データ駆動型IAMの3フェーズ:第1部 – 認証前リスクの定量的評価とプロアクティブ制御
アイデンティティセキュリティ戦略の有効性は、認証イベントの発生時点から始まるのではありません。真に効果的なリスク管理は、ユーザーがログインを試みる「前」の段階、すなわち、組織のアイデンティティ基盤がどのような状態にあるかを継続的にデータで把握することから始まります。
断片的なアイデンティティソリューションは、データのサイロ化を招きます。その結果、リスク評価は不完全なデータセットに基づいて行われ、組織全体のセキュリティ態勢を正確に可視化できず、サイバー攻撃の標的となる脆弱性を見過ごす原因となります。
統一されたアプローチは、アイデンティティ関連の全データを単一の分析基盤に統合します。これにより、インサイトの抽出とプロセスの自動化が可能となり、リスクのプロアクティブな低減、データに基づいたアクセス制御モデルの設計、そして脅威への迅速な対応という、データ駆動型のセキュリティサイクルを実現します。
認証前フェーズ①:継続的なアイデンティティ・ポスチャー分析
このフェーズの目的は、リスクの発生源と潜在的な脆弱性を特定するため、組織のアイデンティティ・セキュリティ態勢を継続的にデータとして収集・分析し、定量的に評価することです。
統合データモデルの構築とサイロの解消:
まず、アイデンティティストア、各種アプリケーション、インフラなど、技術スタック全体に分散するデータを統合し、情報のサイロ化を解消します。これにより、単一の信頼できる情報源(Single Source of Truth)を構築し、組織のセキュリティ態勢を包括的に可視化・制御するためのデータ基盤を確立します。
外部脅威インテリジェンスの統合:
内部データに加え、サードパーティの脅威インテリジェンス(リスクシグナル)を継続的な監視プロセスに組み込みます。これにより、外部環境の脅威動向を自社のリスク評価モデルに反映させ、分析の精度と鮮度を高めます。
設定不備の自動検出と分析:
統合されたデータを用いて、アイデンティティ基盤全体の設定を継続的にスキャンし、意図しない設定変更や構成ミス(例:過剰な権限が付与されたロール、休眠アカウントなど)を自動で検出します。これにより、修正すべき脆弱性が明確に特定され、優先順位付けが可能になります。
認証前フェーズ②:データに基づくアクセスポリシーの設計
このフェーズの目的は、ポスチャー分析によって得られたデータインサイトに基づき、脆弱性が悪用される前段階で、効果的なアクセスポリ-と制御モデルを設計・実装することです。
「Secure by Design」思想に基づくポリシーの定義:
場当たり的なルール設定ではなく、分析結果に基づいて、強力な認証要件、特権アクセスの管理手法、ガバナンスのルールを体系的に定義します。これは、セキュリティを初期設計に組み込む「Secure by Design」のアプローチです。
最小権限の原則(PoLP)の維持・適用:
全ユーザーのアクセス権限データを一元的に分析し、「最小権限の原則」が維持されているかを継続的に監査します。これにより、権限の過剰付与といった設定ミスをデータで特定し、攻撃者による内部侵害(Lateral Movement)のリスクを未然に低減します。
特権アクセスの論理的構成:
断片的な情報に依存するのではなく、統合された信頼性の高いデータソースに基づいて特権アクセス経路を構成します。これにより、設定の矛盾や不整合から生じるセキュリティホールを排除します。