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ゼロトラスト(12)

ゼロトラスト戦略におけるデータ分析とインテグレーションの重要性

ゼロトラストアーキテクチャの実現において、AWSはユーザー、デバイス、ネットワーク、アプリケーションといった各制御領域に対し、広範なポリシー適用および監視サービス群を提供します。これに対し、SplunkはAWSインフラストラクチャ全体から生成される膨大なオペレーションデータおよびセキュリティデータに対して、高度な分析能力と自動化機能を提供することで、ゼロトラスト態勢の運用を強化します。

Splunkのリスクベースアラート(RBA)機能は、従来の単一イベントに対するアラート生成アプローチから脱却し、セキュリティイベントデータに対する分析に基づいたリスク評価モデルを適用します。これにより、アラートの総量を抑制しつつ、実際に組織が対応すべき、より高い忠実度を持つセキュリティイベントを特定することが可能になります。

具体的には、脅威の初期兆候が検出された時点での即時アラート生成ではなく、リスクスコアに基づいたアラート生成プロセスを採用します。これは、個々のリスクイベントに続く悪意のあるアクティビティの兆候をデータ上で関連付け、フラグを立てることで実現されます。このアプローチにより、特定の資産やアイデンティティに対するリスクを高める一連のイベントやデータパターンを識別し、これを単一の高忠実度アラートとして集約することが可能になります。例えば、データ流出に先行する複数の異常イベントが発生した場合、RBAはこれらのイベント間の時間的、論理的な関連性をデータ分析によって抽出し、個別の無数のアラートではなく、キルチェーンに沿った単一の相関性の高いアラートとして提示します。これは、個々のイベントアラートでは見落とされがちな全体像とコンテキスト把握を可能にします。

ゼロトラストのためのデータファーストのアプローチ
データは、あらゆる戦略、特に高度なセキュリティ戦略の成功にとって不可欠な要素です。しかしながら、多くの組織では、異なるシステムや複雑な構成によってデータがサイロ化し、分断された状態にあります。このデータ分断は、データが本来持ちうる潜在的な価値、すなわち深いインサイトや改善機会の発見を著しく困難にしています。

この課題を克服するためには、ゼロトラストポリシーの要件、その実装における役割、および必要となるリソースをデータに基づいて正確に理解し、データを統合的に分析する能力が不可欠です。柔軟でオープンなSplunkポートフォリオとAWSの多様なデータサービスとのインテグレーションを活用することで、これまで個別に運用されていたテクノロジーレイヤー間のデータ連携を確立し、より精緻でデータに基づいたアクションを可能にします。このデータ駆動型のアプローチは、組織全体の意思決定プロセスにおいて、質の向上、速度の向上、そして効果の最大化をもたらし、強固なゼロトラスト戦略の構築を最終的に支援します。

例えば、「なぜゼロトラストポリシーの適用がパンデミック下で加速したか」という問いに対する分析は、Azure ADの導入ユースケースと活用メリットから明らかになります。セキュアなハイブリッドワーク環境の実践において、現実的かつ最適なセキュリティ選択を行う中で、クラウドからエンドユーザーの生産性を向上させるための手段として、条件付きアクセス(ゼロトラストポリシーの一種)の適用企業が増加しているというデータが確認されています。Azure ADにおける条件付きアクセスの導入数がこの期間で倍増した事実は、IDおよびアクセス権限保護の重要性がデータによって裏付けられた顕著な例と言えます。

次回の分析レポートでは、デバイスをAzure ADで管理することのセキュリティデータ管理における重要性について、データ分析の観点から掘り下げていきます。

ゼロトラスト実現のためのデータ駆動型アクセス戦略:ZTNAのアドバンテージ

従来のVPNアクセスは、組織のセキュリティ境界内リソースへの接続手段として広く利用されてきましたが、運用上の課題がセキュリティリスクの残存要因となるケースがデータ分析から明らかになっています。特に、ユーザーがVPN接続手順を遵守しない、あるいは接続に関する知識不足から適切に利用しないといった行動は、ネットワーク上の機密データが不徹底なセキュリティ態勢に晒されるリスクを発生させます。これは、アクセスログやインシデントデータ分析において、ポリシー非遵守に起因するセキュリティイベントとして観測されることがあります。

ZTNA(Zero Trust Network Access)は、このような人為的なエラーに依存しないデータ駆動型のアプローチを提供します。ZTNAでは、ユーザーが特定のアプリケーションやデータリソースへのアクセスを要求する際、その接続はユーザーの操作に直接依存せず、バックグラウンドで自動的に認証と承認のプロセスが実行されます。このプロセスでは、ユーザーID、デバイス状態、アクセス元のコンテキストなど、多様なデータポイントがリアルタイムに収集・分析され、要求元が信頼できるエンティティであるかどうかが検証されます。これにより、エンドユーザーはアクセス方法やタイミングを意識することなく必要なデータにアクセスできるようになり、同時に組織はデータポリシーを適切に保護する枠組みを確立できます。これは、VPNへの接続手順忘れといったヒューマンエラーによるデータ露出リスクを排除する効果をもたらします。

ZTNAにおけるデータ処理のもう一つの特徴は、アプリケーション単位でのマイクロトンネルの動的確立にあります。これは、ユーザーが使用するデバイスの種類やOSに関わらず、アプリケーションが接続を必要とするタイミングで特定のデータ通信経路が自動的に構築されることを意味します。セッション終了後の再接続も同様にデータに基づいてシームレスに行われます。また、Jamfのような特定のソリューションは、貴重なハードウェアリソースやバッテリーを継続的に消費することなく、データアクセス要求が発生した際にのみリソースを効率的に利用します。これは、システムのパフォーマンスデータやリソース利用率の観点からも最適化されたデータ処理であることを示唆します。

ZTNAは、保護されたデータへのアクセスを必要とするアプリケーションやユーザーリクエスト、あるいはサービスがアクティブになるのを待機し、その要求データを分析してアクセス制御を行います。これにより、ユーザーが本来アクセス権を持たないデータやアプリケーションへの不正なアクセス試行をデータ分析によって検出し、阻止することが可能になります。さらに、各アプリケーションの分離された接続を介して移動するデータを保護するため、クラウドベースのSDP(Software-defined Perimeter)アーキテクチャを提供します。これは、データが流れる論理的な境界をアプリケーションレベルで定義し、暗号化と認証によって保護するデータセキュリティモデルです。

JamfソリューションとAppleのプライベートリレー(iCloud Private Relay)を組み合わせることは、データプライバシーとセキュリティのトレードオフを最適化するデータルーティング戦略を提供します。プライベートリレーは、訪問したウェブサイトからユーザーのIPアドレスや位置情報といった個人に関連するメタデータの一部をマスキングし、個人のプライバシーを保護するサービスです。Jamfを導入した環境でこの組み合わせを利用することで、業務関連のトラフィックは組織のセキュリティポリシーに基づき保護・ルーティングされる一方、個人でのインターネット閲覧に関するトラフィックはiCloudプライベートリレーを経由してプライバシーが保護されます。これは、個人所有デバイス(BYOD)を含む多様なエンドポイント環境において、業務データと個人データのトラフィックをデータフローレベルで分離し、それぞれのセキュリティ・プライバシー要件を満たすための効果的なアプローチとなります。データに基づいた分析は、この組み合わせがパフォーマンスやエンドユーザーエクスペリエンスを犠牲にすることなく、プライバシーとセキュリティの両方を確保するための最適な手法の一つであることを示しています。

ZTNAソリューションの評価においては、ユーザーが企業アプリケーションにアクセスしようとする際に、デバイスポスチャ確認に失敗した場合のデータ処理フローを確認することが重要です。具体的には、ベンダーのZTNAソリューションが、エンドポイントから収集・分析したデバイス状態データに基づき、準拠していないと判断されたユーザーセッションをリアルタイムでブロックできるかどうかの確認が必須となります。これは、ポリシー違反というデータに基づいたリスクシグナルに対して、即時的かつ自動的なデータフロー遮断というリスク軽減策を講じられるかどうかの検証です。

ゼロトラストアーキテクチャにおけるデータ分析とポリシー適用の要点

ZTNA(Zero Trust Network Access)ソリューションの選定においては、エンドポイントデバイスから収集されるデータの種類と分析能力が重要な評価基準となります。具体的には、ベンダーのZTNAクライアントがエンドポイントの保護状態に関するデータ(例:セキュリティパッチ適用状況、実行プロセス、設定情報)および脆弱性情報に関するデータを収集・分析する機能を内包しているかを確認します。これは、エンドポイントのリスクスコアリングやアクセス制御ポリシーの判断根拠となるため極めて重要です。また、これらのデータ収集・管理が複数のエージェントによるものか、データ統合効率の高いユニファイドエージェント経由でサポートされているかも、運用上のデータ管理効率を評価する上で考慮すべき点となります。

認証済みユーザーセッションに対するインラインセキュリティインスペクションの提供も、ZTNAソリューションが処理するデータストリームに対するリアルタイム分析能力を示す指標です。この機能は、ユーザーとアプリケーション間のデータ通信経路においてデータストリームを透過的に検査し、マルウェアパターンや不正なデータペイロードを検出した場合に、当該データフローをブロックする能力を指します。これは、データ通信経路自体をセキュリティ分析ポイントとして活用するデータ駆動型防御策と言えます。さらに、ベンダーのZTNAソリューションがサポートするアプリケーションプロトコルは、異なる形式でやり取りされる様々な種類のアプリケーションデータトラフィックに対して、どの程度まで詳細な分析と制御が可能かを示します。

セキュアインターネットアクセスにおけるデータリスクとSASE/SSEの役割
企業の従来のネットワーク周辺境界外に位置するリモートユーザーや拠点のロケーションからのインターネットへの直接アクセスは、制御不能なデータトラフィックの増加とそれに伴う攻撃対象領域の拡大というデータリスクを発生させます。このリスクに対処するため、SASE(Secure Access Service Edge)アーキテクチャの一部であるSSE(Security Service Edge)クラウド配信サービスには、インターネットトラフィックデータに対する統合的な収集、分析、およびポリシー適用機能群が含まれている必要があります。これには、IPS(Intrusion Prevention System)およびWebフィルタリング機能、SWG(Secure Web Gateway)機能、およびディープSSLインスペクション機能を備えたエンタープライズレベルのFWaaS(Firewall-as-a-Service)が含まれます。また、インラインでのアンチウイルスやサンドボックス機能といった高度な脅威保護機能も、あらゆる場所から発生するインターネットトラフィックデータに対して一貫したセキュアなアクセスを提供するために不可欠です。

FWaaSは、次世代ファイアウォール(NGFW)機能をクラウドサービスとして提供し、ユーザーエクスペリエンスに影響を与えることなく、すべての接続のデータストリームを保護し、インバウンドおよびアウトバウンドのトラフィックを分析する必要があります。この分析には、L7アプリケーションデータの可視化と制御、WebフィルタリングのためのURLカテゴリデータ分析、SSLインスペクションによる暗号化されたデータストリームの復号・分析、DNSセキュリティ、そしてIPSやATP(Advanced Threat Protection)における脅威データパターンの検出と防御が含まれます。これらの機能は、インターネットトラフィックという膨大なデータに対して、多角的な分析とポリシーに基づいた制御をリアルタイムで行うことで、セキュリティリスクを軽減します。

ゼロトラストジャーニー加速のためのデータ駆動型アプローチ
ゼロトラストセキュリティモデルを組織の固有の課題に合わせて適用し、全社的なメリットを引き出すためには、データ駆動型のアプローチが不可欠です。ゼロトラストの主要なユースケースを定義する際には、ユーザーによるデータアクセス、アプリケーション利用、デバイス接続といった、組織内で発生する具体的なデータインタラクションシナリオを特定し、それぞれのシナリオにおけるセキュリティポリシー要件をデータ視点から整理します。

ソフトウェア間の通信、特にサービス間通信やAPIインタラクションにおいては、データフローの可視化とセキュリティ確保が重要な課題となります。マイクロセグメンテーションやAPIセキュリティ対策は、これらのデータフローに対するきめ細やかなポリシー適用を可能にします。カスタムアプリケーションにおける認可の実装においては、アプリケーションが扱うデータ要素や機能へのアクセス制御ロジックを設計し、データに基づいたロールや属性に応じたアクセス可否判断を実装することが求められます。

ゼロトラストジャーニーに役立つAWSサービス群は、ゼロトラストアーキテクチャが必要とするデータ収集、ストレージ、分析、セキュリティ実行基盤を提供します。例えば、AWS Security Hubはセキュリティデータを統合的に収集し、GuardDutyは異常データパターンを検出し、IAMはIDデータを管理し、VPCやSecurity Groupsはネットワークデータフローを制御します。これらのサービスを活用することで、ゼロトラスト実装に必要なデータ基盤を効率的に構築・運用できます。

ゼロトラストを戦略的優先事項として位置づけることは、経営レベルでのデータセキュリティとリスク管理に関する明確な意思決定を意味します。これは、組織のデータ資産を保護し、変化する脅威環境に対応するためのデータに基づいたセキュリティ戦略の実行を推進します。

ID管理、インフラ設計、セキュアアクセスにおけるデータ分析と意思決定

今日のエンタープライズIT環境において、従来のシステム構成に基づいたアクセス制御が依然として機能している組織も存在します。特にID管理においては、ADFSのようなオンプレミス基盤が利用されているケースが見られます。しかし、運用コスト効率の観点から、将来的にはADFSを廃止し、Azure ADをゼロトラスト戦略における統合ID管理の中心に位置付ける方向性に対する継続的な評価が不可欠です。さらに、オンプレミスのActive Directoryを廃止し、Azure ADによるクラウドネイティブな環境を目指すためのデータ移行および運用設計の検討も重要となります。これは、IDデータソースをクラウドに一元化することで、IDデータ分析の精度向上やアクセスログデータの統合管理を可能にするためです。ゼロトラスト戦略における統合ID管理は、ユーザーやエンティティのIDデータをアクセス制御判断のための中心的な信頼シグナルとして活用することを目的としており、そのデータ基盤の最適化は喫緊の課題と言えます。ハイブリッドワークの実践におけるゼロトラストポリシー導入の進展は、アクセスログや認証成功/失敗データ、およびセキュリティインシデントデータといった分析結果に基づき、各組織が現実的かつ最適なセキュリティモデルを選択していることの表れであると考えられます。

VDI(Virtual Desktop Infrastructure)の設計においては、単一障害点(SPOF)の発生リスクに対する綿密なデータ分析が必要です。SPOFは、当該コンポーネントの障害がシステム全体、すなわちユーザーアクセスやデータ処理の可用性を直接的に脅かす可能性を示唆します。ハイパーバイザー、サーバー、ネットワーク機器などの冗長性確保は、データパス、処理能力、ストレージといった各レイヤーにおける可用性を向上させるための重要なアーキテクチャ設計です。冗長性の導入は、システム稼働時間データにおけるダウンタイムの削減や、ネットワークパフォーマンスデータにおけるデータ転送速度の向上といった形でその効果を評価できます。ただし、冗長性の実現にはハードウェアおよびライセンスのコスト増加が伴うため、これらのデータ可用性および性能改善がもたらすビジネスメリットとコスト増加との間の投資対効果分析が意思決定の重要な要素となります。

VPNからZTNAへの移行トレンド:データ分析が示す課題と解決策
従来のVPNに代表されるリモートアクセス技術やセキュリティモデルは、今日の分散したIT環境と多様化するデータアクセスパターンに対応する上で限界を迎えています。これは、集中管理が必要なオンプレミスハードウェアに起因するデータトラフィック処理のボトルネックや、ネットワーク境界ベースのポリシーによるデータ適用粒度の粗さ、さらにユーザーによるVPN利用不徹底が引き起こすセキュリティリスクデータ(例:ポリシー非遵守を示すアクセスログ)の発生といった課題のデータ分析から明らかになっています。「ゼロトラストセキュリティ」は、これらの限界を克服するためのデータ駆動型アプローチとして注目されています。

自動車バイヤー向けサービスを提供する事例は、このトレンドをデータ視点から裏付けます。同社はパンデミック中に「VPNを捨ててZTNAに乗り換えた」と述べており、その理由としてVPNにおけるオンプレミスハードウェアの集中管理負担と、それに伴う適切なセキュリティポリシーのデータ適用困難性を挙げています。VPNがユーザーの生産性を妨げていた点(これはVPN接続時間やアプリケーション応答時間などのユーザー体感パフォーマンスデータとして観測される可能性があります)を課題として指摘しており、過去の運用データ分析に基づいた意思決定プロセスを示唆しています。

「VPNを捨ててZTNAに移行するトレンドに追随する途上だ」と説明しています。その背景にはクラウドサービスへの依存度向上があり、「SaaSとオンプレミスVPNを連携させるのは手間がかかる」(これはSaaS利用におけるデータ経路の複雑性や認証・認可データの連携における非効率性として捉えられます)と述べています。

2023年までに企業の6割がVPNを廃止しZTNAに置き換えるという予測を発表しています。これは、市場全体の導入データおよびトレンド分析に基づいたものであり、セキュリティモデルが境界型防御という「ネットワークというデータソース」に基づくものから、IDベース認証という「IDというデータソース」に基づくものへと、その判断軸が移行しているデータ分析的な変化を示唆しています。既存の境界型防御モデルであるレガシーVPNを使用している組織に対し、IDデータに基づいたセキュリティ対策であるZTNAへの切り替えを検討することは、リスク管理の観点から強く推奨される方向性と言えます。

ゼロトラストアーキテクチャがもたらすデータ保護と運用効率の向上

ゼロトラストアーキテクチャの導入は、システムおよびデータ資産の保護レベルを向上させると同時に、ユーザーエクスペリエンスや組織全体の生産性に対するポジティブな影響をもたらす可能性がデータ分析から示唆されています。例えば、ゼロトラストモデルを採用することで、アプリケーション開発者はこれまでアプリケーションロジック内部で直接対応する必要があったセキュリティ関連のコーディング作業を削減できる可能性があります。これは、開発サイクルの効率化やセキュリティ関連の修正にかかる工数データ削減という形で観測され得ます。さらに、最新のID管理システムへの移行や統合において、既存のIDデータとの連携や引き継ぎが追加の労力を最小限に抑えて実現できることで、ID管理の運用効率データ(例:管理にかかる時間、エラー率)の改善が期待されます。

以下に、AWSがゼロトラストジャーニーを推進する上で重要であると策定した、データ分析に基づいた3つの指針を示します。

ゼロトラストジャーニーを推進するデータ分析に基づく3つの指針(AWS策定)
可能な限り、アイデンティティとネットワークの機能を組み合わせて使用する
ゼロトラストセキュリティモデルは、アクセス判断におけるネットワークロケーションという単一データソースへの依存度を低下させます。しかし、ネットワーク制御およびネットワーク境界から収集されるデータは、セキュリティアーキテクチャ全体にとって依然として重要なコンテキスト情報を提供します。最適なセキュリティ態勢は、アイデンティティ管理システムが提供するユーザーやエンティティのIDデータと、ネットワーク機器から収集されるトラフィックデータやログデータといったネットワークテレメトリデータを統合的に分析することで実現されます。これは、単にID中心のツールとネットワーク中心のツールを個別に利用するのではなく、これらのシステムが相互運用し、データシグナルを共有・補完し合うアーキテクチャを確立することを意味します。アクセス判断は、複数のデータソースからの信頼シグナルを組み合わせた総合的なリスク評価に基づいて行われます。

具体的なユースケースを起点に考える
ゼロトラストへの移行を効果的に進めるためには、組織のビジネスプロセス、データフロー、アプリケーション利用パターン、および既存のセキュリティリスクデータ(例:過去のインシデントデータ、脆弱性スキャンデータ、監査ログ)を分析し、ビジネスへの影響度が高い、あるいはセキュリティリスクが顕著な領域を特定のユースケースとして定義し、これを優先順位付けすることが最善の方法の一つです。ユースケースを起点とすることで、有意義なセキュリティ強化を実現するための最適なゼロトラストのパターン、適用ツール、およびアプローチを、分析されたデータと既存のセキュリティフレームワークの評価に基づいて決定することができます。ゼロトラストの主要なユースケースには、ユーザーアクセス、アプリケーションアクセス、デバイス接続、およびワークロード間の通信におけるデータ保護とアクセス制御が含まれます。

ビジネス価値に応じてシステムやデータにゼロトラストを適用する
ゼロトラストの概念は、既存のセキュリティ制御を補完・強化するものとして位置づけるべきです。ゼロトラストを適用する対象システムやデータを、そのビジネス価値とデータの機密性(データ分類およびラベリングの結果、ビジネスインパクト分析データなどに基づいて評価)に応じて優先順位付けすることで、セキュリティ投資に対するビジネスメリットを最大化できます。ゼロトラストジャーニーを進めるにつれて、クラウド環境の高いデータ可視性(豊富なログデータやテレメトリデータの収集)とソフトウェア的なセキュリティ制御の性質(APIを通じたポリシー設定・変更の容易さ)のメリットを享受できます。これにより、セキュリティ態勢の改善を、監査ログ、インシデント対応にかかる時間、脆弱性スキャン結果の推移といったデータ指標によって定量的に測定し、継続的な最適化を図ることが可能になります。

ゼロトラスト導入におけるデータ分析に基づいたベストプラクティス

ゼロトラストへの取り組みを進める初期段階では、データ収集基盤の整備、既存システムからのデータ連携構築、新たな分析ツールの導入、およびポリシー設計に必要なデータ要件定義といったデータ関連のタスクが集中するため、負担が大きいと感じられる可能性があります。しかし、以下に示すデータ分析に基づいたベストプラクティスに沿うことで、適切なデータ基盤を確立し、データ管理や分析における一般的な失敗を回避し、ゼロトラスト成功への道筋を描き、データに裏付けられた自信を持って推進することが可能です。

データに基づいた目標定義の重要性
ゼロトラストへの移行を開始する前に、その移行理由と最終的な目標を組織全体に対してデータに基づいた形で明確に定義し、伝達することが不可欠です。理想論ではなく、セキュリティインシデント発生率の低下、データ漏洩リスクスコアの改善、ユーザーアクセスにおける待ち時間短縮による生産性向上、セキュリティ運用コスト削減といった、具体的かつデータによって測定可能なビジネス成果指標(KPI)に焦点を当てます。主要な利害関係者を特定し、ゼロトラストへの取り組みが、それぞれの関係者が責任を持つKGI/KPIにどのようにデータとして貢献するかを簡潔にまとめ、継続的に伝達・強調することで、全社のコミットメントを獲得します。

データ分析に基づく最初のユースケース選定
ゼロトラストへの勢いをつけるためには、まず明確なビジネス価値をデータとして実証でき、比較的短期間で成果を上げられるユースケースから開始することが推奨されます。組織全体のデータフロー、アプリケーション利用パターン、および既存のセキュリティリスクデータ(例:過去のインシデントデータ、脆弱性スキャンデータ、アクセスログにおける異常パターン)を分析し、最もビジネスへの影響が大きい、あるいはリスク軽減効果がデータとして顕著に現れる可能性が高い領域を最初のターゲットとします。ユーザーとアプリケーション間のユースケース(例:リモートユーザーアクセスログの統合分析によるリスク特定)や、ソフトウェア間のユースケース(例:東西トラフィックデータの可視化による内部セグメンテーションポリシーの効果測定)など、管理しやすく、異なるグループ間で成果がデータとして共有しやすいユースケースは特に適しています。

ゼロトラストチームが自身の管理するアプリケーションまたはアプリケーショングループの一つを最初の移行対象とすることは、データ分析能力とポリシー適用能力を内部で検証し、その効果をデータ(例:適用されたポリシー数、拒否された不正アクセス試行のデータ、運用の効率性を示すデータ)で評価する上で賢明なアプローチです。これにより、他のチームの重要なコンポーネントを移行する際に、ゼロトラストチームの能力に対するデータに基づいた信頼感を醸成することができます。

動的なリファレンスアーキテクチャ:データ管理と進化
各ユースケースの目標、ゼロトラストポリシー、関連するデータフロー、コンポーネント間のデータ連携、およびセキュリティイベントデータの収集・分析プロセスを記述した、動的なリファレンスアーキテクチャを「生きたデータ成果物」として作成します。これは、初期構築を迅速に進めつつ、新たなユースケースの追加やデータソースの連携など、作業の進行に応じてアーキテクチャをデータモデルとして進化させていくための指針となります。ゼロトラストジャーニーの早い段階で動的なリファレンスアーキテクチャを使用することで、チームはデータ管理のテンプレート化を早期から考慮し、将来的な拡張性と運用効率の確保に繋げることができます。

小規模でのデータ収集・分析と自信の獲得
最初に小規模で有意義な一連のワークロードに焦点を当てることで、ゼロトラスト実現に必要な技術プロセス(データ収集、分析、ポリシー適用)と運用プロセス(データ監視、インシデント対応、ポリシーチューニング)を、収集されるデータを基に柔軟かつ反復的に改善することが可能です。このプロセスで蓄積された成功データ(例:特定のワークロードにおけるセキュリティレベル向上を示すデータ、運用上のボトルネック解消を示すデータ)は、取り組みをIT環境全体に拡大するために必要な組織内の信頼と経験を構築する上で非常に重要となります。

ゼロトラスト適用におけるデータ分析的比較:改修 vs モダナイゼーション
特定のアプリケーションやユースケースに対してゼロトラストセキュリティモデルを適用する方法を評価する際には、改修(既存アプリケーションへのゼロトラスト機能の組み込み)と、より広範なモダナイゼーションまたはクラウド移行イニシアチブの一環としてのリアーキテクトによるゼロトラスト導入、それぞれの「労力」(開発工数データ、システム停止時間データ)と「価値」(セキュリティレベル向上データ、運用コスト削減データ、新機能開発リードタイムデータ)をデータに基づき比較検討することが不可欠です。改修が最適な選択肢である場合でも、進行中のアプリケーションモダナイゼーションプロジェクトがあれば、データ基盤やアーキテクチャの抜本的な見直しと同時にゼロトラストセキュリティモデルを組み込むことは、効率的なデータセキュリティ強化を実現する絶好の機会となり得ます。

導入貢献者へのデータに基づいた評価
ゼロトラスト導入を促進するためには、データ分析、ポリシー設計、技術実装、運用改善など、プロジェクトに顕著な貢献をした個人の成果を、客観的なデータ(例:リスクスコアの削減、インシデント対応時間の短縮、開発した分析レポートのインパクト、自動化による運用効率向上を示すデータ)に基づいて評価し、これを認識するプロセスを設けることが有効です。

ゼロトラストの戦略的優先事項化:データ環境の変化と保護への対応

今日、組織が従業員のモビリティを高め、セキュリティ体制を強化し、ビジネス全体でデジタルテクノロジーを統合するにつれて、データ生成量、データ流通パターン、およびそれに伴うセキュリティリスクデータは著しく変化しています。このようなデータ環境の変化に対応し、機密性の高いデータ資産を適切に保護するための戦略として、ゼロトラストが戦略的優先事項として浮上しています。多くの組織がゼロトラストモデルを採用することで、セキュリティインシデント発生率の低下やリスクスコアの改善といったセキュリティ態勢の向上に加え、アクセス時間の短縮や効率的なデータアクセスによるエンドユーザー生産性の向上といったデータによって測定可能な成果を目指しています。

しかしながら、ゼロトラストは現在も継続的に進化している概念であり、多様な実装アーキテクチャが存在します。このセキュリティモデルを特定の組織のデータ環境に展開する最善の方法に関するガイダンスも多岐にわたるため、組織によっては、自組織のデータソース、データフロー、および既存システム構成に最適なゼロトラストモデルを選択・設計するためのデータ分析能力や明確なデータ要件定義に課題を抱え、戦略の実装およびその成果の享受に至れないケースが見られます。Amazon Web Services (AWS) は、ゼロトラストセキュリティモデルへのジャーニーにおいて、必要なデータ基盤、分析ツール、およびセキュリティサービスを提供することで、組織の取り組みを加速するための支援を行います。

本ガイドのデータ分析的構成要素
本ガイドは、ゼロトラストの導入を成功させるためのデータ分析と実装に関する情報とガイダンスを提供します。最初に、ゼロトラストが組織のデータ保護、データアクセス制御、およびAWS環境におけるデータセキュリティにどのような変化をもたらすのかをデータ視点から定義します。次に、ゼロトラストジャーニーを進める上でデータ分析に基づいて考慮すべき3つの重要な指針を紹介します。そして、データ駆動型ゼロトラスト実装における6つの実践的ステップを探求し、ゼロトラストポリシーを適用する主要なデータインタラクションシナリオである3つのユースケースを詳細に分析します。最後に、セキュリティレベル向上とエンドユーザー生産性向上といったゼロトラストのメリットをデータとして最大化するために、特定のAWSサービスをどのように活用できるかに関するアドバイスを示します。

ゼロトラストのデータ分析的理解
従来のセキュリティアプローチは、「セキュアなネットワーク境界を通って内部に入ってきた存在に対しては、データやアプリケーションへの広範なアクセスを許可する」という、ネットワーク境界内でのデータアクセスに対する信頼を前提としたモデルに基づいて運用されていました。このモデルでは、追加的な多層防御が最小限となることが多く、これはデータ収集・分析の粒度が粗く、データポイントの不足や統合分析の欠如に起因するものと解釈できます。

しかし、今日のビジネス環境においては、クラウドベースのサービスやSoftware as a Service (SaaS) アプリケーションの導入が広く進んでおり、「ネットワーク境界」という概念は曖昧になっています。これは、データソースの分散化とデータフローの複雑化を招き、従来のネットワーク境界に収集されるデータだけではセキュリティ判断が困難になるデータ環境の変化を示しています。ゼロトラストセキュリティモデルは、このような現代の企業環境に適したレベルのデータセキュリティを実現するために開発されました。

ゼロトラストは、従来のネットワーク制御や境界から収集されるデータに根本的に依存しない、データソース横断的な継続的アクセス評価モデルであり、それに関連する一連のメカニズムを提供することに重点を置いています。別の言い方をすれば、ゼロトラストは、データやアプリケーションへのアクセス要求が発生するたびに、アクセスを要求しているユーザーのIDデータ、アクセス対象のデータ分類や機密性に関するデータ、使用デバイスの状態データ、アクセス元の位置データなど、多様なデータソースから情報を継続的に収集・分析し、リスクを評価した上でアクセス可否を判断・制限するセキュリティモデルです。ゼロトラストは、データ分析の結果に基づいたインテリジェントなアクセス決定を導き出し、ユーザーエクスペリエンスとIT部門の管理効率を考慮しながら、最も妥当な場面でその決定をデータとして実施することに焦点を当てています。

ゼロトラスト導入がもたらすデータ保護と運用のデータ指標改善

ゼロトラストアーキテクチャの導入は、エンドユーザーのセキュリティ体験を簡素化し、セキュリティ関連のサポートチケット数減少やアクセス時間データ改善といった形で効果を示す可能性があります。開発者にとっては、アプリケーションロジックへのセキュリティ機能の直接的なコーディング負担が軽減され、セキュリティ関連のコード修正工数データ削減やデプロイメントリードタイム短縮に貢献する可能性があります。これは、モダンアプリケーションアイデンティティ管理機能がデータ連携を通じてシームレスに統合されることで、「無償アップグレード」に相当するメリットをもたらすと言えます。セキュリティチームにとっては、アプリケーションへのデータアクセスがより厳密に制御されることで、リスク対象領域を示すデータ指標(例:脆弱なアセット数、不正アクセス試行データ)が減少し、セキュリティインシデント発生率や対応時間データの改善に注力する時間を増やすことができます。さらに、組織全体として、ゼロトラストは柔軟なデータアクセスと安全な接続を実現し、これは業務効率データやサービス応答時間データといった生産性およびカスタマーエクスペリエンス関連のデータ指標の向上に繋がる可能性があります。ゼロトラストへの取り組みを進める中で、データ分析、ポリシー設計、技術実装、運用改善などに顕著な貢献をした個人をデータに基づき評価し、功績をたたえることは、取り組みを推進する支持と熱意を高める上で有効です。

ゼロトラスト導入拡大:データ駆動型のフライホイール効果
ゼロトラストチームが導入経験を積み重ね、そのセキュリティモデルのメリットをデータとして実証し、より多くのユーザーがその恩恵を受けるにつれて、導入は勢いを増していきます。導入の進展に伴い、セキュリティイベントの発生件数データが減少する傾向が見られ、セキュリティチームは脅威対応だけでなく、セキュリティ態勢のさらなる改善やエンドユーザーエクスペリエンス向上といった領域に注力する時間を増やすことが可能となり、これが導入をさらに促進する熱意を生み出します。時間の経過とともに、データ分析による継続的な改善活動と、それによって得られる成功データが組織内で共有され、ゼロトラストの導入が自律的に加速・拡大するデータ駆動型のフライホイール効果が定着します。

この拡大は、組織のデータ環境に最大の価値をもたらすゼロトラストのユースケースを特定することから始まります。以降のセクションでは、今日の組織における主要なデータインタラクションユースケースを3つ取り上げます。

ゼロトラストの主要データインタラクションユースケース
セキュアな従業員モビリティ

今日の従業員は、場所やデバイスを問わず、仕事中どこからでもビジネスアプリケーションに安全にアクセスできる必要があります。このようなアクセスを可能にすることは、組織が新しい柔軟な勤務形態を導入し、利用できる人材プールのデータ(地理的制約の解消)を広げ、進化する顧客ニーズに適応できるよう人員を増やすこと(ビジネスデータ分析に基づく人員配置)に貢献します。

AWS Verified Accessを利用すると、従業員は従来のVPNに依存することなく、企業アプリケーションに安全にアクセスできます。これは、従業員のリモートアクセスにおけるデータフローに対するゼロトラストポリシーを適用するためのサービスです。既存のアイデンティティプロバイダー (IdP) からの認証データと、デバイス管理サービスからのデバイスのセキュリティおよびコンプライアンス状態データを接続することで、これらのデータポイントをリアルタイムで検証し、ポリシー判断に基づいてアプリケーションへのアクセスを厳密に制御できます。ユーザーは既存の認証情報を引き続き使用できるため、ユーザーエクスペリエンスへの影響も最小限に抑えられます。AWS Verified Accessは、各アクセスリクエストにおけるIDデータとデバイス状態データをリアルタイムで検証し、特定のセキュリティ要件が満たされるとユーザーをアプリケーションに接続するという、データ駆動型のアクセス制御を実行します。

セキュアな従業員モビリティのシナリオにおいて、ユーザーが特定のハードウェアデバイスを所有していない場合でも、Amazon WorkSpaces Family や Amazon AppStream 2.0 などのサービスを利用できます。これらのサービスは、アプリケーション実行環境とデータをAmazon VPCやその他の接続されたプライベートネットワーク内に安全に保持し、アプリケーションの画面表示データのみを暗号化されたピクセルとしてリモートユーザーにストリーミングすることで、データがエンドポイントデバイスに残らないようにするデータ分離・保護アーキテクチャを提供します。

ソフトウェア間の通信

今日の複雑なアーキテクチャにおいては、他のアプリケーション、データソース、クラウドベースのアプリケーションプログラミングインターフェイス (API) と継続的に通信しているソフトウェアコンポーネントが数多く存在します。これらのソフトウェアコンポーネント間のデータフローに対してゼロトラストポリシー、特に最小権限アクセスとマイクロセグメンテーションを適用することは、データへの不要な通信経路を排除し、セキュリティ態勢を強化する上で極めて重要です。ソフトウェア間の通信におけるデータフローを可視化し、データアクセスポリシーをきめ細かく制御することで、攻撃者が内部ネットワーク内で横方向に移動してデータにアクセスするリスクを低減できます。