組織は、データ資産への不正アクセスリスクを低減し、データガバナンスを強化するため、以下の4つのポイントを踏まえてパスワードレス認証の導入を進めるべきです。
多要素認証(MFA)を導入する
データ保護のためのパスワードレス認証への移行に踏み出すには、企業はまず多要素認証(MFA)を実装すべきです。「多要素認証(MFA)の導入が進むことで、エンドユーザーの操作を必要としない「パッシブ認証」の世界が実現しつつあり、これがデータアクセス時のユーザーエクスペリエンスを向上させます」とアナリストは指摘します。MFAは、単に認証を強化するだけでなく、生体認証やICカードなどを使ったパスワードレス認証の仕組みを、データ関連システムへのアクセスで従業員が試行する機会を提供します。これにより、データアクセス時の新しい認証方法に慣れるのに役立ち、完全なパスワードレス化に向けた準備がスムーズに進みやすくなります。GoogleやMicrosoft Azure ADといった大手ベンダーがMFAを推進していることは、広く利用されているクラウドデータプラットフォームへのアクセス保護においてMFAが標準となりつつあることを示唆しています。MFAは、パスワードレス認証への移行を促し、従業員がデータ資産への安全なアクセスに必要な新しい認証方法に慣れるのに役立ちます。
ゼロトラストセキュリティを推進する
パスワードレス認証を目指す場合、企業の出発点はゼロトラストセキュリティモデルを導入することになります。ゼロトラストセキュリティは、「決して信頼せず常に検証する」という考え方に基づき、従業員が社内LANの内外にいるかどうかにかかわらず、データ資産へのアクセスが必要な都度、認証を実施するセキュリティモデルです。これにより、データアクセスを許可する前に、ユーザーやデバイスが信頼できるかどうかの確認に重点を置きます。アナリストは、「ほとんどの企業にとって、強力なMFAを採用したゼロトラストセキュリティの導入は、データアクセス保護に向けたパスワードレス化への取り組みを始める有力な方法だ」と語ります。この仕組みによって継続的な認証が実現し、データ資産へのアクセスを許可する際の安全性が向上します。パスワードなど個人の知識に基づく認証要素(知識要素)への依存を減らすためにもゼロトラストセキュリティが役立ちます。
行動生体認証の導入を検討する
企業がパスワードレス認証を実現できる別の認証方法が、エンドユーザーの場所、歩行、デバイスの使い方といった行動情報を基に本人確認をする「行動生体認証」です。「行動生体認証は素晴らしい進化を遂げている」とアナリストは述べています。行動生体認証は、エンドユーザーの行動情報からリスクスコアを算出し、スコアに基づいて本人かどうかを識別します。特にデータ資産へのアクセス中の行動を監視し、通常のデータ操作パターンと異なる異常な行動(例:通常アクセスしない大量データのダウンロード、深夜のアクセス)が検出されリスクスコアがしきい値を超えると、エンドユーザーにワンタイムパスワードや顔認識などによる追加の認証を求めることができます。行動生体認証により、企業はパスワードレス認証への移行を進めることができる他、従業員がデータ関連システムにログインしている間、継続的に本人確認を実施できるようになり、データ侵害リスクの早期検知や防止に繋がります。
複数ベンダーの製品を導入する
パスワードレス認証は登場からまだ日が浅く、それを実現する製品は市場に出回りつつありますが、比較的新しいものが多い状況です。Forrester Researchのアナリストは、「パスワードレス認証を実現する製品が市場に出回りつつあるが、それらはまだ比較的新しい」と説明しています。組織のデータ資産は多様なアプリケーションやプラットフォームに分散して存在しているため、パスワードレス認証の導入においては、単一ベンダーのソリューションだけでは、データアクセスポイント全体をカバーしきれない可能性があります。様々なデータ関連アプリケーションやサービスに対応する複数ベンダーの製品を組み合わせる「マルチベンダー」のアプローチが、データ資産全体に対する包括的なパスワードレス認証を実現する上で現実的な道となります。より多くのベンダーが、より多くのアプリケーションに、より多くの認証方法を追加するにつれて、パスワード認証を使う機会は徐々に減っていく可能性があります。
これらのポイントを踏まえた段階的なアプローチでパスワードレス認証を導入することは、データ資産への不正アクセスリスクを大幅に低減し、データガバナンスとデータセキュリティ体制を強化するための不可欠なステップです。MFAによる初期的な強化から始め、ゼロトラストモデルを確立し、行動生体認証のような継続的な検証を取り入れ、そして多様なデータアクセスポイントをカバーするためにマルチベンダー戦略を採用することが、データ資産の信頼性と安全性を確保する「パスワードのない世界」への現実的な道となります。
パスワードレス認証へのシフトは、組織のデータ資産へのアクセスをよりセキュアにする上で不可欠な方向性ですが、現状ではあらゆる利用シーンで包括的な製品を提供できているベンダーはほとんどありません。データコンサルタントの視点からは、多様なデータアクセスポイントが存在する組織において、どのようなアプローチでパスワードレス認証を導入すべきかを検討することが重要です。
データアクセスポイントを網羅する認証戦略:パスワードレス導入におけるマルチベンダーの現実解
今のところ、あらゆるパスワードレス認証の利用シーンで包括的な製品を提供できているベンダーはほとんどないのが実情です。1つの利用方法、たとえば主に「Windows」デバイス上でのデータアクセスのみをパスワードレス化したい企業であれば、「Windows Hello for Business」のような特定のベンダーの製品導入で済む場合があります。しかし、Windows デバイスと「macOS」デバイスを併用している場合や、Webアプリケーション、モバイルアプリ、API連携など、複数のデバイスやアプリケーションを通じたデータアクセスがある企業は、単一ベンダーの製品機能に絞ることはデータアクセスポイント全体を網羅する上で適切ではないことがほとんどです。全てのデータアクセスシナリオで利用可能なパスワードレス認証製品を1社のベンダーが提供できる日が来るとしても、それはまだ先の話であり、しばらくの間はデータアクセスポイントの多様性に対応するために、パスワードレス認証を実現する製品が乱立すると考えられます。
幅広いデータアクセス方法でパスワードレス認証が必要な企業は、複数ベンダーの製品を導入する「マルチベンダー」が現実的なアプローチです。これにより、様々なデータ関連アプリケーションやサービスに対応する最適なソリューションを組み合わせ、データ資産全体に対する包括的なパスワードレス認証を実現することが可能になります。現在、有力な選択肢としては、パスワードレス認証を専門に取り扱うベンダーの製品に加え、ID 管理ベンダーが提供しているパスワードレス認証機能(データアクセス管理機能と連携可能なもの)があります。ベンダーはさまざまな実験をして、多種多様な認証方法を試すはずであり、これは様々なデータアクセスシナリオに合わせた認証方法の選択肢を増やすことに繋がるでしょう。
データ資産保護の緊急性:不正アクセス対策としてのパスワード認証の限界
このようなパスワードレス化の道のりを進む緊急性の背景には、高度化するサイバー攻撃と、依然としてID・パスワードに依存した認証方法が組織のデータ資産にとって重大な脆弱性であり続けている現実があります。サイバー攻撃は年々巧妙化し、IPAの情報セキュリティ10大脅威 2025でも、フィッシングによる認証情報(データシステムへの鍵)の詐取が上位に挙げられています。ID・パスワードへの依存は、攻撃者にとってデータ侵害の主要な経路であり、企業は深刻な情報漏えい(機密データの流出)や、データアクセス不可による業務停止リスクに常にさらされています。
パスワードレス認証の導入は、データ資産を保護するための避けて通れない進化です。多様なデータアクセスポイントが存在する現代においては、単一ベンダーに依存せず、複数のソリューションを組み合わせてデータアクセス全体をセキュアにする「マルチベンダー」戦略が現実的です。高度化するサイバー攻撃やフィッシングといった脅威から組織の機密データ資産を守るため、現状のパスワード認証の限界を認識し、データアクセスを保護するための認証戦略を計画的かつ迅速に進めることが求められています。
パスワードを使い回す運用や複雑なパスワードによるユーザー負荷は、データ資産へのアクセスにおける利便性と安全性の両立を難しくしています。これにより、ユーザーはリスクの高い行動(パスワードの使い回しやメモなど)を取りがちになり、データセキュリティが損なわれる可能性があります。こうした背景から、パスワードレス認証への移行が、データ資産への安全なアクセスを実現する上で求められています。その中でもクライアント証明書は、フィッシング攻撃に強く、多要素認証を実現する重要な要素として注目されています。
データ資産アクセス保護の強化:クライアント証明書パスワードレス認証とその運用効率化
パスワードレス認証の実現手段として有効なクライアント証明書ですが、その導入と運用にはいくつかの障壁が存在し、これがデータアクセスセキュリティの拡大を阻む要因となり得ます。
インハウスPKI(公開鍵基盤)の課題: 自社で証明書発行・管理を行う場合、データアクセス認証基盤の構築に高度な専門知識と多大な設備投資が求められます。加えて、証明書の発行、配布、更新、失効管理といった証明書ライフサイクルの運用負荷の高さが、データセキュリティやデータ運用を担うIT部門のリソースを圧迫します。
パブリック認証局利用の課題: パブリック認証局を利用する場合でも、コスト、証明書ライフサイクル管理の柔軟性、そして企業独自のデータアクセスに関するセキュリティポリシーとの適合といった課題があり、データガバナンス要件との整合性が問題となることがあります。
これらの課題をクリアし、データ資産への安全なパスワードレス環境を構築するためには、運用負荷を軽減しつつ、信頼性の高いサービスを選定することが重要です。
マネージドPKIによるデータアクセスセキュリティ強化と運用効率化
これらの課題に対する具体的な解決策として、認証基盤の運用を効率化し、データ資産へのパスワードレス認証を実現するマネージドPKIサービスが有効です。例えば、マネージドPKI Lite byGMOのようなサービスは、パスワードレス認証を実現しつつ、データアクセスセキュリティ強化とデータアクセスの利便性向上の両方を叶えます。
ID・パスワードに依存しない証明書による認証で、フィッシング耐性を大幅に向上させ、データアクセス認証情報の詐取リスクを低減します。また、ユーザーのパスワード管理負担を軽減することで、より安全かつ効率的なデータアクセス管理を実現します。
加えて、認証局の運用や証明書の発行・更新といった複雑なプロセスをクラウド型で簡易化し、管理負荷の少ない運用を可能にします。これは、データセキュリティ担当者やデータ運用チームが、証明書管理というインフラ運用ではなく、データ資産そのものの保護やガバナンスに注力できる時間を増やします。
このようなサービスの導入事例や実際の運用フローは、企業が直面するデータアクセス認証課題に対する具体的な解決策を提示し、安心・安全なデータ資産へのパスワードレス環境への移行方法を示します。
クライアント証明書を用いたパスワードレス認証は、データ資産へのアクセスを保護するための強力な手段ですが、その運用には専門的な知見とリソースが必要です。マネージドPKIサービスを活用することで、これらの運用負荷を軽減し、データセキュリティのレベルを維持・向上させながら、データアクセスの利便性を向上させることが可能になります。データ資産の保護とデータガバナンスの実践において、信頼性の高いマネージドPKIサービスを選定し、クライアント証明書によるパスワードレス認証を導入することは、重要な戦略的判断と言えます。
データコンサルタントやデータアナリストにとって、組織のデータ資産の安全を確保するためには、それを格納・処理するシステムへのアクセスをいかに制御するかが極めて重要です。これまでの認証方法に関するセキュリティ問題は、直接的にデータ侵害やデータ資産の機密性・完全性の損なわれに繋がってきました。データプロフェッショナルとして、これらの認証関連の課題を理解し、データ保護の観点から最適な認証戦略を検討することは不可欠です。
データ資産への脅威:認証関連のセキュリティ問題
これまでに認証関連で発生したセキュリティ問題は、組織のデータ資産に対する重大なインシデントを引き起こす主要因となってきました。
パスワードの漏えい: フィッシングやマルウェアなどによりパスワードが漏洩すると、攻撃者は正規ユーザーとしてデータ資産が格納されるシステム、データベース、クラウドストレージへ容易にアクセス可能になり、機密データの窃盗、改ざん、破壊といった被害に直結します。
フィッシング詐欺: 偽サイトへの誘導により資格情報を詐取し、その情報を用いて機密データへの不正アクセスを試みる手口です。
不正アクセス: 漏洩したパスワードやシステムの脆弱性を悪用し、データ資産への許可されないアクセスを実現します。
エンドユーザーの本人確認が不十分: アクセスしているアイデンティティが正規のものであるか確認できないことは、データアクセスログの信頼性を損ない、データ侵害発生時の責任追跡や原因究明を困難にします。
データ保護のための新しい認証サービス選定ポイント
新しい認証サービスを導入する際、データ保護の観点から最も重視すべきポイントは以下の通りです。
セキュリティレベルの向上: データ資産への不正アクセスをどれだけ強力に阻止できるかが最優先です。フィッシング耐性やアカウント乗っ取りへの耐性などが重要になります。
エンドユーザーの利便性: データにアクセスする日常業務における認証操作の負担を過度に増やさないこと。セキュリティ強化とデータ活用の生産性のバランスを取る必要があります。
コストの削減: 導入・運用コストだけでなく、**データ侵害が発生した場合の潜在的なコスト(復旧費用、賠償金、法規制による罰金、信頼失墜など)**と比較し、費用対効果を評価すること。
実装の簡便さ: データシステムやアプリケーションへの認証連携をいかに迅速かつ容易に行えるか。特に多様なデータソースや分析ツールを利用する場合、スムーズな統合が重要です。
法規制への準拠: データプライバシー(個人情報保護法、GDPR等)やセキュリティ関連の法規制において求められる、厳格な本人確認やアクセスログ取得要件を満たせるか。
組織内で現在採用されている認証方法には、パスワード、PINコード、IDカード、多要素認証、セキュリティトークン、指紋認証、顔認証、指静脈認証など様々なものがありますが、データ資産へのアクセス保護という観点から、それぞれ有効性や課題が異なります。
パスワード認証の限界とデータ漏洩リスク
通信会社 Verizon Communications の報告書 「2021 Data Breach Investigations Report」 によると、同社が2021年に観測した実績では、漏えいしたデータの61%は、パスワードなど個人の知識に基づく認証要素(知識要素)を含んでいました。これは、パスワードがデータ漏洩の主要な経路の一つであることを明確に示しており、パスワード認証の限界が露呈しています。
こうした状況から、企業はパスワード認証が中心となっている認証の現状を見直し、データ資産をより安全に保護するための認証戦略を検討する必要に迫られています。「パスワードを使わない認証」であるパスワードレス認証の話題が盛り上がっているのは、この背景からです。調査企業 Forrester Research が2021年に実施した調査では、回答者の70%近くが「パスワードレス認証の導入初期段階にある(概念実証やパイロットプロジェクトを通じて、特定の従業員にデータ関連システムへのアクセスなどで試験導入)」と答えています。これは、多くの組織がデータセキュリティ強化のためにパスワードレス認証に注目していることを示しています。
データ資産保護の進化:パスワードレス認証への道
「パスワードのない世界」は以前からセキュリティ分野の目標ですが、その実現は時間がかかる長い道のりだとアナリストやベンダーは共通見解を示しています。しかし、より多くのベンダーが、より多くのアプリケーション、特にデータ関連のクラウドサービスやSaaSツールに、より多くの認証方法(パスキーなどのパスワードレス認証)を追加するにつれて、パスワード認証を使う機会は徐々に減っていく可能性があり、これがデータアクセスをよりセキュアにする方向に繋がります。
パスワード認証の限界が露呈するに伴い、企業はデータ資産をより安全に保護するための認証方法の見直しを進めています。有力な代替案となり得るのが「パスワードレス認証」です。導入に踏み切る組織は、データセキュリティ、データガバナンス、そして運用の観点からどのような点を考慮すべきか、**考えるべき“4大ポイント”**があります。
「パスワードのいらない世界」への道は続いており、データ資産への不正アクセスリスクを低減し、データガバナンスを強化する上で、パスワードレス認証は不可欠な進化と言えます。データセキュリティとデータ活用の信頼性を確保するため、組織はパスワードレス認証の導入を積極的に検討すべき時期に来ています。