EDR導入・運用における「データ分析」の課題
EDR(Endpoint Detection and Response)は、エンドポイントから収集したデータを分析し、脅威を検知・対応する有効なソリューションです。しかし、その運用には大きなハードルが存在します。
EDRから出力される膨大なアラートデータを常時監視し、ノイズ(過検知・誤検知)の中から真の脅威を特定(トリアージ)するには、高度な分析スキルを持つ専門人材が必要です。
セキュリティ対策に十分な予算や人材リソースを確保しにくい場合、「EDRは導入したが、収集したデータを分析・運用しきれない」という課題に直面します。また、データ分析運用を外部委託するMDR(Managed Detection and Response)サービスも、分析コストの観点から導入が困難なケースも少なくありません。
サプライチェーン攻撃と中小企業におけるデータ活用の必要性
「自社は規模が小さいから狙われない」という認識は、現在の攻撃トレンドとは異なります。近年、セキュリティ体制が強固な大企業を直接狙うのではなく、取引先や関連会社を経由する「サプライチェーン攻撃」がデータ侵害の主要な手口となっています。
攻撃者は、セキュリティ投資が手薄になりがちな組織を足掛かりにします。そのため、企業規模に関わらず、自組織の環境で何が起きているかをデータ(ログ)に基づいて把握し、脅威に対抗する必要性が急速に高まっています。
EDR(エージェント型)における「データ収集カバレッジ」の限界
EDRは有効なデータ収集・分析手段ですが、その適用範囲は「エージェントを導入できる端末」に限られます。
しかし、実際の企業ネットワークには、産業用制御システム(ICS)、監視カメラなどのIoT機器、個人所有端末(BYOD)、あるいは業務影響やコストを理由にOSを更新できないレガシー端末など、EDRエージェントを導入できない端末(アンマネージド端末)が多数存在します。
これら「データ収集のカバレッジ外」にある端末群は、セキュリティ監視の「盲点(ブラインドスポット)」となり、攻撃者にとって格好の侵入経路となるリスクを内包しています。
非エージェント型によるデータ収集・分析の実践アプローチ
この「データ収集カバレッジの穴」を埋めるアプローチが、ネットワークトラフィックデータを活用した「非エージェント型」の監視です。
アラクサラネットワークスが提供する「AX-Network-Manager」は、ネットワーク機器の情報を収集し、網羅的な資産データの可視化(インベントリ管理)を実現します。
さらに、フォーティネット社のNDRソリューション「FortiNDR」や脅威検知・分析ツール「FortiDetector」と連携させることで、ネットワークを流れる通信データ(パケット)をリアルタイムで分析し、エージェントレスで端末の異常な振る舞いや脅威の兆候を検知します。
端末側に負荷をかけずに「現状のデータ把握(可視化)」と「リアルタイムな異常検知(監視)」を実現するものであり、その具体的な導入ステップや分析ユースケースを解説します。
このようなデータ課題を持つ担当者におすすめします
EDRによるデータ収集カバレッジ外となっている資産(IoT, OT, レガシー端末)のリスク評価に課題を感じている方。
ネットワーク構成が複雑化し、最新の資産インベントリ(台帳)データを正確に把握・管理できていない方。
多様な非標準デバイスが混在する環境(製造、インフラ、医療など)で、網羅的なデータ収集・監視手法を求めている方。
分析工数や運用コストを抑制しつつ、即時性のあるセキュリティ強化策を導入したいデータ分析・セキュリティ運用担当の方。
ネットワークトラフィックデータを活用した脅威検知・分析アプローチ(NDR)に関心がある方。
ランサムウェア攻撃と「検知データ」活用の重要性
ランサムウェアによるデータ暗号化の被害は、組織の事業継続性に深刻な影響を与えます。IPAの「情報セキュリティ10大脅威」が示す通り、これは主要なデータ侵害リスクの一つです。
攻撃手法はAIの活用やファイルレス攻撃など、既知のパターン(シグネチャ)では検知できない領域へと高度化しています。従来のウイルス対策ソフト(パターンマッチング)のみでは、これらの未知の脅威データを捉えることはできません。「侵入される前提」に立ち、侵入後の挙動データをいかに迅速に収集・分析し、対応(復旧)につなげるかが、データドリブンな防御体制の鍵となります。
EDR導入を妨げる「データ分析」のコストとリソースの壁
多くの組織がこのデータ侵害リスクを認識しつつも、EDR(Endpoint Detection and Response)やXDR(Extended Detection and Response)といった高度なデータ分析基盤の導入に踏み出せないでいます。
その主要因は、以下の2点に集約されます。
分析プラットフォームのコスト: 膨大なエンドポイントデータを収集・保持・分析するための基盤コスト(ライセンス費用)が高額であること。
データ分析リソースの不足: EDRが収集した膨大なアラートデータ(生データ)を24時間監視し、ノイズ(誤検知・過検知)を除去し、真に危険な脅威をトリアージ(優先順位付け)できる高度な分析スキルを持つ人材が確保できないこと。
結果として、「データは収集しているが、分析・活用できていない」状態に陥るか、導入自体を断念しているケースが少なくありません。
課題解決のアプローチ 1: データ分析TCO(総保有コスト)の最適化
中小企業が抱える「安価にEDRデータを活用したい」というニーズに対し、データ分析のTCO(総保有コスト)に着目したソリューションが求められます。
「Securitier EDR」は、このコストパフォーマンスを重視したEDR活用アプローチです。エンドポイント・セキュリティに必要なデータ収集・分析機能を絞り込み、低コストで運用を開始できるメリットを提示します。
EDRデータを自社運用(またはMDRサービス利用)した場合のコスト構造を分析し、いかに分析運用コストを低減できるかをユースケースに基づき解説します。
課題解決のアプローチ 2: AIによる分析自動化と「復旧データ」の統合
もう一つのアプローチは、「データ分析の自動化」と「データ保護(バックアップ)」を単一のプラットフォームで実現することです。
アクロニスが提供するサイバープロテクションは、EDR/XDRによる「脅威検知データ」の分析と、「バックアップ(復旧用データ)」の管理を統合します。
このアプローチの利点は、AIが収集データを自動分析し、アラートの優先度付けを行う点にあります。これにより、専門アナリストが不在でもデータ分析の運用負荷を大幅に低減します。
さらに、万が一データが暗号化された場合でも、同一基盤上で管理されているバックアップデータを用いて迅速なデータリストア(復旧)が可能です。これは、「脅威データの分析(Detection)」と「データの完全性・可用性の担保(Recovery)」を同時に実現する、実効性の高いデータ管理手法です。
導入コストを抑制しつつ、データドリブンなセキュリティ体制を構築する具体的な手法を、デモンストレーションを含めて解説します。
EDR(エンドポイント)データ分析の「速度」に関する課題
サイバー攻撃は「自動化」と「AI化」により、その攻撃データの生成速度(Velocity)が飛躍的に向上しています。従来のシグネチャや振る舞い検知といった分析ルールを回避し、侵入検知(アラート生成)からデータ侵害(暗号化や窃取)に至るまでの時間が極端に短縮されています。
多くの組織が導入するEDR(Endpoint Detection and Response)は、膨大なテレメトリデータを収集し、高度な分析基盤を提供します。しかし、「検知(Alerting)」と「対応(Response)」の間には、依然として「人間によるデータ分析と判断」というプロセスが存在します。
限られた人的リソースでは、24時間体制でアラートデータを監視・トリアージすることは困難です。結果として、攻撃者の機械的なスピードに対し、組織の分析・対応速度が追いつかず、「データ上は検知していたが、対応が間に合わなかった」という事態が多発しています。
「検知データ=防御」というデータモデルの限界
EDRの普及は、「脅威データを検知できれば防御できる」という期待を生みました。しかし、このリアクティブ(事後対応)なデータモデルには限界があります。
第一に、アラートが生成された時点で、すでにデータ(資産)へのアクセスは完了しているケースが少なくありません。検知データは「侵入が完了した」という結果報告に過ぎず、その後の分析・隔離・封じ込めといった対応プロセス(MTTR: 平均修復時間)の遅れが、被害拡大に直結します。
第二に、攻撃者もAIを悪用し、EDRの検知アルゴリズム(機械学習モデル)の逆を突く手法を用いています。意図的にノイズ(偽陽性)を増やして分析官の判断を鈍らせる、あるいは検知モデルを回避する(偽陰性)ことで、検知データの信頼性そのものを脅かしています。
もはや、「検知データの精度」のみに依存した防御モデルは、現状のリスク実態に即していないと言えます。
ハイブリッド・インテリジェンス(AI×専門家)によるMDRという分析モデル
求められるのは、「検知(Detection)」中心のモデルから、「予測(Prediction)」と「迅速な対応(Response)」を組み込んだ、データ分析運用モデル(MDR)への移行です。
Sophos MDR(Managed Detection and Response)は、この新しい分析モデルを提供します。 このアプローチは、2つの要素で構成されます。
AIによる予測分析: AIが脅威データを先読みし、攻撃パターンをプロアクティブ(能動的)に分析します。これは、「何が起こったか」を分析するEDRの領域を超え、「次に何が起こるか」を予測するデータ活用です。
専門アナリストによる24/365の運用代行: AIによる分析結果に基づき、専門家チーム(データアナリスト)が24時間体制でリアルタイムにデータの監視、脅威の封じ込め、復旧までを実行します。
これは、組織内部の分析リソースのボトルネックを解消する、「分析運用のアウトソーシング」です。
Sophos MDRは、他社製品を含む多様なデータソース(ログ)を統合(Ingest)し、相関分析が可能な基盤も提供します。AIによる分析の自動化・高速化と、人間の専門家による高度な意思決定を融合させることで、攻撃スピードに対抗しうる持続的な防御体制を実現します。