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バックアップ(7)

データドリブン経営を支える次世代バックアップ戦略

企業活動において生成・蓄積されるデータは、今やビジネスの競争優位性を左右する重要な経営資源です。非構造化データを含む多様なデータセットの指数関数的な増加に伴い、その保護、すなわちバックアップの重要性はかつてないほど高まっています。システム障害や悪質化するランサムウェア攻撃といったサイバー脅威から貴重なデータ資産をいかにして守るか、その戦略が問われています。

クラウドバックアップの費用対効果と信頼性に関する課題
データバックアップの選択肢としてクラウドサービスの採用が一般化しています。しかし、特に大容量データを扱う上で、以下の課題が顕在化しています。

コストの変動性: データ転送量(特にリストア時のダウンロード)に応じた従量課金モデルは、予算策定を困難にし、想定外のコストを発生させるリスクを内包します。

パフォーマンスのボトルネック: 大容量データのアップロード・ダウンロードには長時間を要し、事業継続計画(BCP)における目標復旧時間(RTO)の達成を困難にする可能性があります。

サービスレベルの不確実性: クラウドサービス自体の障害や仕様変更のリスクはゼロではなく、自社のデータガバナンスを完全にコントロールできないという課題も残ります。

これらの課題を解決し、コストとデータ保全性の最適化を実現するアプローチとして、本稿ではオンプレミス環境に構築するパッケージ化されたオブジェクトストレージの有効性を提言します。

データバックアップ戦略の今後を占う3つのキートレンド
今後のバックアップ戦略を策定する上で、データ保護の専門家が注目する3つの技術的潮流を解説します。

1. イミュータブル(不変)バックアップ
ランサムウェア攻撃の巧妙化により、バックアップデータ自体が攻撃対象となるケースが増加しています。これに対する最も効果的な防御策の一つがイミュータブルバックアップです。

この技術は、バックアップデータを一度書き込んだら変更・削除・上書きが不可能な「書き込み不可」の状態で保存します。データを読み取り専用のフォーマットで保持することにより、マルウェアによるデータ暗号化や破壊からデータを確実に保護し、復旧の信頼性を飛躍的に高めます。データ保護の最後の砦として、その実装は不可欠となりつつあります。

2. エッジコンピューティング
IDCの予測によれば、2023年までに企業の新規ITインフラの50%以上が、従来のデータセンターではなくエッジ(データ生成源の近傍)に配置されるとされています。このエッジコンピューティングの潮流は、バックアップ戦略にも大きな影響を与えます。

データの発生源で直接バックアップ処理を行うことで、中央集権的なデータセンターへのデータ転送に伴うネットワーク遅延(レイテンシ)を大幅に削減できます。これにより、バックアップウィンドウの短縮と迅速なデータリストアが可能となり、特にリアルタイム性が求められる現場での事業継続性を強力に支援します。将来的には、データの重要度や特性に応じて、エッジとクラウドを組み合わせたハイブリッドなバックアップ構成が主流となるでしょう。

3. AI(人工知能)と自動化の活用
データ保護の高度化は、AI技術と自動化の活用によって新たなフェーズへと移行します。機械学習アルゴリズムをバックアップシステムに組み込むことで、以下のような高度なデータ管理が実現可能です。

脅威検知の高度化: サイバー攻撃の兆候と誤検知をAIが自動で判別し、インシデントへの迅速な初動対応を可能にします。

データ管理の自動化: 機密データの自動的な識別、分類、および隔離を行い、データ漏洩リスクをプロアクティブに低減します。

AIと自動化は、運用負荷を軽減しつつ、人為的ミスを排除し、データ保護の精度と即応性を最大化するための重要な鍵となります。

データで示すMicrosoft 365の潜在的データ損失リスクと、その対策アプローチ

1. 現状認識:データから見るMicrosoft 365のデータ保護における「認識ギャップ」
Microsoft 365は、多くの企業において事業活動の根幹を支える重要なプラットフォームとなっています。しかし、そのデータ保護に関しては、看過できない「認識のギャップ」が存在することがデータから示唆されています。

ある調査では、回答企業の70%が「Microsoft 365にバックアップは不要」と考えているという結果が報告されています。これは、Microsoftが提示する「責任共有モデル」に対する理解が十分に浸透していない可能性を示しています。このモデルでは、サービスの可用性(稼働率)はMicrosoftが担保するものの、そこに保管されている**「データ」の保護と管理は、全面的に利用ユーザー企業の責任**であると明確に定義されています。

さらに、データ損失の原因分析によれば、インシデントの70%はエンドユーザーによる誤削除や内部不正といった内部要因に起因します。この事実は、ランサムウェアのような外部攻撃だけでなく、日常業務に潜む内部リスクへの対策が極めて重要であることを示しています。

2. Microsoft 365標準機能の限界と潜在的リスクの定量的分析
Microsoft 365の標準機能(ごみ箱やバージョン管理など)は、一定のデータ復元能力を提供しますが、事業継続計画(BCP)の観点からは以下の3つの点で限界があります。

① 複雑なデータ構造による復旧の遅延リスク:
Teamsのデータは、チャットやファイルがSharePointやOneDrive for Businessに分散して保存される構造になっています。このため、インシデント発生時に特定のデータを復元しようとすると、その手順は煩雑化し、目標復旧時間(RTO)の大幅な超過につながるリスクがあります。

② データ保持ポリシーに起因する完全消失リスク:
例えば、退職者のアカウントを削除した場合、関連するExchange OnlineとOneDriveのデータが保持される期間は既定で30日間です。この期間を過ぎるとデータは完全に削除され、復旧は不可能となります。これは、訴訟対応や監査で過去のデータが必要になった際に、コンプライアンス上の重大な問題に発展する可能性があります。

③ 保護範囲の限定性による復旧不能リスク:
ユーザーデータだけでなく、アクセス権や認証情報を司る**「Microsoft Entra ID(旧Azure AD)」**の保護が見落とされがちです。Entra IDが破損・消失した場合、データが正常に存在していてもアクセスができず、結果として事業停止に至る深刻な事態を招きかねません。

これらのリスクは、インシデント発生時の実害シナリオとして具体的に想定しておく必要があります。

3. 提言:データ保護戦略の再定義とソリューションに求められる要件
前述の分析に基づき、Microsoft 365のデータ保護戦略は、標準機能の補完を前提とした再定義が不可欠です。堅牢なバックアップ体制を構築するため、サードパーティ製のソリューションを選定する際には、以下の要件を満たすか評価することをお勧めします。

網羅性(Coverage): Exchange Online, SharePoint, OneDrive, Teamsといった主要アプリケーションに加え、Microsoft Entra IDまでを包括的に保護対象とできるか。

リストアの柔軟性(Granularity): サイト全体やアカウント単位の復旧だけでなく、個別のメール、ファイル、フォルダ単位でのきめ細かなリストアが可能か。

対ランサムウェア性能(Security): バックアップデータ自体が隔離された安全な領域に保管され、不正な暗号化を検知・警告するスキャン機能など、ランサムウェアに特化した対策が実装されているか。

運用性(Operability): バックアップ容量が無制限であることや、直感的な管理コンソールを提供し、情報システム部門の運用負荷を低減できる設計か。

例えば、「Barracuda Cloud-to-Cloud Backup」のようなソリューションは、これらの要件を満たす選択肢の一つとして挙げられます。

結論として、自社の**目標復旧時点(RPO)および目標復旧時間(RTO)**を明確に定義し、現状のMicrosoft 365の運用体制とのギャップを評価することが、実効性のあるデータ保護戦略の第一歩となります。