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クラウドセキュリティ(22)

データドリブンな視点から見るクラウドセキュリティによる価値創出

今日のビジネス環境では、セキュアなクラウドインフラストラクチャが、リスク管理だけでなく、運用効率の向上やビジネスの俊敏性向上に不可欠なデータ基盤となっています。セキュリティサービスから収集される多様なデータを分析し、自動化されたプロセスに組み込むことで、組織はセキュリティ体制を強化しつつ、データに基づいた意思決定と効率的なリソース活用を実現できます。

セキュリティ関連データの収集・分析によるリスク軽減と運用効率化の事例
電子署名・ストレージソリューションを提供するHelloSign(Dropboxが買収)は、顧客のPII(個人を特定できる情報)や決済カード情報といった機密データの保護が重要な課題でした。同社は、AWS WAF(Web Application Firewall)を活用することで、ウェブトラフィックに関するデータをリアルタイムに収集・フィルタリングする体制を構築しました。収集されたトラフィックデータやセキュリティイベントパターンを分析し、一般的な攻撃手法をプロアクティブにブロックしたり、地理情報に基づいたカスタマイズルールを作成して特定の地域からのアクセスデータを制限するといった対策を実行しました。このデータに基づいたアプローチにより、12件のDDoS攻撃を効果的に回避できたという成果を得ており、さらにインシデント発生から軽減までをわずか15〜30分で完了できるといった対応時間の短縮も実現しています。AWS WAFを含むAWSセキュリティサービスから得られるデータを活用した自動化によって、週におよそ120時間もの手作業時間を削減できたというデータは、セキュリティ運用効率の大幅な向上を示しています。同時に、収集された設定データやイベントデータを分析することで、セキュリティポスチャのデータに基づいた可視化を実現し、ベストプラクティスの実装状況を把握できるようになりました。

セキュアなクラウドインフラストラクチャがもたらすデータ活用の機会と俊敏性
セキュアなクラウドインフラストラクチャは、単にシステムを保護するだけでなく、イノベーションとアクションの俊敏性を高めるデータ基盤としての側面も持ち合わせています。適切に構成されたセキュアなインフラストラクチャとクラウドベースのセキュリティサービスは、インフラストラクチャやアプリケーションのセキュリティチェックを開発・デプロイメントパイプラインに自動化されたデータチェックポイントとして組み込むことを可能にします。これにより、迅速かつ安全なテストとデプロイメントが実現し、市場の変化や顧客の要求、そして新たなセキュリティ脅威に対して、デリバリー頻度や変更反映時間といったデータで測定可能な形で迅速に対応できるようになります。セキュリティコントロールが常に徹底されるデータ検証プロセスが組み込まれることで、俊敏性とセキュリティの両立が可能になります。

データに基づいた運用効率向上とリソース解放の事例
経営コンサルティングおよびテクノロジー企業のZS Associates (ZS) は、グローバルな顧客基盤に対して迅速かつスケーラブルな顧客保護メソッドを展開するという課題に直面しており、セキュリティポスチャの可視性向上と管理の簡素化を目指していました。同社はAWSを活用して、スケーラブルで包括的なセキュリティ環境を構築し、これまで時間のかかっていた手動のセキュリティ手順(おそらく構成チェック、ログ分析、レポート作成など、データに関連する作業)を自動化しました。この自動化によって、セキュリティ管理にかかる時間が1か月あたり数千時間短縮されたというデータは、運用効率の劇的な向上を示しています。さらに、顧客のオンボーディングプロセスが3倍速くなったというデータは、スケーラブルなセキュリティ展開能力がビジネスプロセス全体の加速に貢献していることを証明しています。

セキュリティ運用の自動化によって解放された人的リソースは、より付加価値の高い業務、特に革新的な分析や機械学習といった高度なデータ活用業務に振り向けられるようになりました。現在、同社の従業員はこれらの最先端のテクノロジーを活用して、顧客が直面する最も困難な課題の解決をデータに基づき支援しています。

これらの事例は、セキュアなクラウド環境が単なる保護メカニズムではなく、セキュリティ関連データの収集、分析、自動化を通じて、リスク軽減、運用効率向上、そしてビジネスの俊敏性向上といった定量的な成果をもたらすデータ基盤であることを明確に示しています。これにより、組織は変化し続ける脅威環境に対応しつつ、データに基づいたインテリジェントな意思決定と効率的なリソース配分を実現できるようになります。

クラウド活用によるリスク管理と運用効率の最適化

最新のクラウドサービスは、IT環境における構成ミスやヒューマンエラーを自動化機能で低減し、セキュリティ部門と開発・運用部門の連携を構造的に強化する仕組みを提供している。とりわけ、CI/CDパイプラインの中にセキュリティを組み込む「シフトレフト」のアプローチを取り入れることで、コードのリリース速度を落とすことなく、セキュリティリスクを大幅に削減できる体制を構築可能となる。

主要クラウドプロバイダが提供する機械学習ベースのデータ分類・検出ソリューションを導入すれば、機密データの所在把握と保護をリアルタイムかつ継続的に行える。これにより、従来は属人的に対応していた情報資産のリスクマネジメントが、定量的かつ自動的なプロセスに転換される。

加えて、ハイブリッドクラウド構成においては、情報ガバナンスおよびセキュリティ機能がオンプレミス環境と統合可能かどうかを基準に、ツールの選定が必要である。統合性の高いツールを採用することで、運用負荷を増やすことなく、オンプレとクラウド間で一貫性あるセキュリティと可視化が実現する。

セキュリティポスチャの強化事例:OutSystemsのケーススタディ
ローコード開発プラットフォームを展開するOutSystems社は、グローバルな事業拡大に伴い、複雑なセキュリティ構成と顧客保護要件を両立するスケーラブルな対策が求められていた。同社はAWSのマネージドセキュリティサービス群を活用し、手動介入を最小限に抑えつつセキュリティ運用の全体最適化を実現した。

特に、AWS Shield Advanced によるDDoS攻撃対策と、AWS Firewall Manager を活用した4,000以上のWAFポリシーの一元管理により、インシデント対応時間を従来の約2時間から5分未満にまで短縮。これはセキュリティ対応の高速化が、ユーザ体験やシステム安定性に直結することを示す好例である。

加えて、セキュリティ運用のPDCAサイクルを高速で回すため、同社はAWSチームと共同でFirewall Managerの機能改善に取り組み、セキュリティポリシーを動的に最適化し続けている。

データとリソースの最適配分:コスト・パフォーマンスの視点から
クラウド環境では、従来インフラ管理に専念していたITリソースを、ビジネス価値の高い分析業務やデータ活用にシフトさせることが可能になる。とくに、可視化・機械学習・異常検知といった分析モデルを構築しやすいクラウド基盤の上に、運用データを集約することで、リソース配分の最適化と継続的な改善が実現する。

AWSのようなサービスを用いれば、セキュリティやコンプライアンス要件に対応しつつ、コスト効率の高いスケーラブルな分析基盤を構築できる。Panasonic Avionicsなどの事例では、AIベースの運用分析により、設備稼働率とセキュリティレベルを同時に向上させており、これは「コスト削減」と「品質維持」の両立が可能であることを示している。

データに基づき、クラウドセキュリティリスクを経営課題として可視化・管理するアプローチ

サマリー
クラウド活用による事業加速は、今や企業の競争力に直結します。しかし、その裏側でクラウド環境における設定不備や脆弱性を起点としたサイバー攻撃は対前年比で増加の一途をたどり、情報漏えいやサービス停止といった事業継続を脅かすインシデントが後を絶ちません。

本稿では、従来の場当たり的なセキュリティ対策から脱却し、データを活用して網羅的かつ継続的にセキュリティリスクを評価・改善する「データドリブン・セキュリティマネジメント」への変革を提言します。その中核を担うのが、Gartnerもその重要性を指摘する「CNAPP (Cloud Native Application Protection Platform)」です。CNAPPがもたらすデータの統合と可視化が、いかにしてセキュリティ運用のROI(投資対効果)を最大化し、経営判断に資するインサイトを提供できるかを解説します。

1. クラウド利用の拡大がもたらす、データ管理上の新たな経営課題
パブリッククラウドの「責任共有モデル」は、インフラの物理的なセキュリティをクラウドベンダーが担う一方、その上で稼働するOS、ミドルウェア、アプリケーション、そしてデータの管理責任が利用者側にあることを明確にしています。IaaS/PaaSの利用が深化するほど、利用者側が管理すべき項目(コンフィグレーション、ID・アクセス権、脆弱性等)は指数関数的に増加し、リスクが分散・サイロ化する傾向にあります。

実際に、クラウドサービスの設定ミスに起因する情報漏えいは、セキュリティインシデント全体の主要な原因として常に上位に挙げられます。これは、単なる技術的な問題ではなく、ビジネスインパクトに直結する経営リスクです。

2. データ分断が引き起こすセキュリティ運用の非効率化とリスクの見落とし
この課題に対し、多くの組織では個別のソリューションで対応してきました。

CSPM (Cloud Security Posture Management): 設定ミスを検出
CWPP (Cloud Workload Protection Platform): ワークロード(仮想マシン等)の脆弱性を検出
CIEM (Cloud Infrastructure Entitlement Management): 過剰な権限を持つIDを検出
これらのツールはそれぞれ有効ですが、独立して運用されることで「データの分断」という新たな問題を生んでいます。例えば、ある設定ミス(CSPMが検知)と、特定のワークロードの脆弱性(CWPPが検知)、そして過剰な権限を持つID(CIEMが検知)が組み合わさった時に、初めて致命的な攻撃経路が成立するケースがあります。

各ツールから出力されるアラートは膨大かつ断片的で、これらの相関関係を人力で分析し、真に危険なリスクを特定することは極めて困難です。結果として、インシデントの平均検知時間(MTTD)や平均修復時間(MTTR)は長期化し、セキュリティチームの運用負荷とコストを増大させています。

3. CNAPP:分断されたセキュリティデータを統合・分析するプラットフォーム
CNAPPは、単なるツールの寄せ集めではありません。CSPM、CWPP、CIEM等の機能を単一のプラットフォームに統合し、クラウド環境のあらゆるセキュリティデータを一元的に収集・分析・可視化する「データ分析基盤」と捉えるべきです.

CNAPPを導入することで、以下のデータドリブンなセキュリティ運用が可能になります。

リスクの定量的評価と優先順位付け:
個々の脆弱性や設定ミスを、影響を受ける資産の重要度、攻撃の可能性、外部への公開状況といった複数のコンテキストデータと相関分析します。これにより、すべてのリスクを定量的にスコアリングし、ビジネスインパクトが最も大きいものから優先的に対処することが可能になります。

攻撃経路の可視化とプロアクティブな対策:
クラウド環境全体をグラフデータベースのようにモデル化し、潜在的な攻撃者の侵入経路を可視化します。「どの設定ミス」が「どの脆弱性」を悪用され、「どのデータ」に到達しうるか、という一連のシナリオをデータに基づいてシミュレーションし、攻撃が発生する前に対策を講じることができます。

コンプライアンス遵守状況の常時モニタリングとレポーティング:
金融業界で求められるFISC安全対策基準や、クレジットカード業界のPCI DSSなど、遵守すべきコンプライアンス要件に対する準拠状況をリアルタイムでダッシュボードに表示します。監査対応に必要なレポートも自動生成され、手作業による工数を大幅に削減します。

4. データコンサルタントの視点:CNAPP導入で測定すべきKPI
CNAPPの導入効果は、以下のKPIを測定・評価することで、経営層に対して明確に報告することができます。

平均修復時間 (MTTR) の短縮率: 致命的なリスクの特定から修正完了までの時間がどれだけ短縮されたか。
クリティカルな脆弱性・設定ミスの残存数: 優先度の高いリスクが常に一定数以下に管理されているか。
セキュリティ運用工数の削減率: 手動での調査やレポート作成にかけていた時間がどれだけ削減されたか。
コンプライアンス監査対応コストの削減額: 監査準備にかかる人件費やツールのコスト削減効果。
セキュリティはコストセンターではなく、事業継続性を支えるための戦略的投資です。CNAPPというデータプラットフォームを活用し、クラウドのリスクを定量的かつ客観的なデータに基づいて管理・報告する体制を構築することが、これからのクラウド時代における企業の責務と言えるでしょう。

クラウドインシデントの99%は「予測可能な過失」。データで解き明かすリスク構造とCNAPPによる合理的アプローチ
サマリー
クラウドシフトが標準戦略となる一方、クラウド環境を標的とするサイバー攻撃の高度化と、それに伴う事業リスクの増大は、もはや無視できない経営課題です。米国IT調査会社Gartnerは「2025年までにクラウドセキュリティインシデントの99%は顧客の過失に起因する」と予測しています。

本稿では、この「過失」を単なるヒューマンエラーとして片付けるのではなく、データ分析の観点から「検知・測定・改善が可能なリスク要因の集合体」として再定義します。そして、複雑化するクラウド環境において、これらのリスク要因をいかにして網羅的に収集・分析し、データドリブンなセキュリティ体制を構築するか、その最適解としての「CNAPP (Cloud-Native Application Protection Platform)」の役割を論理的に解説します。

1. クラウドセキュリティ課題の構造分析:なぜリスクは見過ごされるのか
クラウドセキュリティの課題は、その「複雑性」に起因します。この複雑性をデータ分析の視点で分解すると、以下の3つの要因に大別できます。

環境の多様化によるデータソースの分散:
マルチクラウドやハイブリッドクラウド環境の採用は、管理すべきセキュリティデータを複数のプラットフォームに分散させます。各クラウドプロバイダーが提供するコンソールやログ形式は異なり、一元的な状況把握、すなわちリスク分析の元となるデータセットの正規化・統合を著しく困難にしています。

管理対象の爆発的増加と「シャドーIT」というブラックボックス:
コンテナやサーバーレスといったクラウドネイティブ技術の活用は、監視すべきリソース(資産)の数を従来のオンプレミス環境とは比較にならないほど増加させます。さらに、IT部門が把握していない「シャドーIT」の存在は、データ収集の対象から漏れる完全なブラックボックスとなり、組織全体のセキュリティベースラインに致命的な穴を生み出します。

リスク要因の相関関係:
Gartnerが指摘する「顧客の過失」の正体は、個々には軽微に見えるリスク要因の連鎖です。例えば、「①インターネットに公開されたストレージ」に、「②過剰なアクセス権限が付与されたID」が紐づき、「③その中で稼働するアプリケーションに既知の脆弱性」が存在する、という3つのデータが関連付いた時、初めてインシデント発生確率が急上昇します。従来のサイロ化されたツールでは、この相関関係を自動的に分析し、致命的な攻撃経路を特定することは困難でした。

2. 課題解決への第一歩:「何から始めるか」への唯一の回答
「クラウドセキュリティを強化したいが、何から始めるべきか」という問いに対する、データコンサルタントとしての回答はただ一つです。「自社のクラウド環境における、全てのリスク要因をデータとして可視化し、定量的に評価すること」。

勘や経験に頼った場当たり的な対策は、リソースの無駄遣いとリスクの見逃しにつながります。まず着手すべきは、以下の問いにデータで即答できる体制の構築です。

現在、いくつのクラウドアカウントに、何種類のリソースが、合計いくつ存在するか?
そのうち、外部に公開されているリソースはどれか?
各リソースに存在する既知の脆弱性(CVE)とその深刻度は?
設定ミス(CISベンチマーク等の基準から逸脱)の数は?
誰が(どのIDが)どのデータにアクセスできる権限を持っているか?
これらの問いに答えられない状態は、いわば自社の健康状態を全く把握せずにいるのと同じであり、効果的な対策は打ちようがありません。

3. CNAPP:クラウドリスクの統合分析プラットフォーム
この網羅的なデータ収集と継続的な分析を可能にするのが「CNAPP」です。CNAPPは単なるセキュリティ「ツール」ではなく、クラウド環境全体のリスクを分析するための「データプラットフォーム」と捉えるべきです。

CNAPPは、分散したクラウド環境から設定、脆弱性、ID、ネットワークトラフィックといった多種多様なデータをAPI経由で自動収集し、単一のモデルに統合します。これにより、前述したリスク要因の相関関係を自動で分析し、ビジネスインパクトに基づいたリスクの優先順位付けを実現します。

具体的な活用例:
特定ソリューション(例:CloudGuard CNAPP)のデモンストレーションでは、自社の実際の環境がどのようにデータとしてモデル化され、潜在的な攻撃経路が可視化されるかを確認できます。「設定ミスを検知する」という単一機能の紹介ではなく、「どの設定ミスが、どの脆弱性と組み合わさることで、情報資産の漏えいに繋がるか」というインシデントシナリオをデータに基づいて提示し、対策の費用対効果を判断する材料を提供します。

予防を第一とし、データに基づいた合理的な意思決定を行うこと。それがCNAPPが実現する次世代のクラウドセキュリティ運用です。

Prisma Cloudの「アラート疲れ」をデータ分析で解消。運用価値を最大化する定量的アプローチ

サマリー
パブリッククラウドのセキュリティ態勢を可視化・管理する強力なソリューションとして「Prisma Cloud」の導入が進んでいます。しかし、その導入効果を十分に引き出せず、「未解決アラートの累積」と「運用負荷の増大」という新たな課題に直面している組織は少なくありません。

本稿では、この「アラート疲れ」を単なる運用リソース不足の問題としてではなく、データ活用の観点から構造的に分析します。そして、膨大なアラートの中から真に対応すべきリスク(シグナル)を抽出し、運用プロセスを効率化するためのデータドリブンなアプローチを提言します。

1. 課題の再定義:それは「アラートの量」ではなく「ノイズ比率」の問題
Prisma Cloud運用における核心的な課題は、アラートの絶対数そのものではありません。本質的な問題は、ビジネスインパクトに直結しないアラート(ノイズ)の比率が極めて高く、本当に対応すべき重大なリスク(シグナル)が埋もれてしまうことにあります。

この「シグナル/ノイズ比の低下」は、データ分析の観点から以下の要因に分解できます。

コンテキストデータの欠如:
アラート単体では、それが本番環境の重要資産に関するものか、あるいは開発環境の軽微なものか判断できません。資産の重要度、内外の公開設定、他の脆弱性との関連性といったコンテキストデータと紐付いていないアラートは、すべて同じに見えてしまい、優先順位付けが不可能です。

画一的なポリシー適用:
Prisma Cloudのデフォルトポリシーをそのまま適用すると、自社のビジネス実態や許容リスクレベルと乖離したアラートが大量に発生します。これは、自社の環境に合わせてポリシーをチューニング(最適化)するプロセスが欠如していることに起因します。

非効率な手動プロセス:
検知されたアラートを誰が、いつまでに、どのように対処するかのワークフローが定義されていない場合、アラートは担当者未定のまま放置されます。結果として、アラートの発生からクローズまでの平均時間(MTTR)は悪化の一途をたどり、未解決キューは累積していきます。

2. データドリブン運用改善サイクル:ノイズ削減とリスク優先順位付けの実践
この課題を解決するためには、場当たり的なアラート対応から脱却し、以下の体系的なデータ分析サイクルを導入することが不可欠です。

ベースライン分析(現状のデータ化):
まず、既存のアラートデータを徹底的に分析します。アラート種別ごとの発生頻度(パレート分析)、リソース種別ごとの分布、放置期間などを定量的に把握し、どこに問題が集中しているのか、客観的なデータに基づいて特定します。

ポリシーの最適化(ノイズの削減):
ベースライン分析の結果に基づき、アラートポリシーのチューニングを実施します。ビジネスインパクトの低い環境や、許容可能なリスクに関するアラートは、しきい値を調整するか、例外として自動承認するルールを定義します。これにより、運用チームが向き合うべきアラートの母数を大幅に削減します。

リスクのスコアリング(シグナルの抽出):
残ったアラートに対し、資産の重要度や攻撃の可能性といった複数の要素からなる独自のスコアリングモデルを適用します。これにより、すべてのアラートをリスクの高さに応じて自動的にランク付けし、運用担当者は最もスコアの高いものから順に対応すればよい、という明確なアクションプランを得ることができます。

3. 専門家による客観的診断の価値
自社内での分析や改善が困難な場合、第三者による「Prisma Cloud運用診断サービス」の活用は、極めて合理的な投資判断となり得ます。

この種のサービスの価値は、単に運用を代行することではありません。専門家が客観的なデータ分析に基づき、各企業の環境に最適化された**「ポリシーチューニング」「リスクスコアリングモデル」「運用ワークフロー」**を設計・実装支援することにあります。複数の企業の運用データから得られた知見を基に、自社の課題を特定し、データに基づいた具体的な改善策を提示します。

導入効果のKPI例:

月間対応必須アラート数の削減率
クリティカルリスクの平均修復時間(MTTR)の短縮率
セキュリティ運用チームのレポート作成・分析工数の削減時間
クラウドセキュリティの強化とは、ツールの導入で完結するものではなく、そこから得られるデータをいかに意思決定に活用できるかにかかっています。Prisma Cloudというデータソースの価値を最大限に引き出すため、今一度、自社の運用プロセスをデータ分析の視点から見直すことを推奨します。

WAF運用をデータ分析の視点で再構築する – 「導入後放置」から「継続的リスク最適化」へのシフト

サマリー
オンプレミスからAWSへの移行が加速する中、Webアプリケーション層を保護する「AWS WAF」は、もはや標準的なセキュリティコンポーネントとなりました。しかし、導入の容易さとは裏腹に、その真価を発揮できず「導入後放置」されているケースが散見されます。

本稿では、この課題を単なる運用リソース不足としてではなく、データ活用の観点から構造的に分析します。WAF運用とは、本質的に「膨大なWebトラフィックデータから、誤検知を抑制しつつ攻撃パターンを正確に抽出し続ける、継続的なデータ分析プロセス」です。このプロセスをいかに効率化・高度化するか、そのアプローチを論理的に解説します。

1. WAF運用課題のデータ構造分析:なぜWAFは「放置」されるのか
AWS WAFが「放置」される根本原因は、その運用が静的な設定作業だと誤解されている点にあります。本来、WAF運用は動的なデータ分析活動であり、放置されたWAFは以下のデータ管理上の問題を内包しています。

KPIの未設定と未測定:
「誤検知率(False Positive Rate)」「検知漏れ率(False Negative Rate)」「新規脅威へのルール対応時間(Time to Mitigate)」といった基本的なKPIが設定・測定されていません。これにより、WAFが有効に機能しているかを客観的に評価できず、改善のアクションにも繋がりません。

トラフィックベースラインの未定義:
自社のWebアプリケーションへの「正常なトラフィックパターン」がデータとして定義されていないため、少しでも通常と異なる正当なリクエストを攻撃と誤判定する「誤検知」を恐れ、結果的に防御レベルの低い緩いルール設定に留まりがちです。

脅威モデルの陳腐化:
攻撃手法は日々進化します。導入時のルール設定のままでは、新たな脆弱性(CVE)や攻撃手法に対応できず、脅威モデルが陳腐化します。これは、WAFというフィルタリングシステムの検知ロジックが、現実の脅威データと乖離していくことを意味します。

2. マネージドルールという「脅威インテリジェンス・データセット」の選択
WAF運用の中核は、どのようなルール(シグネチャ)を適用するかにあります。これは、分析の元となる「脅威インテリジェンス・データセット」を選択する行為に他なりません。

AWS Managed Rules:
AWSが提供する汎用的な脅威データセットです。幅広い攻撃を低コストでカバーするベースライン防御として非常に有効です。しかし、このデータセットはあくまで汎用モデルであり、個別のアプリケーション仕様やビジネスロジックの脆弱性までを網羅するものではありません。

サードパーティ製ルール/自動化サービス:
これらは、各ベンダーが独自に収集・分析した、より広範で最新の脅威データを付加価値として提供します。特に重要なのは、単一の静的なルールセットではなく、多数の導入実績から得られる膨大なトラフィックデータを分析し、誤検知を抑制しながら検知精度を高めるよう、継続的にルールをチューニング・配信する点にあります。これは、汎用データセットに対して、より高度なデータ分析と最適化を施した「プレミアムデータセット」と位置づけられます。

「どちらが良いか」という二元論ではなく、「自社のリスク許容度、運用リソース、そして保護対象アプリケーションの重要度に応じて、どのデータセットを基盤とし、どうカスタマイズしていくか」というデータ戦略的な判断が求められます。

3. 運用自動化サービスのデータ分析的価値
「WAFエイド」や「WafCharm」といった運用自動化・支援サービスの本質的価値は、単なる人的工数の削減ではありません。それは、高度なデータ分析能力と専門家の知見(ヒューリスティクス)をサービスとして利用できる点にあります。

これらのサービスは、以下のようなデータ分析プロセスを提供します。

大規模データに基づく脅威モデリング: 世界中の多数のWebサイトから収集したリアルタイムの攻撃データを分析し、新たな攻撃の兆候やパターンを早期に発見。これを即座に検知ルールに反映します。
専門家知見のルール化: トップクラスのセキュリティ専門家の分析ノウハウを、具体的な検知ロジック(シグネチャ)として形式知化し、スケーラブルに提供します。
継続的なチューニングと最適化: 導入企業のトラフィックパターンを分析し、誤検知を最小化するようルールを個別最適化します。これは、機械学習モデルが新たなデータに適応していくプロセスに似ています。
セキュリティエンジニアではない担当者でも、こうしたデータ分析サービスの恩恵を受けることで、高精度なWAF運用を実現できます。

結論:WAF運用を「コスト」から「戦略的投資」へ
AWS WAFの運用は、一度設定すれば終わる受動的なコストではなく、事業継続性を担保するための動的なデータ分析活動です。この活動を、限られたリソースでいかに効果的・効率的に行うか。その答えは、自社のリスクプロファイルと照らし合わせ、最適な「脅威インテリジェンス・データセット」と「分析プロセス」を選択することにあります。「放置」という選択肢は、将来のインシデントという形で、より大きなコストとなって返ってくることを認識しなくてはなりません。

クラウド利用拡大に伴う、ビジネスリスクの再定義とデータドリブン・セキュリティへの変革

1. 市場環境と経営課題

クラウドサービスの市場拡大は、企業のデジタルトランスフォーメーションを加速させる一方、攻撃対象領域(Attack Surface)の拡大という新たな経営課題を生み出しています。事実、クラウド環境を標的としたサイバー攻撃は年々高度化・巧妙化しており、設定不備に起因する情報漏洩やランサムウェア被害は、事業継続性を脅かす重大なビジネスリスクとして顕在化しています。

このリスクに対応するためには、クラウドネイティブなセキュリティ知見が不可欠ですが、専門人材の不足は市場全体の構造的な課題です。結果として、多くの企業が、限られた人的リソースで複雑化する脅威に対応せざるを得ない状況に直面しています。

2. 本セッションで提供するソリューション

本セッションでは、これらの課題に対する具体的な解決策を、データと事例に基づき構造的に解説します。勘や経験に頼った場当たり的な対策から脱却し、データに基づいた客観的なリスク評価と、自動化された統制による効率的な運用体制をいかに構築するかを提示します。

【アジェンダ】

Case Study:事業成長を支えるAWSセキュリティ戦略の実践
株式会社PhotosynthのCISOを招聘し、同社のAWS環境におけるセキュリティ強化の取り組みをケーススタディとして詳解します。事業成長に伴うインフラ拡大の過程で直面したセキュリティ課題に対し、どのような分析に基づき、アーキテクチャ設計や運用プロセスを最適化していったのか、その具体的な戦略と戦術を公開します。

Solution:データドリブンなセキュリティ運用体制の構築モデル
フルマネージドセキュリティサービス「CloudFastener」の活用事例を取り上げます。セキュリティログの収集・分析、脅威検知、インシデント対応といった一連の運用プロセスを、いかにして自動化・効率化し、セキュリティ人材の能力を最大化するか。データドリブンなセキュリティ運用体制の構築モデルを提示します。

3. AWSガバナンス:リスク管理の基盤

AWS環境における重大インシデントの多くは、以下のような基本的な設定不備に起因します。

過剰なIAM権限の付与: 侵害された際の影響範囲を不必要に拡大させます。
不適切な認証ポリシー: ブルートフォース攻撃等の成功確率を高めます。
アカウントのライフサイクル管理不備: 不要なアカウントが放置され、不正利用の温床となります。
これらのリスクは、特に事業の本格化に伴いアカウント数が急増した環境で顕在化します。データに基づいた継続的なモニタリングと、自動化された統制メカニズムの導入が、スケーラブルで安全なAWS運用を実現する上での必須要件です。

4. 対象となる方

本セッションは、AWSの利用を検討している、あるいは既に利用中の企業において、下記のような課題認識を持つ責任者および実務担当者に最適です。

自社のAWS環境に潜む、未評価のセキュリティリスクを可視化したい。
増大するサイバー攻撃リスクに対し、定量的かつ体系的な管理フレームワークを導入したい。
人的リソースの制約と、高度化するセキュリティ要件との間のギャップを解消したい。
他社の実践例から、自社に適用可能な費用対効果の高いセキュリティ施策を導き出したい。
5. 結論:戦略的パートナーシップの重要性

200社以上のクラウド環境構築支援で得たデータと知見に基づき、AWS Well-Architected Frameworkに準拠した、実践的なセキュリティ・ガバナンス強化策を解説します。

AWSアカウントの調達におけるリセラー選定は、単なる価格交渉であってはなりません。ガバナンスとセキュリティ運用支援を含む、戦略的なパートナーシップとして捉えることが、貴社のAWS活用をリスク管理と事業成長の両面から最大化する鍵となります。

クラウドセキュリティのパラダイムシフト:データドリブンな多層防御戦略
1. 市場動向分析:インフラ戦略の未来

2025年2月に発表されたIBMによるHashiCorpの買収は、単なる大型M&Aではありません。これは、クラウドネイティブ環境における「インフラの自動化(Infrastructure as Code)」と「セキュリティ統制」が不可分であることを市場が証明した、極めて重要なシグナルです。この動向は、今後のクラウド運用管理とセキュリティ戦略の策定において、無視できない前提条件となります。

2. 課題定義:DXの進展がもたらす「見えない技術的負債」

デジタルトランスフォーメーション(DX)の加速に伴い、システム間の連携に用いられるAPIキー、パスワード、証明書といった「シークレット(認証情報)」は爆発的に増加しています。これらのシークレットが設定ファイルやコード内にハードコーディング(直接記述)された状態は、従来のセキュリティスキャンでは検知が困難な「見えない技術的負債」です。

この負債は、外部システムとの接続点を介して漏洩した場合、攻撃者に正規のアクセス権限を与えることになり、事業継続に影響を及ぼす重大なセキュリティインシデントに直結します。問題は、これらのリスクがどこに、どれだけ存在するのかを網羅的に把握し、定量的に評価することが極めて困難である点です。

3. 多層防御戦略①:内部リスクの可視化と統制(シークレット管理の高度化)

感覚的な不安に基づいた対策には限界があります。求められるのは、データに基づいた客観的なリスク評価です。

アプローチ: HashiCorpのVault Radarは、まさにこの課題に対するソリューションです。コードリポジトリや設定ファイル内に散在するシークレットをスキャンし、その種類、場所、リスクレベルをデータとして可視化します。
提供価値: 本セッションでは、IBMの買収戦略の意図を解説するとともに、Vault Radarを用いてリスクデータを収集・分析し、修正対応の優先順位付けを行う具体的な手法を提示します。これにより、DevSecOpsプロセスにデータドリブンなセキュリティ統制を組み込むアプローチを解説します。
4. 多層防御戦略②:外部脅威からの防御(WAF運用の最適化)

内部リスクの統制と並行して、Webアプリケーション層(L7)を標的とする外部からの攻撃に対する防御メカニズムの確立は不可欠です。その中核となるAWS WAFは、導入が容易である一方、その効果はルールのチューニング精度に大きく依存します。

課題分析: WAF運用は、「誤検知(False Positive)による正規通信のブロック」と「検知漏れ(False Negative)による攻撃の許容」という二律背反のトレードオフを最適化し続けるプロセスです。しかし、膨大なシグネチャの選択、カスタムルールの作成・維持、ログ分析といった高度な運用には相応のリソースが必要となり、多くのケースで設定が陳腐化、あるいは最適化されていないのが実情です。
ソリューション: AWS WAFの運用課題に対し、本セッションでは、ルールの自動最適化・運用サービスWafCharmの活用法を詳説します。機械学習を用いてトラフィックパターンを分析し、常に最適なルールセットを維持するアプローチが、いかにして属人化した運用から脱却させ、人的リソースの制約下で防御効果を最大化するかを、AWS Managed Rulesとの費用対効果分析(ROI)も交えて解説します。
5. 対象

本セッションは、自社のクラウドセキュリティ態勢を客観的データに基づいて評価し、リソースを最適配分しながら具体的な改善アクションを導き出したいと考える、以下の役割を担う方に有益な情報を提供します。

情報システム部門、セキュリティ部門の責任者
インフラアーキテクト、SRE(Site Reliability Engineer)
DX推進、およびクラウド活用におけるガバナンス担当者