の把握

クラウド環境における「可視性」は、単に使用しているクラウド環境にどのようなITアセット(インスタンス、ストレージ、ネットワークリソースなど)が存在するかを確認するだけではありません。データコンサルタントおよびデータアナリストの視点からは、これはデータ資産の構成、すなわち、どのような種類のデータがどこに保存され、誰がどのようにアクセスし、どのように利用されているかを詳細に把握することを含みます。ITアセットのインベントリ構成に関するデータを分析することは、非効率なデータストレージ利用、潜在的なセキュリティ脆弱性を持つデータ処理環境、あるいは重複して存在するデータリソースを特定する上で有用なデータソースとなります。さらに、クラウドサービスの利用状況やデータ資産に関するデータを、各ビジネス部門も理解できる形で共有することは、部門ごとの勝手なクラウド利用(いわゆる「シャドーIT」)によって引き起こされるデータの断片化や管理リスクを解消し、組織全体のデータガバナンスを強化する上で重要な要素となります。シャドーIT環境は、管理されていないデータ資産を生み出し、コンプライアンス違反やセキュリティ侵害のリスクを高める可能性があるため、その是正にはデータに基づく可視化と部門間の連携が不可欠です。

マルチクラウド戦略とデータ統合・管理の複雑性
組織のクラウド変革の段階が初期移行であれ、アプリケーションのモダナイゼーションであれ、あるいはすでに数年間クラウド環境を管理している場合であれ、複数のクラウドプラットフォームを導入している(または、結果的に導入することになる)状況は一般的です。Gartner社の予測によると、クラウドInfrastructure-as-a-Service (IaaS) を使用するエンタープライズ顧客の75%は、意図的にマルチクラウド戦略を策定すると見られています。

どのような変革にも課題は伴いますが、マルチクラウド環境の採用は、データコンサルタントおよびデータアナリストにとって特有の課題をもたらします。最近の調査でも指摘されているように、コストパフォーマンスやインフラのオープン性を追求しつつ、異なるクラウドプラットフォーム間でのデータ統合、一貫性のあるデータ管理ポリシーの適用、およびセキュリティ管理といった複雑性を克服する必要があります。Akamai社の経験からもわかるように、これらの課題の多くは**(1) クラウドサービスへのデータ移行に関連する課題と(2) 既存のクラウドサービスのデータ消費の最適化に関連する課題**に分類できます。組織が複数の制約やプロジェクトの下で活動しているため、両方の課題を同時に抱えていることも珍しくありません。これらのデータ関連の課題を効果的に克服するためには、データの収集、分析、監視体制を含む事前の準備と詳細な計画が不可欠です。

一般的なクラウドシナリオにおけるデータ管理のベストプラクティス
これらの取り組みにおいて、Forrester社のレポート「Tackle Your Cloud Challenges with Forrester’s Scenario Quick Start Cards」は有用な示唆を提供します。このレポートは、一般的なクラウドシナリオに対応するためのいくつかのデータ管理および運用上のベストプラクティスを始めるのに役立ちます。これらのシナリオは、クラウド移行の段階に関わらず、データに関わるチームが直面する課題の大部分に該当します。

クラウドがある程度成熟するとよく見られるシナリオの一つが、クラウドセキュリティです。クラウド環境におけるデータとワークロードのセキュリティ確保は、移行の際に最初に直面する主要なデータ関連課題として一般的です。しかし、レポートが指摘するように、クラウドのセキュリティは「オンプレミスのセキュリティよりもはるかに複雑で、明確なデータセキュリティ計画と専用のツールが必要」です。多くの企業は、この複雑性を十分に理解せず、オンプレミス環境と同じデータセキュリティアプローチをそのまま適用しようとします。

その結果、セキュリティチームと運用チームには、クラウド環境に特有の多様なセキュリティワークロード(例:データアクセスログの監視・分析、クラウドネイティブなセキュリティログの相関分析、APIセキュリティ管理など)が課せられ、適切なデータ管理・分析ツールやプロセスがないと、これらの業務が無秩序に増加するリスクがあります。この負担の重複や非効率性は、クラウドコストの増大(利用状況データの管理不足)、運用面のクラウド適応(データ活用のための新しい運用プロセスへの適応)、およびコンプライアンス(データガバナンス要件の遵守)の達成といったデータ関連の課題が、組織にとって繰り返し上位にランクインする主な原因となっています。クラウド環境におけるデータセキュリティの確保は、データガバナンスの中核をなし、クラウド成熟度を高める上で継続的に取り組むべき重要な領域です。

エンタープライズアプリケーションのクラウド移行とデータ保護戦略 (シナリオ H)

エンタープライズアプリケーションのクラウド移行は、多くの組織にとって継続的な課題であり、未だ大量のレガシーアプリケーションが効率的なクラウド環境への移行を待っています。単にワークロードの実行能力だけを評価するのであれば、ほぼすべてのクラウドプロバイダーが最低限の要件を満たすかもしれません。しかし、データコンサルタントの視点から見ると、この新しい環境では、アプリケーションが扱うデータの保護と管理を強化するクラウドネイティブなサービス群を考慮することが不可欠です。これには、洗練されたアプリケーションセキュリティオプション、きめ細やかなアクセス制御機能、およびゼロトラストセキュリティモデルを実装するためのソリューションが含まれます。

このようなデータ保護要件の高いワークロードの場合、必要な機能がプラットフォームレベルで統合されている環境を選択することで、個別のコンポーネント(例:複数のセキュリティツール、認証認可システム)を組み合わせて独自のソリューションを構築する必要がなくなります。これにより、データ移行プロセス自体がシンプル化されるだけでなく、移行後のデータ運用におけるセキュリティポリシーの適用や監査証跡の管理が容易になります。異なるコンポーネントを組み合わせるアプローチでは、データ連携の際のセキュリティ確保や、コンポーネント間のポリシー一貫性維持に複雑性が伴うため、統合された環境はデータ保護と運用効率の両面で大きなメリットを提供します。

アプリケーションの最新化とデータ負債の解消 (シナリオ L)
最終的に、技術的負債がアプリケーションの維持管理コストを上回り、ROIがアプリケーションの最新化を支持する局面が訪れます。この作業の大部分は、多くの場合、データ管理が非効率化しサイロ化の原因となっているモノリシックアーキテクチャを、より小さく管理しやすい個々のコンポーネントに分割することに関わります。データアナリストの視点からは、このプロセスにおいて、各コンポーネントが扱うデータの範囲、データモデル、および他のコンポーネントとのデータ連携方法を再設計する必要があります。

各コンポーネントワークロードを個別に評価する際には、そのワークロードが扱うデータの特性(データ量、種類、機密度、リアルタイム処理要件など)を詳細に吟味することが不可欠です。多くのチーム、特にアプリケーションの最新化が初めてのチームは、コアとなるInfrastructure-as-a-Service (IaaS) と Platform-as-a-Service (PaaS) を重視する環境を検討します。IaaS/PaaS環境は、データの保管、処理、およびアクセス制御に関するプライバシー保護やその他の規制要件(例:GDPR)に従ったデータ管理をシンプル化するための基本的な機能を提供します。コンポーネント化されたアプリケーションは、これらのデータ管理機能を活用しやすくなり、データガバナンスをアプリケーションレベルで強化することが可能になります。

クラウドベンダーロックインの緩和とデータポータビリティ (シナリオ N)
クラウドコンピューティングの当初の大きな利点の一つとして、ワークロードのポータビリティ、すなわち異なるクラウド間でのアプリケーションやデータの移動の容易さが挙げられていました。しかし、現実にはその約束は完全に果たされていません。特定の高度な機能(例:ベンダー固有のデータベースサービス、機械学習プラットフォーム)を必要とするワークロードについては、依然として単一のプロバイダーに強く依存しなければならない場合があります。

一方で、仮想マシン、コンテナ、標準的なストレージサービスなど、より基本的なコンポーネントを使用して構築されたワークロードは、比較的高いポータビリティを持っています。データコンサルタントの視点から見ると、ワークロードのポータビリティはデータポータビリティと不可分です。異なるクラウドにワークロードを展開可能にするためには、それに伴ってデータも移動、変換、あるいは同期できる必要があります。データの互換性、データ移行のコストと時間、そして異なるクラウド環境間でのデータ一貫性の維持が重要な課題となります。このようなワークロードをポータブル化することで、組織はリスク管理(特定のベンダー障害リスク)、コスト(利用状況に応じたプロバイダー選択)、パフォーマンス(ユーザーに近いリージョンへのデータ配置)、およびデータ主権(データの物理的な所在地に関する規制)の要件に応じて、他のクラウドへ柔軟に展開できるようになります。これは、データ管理戦略における重要な意思決定ポイントとなります。

パブリッククラウドをエッジまで拡大するデータ戦略 (シナリオ O)
エッジコンピューティングは、低レイテンシーと高可用性という優れた特性を備えているため、データ処理ロケーションとしての役割が拡大しています。これは、IoTデバイスからのリアルタイムデータ収集・前処理、あるいは地理的に分散したユーザーへの迅速なデータ提供など、特定のデータ活用シナリオに適しています。ただし、エッジはすべてのワークロードに適しているわけではありません。当然ながら、エッジでの処理に適しているのは、メモリやCPUリソースをあまり使用しない、データ量が少なく高頻度な分散型ワークロードです。対照的に、大量のデータをバッチ処理したり、組織全体のデータを統合して分析したりするような大規模なワークロードは、より集約されたリソースを持つクラウドリージョンに導入する必要があります。

エッジと集約型クラウドという二つのアーキテクチャのデータ処理能力とストレージの限界を理解し、サービスとデータを適切に展開することで、データインフラストラクチャを正しく拡張し、期待されるユーザー体験(例:エッジでのリアルタイム応答、クラウドでの包括的な分析レポート)を提供できるようになります。エッジでのデータ収集、クラウドでのデータ集約・分析といったデータフローの設計と、エッジとクラウド間でのデータ同期戦略の確立が、このシナリオにおけるデータコンサルティングの主要な焦点となります。適切なデータ分散戦略により、迅速なデータ処理と大規模なデータ分析を両立させることが可能となります。

VMware Cloud on AWS 活用のデータ戦略的視点

VMware Cloud on AWS(VMC on AWS)を活用するにあたっては、単にVMware環境をそのままクラウドに移行するプラットフォームとして捉え、オンプレミスのサーバー選定と同様に検討するだけでは、せっかくのクラウドサービスが持つ潜在能力、特にデータ活用の側面で宝の持ち腐れとなるリスクがあります。

オンプレミス環境を「クラウドリフト」(既存の仮想マシン構成などを比較的そのままクラウドに移行)する際は、その後の「クラウドシフト」(クラウドネイティブなアーキテクチャやサービスへの移行・最適化)を十分に検討した上で意思決定を行うことがデータ戦略上重要です。すなわち、既存の仮想化環境をAWSのデータセンターという「多彩なクラウドサービスを展開する」環境に移行できる機会を最大限に活かし、その価値を十分に引き出せるデータ活用の高度化を目指す移行でなければ、その意義は限定的になります。

クラウドリフト後のデータシフトと先進データ活用
もし既にAWSのサービスを利用している場合、VMC on AWS環境との間でデータ連携における帯域や遅延の問題が軽減され、移行した既存環境とAWSが提供する多様なデータサービスとのスムーズな連携が期待できます。アプリケーションによっては、マネージドサービスを利用してデータ処理部分をサーバーレス化することも可能です。これにより、インフラ運用負荷が軽減され、よりデータ分析や新しいデータ活用シナリオの実現にリソースを集中できるようになります。既存の確固たる基盤上で稼働するアプリケーションデータを活用しながら、アナリティクス、IoT、AI/MLといった新しいデータ駆動型の取り組みにも積極的にチャレンジすることが可能になります。クラウドリフトによって確保できた計算リソースやストレージリソースは、これらの先進的なデータ活用を推進するための重要な原資となり得ます。

クラウド活用パートナーに求められるデータ関連能力
既存のワークロードをVMC on AWSへクラウドリフトするだけであれば、AWSの基本的な知識とVMware HCXのような移行ツールで技術的な作業は十分に実行できるかもしれません。しかし、「真のクラウド活用」、すなわちデータ活用を通じてビジネス価値を創出することに取り組みたいのであれば、AWSを含むマルチクラウド環境に精通し、多様なクラウド活用経験、特にデータ関連の知見を豊富に持つパートナーの存在が不可欠です。

このようなデータ活用を支援するパートナーには、単なるインフラ移行の技術力に加え、以下のようなデータ関連の能力が求められます。

マルチクラウド環境におけるデータ統合・管理に関する知識と、異なるデータソース間でのデータ連携アーキテクチャ設計能力。
オンプレミスのvSphere基盤からVMware Cloud on AWS、そしてAWSのIaaSやマネージドサービスに至る広範な環境におけるデータ移行、データ連携、データ保護、およびデータセキュリティポリシー適用に関する深い知識と実践経験。
DX(デジタル変革)をデータ駆動型のアプローチで推進するためのコンサルティング能力、およびデータ分析を活用した働き方改革(例:データに基づいた業務プロセスの効率化分析)のノウハウ。
単なるインフラ移行作業者ではなく、データ活用による新しいビジネスモデルの創出や、データに基づいた業務プロセスの設計・最適化を支援する能力。
クラウド移行後のデータ戦略の策定、必要なデータ関連ツールやサービスの選定、そして中長期的なデータ活用ロードマップの策定において、技術的な側面だけでなくビジネス価値創出の観点から伴走できる能力。
vSphere環境のクラウド移行は、VMC on AWSを利用することで技術的な作業自体は比較的短期間で終えることができます。しかし、企業が真に求めているのは、クラウドへ移行した後のデータ活用戦略をどう展開すべきか、データから新しい価値を生み出すために何が必要なのか、という問いへの解答であるはずです。このような取り組みにおいて、データ活用の縁の下の力持ちとして、中長期的に伴走してくれるパートナー事業者の存在が、クラウド投資のROIを最大化し、データ駆動型組織への変革を成功させる鍵となります。