クラウド導入を成功させるためのアプローチと継続的改善の重要性
1. パートナーシップによるクラウド導入の効率化
多くの企業において、クラウド導入を目指す技術スタッフは日常業務で忙殺されており、クラウド導入に必要なスキルや時間が不足しています。ミッションクリティカルなシステムのサポートに優先的に取り組む必要があるため、新たなイニシアチブに取り組むリソースが限られているのが現実です。そのため、企業の多くはクラウドトランスフォーメーションの加速と長期的な技術力の向上を支援するために、外部パートナーの協力を求める傾向にあります。
社内ITスタッフだけで移行を完遂することも可能ですが、外部パートナーの力を借りることで、より迅速に高い品質での移行が可能です。また、IT部門とパートナー間での「健全な緊張関係」もプロジェクトの推進力になることがあります。しかし、IT部門が「自分たちだけで同等の品質とスピードを確保できる」と主張した場合、その発言の背景や実行体制を冷静に精査する必要があります。IT部門の通常業務が停滞しては、結果的にビジネス全体に影響を与えてしまいます。
2. プロジェクトの成功条件と主要関係者の確保
クラウド移行プロジェクトを成功させるためには、「社内か社外か」という二者択一の視点ではなく、効果的な協力体制を築くことが重要です。そのためには、プロジェクトの初期段階から主要な関係者を特定し、彼らの賛同と関与を得ることが不可欠です。関係者全員が移行計画に深く関与することで、プロジェクトの円滑な進行と最終的なビジネス効果の最大化が図れます。パートナーとの協力があることで、リソースの効率的な活用が可能になり、プロジェクト全体を成功に導くことが期待できます。
3. クラウドの継続的改善を組織文化に
クラウド導入は「終着点」ではなく、ビジネス手法の変革プロセスといえます。クラウド導入後も、組織全体で継続的改善の文化を育むことで、クラウドの持つアジリティを最大限に引き出し、競争力を強化することが可能です。具体的には、支出のモニタリング、セキュリティおよびコンプライアンスの維持、フィードバックの取り込みを通じて、常にクラウド環境を最適化することが求められます。
失敗を懲罰するのではなく、イノベーションや創造性、フィードバックを奨励し、迅速なフィードバックループを確立することで、次のようなメリットが得られます:
ソフトウェアの品質向上
顧客向け機能の迅速な展開
運用の効率化
問題発生の予防
コスト削減と価値の向上
クラウド導入における「継続的改善の文化」を通じて、組織はビジネスニーズへの対応力を向上させ、クラウド投資の効果を最大化することができるでしょう。
クラウド導入時に考慮すべき重要な視点と問い
クラウドの導入にあたっては、その本質を理解するため、以下のような重要な問いを検討することが必要です。これらを通じて、単なる技術の移行にとどまらず、クラウドの持つ利点を最大限に引き出す戦略を策定できます。
オンデマンドプロビジョニングの実現性
開発者が必要なときに、ヘルプデスクへのリクエストを経由せず、自動的にリソースをプロビジョニングできる環境は整っていますか?自律的なプロビジョニングは、迅速な開発・リリースに必要不可欠であり、クラウドの真の利便性を引き出す要素です。
ガバナンスとコンプライアンスの推進力
CISOおよびガバナンス、リスク、コンプライアンス(GRC)チームは、クラウド導入を単にサポートするだけでなく、組織がより迅速にクラウドを活用できるよう推進していますか?GRCの積極的な関与は、クラウド移行におけるリスク軽減とセキュリティの強化を支えます。
真に革新的なサービスの活用
現在のクラウドプラットフォームに備わっている革新的なサービス(例:AI/ML、サーバーレスコンピューティング)を積極的に活用していますか?それとも、既存のオンプレミスインフラを単にクラウドに移行したに過ぎませんか?クラウド移行がコストやスピードの面で成果を上げるためには、クラウドネイティブのサービスを最大限に活用することが求められます。
使用ベースのコストモデルの実践
クラウドやSaaSアプリケーション、オンプレミスハードウェアなどにおいて、使用した分だけの費用を支払うコスト管理モデルが整っていますか?オンデマンド型のコストモデルを採用することで、キャパシティーの最適化と無駄な支出の抑制が可能になります。
効果的なクラウド導入のためのベストプラクティス
正しいアプローチでクラウド導入に取り組み、実績に基づいたベストプラクティスを適用することで、企業はクラウドのメリットを最大限に引き出しながら、リスクを最小限に抑えることが可能です。データ主導の視点でこれらの問いを整理し、クラウドトランスフォーメーション戦略に反映することが、持続的なビジネス価値の実現に繋がります。
クラウド移行モデルにおける組織変革の理解
クラウドへの移行に伴う組織変革を考える際には、William Bridgesの移行モデルが有用です。Bridgesは、組織における変化への適応を心理的プロセスと捉え、「移行」を3つのフェーズで説明しました:終わり(過去を手放す)、ニュートラルゾーン、新しい始まりです。これらはクラウド移行の過程においても適用可能であり、従業員の適応プロセスを理解するための指針となります。
例えば、アナログからデジタルへと移行することで、職務が大幅に簡略化され、部署全体の生産性が向上した医療技術者の例があります。業務プロセスの効率化により患者にとっての利便性も向上しましたが、この技術者にとっては変化に適応するまでに時間がかかり、心理的な負担が大きかったのです。
このような適応困難は、クラウドトランスフォーメーションに関わる技術者やシステムエンジニアにも起こりえます。従来のシステムエンジニアがクラウドアーキテクトに異動した場合、重要かつやりがいのある役割であっても、本人にとっては一連の喪失感を伴う可能性があります。クラウド移行によって役割が変わり、従来の知識や経験がすぐには活かせない場合、自信やアイデンティティが揺らぎ、「自分が不要になったのではないか」という不安に繋がることもあります。
効果的なクラウド移行支援の重要性
クラウド移行の成功には、技術的な実装と同様に、従業員の心理的な移行プロセスも重要です。Bridgesのモデルに基づき、組織がサポート体制を構築することで、従業員が新たな役割に適応しやすくなり、変革がもたらすメリットを最大限に享受することができます。
クラウドカスタマイズ:クラウド移行先での自動適応性
移行するアプリケーションが目標クラウド環境に自動的に適応するかを確認することは、移行成功の鍵です。DNS設定などの重要な構成が自動で維持されるかを確認し、事後の運用負荷を軽減する体制を整えましょう。これにより、クラウド環境での運用がよりスムーズに進みます。
カットオーバー:移行完了後の手続き
データ移行完了後、クラウド環境へのカットオーバーを行う際には、まず移行元と移行先でのアプリケーション停止やダウンタイムの有無を確認する必要があります。ダウンタイムの影響や、稼働中のデータが完全に同期されるかを確認し、RPO(目標復旧時点)についても明確にしておくことが重要です。また、エージェントのアンインストールなど、完了後の作業手順も含め、カットオーバー時の手順を明確に定義します。
ロールバック:オンプレミスへの回帰可能性
クラウド移行後に問題が発生した場合、アプリケーションをオンプレミス環境に迅速に戻す方法も検討しておく必要があります。ロールバックにかかる時間や、クラウドからオンプレミスに戻す際のデータ保持についても確認しましょう。これにより、移行後のリスク管理が強化されます。
テスト:移行前のクラウドパフォーマンス検証
クラウドでの稼働前にアプリケーションのパフォーマンスをテストすることで、時間とコストを節約できます。稼働環境のクローンを作成し、システム稼働に影響を与えずにテストを実施することで、クラウド環境での適応性を事前に確認できます。
テスト段階で、Database as a Service (DBaaS) やDNSサービス、バックアップなど、必要となるマネージドサービスを特定し、クラウド環境での稼働に必要な設定(ネットワーキング、セキュリティ、周辺サービス)も確認します。これにより、正式移行後のクラウド環境での安定稼働を確保する基盤が整います。
まとめ:クラウド移行の成功要因
昨今のクラウド移行ツールは、柔軟かつ高機能で、多様な企業ニーズに応えられるよう進化しています。重要なのは、企業ごとの移行要件を明確化し、それに最適なソリューションを選択することです。テストやロールバック、カスタマイズに関する要件を適切に設定することで、クラウド移行のリスクを抑え、安定したクラウド運用を実現できるでしょう。
クラウド移行ツールの最適化:重要な選定ポイント
クラウド移行ツールの共通の目的は、ワークロードを安全にパブリッククラウドに移行することですが、各ツールは機能やアーキテクチャに微妙な違いがあります。適切な移行ツールを選定するには、以下の質問に対する準備をしておくことが必要です。
エージェントの必要性
移行ツールの多くは、アプリケーションやクラウドターゲットにエージェントをインストールする必要があります。エージェントのインストールが求められるか、アプリケーションのシステムに直接アクセスが必要か確認し、時間や複雑さが増すリスクも評価しましょう。移行対象のアプリケーションが多数ある場合、エージェントレスのソリューションが適している可能性もあります。
移行前のテスト環境
ツールによっては、移行前に本番環境や稼働中のシステムを停止せずにテストが可能かどうかが異なります。また、事前にデータをクラウドに転送する必要があるかどうかも確認しましょう。クラウド上で構成を柔軟に変更できるかは、移行テストの効率やリスクを左右する重要な要素です。
サイズの適正化
移行時にオンプレミスのインスタンスをクラウドの適切なインスタンスタイプに最適化する方法もツール選定において重要です。特に、パフォーマンス向上やコスト効率のどちらを優先するかに応じて、データに基づいた推奨事項を提供するツールが望まれます。
アプリケーションとデータの移行機能
移行ツールがデータのみの移行か、アプリケーションも含めて移行をサポートするかも確認が必要です。ダウンタイムの長さや予測可能性も、移行のスムーズさを左右するため重要です。多層アプリケーションの移行が必要な場合、オーケストレーションや特定の順序での移行をどのようにサポートするかも評価ポイントになります。
モニタリングとプロセスの追跡
移行プロセスをモニタリングするために利用できるツールについても確認しましょう。移行の各段階をリアルタイムで追跡できることで、予期しない障害の早期発見や、移行の進捗管理が容易になります。
まとめ
クラウド移行ツールの選定において、エージェントの必要性、テスト環境、サイズ適正化、移行機能、モニタリングといった要素を体系的に評価することが、移行プロセスの効率性や信頼性向上につながります。企業ごとの要件を明確にし、これらの要素を慎重に考慮することで、最適な移行ソリューションを見つけられるでしょう。
パブリッククラウド利用の改善点と課題
1. パフォーマンス
パブリッククラウドのパフォーマンスが業務要求を満たしているか、負荷がかかった際の処理速度や応答性に改善の余地がないかを検討します。業務特有の要求に合わせたリソース最適化が重要です。
2. 可用性
システムの稼働率やダウンタイムの頻度を確認し、可用性を確保するための冗長化やバックアップ構成の強化が必要かどうかを評価します。
3. セキュリティ
アクセス管理、データ暗号化、セキュリティログのモニタリングが適切に行われているかを再評価します。クラウド環境に合わせた最新のセキュリティ対策を実施することで、リスクを低減させることが可能です。
4. データ連携・統合
複数のシステムやデータソース間でスムーズにデータ連携が行われているか、統合のためのAPIやETLツールが適切に活用されているかを検討し、データフローの改善を図ります。
5. BCP/ディザスタリカバリー
災害時の復旧計画が確立されているか、バックアップやリカバリーのプロセスが迅速に行えるかを評価し、BCP(事業継続計画)の改善点を特定します。
6. 運用管理
運用における自動化の活用やモニタリング体制の整備が進んでいるかを評価し、運用管理負担の軽減を図ります。IT部門の負担を減らし、より戦略的な業務にリソースを振り分けられるようにすることが目標です。
7. 導入コスト/運用コスト
クラウド利用の費用対効果を見直し、コスト管理や最適化の余地があるかを確認します。コスト管理ツールやリソース使用量の定期的な見直しが有効です。
8. 消費電力/サステナビリティ
クラウドの使用が企業のサステナビリティ目標に寄与しているか、あるいは環境への影響が少ないかを検討し、グリーンクラウドの利用も視野に入れます。
パブリッククラウドとオンプレミス環境の統合ニーズ
企業がパブリッククラウドとオンプレミスのITインフラを統合する理由として、以下の用途が挙げられます。
DX推進
デジタルトランスフォーメーション(DX)を推進するためのシステム統合が必要です。データの一元管理と柔軟なリソース拡張が可能になり、競争力の強化につながります。
AIの活用
生成AIや機械学習の導入を容易にし、業務の自動化や意思決定の質を高めます。
クラウドネイティブへの対応
新世代のアプリケーション基盤としてクラウドネイティブに対応し、ITインフラを次世代に適応させることで、より迅速かつ効率的なシステム運用を可能にします。
データ連携とアプリケーション統合
システム間でのデータ連携を円滑にし、アプリケーションの統合によって情報の可視化と一貫した管理を実現します。
アクセス権の一元化
複数のインフラに分散するアクセス権限の管理を統一し、セキュリティ向上と運用効率化を図ります。
人的リソースの効率化
IT運用の自動化を進め、リソースの負担を軽減することで、専門的な人材の有効活用が可能になります。
インフラ選択肢の見直し
クラウドが一般的な選択肢である一方、オンプレミスやハイブリッドの利用も選択肢に入れる必要があります。目的やシステム特性に応じたインフラ選定により、企業は最適なコストと柔軟性のバランスを見つけ、最も効果的な運用を実現できます。
AWSにおけるOSおよびミドルウェアの脆弱性対応に関するガイドライン
1. OSおよびミドルウェアの定期的な更新
AWSの主要なIaaSサービスであるAmazon EC2では、OSやミドルウェアの更新やセキュリティパッチの適用をユーザーが管理する必要があります。脆弱性への対応として、最新のパッチやセキュリティ更新を定期的に適用し、システムの堅牢性を維持することが重要です。
2. サーバーイメージの更新とセキュリティチェック
AWSは既存のサーバーイメージを複製して新たなサーバーを迅速に構築できる機能を提供していますが、古いイメージのままではセキュリティホールが残っている可能性があります。サーバー構築時には、必ず最新のOSやミドルウェアのセキュリティパッチが適用された状態でセットアップを行うよう徹底しましょう。
3. AWS Patch Managerの活用
AWS Patch Managerを利用すれば、Amazon EC2インスタンスに対するOSパッチの適用を自動化できます。パッチ管理にかかる運用負担を軽減できるため、複数のインスタンスを管理する際の効率化に役立ちます。
ネットワーク設定におけるセキュリティ強化のポイント
1. 不要な通信の制御
AWSでは、セキュリティグループとネットワークACLという2つのファイアウォール機能が提供されており、通信制御を詳細に行うことができます。
セキュリティグループ: VPC内のEC2インスタンスに適用され、インスタンスごとにアクセスを制御するためのファイアウォールとして機能します。必要最低限のポートだけを開放し、広範囲のポート開放を避けることで不正アクセスのリスクを低減します。
ネットワークACL: サブネット単位での通信制御に使用され、特にアウトバウンドトラフィックの制御に有効です。インバウンドトラフィックについてはセキュリティグループで制御することが推奨され、不要な通信はアウトバウンドでブロックします。
2. パブリックおよびプライベートネットワークの役割分担
AWS環境では、パブリックネットワークとプライベートネットワークの使い分けが推奨されます。外部公開が必要なWebサーバーはパブリックネットワークに配置し、アクセスを制御します。一方で、データベースやストレージのような非公開リソースはプライベートネットワークに配置し、セキュリティリスクを最小限に抑える構成を採用します。
このようなセキュリティ対策とネットワーク設計により、AWS環境でのインフラの安全性と効率を向上させ、ビジネス継続性の確保に寄与します。
クラウド管理とビジネス評価基準の統合:効果と成功指標
1. ビジネス評価基準とクラウド管理基準の統合によるメリット
クラウド管理の評価基準をビジネスの評価基準と連携させることで、IT部門やエンジニアリング部門は、ビジネス目線で戦略を考慮できるようになり、事業部門はCCoE(クラウドセンターオブエクセレンス)の活動がビジネス全体にどう影響するかを把握しやすくなります。例えば、クラウドコストが売上原価(COGS)や顧客あたりのサポートコストにどのように貢献しているかを定量的に示すレポートは、ビジネス上の洞察を与える指標です。
Segmentチームにおいては、API呼び出しによるコスト増加が確認され、100万件あたりのコストを測るレポートがコスト管理に効果を発揮しました。この基準は、標準化による規模の均一化を図る上でも有用であり、企業がクラウドコストを最適化するための戦略策定に役立ちます。
2. ビジネスプロセスとの統合における組織的な協働の必要性
ビジネス評価基準とクラウド基準を統合するにあたって、数値やシステムの連携だけでなく、部門横断的な協力体制が不可欠です。CCoEが単なる監督機関ではなく、エンジニアリングや他の事業部門との「ハブ」として機能することにより、組織間の連携が促進され、ビジネス価値が最大化されます。IntuitのテクノロジーファイナンスチームのDieter Matzion氏も、CCoEとエンジニアリングが集まり、特定の課題解決に集中して取り組むことを推奨しています。このような連携により、CCoEはより柔軟でビジネスに寄与する役割を果たします。
3. 統合段階の成功を測るための主要指標(KPI)
ビジネスとクラウド管理の統合の進捗や効果を評価するためには、以下のKPIが有効です。
顧客あたりのコスト(金額): 顧客単位でのクラウド支出を把握し、コスト効率を評価します。
収益に対するクラウド支出の割合(%): クラウドへの投資と収益のバランスを見極め、コスト管理を最適化します。
売上原価(COGS)の時系列変動(%): クラウドの活用によるコスト削減効果を確認します。
時系列での収益コスト(金額): クラウド運用がどのように収益構造に影響を与えているかを把握します。
新サービスの市場投入までの期間(時間): クラウド活用による市場投入スピードの改善効果を測定します。
未解決のコンプライアンス問題の件数: リスク管理状況の健全性を評価します。
平均検出時間(時間): セキュリティやリスクの検出効率を確認します。
顧客満足度(NPS): ネットプロモータースコアで顧客の満足度を継続的に評価します。
ビジネス評価基準とクラウド管理基準の統合によって、クラウド利用の効果をビジネス成果に結びつけることができ、企業全体で一貫した目標を共有できるようになります。これにより、事業部門とIT部門がシームレスに連携し、組織全体としての競争力を高めることが期待されます。
クラウドプラットフォームの重要性と企業における導入状況
1. クラウドプラットフォームのビジネス価値
クラウドプラットフォームの導入は、ITインフラストラクチャの柔軟性、低遅延性、スピードを高める重要な手段の一つです。特に、デジタルビジネスのワークロードは市場ニーズやパートナー企業との連携状況など外部環境の変動に大きく影響を受けます。このような需要の変動に対応するために、自社でインフラを過剰に準備することは非効率であり、コストを圧迫しかねません。この点で、クラウド環境の柔軟なリソース管理は大きなメリットをもたらし、ビジネスの迅速な対応力を支える要素となります。
2. 国内大企業におけるクラウド導入状況
Table 2は国内大企業(従業員1,000人以上)のCIOを対象にした基幹系システムのワークロード配備状況に関する調査結果です。現状では、最も多いのは「既存システムを一部改良しつつオンプレミスで運用している」企業であり、多くの企業がインフラストラクチャをオンプレミスで維持しながら、徐々に改良を加えている状況です。
しかし、5年後の予測では「現行システムを全面的にクラウド環境に移行、またはクラウド環境での新規運用」が最も多くなるとされています。これにより、クラウドマイグレーションの完了とクラウドネイティブのワークロードの積極的な採用が進むと見込まれます。この傾向は、企業がクラウドを単なるインフラコスト削減の手段としてではなく、ビジネス価値を生み出す基盤と捉えるようになってきていることを示しています。
プライベートクラウドとコロケーションの違い
プライベートクラウドは、パブリッククラウドやコロケーションとは異なる特性を持ちながらも、いくつかの共通点も存在します。一般的に「プライベートクラウドは、ユーザー企業が自社のデータセンター内でサーバーをホスティングして運用するもの」と認識されることが多いですが、これは必ずしも唯一の形ではありません。オンプレミス型のプライベートクラウドを構築する企業も多いものの、データセンターを自社で保有せずともプライベートクラウドを運用することは可能です。
多くのプライベートクラウドは、ベンダーのデータセンターやインフラを利用する「ホスティング型プライベートクラウド」として提供されています。ホスティング型プライベートクラウドは、パブリッククラウドと同様にマルチテナント型のクラウドサービスとして構成されますが、主にユーザー企業内部の複数部門やプロジェクトチーム向けに特化されています。
一方、コロケーション施設も複数のユーザーが設備を共有するマルチテナント型ではあるものの、クラウドのような仮想環境ではなく、物理的なサーバーやインフラを持ち込み、それらを一元管理する形式です。そのため、コロケーションは物理的なサーバー管理が主であり、仮想化やソフトウェアによる管理が進んだプライベートクラウドとは異なる運用アプローチを取ります。
クラウドの仮想環境と課金モデル
ホスティング型プライベートクラウドやパブリッククラウドは、通常、仮想化された環境においてテナントをソフトウェアで隔離します。パブリッククラウドは異なる企業ユーザーに対してリソースを提供し、ユーザー企業の使用量に応じた課金を行うマネージドサービスです。この「マルチテナント型マネージドサービス」が、パブリッククラウドの特徴を際立たせる要素であり、企業にとっても柔軟で拡張性のあるリソース管理を実現します。
以上を踏まえ、プライベートクラウドやコロケーションの選択は、企業の運用方針やデータ管理要件、セキュリティポリシーに合わせて慎重に判断することが重要です。