ハイパーバイザーベースSDSのデータストレージコスト課題とHCIの登場
VMware vSANのデータストレージTCOにおける課題
VMware vSANのデータストレージ総所有コスト(TCO)には、いくつかの課題がありました。vSANにはバージョン6.2まで、データ削減機能(重複排除や圧縮)が搭載されていませんでした。これにより、同じ量の論理データを保存するために、データ削減機能を備えた他のSDS製品に比べてより多くの物理ストレージ容量が必要となり、利用可能なTBあたりのデータ保管コストが大幅に高くなる要因となっていました。
また、特定のクラスタ化されたvSphereホストで障害が発生した場合でも、そのホスト上に配置されていたデータとVMDK(仮想マシンディスクファイル、すなわち仮想マシンのデータそのもの)をクラスタの残りのノードから確実にアクセスできるようにするには、データの複数のコピーによるミラーリング構成が必要になります。データ可用性とデータレジリエンスのベストプラクティスに従うと、元のデータのコピーが少なくとも2つ必要ですが、多くの管理者はより高いデータ保護レベルを確保するために3つのコピーを用意しています。このような設定は、データの冗長性を高める一方で、必要な物理データストレージ容量を2倍または3倍に増加させ、サーバー用ドライブの価格面の利点を相殺してしまうことになります。さらに、vSANはvSphere環境専用のストレージ機能であるため、その利用にはvSphereのライセンス費用が別途発生し、このコストは組織のデータストレージ投資において相当な額になる可能性があります。
ハイパーコンバージドインフラストラクチャ(HCI)のSDS
ハイパーコンバージドインフラストラクチャ(HCI)は、サーバー(コンピュート)、ストレージ、ネットワーク、ハイパーバイザーといったインフラストラクチャコンポーネントを、ソフトウェアによって統合し、単一のクラスタ化されたノードとして提供するアーキテクチャです。HCIは、従来の個別最適化されたインフラストラクチャにおける統合の複雑さ、高価なサーバー、過剰なデータストレージのプロビジョニング、データ可用性の問題、複雑なデータストレージ管理、ハードウェアの互換性といった課題を解決するために設計されました。HCIにおけるSDS機能は、様々なメーカーから多くの選択肢が提供されており、組織はデータワークロードの要件に合わせて幅広い製品の中から選択できます。
ハイパーコンバージドインフラストラクチャ(HCI)のSDSのデータ管理における長所
HCIのSDSは、データ管理の観点からいくつかの長所を提供します。VMware vSANと同様に、仮想マシンの管理者が仮想化環境に関連付けられたデータストレージを管理できることが多く、管理の一元化に貢献します。実際、HCIのSDS製品の中には、VMwareのvSphere vSAN技術をベースにしたものも存在します。
HCIの重要な利点の一つは、データプラットフォームのデプロイメントにおける柔軟性です。VMware vSphereだけでなく、Microsoft Hyper-V、Red Hat KVM、Citrix XenServerなど、複数のHCIベンダーが様々なハイパーバイザーの選択肢を提供しています。これにより、組織がすでに利用している、あるいは今後利用したい特定の仮想化プラットフォーム上でHCIを展開し、データワークロードを配置することが可能です。さらに、ハイパーバイザーを介さずに直接アプリケーションを稼働させるベアメタル環境(例:Dockerコンテナを使用したLinux環境)をサポートするベンダーもあり、これによりHCIを様々なタイプのデータ処理環境の基盤として利用できます。
多くのHCIのSDSでは、異なる容量のノードをクラスタ内で混在させて使用することができます。これにより、データボリュームやデータ処理能力の増加に応じて、より細かく、効率的にストレージリソースやコンピュートリソースを拡張することが可能となり、初期投資や拡張コストを最適化できます。Atlantis Computing、Maxta、StarWind、StorMagicといった一部のベンダーは、ハードウェアに依存しないソフトウェアのみのSDS実装を提供しており、これは少数派ではありますが、データストレージの物理ハードウェア選択において最大の柔軟性を提供し、既存のサーバーハードウェアをデータストレージノードとして活用できる可能性を広げます。Maxtaのように、主要なサーバーメーカーとパートナー関係を結んでいるベンダーは、ソフトウェアとハードウェアの組み合わせでソリューションを提供することで、導入の容易さを実現しています。
HCIによるデータインフラストラクチャのスケーリングとオブジェクト/ファイルSDSのデータ特性
HCIによるデータ容量とパフォーマンスのスケーリング
ハイパーコンバージドインフラストラクチャ(HCI)は、クラスタにノードを追加するのと同程度の簡便さでデータ容量とデータ処理・アクセス性能をスケーリングできます。データストレージ容量を拡張するには、既存ノードの最大容量までドライブ(HDDやSSD)を追加するか、コンピュートリソースとストレージリソースの両方を含むノードを新しく追加するだけで済みます。
HCI製品のデータスケーラビリティとデータアクセス性能の上限は製品によって異なりますが、ほとんどの製品はペタバイト(PB)規模のデータボリュームまでスケーリング可能です。データアクセス性能は、クラスタに追加したサーバーノードの数にほぼ比例して向上するため、データワークロードの増加に合わせてリソースをリニアに拡張できるモデルと言えます。
HCIの導入は、配線と電源投入、そして基本的な構成のみでデータストレージおよびコンピュートリソースをオンラインにすることが可能であり、従来のインフラストラクチャ構築に比べて非常にシンプルです。自己による複雑なシステム統合の必要性は少なく、問題発生時にはHCIのメーカーに問い合わせることで統合的なサポートを受けられるため、データインフラストラクチャの運用負荷を軽減できます。
スケールアウトオブジェクト/ファイルSDSのデータ特性とHDFS利用
多くのスケールアウトオブジェクト/ファイルSDS製品は、ビッグデータ分析基盤で広く利用されるHadoop Distributed File System (HDFS) のデータストレージ層として機能させることができます。これにより、HDFSのデフォルトのデータレプリケーション(通常3コピー)で必要となるデータコピー数を削減し、データ冗長性の効率を高めることで、HDFSのデータストレージコストを大幅に引き下げることが可能になります。また、既存のNFSやSMBプロトコルでアクセスされるファイルデータをHDFSのデータソースとして再利用できるため、データのサイロ化を解消し、データの活用範囲を広げることができます。
これらのスケールアウトSDSは、データ容量の柔軟なスケーリングが可能です。各ノードを個別に拡張できるほか、クラスタ自体にノードを追加することでデータ容量やデータ処理性能を高めることが一般的です。ただし、これらのタイプのSDSのデータアクセス性能(IOPS、レイテンシー)は、ブロックストレージのパフォーマンスには及ばない傾向があります。これは、オブジェクトまたはファイル単位でのデータ管理オーバーヘッドや、主に大容量かつ低頻度アクセスのデータ向けに最適化されているアーキテクチャに起因します。したがって、低遅延でのランダムデータアクセスが求められるワークロードには不向きな場合があります。
ハードウェアとバンドルされたスケールアウトオブジェクト/ファイルSDS製品は、比較的容易に設定、構築、およびデータ管理を開始できます。一方で、ソフトウェアとして実装する場合は、自身でシステム統合を行う必要があり、相応の技術的な専門知識が必要となります。どちらの実装形態でも、コモディティハードウェアを利用することが多く、ペタバイト、エクサバイト規模のデータボリュームを格納可能な非常に高いデータスケーラビリティを備えています。特にスケールアウトオブジェクトSDSは、イレージャーコーディングという高度なデータ冗長性技術を利用することで、従来のRAIDやレプリケーションと比較してストレージ容量のオーバーヘッドを抑えつつ、他に類を見ないデータ回復性やデータ持続性を提供します。
これらのスケールアウトSDSは、低コストでのデータ運用を目的として設計されていることが多く、提供されるデータサービス(スナップショット、レプリケーションなど)は限定的な場合があります。ライセンスは年間契約の形で提供されることが一般的です。イレージャーコーディングを使用するスケールアウトオブジェクトSDSは、データ保護に必要な容量オーバーヘッドが少ないため、GBあたりの全体的なデータ保管コストを抑える上で特に有利です。これは、大量のアーカイブデータやバックアップデータをコスト効率良く長期保存したいというニーズに適しています。
データ資産価値を最大化する、ワークロード分析に基づいた次世代ストレージ戦略
【サマリー】
企業のデータ量が加速度的に増加する中、ストレージ戦略はもはやインフラの容量計画に留まりません。本稿では、多様化するワークロード(VDI、DB、分析基盤等)のI/O特性をデータとして分析し、性能、コスト、リスクの最適なバランスを実現するデータ駆動型のストレージ選定・管理フレームワークを提言します。これは、ストレージ投資のROIを最大化し、データ資産を競争力の源泉へと変えるための分析的アプローチです。
1. 課題:ワークロードとストレージのミスマッチが引き起こす、潜在的コストとリスク
デジタルトランスフォーメーション(DX)の進展は、データ活用の多様化を促しました。仮想化基盤、データベース、ファイルサーバー、さらにはデータ分析や深層学習(ディープラーニング)基盤まで、それぞれのワークロードは、求められるI/O性能、レイテンシ、データ保護レベルが全く異なります。
多くの組織が直面する本質的な課題は、これらのワークロード特性を定量的に把握せず、画一的な基準でストレージを選定・運用している点にあります。この「ワークロードとストレージのミスマッチ」は、以下のような問題を引き起こします。
過剰投資(オーバープロビジョニング): 全てのデータに高性能なオールフラッシュストレージを割り当て、不必要なコストを発生させる。
機会損失(パフォーマンスボトルネック): 低速なストレージ上で分析基盤やデータベースを稼働させ、ビジネスの意思決定を遅延させる。
リスクの増大: 事業継続計画(BCP)で定められた**目標復旧時間/時点(RTO/RPO)**を考慮せず、重要データのバックアップ戦略を策定し、ランサムウェア攻撃などへの脆弱性を高める。
「どのストレージを選ぶべきか」という問いの前に、まず「自社のデータワークロードの特性は何か」をデータで解明する必要があります。
2. 解決策:データ駆動型ストレージ最適化フレームワーク
ストレージ投資のROIを最大化するためには、勘や経験に頼るのではなく、データに基づいた分析フレームワークを導入することが不可欠です。
ステップ1:ワークロードのプロファイリング
IOPS、スループット、レイテンシ、データ増加率、アクセス頻度といった指標を収集・分析し、各ワークロードの特性を定量的に可視化します。
ステップ2:データ価値の階層化
事業インパクトやコンプライアンス要件(データ主権など)に基づき、データを「ホット(高頻度アクセス)」「ウォーム(中頻度)」「コールド(低頻度・アーカイブ)」に分類します。
ステップ3:最適なストレージへのマッピング
上記の分析結果に基づき、各データ階層を、オンプレミスのフラッシュ/ハイブリッド、クラウドの各種サービスといった最適なストレージに配置します。これにより、性能要件とコスト効率を両立させる**情報ライフサイクルマネジメント(ILM)**を実現します。
3. セミナーで提供する分析的知見:NetAppで実現するデータファブリック戦略
本セミナーは、単なるストレージの基礎解説や製品紹介ではありません。データ駆動型のストレージ戦略を実践するための分析手法と、それを実現するソリューションを提示する場です。
ストレージ選定の体系的アプローチ: 上記の分析フレームワークを、具体的なユースケース(特にファイルサーバーの最適化など)を基に解説。自社のストレージ環境を客観的に評価するための視点を提供します。
NetAppが実現するデータファブリック: NetAppのソリューションが、オンプレミスとクラウドにまたがるデータを、いかにして一貫したポリシーで管理・保護し(データファブリック)、データ階層化を自動化して**総所有コスト(TCO)**を削減するのか、そのアーキテクチャと実例をデータと共に詳説します。
対象となる課題認識:
ストレージ投資対効果(ROI)の定量的説明に課題を抱える情報システム部門の責任者・管理者。
ファイルサーバーの性能・容量・コストの最適化に関する具体的なデータ分析手法を求めている担当者。
NetAppの技術が、自社のデータ管理・活用戦略にどのように貢献するのか、具体的な活用法を模索している技術者。
データ管理をコストセンターから、ビジネス価値を生み出すプロフィットセンターへと変革する第一歩として、本セミナーで提示するデータ分析のアプローチをご活用ください。
データ活用のROIを最大化するIT投資戦略:エッジコンピューティングにおける不確実性への適応
デジタルトランスフォーメーションの成否は、データが生成される「エッジ」で、いかにリアルタイムにデータを処理・分析し、即時的な意思決定に繋げられるかにかかっています。これは、クラウドへのデータ転送に伴う遅延やコストを排し、データの鮮度とビジネス価値を直結させるための極めて重要なデータ戦略です。
しかし、その実現に不可欠なエッジITインフラへの投資は、データ活用から得られる成果が不透明な段階での大規模な先行投資(CAPEX)を前提としており、多くの企業が「過剰投資によるコスト増のリスク」と「投資不足による機会損失のリスク」というジレンマに直面しています。
■課題の本質:データ活用プロジェクトにおけるROI予測の困難性
ITインフラへの投資対効果(ROI)を最大化するには、データ活用が生み出すビジネスインパクトを正確に予測し、投資規模を最適化する必要があります。しかし、多くのデータ活用プロジェクトでは、実際にデータを収集・分析し、モデルを構築してみるまで、その真の価値を定量化することは困難です。
この「ROIの不確実性」こそが、従来の固定的・一括的なIT投資モデルが機能不全に陥る根本原因です。サンクコスト(埋没費用)を恐れるあまり、革新的なデータ活用への挑戦が財務的な制約から阻害されるケースは少なくありません。
■解決アプローチ:投資を「成果」に連動させるアダプティブ・ファイナンスモデル
この課題に対する最適解は、ITインフラのコストを、データ活用プロジェクトの進捗や成果という客観的なファクトに応じて最適化する「変動費型(OPEX)」の投資モデルへ移行することです。
アダプティブユースモデルは、この思想を具現化したものであり、テクノロジーの導入計画と財務計画をデータに基づいて動的に連携させます。これにより、プロジェクトのライフサイクルに合わせて投資規模を柔軟に調整し、ROIを継続的に最大化することが可能になります。
■データ分析プロジェクトにおける具体的な投資シナリオ
段階的展開モデル:
複数拠点でのデータ収集・分析プロジェクトにおいて、成果が実証された拠点やユースケースから順次インフラを拡張。データに基づき、成功モデルを他拠点へ横展開する際の投資効率を最大化します。
リスク軽減モデル:
新しい分析技術を導入するPoC(概念実証)において、事前に設定したKPI(例:予測モデルの精度、処理速度)が未達の場合に投資を撤退・縮小するオプションを確保。データ活用の不確実性という事業リスクを財務的にヘッジします。
フレックスダウンモデル:
当初の需要予測や必要な計算リソース量の見積もりが過大であった場合、観測された実績データに基づき、契約期間内であっても投資規模を下方修正。オーバープロビジョニングによる無駄なコストを排除します。
■結論:データドリブンな投資意思決定の実現へ
HPE Adaptable Use Modelのようなソリューションは、単なる支払い方法の選択肢ではありません。これは、データ活用の「成果」という客観的なファクトに基づき、IT投資を継続的に最適化するための戦略的フレームワークです。
このモデルを活用することで、企業はテクノロジー導入に伴う財務リスクから解放され、本来注力すべき「データからのビジネス価値創造」にリソースを集中させることが可能となります。
AIワークロードの特性から分析する、SSDとHDDの戦略的活用法
1. 生成AIがストレージ市場にもたらす質的変化
生成AI技術、特にLLM(大規模言語モデル)の活用が本格化するにつれ、ストレージに対する需要は量的な拡大だけでなく、質的な変化を迎えています。AIモデルの巨大化と学習データセットの爆発的増加は、単に大容量なストレージを求めるだけでなく、データ処理の各段階において、従来とは異なる性能要件を突きつけています。
この市場環境の変化を捉える上で、ストレージベンダーが提唱する「AIデータサイクル」という概念は、データ活用の流れを可視化し、各フェーズに最適なインフラを定義するための有効なフレームワークとなります。このサイクルに基づき、AI時代のストレージ戦略をデータドリブンに考察します。
2. データとコストで見るSSDとHDDの役割分担
AIのワークロードは、大きく分けて2つの特性を持つデータアクセスに分類できます。
性能重視(ホットデータ層):
AIモデルの学習や推論といったフェーズでは、膨大なデータセットに対して高頻度かつ高速なランダムアクセスが求められます。ここでは、**IOPS(Input/Output Operations Per Second)と低レイテンシ(低遅延)**が極めて重要なKPIとなります。
この要件に対しては、性能面で圧倒的に優位な**SSD(Solid State Drive)**が最適なソリューションとなります。
容量単価重視(コールドデータ層):
学習データの収集、前処理、学習済みモデルのアーカイブといったフェーズでは、アクセス頻度は低いものの、ペタバイト級の大容量データを経済的に保管する必要があります。
この領域では、ギガバイトあたりの容量単価に優れる**HDD(Hard Disk Drive)**が、TCO(総所有コスト)の観点から合理的な選択肢であり続けます。
このように、どちらか一方を選択するのではなく、AIデータサイクルの各段階の要件に合わせてSSDとHDDを適材適所で配置するハイブリッド・アプローチが、パフォーマンスとコスト効率を両立させる鍵となります。
3. 技術仕様から読み解くAI向けSSDの価値:Western Digital社製品の分析
AIワークロード、特に学習フェーズにおける性能ボトルネックを解消するソリューションとして、最新のエンタープライズ向けSSDの技術仕様は注目に値します。ここでは、Western Digital社が2024年6月に発表した「Ultrastar DC SN861」を事例に、その技術仕様がビジネス価値にどう結びつくかを分析します。
PCIe Gen 5.0準拠:
これは、サーバー内のデータ転送経路の帯域幅を従来規格(Gen 4.0)の2倍に拡張するものです。GPUなどのアクセラレータがデータを待つ時間を最小化し、システム全体の処理効率を最大化することに直結します。
ランダム読み出し性能と低レイテンシへの最適化:
LLMの学習では、巨大なデータセットから不連続なデータを高速に読み出す処理が繰り返されます。この製品は、まさにこのワークロードに最適化されており、AIモデルの学習時間を直接的に短縮する効果が期待できます。
最大16TBの大容量化:
1台あたりの容量が増加することで、サーバーラックの集約率が向上します。これは、データセンターにおける物理的スペース、消費電力、そして管理コストの削減に貢献します。
これらの仕様は、単なるスペック向上ではなく、AIという特定のワークロードが抱える課題を解決するために設計された結果であると分析できます。
4. 提言:ワークロード分析に基づく階層化ストレージ戦略の必要性
結論として、AI時代に求められるストレージ戦略とは、自社のAIワークロードの特性をデータに基づいて正確に分析し、定義することから始まります。
「AIデータサイクル」のようなフレームワークを活用して、データの生成から活用、保管に至る各フェーズでのアクセス頻度、スループット要件、容量単価を評価し、SSDとHDDを最適に配置する階層化ストレージ戦略を策定することが不可欠です。このデータドリブンなアプローチこそが、AI投資の効果を最大化し、持続的な競争優位性を確保するための基盤となります。
AI戦略を支えるストレージ最適化分析:性能とTCOの両立に向けて
AIおよび大規模言語モデル(LLM)の精度は、学習に用いるデータセットの量と質に大きく依存します。この事実は、企業のITインフラに対し、「高性能なデータ処理能力」と「経済的な超大容量データ保管」という、時に相反する二つの要求を突きつけています。本分析では、この課題を解決するためのSSDとHDDの戦略的な役割分担と、技術選定の要点について考察します。
分析1:AIワークロードにおけるSSDの役割と高集約化の価値
SSDの技術は、メモリセルあたりのビット数を増やすTLC(トリプルレベルセル)方式などによって大容量化を実現してきました。しかし、AIワークロードにおいては、単なる容量や記録方式以上に、用途に応じた性能と耐久性の最適化が重要な評価指標となります。
例えば、Western Digital社の「Ultrastar DC SN655」(最大64TB)やSolidigm社の60TB製品のような超大容量SSDの登場は、ストレージ戦略における重要なトレンドを示しています。これらの製品を導入する価値は、サーバーあたりの容量を増やすことだけではありません。調査会社Gartnerのアナリストが指摘するように、SSDを集約することによるデータセンターのラックスペース削減と、それに伴う消費電力の大幅な抑制に本質的な価値があります。
これは、AIの膨大な計算需要と企業のサステナビビリティ目標という二つの要請を両立させる、極めて合理的なアプローチです。AI基盤の性能向上と同時に、運用コストと環境負荷を低減する直接的な手段となり得ます。
分析2:データ資産のTCOを最適化するHDDの戦略的価値
AIデータサイクルにおいて、全てのデータが常に高速アクセスを必要とするわけではありません。学習元となる数十ペタバイト級の生データや、学習済みモデルのアーカイブなど、アクセス頻度は低いものの、事業の資産として保持すべきデータは膨大に存在します。
この領域において、**TCO(総所有コスト)**の観点からHDDは依然として不可欠な選択肢です。Western Digital社がサンプル出荷する32TBのHDD「Ultrastar HC690」は、ePMRといった記録密度を向上させる技術により、テラバイトあたりの単価を低く抑えています。
書き込み速度にトレードオフがあるSMR(シングル磁気記録)方式も、大容量化を実現する上で重要な技術です。書き込み性能が求められるユースケースには不向きですが、「データを保管する」という目的に対しては、そのコスト効率の高さがデメリットを上回ります。AIモデルの精度向上のためには、より多くのデータを保管し続ける必要があり、HDDは最もコスト効率の高いデータ保持手段として、その戦略的重要性を増しています。
提言:データ階層化に基づくハイブリッド・ストレージ戦略の実行
結論として、AI時代のストレージ選定は「SSDかHDDか」という二者択一の問題ではありません。データのライフサイクルとアクセス頻度に基づき、両者を最適に組み合わせるデータ階層化(Tiering)アプローチが不可欠です。
ホット層(高速処理層): データの取り込み、モデルのトレーニング、推論といった低レイテンシと高スループットが求められるワークロードには、性能に最適化されたSSDを配置します。
コールド層(大容量保管層): アクセス頻度の低い巨大な学習データセットやアーカイブには、TCOに優れた大容量HDDを配置します。
このデータドリブンな階層化戦略を実行することが、AIの性能を最大限に引き出しながら、インフラコストを最適化し、企業のデータ資産価値を最大化するための最も有効な方策です。