クラウドネイティブ企業と従来型組織の比較
クラウドネイティブのスタートアップ企業は、設計段階からオブザーバビリティを重要視し、DevOps環境で迅速に適応できる構造を備えています。これは、オブザーバビリティがシステム運用の基本要素として扱われ、スタートアップにおいては他の基礎スキルよりも早期に習得すべきと認識されています。
一方で、従来型の組織は、レガシー環境からハイブリッドやマルチクラウド環境への移行、ウォーターフォール型開発からアジャイルやDevOpsへの変革という大規模なプロセスが必要であり、これが大きな課題となっています。
データを活用した調査の信頼性強調
世界各国の525社の中規模〜大規模な企業を対象とし、オブザーバビリティの成熟度を判断するために、運用チーム、開発者、シニアリーダー、現場エキスパートなど多様な視点を取り入れています。この調査により、企業がどの程度オブザーバビリティを実践しているかを、信頼性の高いデータで評価しています。
オブザーバビリティの経験値による成熟度の分析
オブザーバビリティの実践経験が24カ月以上の組織は、リーダーレベルに位置付けられ、全体の45%がこの段階に到達しています。一方で、12〜23カ月の経験を持つ企業は約4割を占めており、経験の蓄積がオブザーバビリティの成熟度に直結していることが示されています。
データの相関付け能力の重要性
リーダーレベルに該当する企業は、組織内のすべてまたはほぼすべてのデータを相関付ける能力を持ち、全体の3割がこの水準に達しています。しかし、半数の企業は一部のデータしか相関付けできておらず、データ全体を網羅的に統合できるかどうかが、オブザーバビリティの実践における大きな差異を生み出しています。
ベンダー統合による効率化の進展
リーダーレベルの企業の半数は、複数のベンダーから提供されるツールを単一のプラットフォームに統合しています。これにより、運用の効率化が進み、リソース管理の最適化やデータの一元管理が実現されています。一方で、約3割の企業は「ベンダー数が変わらない」としており、さらに2割強は「ベンダーが増えている」と回答しており、統合の進捗に差があります。
AI/機械学習によるオブザーバビリティ強化
オブザーバビリティのリーダーレベルの企業の52%は、AIや機械学習機能を搭載したツールを使用しており、これにより迅速な問題特定や予測分析が可能となっています。残り33%の企業は導入途中であり、13%は今後の導入予定がないと回答しています。
リーダーレベルのメリット
オブザーバビリティが成熟すると、企業はリソースやパフォーマンスをより詳細に可視化し、アプリケーションの問題を迅速に特定する能力が向上します。また、成熟度の高さは、チームのイノベーションを促進し、デジタルトランスフォーメーションの推進力となり得ます。
クラウドネイティブのスタートアップ企業は、オブザーバビリティをシステム設計の初期段階から取り入れ、DevOps環境を前提としたスムーズな運用を実現しています。一方、従来型の企業はレガシーシステムからハイブリッドやマルチクラウド環境への移行、DevOpsの導入が大規模な変革となっており、多くの企業がこのプロセスに挑戦しています。
オブザーバビリティの成熟度は、経験、データの相関付け、ベンダー統合、AI/機械学習の活用といった要因によって評価され、リーダーレベルの企業はこれらの分野で優れた実績を示しています。特に、リーダー的な企業ではデータの相関付けが進み、ベンダー統合やAIの導入によって迅速な問題解決や効率的な運用が実現されています。
監視とデータ可観測性の変遷
エンタープライズでの「可観測性」の意味と従来型の監視ツールとの違いを理解するには、過去10年における監視と可観測性の進化を振り返ることが必要です。
1. 可観測性の台頭と背景
近年、マイクロサービス・アーキテクチャや、急速に進化するCI/CD(継続的インテグレーションと継続的デリバリー)パイプラインの導入が進む中、ツール・ベンダーはこれまでの「監視」から「可観測性」へとマーケティング戦略をシフトしました。これにより、自社ツールが単にアプリケーションの状態データを集めるだけでなく、複雑な環境に対応する高度な価値を提供できるとの認識を強調するようになりました。
2. 可観測性ツールの現状と課題
しかし、リブランドの裏には、ほとんどのツールが実際には「監視」の枠組みを超えておらず、可観測性の機能が限られている現状があります。複雑な分散アーキテクチャ内でマイクロサービス間の相互関係を十分に把握し、動的なアプリケーションの状態変化に応じた洞察を提供する点では、多くのツールが手動での設定や管理に依存し、真の可観測性には至っていません。また、多くのソリューションは実運用環境に焦点を置き、CI/CDパイプライン全体の可視性は提供できていないため、開発から運用に至るデータの連続的な追跡が難しいのが実情です。
3. 現状の「可観測性」が抱えるギャップ
要するに、監視から可観測性へと称された多くのツールは、機能面では実際には10年前から大きく変わっておらず、マーケティング上の言葉の変化にとどまっています。エンタープライズレベルで真に求められる可観測性とは、全システムのデータをリアルタイムで一貫して収集・解析し、ビジネスのニーズに応じた柔軟な洞察を提供するものであるべきですが、現状その目標には遠く、エンタープライズは依然として限定的な情報に基づく対応を余儀なくされているのが現実です。
データ可観測性の理論と現実
データ可観測性に対するアプローチは、ツールベンダーによって異なり、多くのベンダーがマーケティングの一環として自社に有利な「可観測性」の定義を打ち出しています。これは、多くの企業が「可観測性」という曖昧な用語を用い、自社ツールの価値をアピールしている背景を理解できるものの、エンタープライズ環境において真に必要な可観測性とは、ツール単体が提供できるものを超えた広範な概念を含むべきです。
1. 真の可観測性の客観的な定義
APM Expertsが指摘するように、可観測性の客観的定義には、アプリケーションやシステム全体での「すべての作業単位に関連するビジネスにとって重要なデータ」つまり、ログ、メトリクス、トレース、依存関係マップなどが含まれる必要があります。この定義に基づく可観測性は、単なる監視の域を超え、データの全体像を提供し、ビジネスの意思決定に資する要素を備えたものといえます。
2. ビジネスの文脈を踏まえた可観測性の進化
Instanaのような企業は、ビジネス要素の視点を加えることで、可観測性の意義をさらに拡張しようとしています。エンタープライズにおける真の可観測性は、システムの各構成要素に関するコンテキストデータを包括的に収集し、ビジネスにとって有益な方法で処理・提示する能力を含みます。このため、エンタープライズの可観測性には、IT環境のあらゆる作業単位を追跡し、リアルタイムでビジネス価値を引き出すデータ処理が不可欠です。
3. チームの実用化を支援するプロセスとコラボレーション
可観測性を真に実用化するには、ITおよびDevOpsチームがそのデータを効果的に活用できるためのプロセスやコラボレーションが求められます。これは、可観測性の技術的な機能だけではなく、データからビジネスインサイトを引き出し、組織全体でのデータ活用に貢献するための文化やプロセスの整備が欠かせません。従来の監視や可観測性ソリューションはブランド戦略を掲げていますが、この実用化までに至るケースは少なく、エンタープライズにおける可観測性の本質的な価値を最大化するためには、単なる技術的要件を超えた組織的なサポートが鍵となります。
結論
企業にとって、完全な可観測性とは、技術的な監視機能に加えて、データを適切に処理し、ビジネス価値を生み出すためのプロセスとチームの連携の融合であるといえます。
エンタープライズ規模の可観測性実現のためのコア要素
エンタープライズ規模での可観測性(オブザーバビリティ)を達成するためには、各データユニットに完全なコンテキストが付与され、エンドツーエンドの可視性を確保することが不可欠です。チームが発生している問題を推測で解決することなく、リアルタイムの情報を基にアクションを取れる環境を整えるには、すべての作業単位における詳細なトレースとコンテキストの把握が必要です。
1. 完全なコンテキスト化
まず、エンタープライズレベルでの可観測性には、すべてのデータを完全なコンテキストと共に提供する必要があります。サンプリングに依存せず、データの全体像を取得するために、すべてのトランザクションやイベントをエンドツーエンドで追跡する仕組みを持つことが求められます。
2. クラウドネイティブなデプロイのシームレスな統合
エンタープライズ規模の可観測性ツールは、クラウドネイティブアプリケーション環境とシームレスに統合できる必要があります。自動化されたデプロイ計測プロセスにより、各リリースでの稼働状況を自動で監視・計測できる仕組みを構築し、効率的な運用を実現します。
3. データ取り込みの包括的なサポート
エンタープライズ環境では、さまざまな方法でデータが生成・公開されるため、観測ツールは多様なデータソースに対応する必要があります。例えば、標準出力やログ、OpenTracingなどのオープンソース監視APIによるデータの公開方法など、多様なソースからのデータ取り込みが可能なことが、包括的な可観測性には不可欠です。
4. パイプライン全体での可視化と監視
エンタープライズ規模の可観測性は、アプリケーション稼働時の監視だけでなく、CI/CDパイプライン全体を通じて継続的に追跡し、デプロイまでの各ステージでの振る舞いを可視化することが重要です。これにより、新しいアプリケーションがリリースされる前にその挙動を最適化し、他のシステムとのやり取りを事前に理解しておくことが可能になります。
複雑なIT環境における可観測性の意義
現代のIT環境では、疎結合で変化が激しい分散型アーキテクチャが主流となりつつあります。こうした環境下で単一のITユニットの監視だけでは全体像を把握するには不十分です。全社的なコンテキスト化と相関機能を提供する可観測性ツールこそが、パフォーマンスの最適化とリアルタイムでの意思決定に貢献する真の洞察を提供します。